280話─スカイハイ・オンステージ!
「さあ行くぜ相棒、ダイナライズキーを」
「おっと、そうはいかないわ。悪いけどさっさと決着つけたいのよ、こっちは。だから邪魔してあげる! アイシクル・オブ・シーン!」
ニブリスとトラストがダイナライズキーを取り出し、さらなる変身を遂げようとした次の瞬間。ひたすらギターを掻き鳴らし、魔力を溜めていたエヴァが動く。
メーターに八割ほど溜めていた魔力を全消費し、淡い青色をした雪の結晶のような見た目の音波を作り出した。そして、それを敵へ飛ばす。
「ハッ! 懲りねえ奴だな、音波は効かねえって言って──!?」
「こ、これは!? サモンギアが……凍り付いた!?」
「ふふん、どう? この技はね、タナトスとの戦いに向けて新しく編み出したのよ。あんたたちが初披露の相手なの、光栄に思いなさい!」
戦いを制するため、努力と研鑽を重ねているのはキルトだけではない。エヴァもまた、愛する少年の持つフリーズコマンドに似た技を編み出したのだ。
もっとも、向こうとは違い発動準備に入ったサモンカードの効果を打ち消すことは出来ない。あくまでサモンギアを凍結させ、カードの発動をすることしか出来ないのだ。
だが、今はそれだけで十分。ダイナライズを阻止され、動揺して隙が生まれた磁力コンビを仕留めるチャンスを作るのが目的なのだから。
「まずいですよトラスト、このままでは……!」
「落ち着けニブリス、魔力を流し込んで氷を溶かせ! そうすりゃ」
「さっせないよーだ! いけー、スケルトーン!」
『ネクロコマンド』
「ぐおっ、いててて! クソッ、なんだこの骨のハチは!」
「泣きっ面にハチとはまさにこのこ……あいたっ!」
鍵穴が凍ってしまい、切り札たるダイナライズを封印されたニブリスたち。逃げ回って時間を稼ぎ、サモンギアを覆う氷を溶かす作戦に出ようとする。
が、それをメリッサが許すわけもなく。ボーンビーの群れを召喚し、チクチク刺しまくることで相手の妨害を行う。
「クソッ、舐めやがって! こんなハチがナンボのもんじゃ!」
『スイングコマンド』
「全く、やってくれますね! 実に腹立たしい!」
が、腐っても精鋭部隊の一員。気合いと根性でハチの群れを振り払い、肩当てを覆う氷の一部を解かしてサモンカードを読み込めるようにする二人。
まだダイナライズキーは使えないため、さらに時間を稼ぐためトラストは青い鎚頭を持つフレイルを召喚した。それを使い、ハチの群れを滅していく。
「あー、やられちゃった! エヴァちゃん、どうするのー?」
「思いのほか早くリカバリーしてきたわね。こっちはまだ魔力を補充出来てないってのに」
「安心しろ、そんなことを考える必要はもうなくなるからな! 行くぞニブリス!」
「ええ、やりましょう。磁力による拘束が無意味ならば、物理的に動けなくすればいいだけのこと!」
『トラップコマンド』
相棒に声をかけ、磁力コンビは同時にサモンカードを読み込み発動させる。カードに描かれているのは、金属製の巨大な茶色の壺。
カードを読み込ませた直後、壺が二つ実体化する。エヴァが様子を見ようとしたその時、壺が凄まじい勢いで吸引しはじめた。
「ちょ、まさか……蛸壺みたいにアタシたちを吸い込むつもり!?」
「やーだー! 私タコじゃないもーん!」
『タコはリオおじちゃんとこの子だよー!』
「ハッハッハッ! この壺に吸い込まれたら最後、二度と出られねえ! ダイナライズするまでもねえ、イシュナルギのレーザーで死ね!」
「ふふふ、これでようやく屈辱を晴らせますねえ」
エヴァもメリッサも、必死に壺から遠ざかろうと足掻く。閉じ込められてしまえば、イシュナルギの砲撃で確実に死ぬ。
そんなのはごめんだと、全速力で飛んで逃げる二人にダメ押しをする磁力コンビ。再度磁力を用い、壺の中に閉じ込める。
『マグネットコマンド・プラス』
『マグネットコマンド・マイナス』
「ちょ、このタイミングでそれは反則……ああああ!」
「ハッ、ざまあみやがれ! さあ、後はレーザーが飛んでくるのを……んっ!?」
「あれは……! バカな、イシュナルギが停止している!? まさか、制圧されたというのですか!?」
フィリールたちが囮になってくれているとはいえ、レーザーの矛先から完全に逃れるのは不可能。いずれ主砲の餌食に……と思っていたその時。
遙か遠くにあるイシュナルギの砲撃が、突如として止まった。少しして、主砲が格納されゆっくりと地面に向けて船が降下していく。
それが意味することは一つ。キルトとミューがイシュナルギのコントロールを奪取し、完全に支配下に置いたということだ。
「まずい、ハリファーの奴しくじったのか! クソッタレ、こうなりゃ……」
「私たちの奥義で仕留める他ありませんね。やりますよトラスト!」
「ああ、奴らは壺の中……仕留めるなら今だ!」
『アルティメットコマンド』
『アルティメットコマンド』
イシュナルギの砲撃に期待出来ない以上、自分たちで仕留める他はない。そう判断した二人は、時間が惜しいからとダイナライズもせず奥義を発動する。
直後、トラストの側に片刃の斧に似た姿をしたエイ型のモンスター『アクスダイバー』が、ニブリスの側にブリリアントカットされた宝石型のゴーレム『クロンハンマー』が召喚された。
「行くぜ相棒! 奴らが壺から出てくる前に仕留めるぞ! 奥義……」
「マグネティカ・ギロチン!」
お互いの本契約モンスターを磁力によって繋ぎ、その射線の中に二つの壺を納める。そして、アクスダイバーに乗ったトラストが合図を送る。
「行け、アクスダイバー! 奴らを壺ごとぶった斬っちまえ!」
「シュゴー!」
「クロンハンマー、しっかり受け止めなさい。私たちは刃を受け止める断頭台なのですからね!」
「オオオオォ……!」
二身一体の奥義を炸裂させ、エヴァとメリッサを断頭台の露と消そうとする。だが、そうは問屋が下ろさなかった。
エヴァを閉じ込めた方の壺の中から、魂を揺さぶるような熱いメロディが流れ始める。その隣にある壺からは、紫色の煙が漏れてきた。
ニブリスたちが訝しんだ直後、破壊音波を使って壺をブチ破ったエヴァが姿を現す。
「はー、やっとぶっ壊せたわ。憎らしいほど頑丈で嫌になっちゃ」
「バカが、このタイミングで出てきたところで死ぬだけだ! くたばりやがれ!」
「あっそう。いいわ、別に死んだって。どうせ……」
『リバイバルコマンド』
「生き返るもんね」
外に出たタイミングが悪く、そのまま両断されてしまうエヴァ。だが、その直前。いまだ壺の中にいたままのメリッサが発動させていた。
父から受け継いだ、蘇生の炎の力を二人分。その結果、実質ノーダメージで敵の奥義を切り抜けることに成功したのだ。
「クソッ、ふざけやがって! だが、こっちのサモンギアはもう完全復活してる。ダイナライズで」
「させるわけないでしょうが! 今度はこっちの番よ、とっととくたばりなさい!」
「ぱりーん! よーし、トドメ刺しちゃおー!」
『おー!』
【アルティメットコマンド】
『アルティメットコマンド』
磁力コンビにトドメを刺すべく、エヴァとメリッサはそれぞれの奥義を発動させた。確実に仕留めるために、魔力を全力にして。
「はああ……てやっ!」
『ぶもおおおお!!』
「ぐおっ! ぐっ、動けねえ!」
「食らいなさい、アタシの魂のグルーヴを! 奥義……絶唱のジーニアス!」
「いくよいーくん! ひっさーつ! アビスのかいもーん!」
『ひらけー! あの世のとびらー!』
「こ、これは……!」
四人に分身したエヴァは、動きを封じたトラストに向かって同時ドロップキックを放つ。少し離れたところでは、メリッサが冥府の門を開いていた。
門の中から伸びる無数の腕がニブリスを掴むのと同時に、霊体になった巨大なイゴールが出現する。ノリノリで踊りつつ、ビシッと右腕を天に向けた。
『アビスの門、へーいもーん! 悪い子はー、じーごくーいきー!』
「う、ぐ……あがああああ!」
「ニブリス! クソが……てめえらを倒して、隊長の後釜に座る計画が……これで、パアだぜ……」
「安心しなさい、あの世で仲良く過ごさせてあげる! ていやああああああ!!」
「うぐ、お……がはあっ!」
先にニブリスが倒され、その後を追うようにトラストもまたエヴァの奥義を食らって息の根を止められることとなった。
キッシュのように、息絶えた二人は地上へと落下していく。それを見送ることなく、エヴァたちは制圧されたイシュナルギへと向かう。
「さ、行くわよ。早いとこキルトと合流して、あの船をかっぱらっめて帰りましょ」
「はーい!」
『はーい!』
此度の戦いにアンコールはない。余すところなく実力を発揮したエヴァたちは、満足げにライブ会場となった空域を去って行くのだった。
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