281話─接敵、イシュナルギ
時はさかのぼる。モルドとΩ-13の生き残りの相手を仲間に任せたキルトは、ミューと共に覇導船イシュナルギへ向かう。
飛んでくる無数のレーザーをかわしながら、バイク形態のミューを操縦するキルト。ミューが補助してくれたこともあり、無傷でたどり着けた。
『マスター、このまま甲板に乗り込みます。準備はよろしいですか?』
「うん、いつでもオッケーだよ! お姉ちゃん、ミュー、行こう!」
『何が待ち受けていようが、我らのすることは変わらん。いつも通りの大暴れだ!』
甲板に飛び込み、急ブレーキをかけて停車するミュー。いざ艦橋に乗り込み、イシュナルギを停止させんとするが……。
「やっぱり乗り込んできたな。待っていたよ、サモンマスタードラクル。いや……キルト・メルシオン」
「わ、変な髪型。それ、視界の邪魔にならない?」
『これはまたヘンテコな。いや、前にアスカに聞いたことがあるな。こんな感じの髪型をしている男が出るマンガなるもののことを』
「……これはこれは。初対面で随分とまあ言ってくれるな……!」
艦橋内部へと続く出入り口から、ただ一人居残っていたハリファーが姿を現す。のだが、開口一番に髪型をイジられ額に青筋を浮かべる。
自慢の髪をバカにされるのは、彼にとってもっとも我慢ならないこと。例えΩ-13のメンバーであっても、容赦なく制裁を加えるほどに。
「全く、いけない坊やだ。俺の髪をバカにしたことを後悔させてやる! 簡単には死なせん、最大限の絶望と苦痛を味わわせてやるぞ!」
『サモン・エンゲージ』
「やる気だね、なら」
『お待ちください、マスター。ここはわたくしに任せて戦艦の内部にお向かいください。前回の失態、名誉挽回する機会をいただきたいのです』
ハリファーは右腰に下げた赤黒いデッキホルダーから、宙に浮かぶローブと三角帽子、杖を持った手袋が描かれたカードを取り出す。
それを左腕に装備した腕時計型のサモンギアにかざし、変身を行う。それを見たキルトが臨戦態勢に入ろうとした時、ミューがそう声をかける。
「アルバート戦の時のこと? 僕は別に気にしてないよ? ミューのアシストに助けられたし」
『いいえ、それではわたくし自身が納得出来ません。それに、あの者はかなりの実力があると見受けられます。長期戦になれば、この船の攻撃で仲間が命を落とす確率が跳ね上がります』
『確かに、ここはお前に任せた方がいいかもしれん』
ミューとルビィの言葉に頷き、キルトはバイクの座席から降りる。変身を終え、マグマのように赤熱する黒い鎧を身に着けたハリファーを一瞥した後勢いよく走り出した。
「それなら、ここはミューに任せるよ! 必ず勝って追い付いてね、待ってるから!」
『かしこまりました。マスターより賜りし命令……完璧に遂行します』
【ヒューマンモード】
「行かせるとでも? この俺がいる限り、イシュナルギの中には……むっ!」
バイクから人へと変形したミューは、キルトを阻止せんと身構えているハリファー目掛けて突進する。相手を捕まえ、甲板の船首側へ放り投げた。
「さあ、今のうちに中へ。ご武運をお祈りしていますよ、マスター」
『フン、貴様こそ死ぬなよ? いけ好かない奴だが、貴様が死ぬとキルトが悲しむからな!』
「もー、お姉ちゃんったら素直じゃないんだから。ミュー、頑張って!」
キルトとミューは、互いに激励の言葉を掛け合う。恭しくお辞儀をしながら主を見送っていると、投げ飛ばされたハリファーが立ち上がった。
「全く、困ったものだねぇ。眼鏡のレンズが割れたらどうしてくれるんだい? 命で弁償してもらうことになるなあ」
「そのようなことはわたくしの知ったことではございません。先ほどの投げで大人しく首の骨を折られていれば楽に死ねたのですが、残念なものですね」
「あまり舐めたクチ利いてると、その減らず口を溶接するぞ! こんな風にな!」
『ボルカニックコマンド』
ぶちギレ寸前のハリファーは、デッキホルダーから一枚のサモンカードを取り出す。描かれているのは、火山の火口を模したバズーカだ。
鮮やかな赤に波打つ白のラインが描かれたバズーカを召喚し、肩に担ぎ狙いを定める。狙うのは、命中させやすいミューの胸部だ。
「この『バルカングロット』で粉々に吹き飛ばしてやろう! 死ぬがいい、自動人形のバイク女!」
「フッ、そのようなものに当たるつもりはありませんよ。マスターにお造りいただいたこのボディに傷一つ付けさせません」
『フロートコマンド』
バズーカから火炎弾が発射され、ミューへと迫る。それを華麗な横宙返りで避けつつ、右腕に装着されているデッキホルダーからカードを読み込む。
すると、ミューの翼が稼働しほんの少し身体が浮き上がった。くるくると回りながら動き回り、次々と飛来する火炎弾をかわしていく。
その優雅な動きに、ハリファーはさらに苛立ちを募らせる。一刻も早く目の前の女を倒し、髪型をコケにしたキルトを殺したいのだ。
「フン、くるくるフワフワと鬱陶しい! 撃ち落としてやろう……バルカンラッシュ!」
「連射ですか。しかし、その程度の速度であれば避けるのはそう難しいことではありません」
ハリファーの攻撃を避けながら、内蔵された解析機能を用いて相手の分析を行うミュー。その結果、彼女は一つの結論に至った。
現在対峙している相手は、厄介な隠し球を持っているものの以前戦ったアルバートほどの強さはない。ゆえに、多少おちょっくてもいいと。
「ふむ、避けてばかりでは面白くありませんね。こうしましょう、一発はサービスで受けて差し上げます。当ててごらんなさい」
「いちいち人の神経を逆なでする奴だ……! そんな大口を叩いたこと、後悔するがいい!」
キルトの実力なら、イシュナルギの掌握は簡単。そう考えてのお遊び。飛んでくる火炎弾をあえて受け、ミューはニッコリと微笑む。
「ふむ、やはり……解析した通りですね。この程度であればダメージにはなり得ません」
「!? バカな……直撃を受けて無傷とは!」
炎が弾け、消えたあと。黒煙の中から現れたのは、全く傷付いていないミューだった。多少ボディが煤けてはいるが、それだけ。
それ以上の汚れはなく、破損に至っては全くない。対アルバートを想定して造られたがゆえに、基本の耐久性能が凄まじく高いのだ。
「もう終わりですか? ではこちらの番ですね。一気に滅して」
「終わり? バカなことを。俺にはまだ切れるカードが豊富にあるのさ!」
『メテオコマンド』
相手をイジって満足したミューは、攻勢に出ようとする。が、それを遮りハリファーが新たなサモンカードを発動させた。
燃え盛る隕石が描かれたカードをスキャンすると、イシュナルギ周辺の空が暗雲に包まれる。少しして、天から小ぶりな隕石が落下してきた。
「なるほど、『隠し球』を一つ使ったわけですね。フッ!」
「流石のお前も、隕石を食らったらただじゃあ済まないようだな? 動きを見れば分かるぞ、え?」
「そうですね、わたくしの解析ではこのメテオがボディに致命的な損傷をもたらす可能性は四十九パーセント。看過出来るものではありません」
「ならもっと落としてやろう! メテオの雨に焼かれて死ぬがいい!」
「生憎、わたくしはここで死ぬつもりはありません。マスターと約束しましたので。必ず勝って戻ると」
『アックスコマンド』
ハリファーが両腕を広げ、魔力を放出する。直後、暗雲の中から不気味な赤い光が漏れてきた。ミューが身構えた直後、無数の隕石が降り注ぐ。
それらを回避しながら、ミューはサモンカードを使いキカイ仕掛けの斧を召喚する。落下してくる隕石のいくつかを斧で砕きつつ、ニコリと笑う。
「この程度はピンチでもなんでもありませんね。余裕たっぷりに、慌てることなく……敵を滅するとしましょうか」
キカイ仕掛けのメイドは、そう呟いた。




