283話─みんな揃って帰還して
なんだかんだありつつも、犠牲を出すことなく敵を全滅させることに成功したキルトたち。奪ったイシュナルギに乗り、バーグエルンに帰還する。
最初は敵が乗り込んできたのかと警戒する市民やラズマトリア兵たちだったが、キルトたちが降りてきたのを見てホッと胸を撫で下ろす。
「皆様、ご無事に戻られてなにより……。姉上、モルド卿は……」
「倒したよ、この手で。……もう、彼が悲しみに囚われることはない。終わったんだよ、全部ね」
出迎えに来たマリアンナやオズインに、アリエルはモルドを倒したこと。そして、彼の願いを聞き公国を立て直す誓いをしたことを告げた。
彼女の言葉を、マリアンナたちは真剣な表情で聞いている。もう二度と、祖父が犯した過ちを繰り返してはならない。
第二第三のモルドのような犠牲者が生まれない、真っ当な国へと生まれ変わらせることを心に誓った。
「みんないろいろあったんだね……でも、一人も欠けることなく帰還出来てよかった。二人ほど問題起こしてたけど。ねー、ミューにヘルガさん?」
「マスター、失礼ながら申し上げますとわたくしに非はありません。この【ピー】が全面的に悪いのです」
「ほお……まだ言うか? いいぜ、第二ラウンドを」
「はいストップ! それ以上はお尻ぺんぺんの刑にするよ!」
「よし、いいぞキルト。ふつつか者だが遠慮は」
「ドMは黙っとれや!」
「おっふ❤」
そんな真剣な空気などどこ吹く風とばかりに、いつものやり取りをするキルトたち。シリアスさがブチ壊しだが、かえって肩の力が抜けたようだ。
場が和んだところで、キルトはこれからのことについてマリアンナに告げる。敵から奪った覇導船イシュナルギを使い、タナトスの元に乗り込むと。
「この船は、タナトスが僕たちを倒すために遣わしたものです。これを利用すれば、逆に僕たちがタナトスの居城に乗り込むことが可能かと」
「そうですか……またしても、戦いに身を投じるのですね。キルト様、わたくしには貴方とお仲間の皆様の無事を祈ることしか出来ません。だから……」
「ふにゅ!?」
『なっ、貴様!』
「こ、こうやって……無事に帰ってこれるお、おまじないを……きゃー、恥ずかしい!」
「ちょ、公女様!? なんと足の速い……」
一歩進み出たマリアンナは、勇気を振り絞りキルトの額にキスをする。直後、茹でダコのように顔を真っ赤にして宮殿に逃げ去ってしまった。
顔を赤くしてフリーズするキルトを、ウォン以下男性陣がニヤニヤしながら見つめる。そんななか、エヴァがひょいとキルトを担ぎ上げた。
「アタシたちも負けてらんないわ! 必勝祈願にキルトとちゅーするわよ! 全員続きなさい!」
「ふむ、そういうことなら是非ともお供させてもらおうか!」
「ウチもや!」
「ボクも!」
「ではわたくしが一番手ということで」
『一番の新参者は最後に決まっておろうが! 最初は我だこの阿呆!』
「……なあ、サウル。あいつらいつもこんな感じなのか?」
「そうだぞレドニス。ツッコンだら負けだ、これは」
「……そっか」
今度はキルトとのキスを巡り、ヘルガを除く女性陣による熾烈な戦いが始まった。それを見ながら、レドニスは呆れ返るのだった。
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「……というわけでさ。キルトくんたちがタナトスと戦う時に手助けしてあげてほしいんだ、バイオン卿」
「Hmm...I understand the situation. This Bion is the request of the great demon, Lord Rio. I'll gladly accept i(ふむ……事情は分かりました。偉大なる魔神、リオ殿の頼みとあらばこのバイオン。快く引き受けるとしましょう)」
同時刻、キュリア=サンクタラムにある魔神たちの居城、グランゼレイド城にて。城の一室に、リオとバイオンの姿があった。
タナトスの潜む次元の狭間の座標を割り出したリオは、サモンマスターであるバイオンに協力を依頼したのだ。その理由は……。
「ありがとね。前にね、僕も連中の最高幹部……【渡りの六魔星】の一人と戦ったんだけどさ。負けちゃったんだよね、手も足も出ずに。だからきっと、タナトスもキルトくんたちだけだと苦戦しちゃうと思うんだ」
「To my surprise...you suffered a complete defeat!?(なんと…貴公が完敗を喫したと!?)」
「うん、そうなんだ。……いやあ、思い知らされちゃったよ。僕が自惚れてたってことをさ」
リオの言葉に、バイオンは目を見開き驚愕する。ベルドールの魔神の長たるリオの実力は、暗域で知らぬ者はいないほどに語られている。
サモンマスターの力を以てしても、今の自分では到底勝つことなど不可能な存在。そんなリオが敗北……それも、完全敗北など到底信じられなかった。
「I can't believe it all of a sudden. Who the hell am I to make you say something like that? What did you fight for(にわかには信じられませんな。貴公にそこまで言わせるとは……一体、何者なのです? 貴公が戦ったのは)」
「……破戒星。あいつは自分の二つ名だけを告げたよ。戦いを挑んだけど……手も足も出なかった」
バイオンに問われ、キルトはそう答える。敗北した時のことを思い出し、声が屈辱に震えていた。
「タナトスの潜んでる場所を割り出すために、次元の狭間を移動してた時にね……出会ったんだ。今思い出しても、悔しさで身体が震えるよ」
「Is there a possibility that that person will appear to support Thanatos?(その者が、タナトスを援護するために現れる可能性は?)」
「無いとは言えないけど、もし出現したら一族総出で妨害するから心配はいらないよ。卿はキルトくんたと一緒に、タナトスを倒すことだけに集中してくれていいからね」
「I see...I can't stand it. I would like to thank you for your cooperation, which will turn into a kilt(そうか……かたじけない。貴公の協力、キルトに変わり感謝する)」
リオですら勝てなかった、強大な敵。その存在を知って冷や汗を流しつつ、バイオンは目の前のソファーに座る少年に感謝する。
彼を倒した存在が自分たちの前に立ちはだかれば、タナトス討伐どころの騒ぎではなくなってしまう。キルトに伝えた時、どんな反応を返すだろう。
そんなことを考えつつ、バイオンはソファーから立ち上がる。協力の意思を表明した以上、グズグズしてはいられない。戦いの準備が必要だ。
「Well then, I apologize for this. I have to prepare for the decisive battle.(では、私はこれにて失礼つかまつる。決戦に備えて支度をせねばなりませぬので)」
「うん、ありがとうね。あ、お礼にお肉の詰め合わせ用意してるから帰りにふーちゃんから受け取って」
「thank you. Let's have it(ありがたい、いただくとしよう)」
そう口にした後、バイオンは恭しく一礼し部屋を出て行った。彼を見送った後、少ししてリオも立ち上がる。
「さて、座標の特定が出来たことをキルトくんに伝えないとね。忙しくなるぞ、僕の方も」
最後の決戦に向けて、カウントダウンは進む。その時が来るのは、もうすぐ……。




