274話─復讐が終わる時
「てやああっ!」
「ムダなことよのう。お前がどれだけ攻めようが、儂は空を舞う木の葉の如く避けるのみ。それが『柔』の力よ!」
十分に渡って、アリエルはモルドとの戦いを続けていた。怪我を押して猛攻を仕掛けるが、最小限の動きだけでかわされてしまう。
老体ゆえのスタミナをなさを、モルド自身が熟知しているがゆえのムダの無い動き。ソレに翻弄され、レーザーポッドによる攻撃で傷付くアリエル。
「まったく……ケホッ、おじいちゃんのクセになかなかやるじゃない。これはちょっとヤバそうだね」
『そうだよアリエル、どうすんの? このウザったい変なのもそうだし、あのアームも』
「次は左肩を抉ってくれよう! スクランブルスパイラル!」
『げっ、また来た! アリエル避けて!』
「分かってるさ、てやっ!」
フロウラピルがやかましくピーピー鳴くなか、アリエルはどうすればモルドを倒せるか思考を巡らせる。
(ストームコマンドのカードを使えば、あの射出機は排除出来るけど……悪天候でこっちの視界まで悪くなるから一長一短なんだよね。となるとまずは……)
「何を考えようが無意味よ。儂には勝てぬ、潔く諦めるがよいアリエル。そうすれば、お前の命だけは奪わずにおいてやろう」
「温情をかけるつもりかい? あいにく、私は身内が死んで一人のうのうと生き延びるのをよしとするような恥知らずじゃないんだ。そんな提案には絶対乗らないよ!」
「そうか、であれば死ぬがよい。一足先に、お前の祖父と両親の元へ逝け!」
『スコープコマンド』
降参すれば助命してやろうと話を持ちかけるモルドだったが、アリエルはそれを拒絶する。その答えを聞いた後、モルドは三枚目のカードを使う。
直後、ポッドにレーザーサイトが追加されより狙いが精密になる。精度が増したレーザーによる攻撃に襲われ、アリエルは反撃どころではなくなってしまう。
「まったく、確実に殺しにかかってきたね! 仕方ない、それならこっちも対抗させてもらう!」
『ストームコマンド』
「風よ吹け、稲光よとどろけ! 嵐よ、あの射出機を叩き落としちゃえ!」
「むう……? なるほど、面白いカードだ」
こうなっては四の五の言っていられないと、アリエルは渋っていたストームコマンドのカードを使う。その直後、空が曇り黒雲に包まれた。
まず冷たい風が吹き、やがて雲の中からゴロゴロと低い音が鳴り始める。そして、大粒の雨が降り……凄まじい嵐が訪れた。
その規模や勢いの強さは、以前行われたアスカとの戦いの時より遙かに強い。当時は洗脳されていたために、真の力を発揮出来ていなかったのだ。
「じゃが、そんな嵐などスコープを装着したポッドの前ではそよ風に過ぎん! 今度は翼を撃ち抜いてくれる、二度と飛べぬようにな!」
「やってみなよ、モルド。言っておくけど、こうやって嵐を発生させるだけじゃないんだよ、このカードの力はね。魔力をかなり使うけど、こんなことも可能なのさ! フロウラピル、補助は任せるよ!」
『はーい、お任せー! そーれっ!』
次のレーザーが放たれようとしたその時、アリエルのデッキホルダーに宿るフロウラピルが突風を操りポッドの向きを変える。
発射の直前で向きが変わったことで、三機のポッドはそれぞれをレーザーで攻撃し自壊することに。それを見たモルドは、目を見開き驚愕する。
「なんじゃと!?」
「ふふ、見たかい? 洗脳されてた時には出来なかった、私とフロウラピルの真の力を!」
『へっへーん! そのまま腰を抜かして墜落しちゃえーだ! あっかんべー!』
「フン、調子に乗るでないぞ! あと一枚、ポッドを呼び出すカードがある。それを使えば」
「させないよ、この勢いのままお前を倒す!」
雷鳴がとどろくなか、アリエルは猛スピードで突撃しモルドに反撃を行う。厄介なレーザーポッドさえ無くなれば、もう怖いものはない。
刃となった翼や、鋭い爪を備えた足を用いた接近戦を仕掛ける。アームで対抗するモルドだが、そのリーチの長さが仇となる。
中距離や遠距離の相手には強くとも、懐に潜り込まれてしまうと逆に攻撃への対処が難しくなるのだ。今度は逆に、モルドがアリエルから逃げる羽目に。
「うぬぬ、ちょこざいな! こんな……ぐおっ!?」
「おっと、一つ言い忘れてたけど。フロウラピルの力を借りれば、今みたいに雷を落とすことも出来るんだからね?」
『アハハハハ! フラストレーション解消、解消! もっぱつくらい食らっとく? なんてね!』
「ぐふっ……おのれ! こうなれば、奥義で貴様らを纏めて消し去ってくれようぞ!」
『アルティメットコマンド』
落雷の直撃によって大ダメージを受けたモルドは、これ以上嵐が激しくなる前にアリエルを仕留めんと奥義を発動する。
叫び声を出すレイスレイブが描かれたサモンカードを杖にかざすと、巨大な人魂……モルドの本契約モンスターであるレイスレイブが召喚された。
「やれ、レイスレイブ! アリエルを滅ぼし、ラズマトリアの真なる滅亡への産声とするのじゃ!」
「ア……ア……アアアアアア!!!」
『アリエル、来るよ! どうするのさ!?』
「ふふ、問題ないさフロウラピル。読者くんが改良してくれたサモンギアの力、早速見せちゃおうじゃないの! さてさて、どんなアブゾーブカードを仕込んでくれたのかな……っと!」
レイスレイブが絶叫すると、アリエルを囲むように巨大な縦置きスピーカーが四つ出現する。大慌てするフロウラピルを余所に、アリエルは冷静さを失わない。
キルトがサモンギアを改良した時に組み込んでくれた、アブゾーブカードが窮地から救ってくれると信じているからだ。
「死ぬがいい、アリエル! 奥義……魂絶の」
「そうはさせないよ、これでも食らえ!」
『♠6:FREEZE』
サモンギアに直結されたデッキホルダーから、新たに組み込まれたアブソーブカードがスロットインされ効果が発動する。
直後、アリエルの身体から凄まじい吹雪が放たれスピーカーを凍らせてしまった。奥義の発動を阻止されたモルドは、驚愕し動きが止まる。
「な、なんじゃと!?」
『ヒュー、すごーい! あのぼーや、妨害系のカード入れてくれたんだ!』
「確かに、これは私にピッタリなカードだね! 読者くんありがとう……さあ、次は私たちの番だ!」
『アルティメットコマンド』
モルドの奥義を不発させたアリエルは、戦いに決着をつけるべく自身の奥義を発動させる。フロウラピルを召喚し、猛スピードで共に空を駆けていく。
「舐めるでないわ! 儂にはまだこのアームが」
「いいや、もう終わりさモルド! この一撃で終わらせる……お前の怒りを、復讐を!」
「そーれ、捕まえた!」
「ぬぐっ、離せ!」
アームを掻い潜り、モルドの腕と胴体を足で掴むフロウラピルとアリエル。アームを引っ剥がし、勢いよく地上へ落下する。
ある程度加速したところで、アリエルは着地用の魔法陣を自分たちの下方に作り出した。そこにモルドを叩き付け、決着をつけるつもりだ。
「さあ、これで終わりだよ! 奥義……ダウンフォースインパクト!」
「うぐ……がはっ!」
アリエルの奥義が炸裂し、モルドは魔法陣に叩き落とされ戦闘不能となった。まごまごしながら様子を見ていたレイスレイブは、叫び声を残し消えた。
「まさか……この儂が、敗れるとは……」
「さあ、モルド。約束通り教えておくれよ。どうして私だけ……復讐の対象にしなかったのさ」
亀裂が入った魔法陣に横たわり、無念の言葉を口にするモルド。そんな彼に、アリエルは問う。しばらくして、老人は答えた。
「……似ておったのよ。あの日……理不尽に命を奪われた儂の幼なじみとお前の顔が。ゆえに儂は……どうしても、お前を憎むことが出来なかった」
「モルド……」
「フィネカ……それが幼なじみの名。お前を見る度、彼女の笑顔が思い出された……もう、遠い昔のことだというのにのう」
そう語るモルドの脳裏に、かつて平和だった頃の記憶がよみがえる。もう二度と戻らない、懐かしきあの日々。
ソレを振り払うように頭を振った後、モルドは続けて口にする。自分のしてきたことは間違いだと思ってはいない、と。
「志半ばで倒れる……それが一番の未練。あの国を滅ぼして……手向けとしたかった」
「……モルド。お前の気持ちも分かるよ。私のじいちゃんは、許されないことをした。だから……その罪を、私とマリアンナが償う。ラズマトリアを生まれ変わらせることでね」
「出来るのか? お前たちに。あの排他的な民どもの思想を変えるなど」
「出来るさ。もうすでに変わりつつあるんだよ、モルド。避難生活を経て、他の国の人々と助け合うことの大切さに気付いたんだよ。こんな風にね」
そう口にしたアリエルは、魔法を使って公国の様子を空中に投影する。その映像には、デルトアやゼギンデーザから来た復興支援者たちと協力し、破壊された街を再建する民の姿が映っていた。
「ほら、見てごらんよ。あの戦争以前じゃあり得なかったでしょ? ある意味、モルドが変えたんだ。ラズマトリアの民の気風を」
「……そう、か。であれば、儂の復讐も……全くの無意味ではなかったと。そう……思ってもいいのじゃな」
「そうさ、モルド。全てが終わったら、慰霊碑を作るよ。そして、じいちゃんの犯した罪を公表して償うって宣言する。約束するよ、必ず……同じ悲劇は繰り返さないって」
「ふ、ならば……その言葉がまことなのかをあの世から……見届けさせて、もらおう。父上、母上……フィネカ……。儂も、ようやくそっちに……」
アリエルの言葉に頷いた後、復讐に人生を捧げた男は静かに息を引き取った。アリエルは黙祷を捧げ、遺体を担ぎキルトたちの元へ戻る。
「今ちょっと立て込んでるからさ、遅くなっちゃうけど……必ず埋葬してあげるよ。だから、ゆっくりおやすみ。モルド」
こうして、初戦はアリエルの勝利で終わった。だが、これで全てが終わったわけではない。むしろ、ここから始まるのだ。
死神との最終決戦が。




