272話─覇導船イシュナルギ、出航
急ぎアジトに戻ったキルトたちは、今後の方針についての会議を執り行う。タナトスが潜む次元の狭間へと、どう向かうか決めねばならないのだ。
「さて、キルト。タナトスは次元の狭間なる場所から動くことはなかろう。どうやって攻め入る?」
「そこに関しては問題ないよ、ルビィお姉ちゃん。僕が持つウォーカーの力があれば、次元の狭間に入り込める。タナトスのいる座標さえ分かれば、一気に殴り込めるよ」
「ほう、それは素晴らしい! なら早速」
「そうはいきません、ミス・ルビィ。みだりにウォーカーの力を使えば、ベルドールの魔神たち……ひいてはファルダの神々の怒りを買うことになります。彼らはウォーカーの力を危険視していますから」
リオたち魔神や天上の神々とウォーカーの一族の間にある因縁。かつて神の大地グラン=ファルダにて、ウォーカーの一族が起こしたテロ事件についてキルトはフィルから聞いていた。
ファルダ神族の子どもたちを狙ったテロにより、リオたちは渡りの力を持つ者たちの根絶を決意した……そんな話をされていたのだ。
「うん、だから今回は事前にウォーカーの力を使ってタナトスのところに殴り込むのを伝えておこうと思ってたんだ。根回しは大事だからね、というわけでミュー! マジンフォン起動!」
「かしこまりました、魔神リオのフォンナンバーを入力します」
ルビィの運命変異体を呼んだ時は緊急事態だったため仕方ないが、今回はあらかじめ連絡しておかないと無用なトラブルを招きかねない。
先祖であるフィルのように、殺意をたぎらせたリオたちに狙われるような事態になればタナトスとの決戦どころではなくなるからだ。
そのため、キルトはミューの左腕に装着してあるマジンフォンを使ってリオに連絡を取る。事前にウォーカーの力を使うことを知らせておけば、ムダな軋轢も生まれないのだ。
『はーい、もしもーし! 珍しいね、キルトくんから連絡してくるなんて。何か僕の力を借りたいことでもあったのかな?』
「こんにちは、リオさん。実はですね、僕たち……」
マジンフォンのスピーカーをオンにし、リオの声が全員に聞こえるようにするミュー。キルトから話を聞いたリオは、快く許可を出した。
『そういうことならウォーカーの力を使っても大丈夫だよ! それにしても驚いたなー、まさかフィルくんみたいにウォーカーの力に目覚めたなんてね』
「ええ、我ながら驚いて──! リオさん、申し訳ありませんが通話を終えますね。どうやら、敵が来たみたいなので」
『分かった、僕たちの方でそのタナトスって奴の座標を調べてみるよ。それくらいのお手伝いなら出来るからさ! 敵の迎撃、頑張って!』
通話の最中、キルトは邪悪な気配が近付いてくるのを感知する。マジンフォンを切り、素早く仲間たちに迎撃の指示を出す。
「みんな、出撃するよ! 気配は……東の方だ!」
「感じる……モルドだ。あいつが来てる。今度は逃がさない、公国に手出しはさせないよ!」
モルドの気配を感じ取ったアリエルは、二度と逃走させまいと決意を固める。アジトを出て出撃するキルトたちは、まだ知らない。
強襲した敵たちが所有する、強大な破壊力を秘めた飛行兵器……『覇導船イシュナルギ』の恐ろしさを。
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「見えましたよ、ハリファーさん! あれがフェルガード帝国の首都、ラーズハウダーです」
「ふぅん。チャチな都だね、暗黒領域の街と比べたら月とスッポン。ド田舎レベルだ、よくこれで首都を名乗れるもんだ」
キルトたちの予想とは裏腹に、キッシュやモルドたちが乗る覇導船イシュナルギはフェルガード帝国の上空に出現していた。
キルトたちガーディアンズ・オブ・サモナーズを滅ぼすためのデモンストレーションとして、フェルガードを標的に選んだのだ。
甲板に出ている二人の人物……ハリファーと呼ばれたメガネ男とキッシュは、手を上げ艦橋にいる仲間に主砲発射の合図を送る。
「撃て、ニブリス! このイシュナルギの力をお披露目してやるといい」
『了解、主砲発射します!』
手に持った連絡用の魔法石を使い、主砲を起動するよう要請した直後。船の側面、左右四門ずつ存在する主砲が斜め下を向いた。
そして、八つの主砲から極太のレーザーが勢いよく放たれる。レーザーが降り注ぐなか、地上では……。
「陛下、あれを! 所在不明になっていたイシュナルギが空に!」
「ええい、今更になっ……まずい、主砲が来る! 急いで逃げ」
居城にて敗戦による書類仕事をしていたバルサーと部下たちがイシュナルギの存在に気付く……が、時すでに遅しだった。
天空より降り注ぐレーザーによって、城を含む街の一部が消滅していく。ラーズハウダーの住民たちがパニックになるなか、攻撃は続く。
「これは素晴らしい、もっと撃てニブリス! 地上を焼き払い消し去ってしまえ!」
「いいんですか? ハリファーさん。ムダ撃ちしてたら、肝心の本番で使えなくなったりするんじゃ……」
「問題はない、詳しい原理の説明は省くがこの船には無限増殖炉が搭載されている。どれだけ撃とうがエネルギーの問題はない」
右側に大きくせり出し、腰辺りまで伸びた前髪をファサッとかき上げた後ハリファーはそう口にする。そうしている間に、どんどんレーザーが放たれる。
十分もしないうちに、ラーズハウダーは灰燼に帰してしまった。公国時代から栄華を誇った都は、何の抵抗も出来ず……メソ=トルキアから消え去った。
「んんんんん、素晴らしい! この大火力があれば、連中のアジトを山脈ごと消し去ってやれるぞ!」
「ええ、まさかこれほどの出力があ」
「二人とも、喜んでおるところ悪いが……来おるぞ、連中が。儂らを滅ぼしにな」
イシュナルギが誇る主砲の威力を目の当たりにし、歓喜するハリファーたち。そこに、転移魔法を使ってモルドがやって来る。
彼もまたキルトやアリエル同様、敵の気配を察知しそれを知らせに来たのだ。報告を聞いたハリファーは、フレームレスメガネの位置を直しつつ笑う。
「フン、いいだろう。聞こえたな、ニブリスにメルフィン、トラスト! 奴らを倒し、シモンズ隊長たちの仇を討つぞ!」
『了解! イシュナルギを自動操縦モードに切り替えておきます!』
「フフフ、ようやく俺の出番が来たねぇ。待ってるといい、この『サモンマスターバルカン』が灰にしてあげようじゃあないか。ガーディアンズ・オブ・サモナァァァズ……ククク!」
仲間たちに指示を出した後、ハリファーは白衣をはためかせながら船内に入る。その左手首には、腕時計型のサモンギアが不気味に輝いていた。
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敵がフェルガード帝国にいることなど知らず、キルトたちはラズマトリア公国の首都に来ていた。マリアンナの元にへ向かい、危機を知らせる。
「……そうですか、またしても敵が」
「まだ到着してはいないみたいだけど、油断は出来ないよマリアンナ。急いで守りを固めておくんだ、相手がどんな手を使ってくるか分からないからね」
「分かりました、姉上。すぐに伝令を……」
「失礼致します、公女様! フェルガード軍より緊急の救援要請がありました! 所属不明の飛行艇が突如として現れ、ラーズハウダーを消滅させたと……」
仲間たちにバーグエルンの見回りを任せ、マリアンナに危機を知らせるキルト・ルビィとアリエル。その時、慌てた様子の兵士が謁見の間に飛び込んできた。
「まさか……奴らだとしたら、なんでフェルガードを攻撃するんだろう?」
「さあな、理由は分からん。だが、連中の次の目的は恐らくこの国だ。ならば……」
「迎え撃つしかない、ってわけさ。読者くん、みんなを集めよう。敵が公国に到達する前に倒すんだ!」
「そうですね、考えるより行動です! お姉ちゃん、行こう!」
こうして、最終決戦の火蓋は切られた。キルトたちは無事に公国を守れるのか、それとも……。




