271話─終戦の後の宣戦布告
天空の決戦から、十日が経過した。戦後処理が一通り終わり、帝都シェンメックにてデルトア・ゼギンデーザ・フェルガード三国の間に『シャポル条約』が締結された。
具体的な内容は、今回の侵略でフェルガード帝国が得た領土の永久放棄。並びに、民が根絶やしにされたリンズウェル王国領とグリゴーラ共和国領の戦勝国への譲渡。
そして、多額の賠償金の支払いに加えてフェルガード帝国軍の大規模な軍縮。これらの条項によって力を削ぎ、二度と戦乱を起こせないようにしたのだ。
「いやあはは、あの皇帝バルサーの顔ったら! あんなに悔しそうな顔、一生忘れられないね! 実に晴れ晴れした気分だよ!」
「そうですね、姉上。わたくしも胸がすく思いです。でも、それ以上に驚いたのは……」
シャポル条約の調印式の後、キルトたちガーディアンズ・オブ・サモナーズの面々はフェルガードの支配から脱したラズマトリア公国を訪れていた。
祖国の滅亡に気落ちしていた民たちが、復興のため故郷へと戻り。さらに、イゴールとメリッサによって大戦で命を落とした者たちがあらかた生き返った。
「まさか、戦死者たちが生き返るなんて。ふふ、これなら慰霊碑や戦没者用の霊園を造る必要もありませんね」
「本当に、どれだけ感謝すればよいのか……。一生をかけても返せぬ大恩が出来てしまいましたな、公女様」
バズやガルドンをはじめ、祖国を守るため命を賭けて戦った兵士たちの復活という奇跡に国民は驚き、喜びの涙を流した。
その結果、それまでの排他的な気質が軟化しキルトたちへ感謝の気持ちを向けるようになっていた。少しずつだが、他国との交流もしていけるようになるだろう。
「キルト様、そしてそのお仲間の皆様。あなた方のおかげで、我が国は救われました。このご恩、どのようにしてお返しすればいいのか見当もつかないほどです」
「いいんです、僕たちとしては一人でも多く悲劇から救われたという事実だけで感無量ですから。ね、イゴールくんにメリッサさん?」
「うん! パパも言ってた、不要な悲劇で絶望に沈む人たちを死者蘇生で救ってあげなさいって」
「みんなが笑顔になれてよかった! 泣いてるより笑ってる方がいいもんね!」
幸いにも破壊を免れた宮殿の謁見の間にて、マリアンナとオズインはキルトたちに礼を述べる。今後、ある程度復興が進んだら奇跡の実行者たる双子の像を建立するらしい。
「お二人の偉業を讃え、未来永劫感謝の気持ちを忘れないために。像を造り、街の広場に飾らせていただこうと思うのです。よろしいでしょうか?」
「いーよ! ね、めーちゃん」
「うん! パパたちに自慢出来るもんね!」
「ハハ、実に微笑ましいな。今日はいい日だ、本当にめでた」
『いいや、このまま全てが上手く行くとは思わないことだな。キルトよ、お前たちの快進撃もここまでというわけだ』
自分たちの像が出来ると、大喜びしている双子を見て笑うフィリール。その時、どこからともなくタナトスの声が響き渡る。
「タナトス! お前、性懲りもなく何か仕掛けてくるつもりだな! この国はようやく平和を取り戻したんだ、邪魔はさせないぞ!」
『フフフ、その威勢の良さがいつまで持つか楽しみだな。お前たちが戦争に明け暮れている間に、私は完成させた。我が大願を成就させるためのサモンギアを』
キルトが叫ぶと、そんな答えが返ってくる。その言葉に眉をひそめ、キルトは考える。タナトスの大願とはなんなのかと。
「……何を企んでる? お前の真の目的は一体なんなんだ?」
『いいだろう、もはや隠す必要もなくなったからな。教えてやろう……我が大願、それは。サモンギアの力でフィニスを再現することだ』
「フィニス……!? アンタ、何考えてるわけ!? あんなのを再現したらどうなるかくらい分かってるでしょ!?」
『ああ、もちろん。私の……いや、私たち新生ウォーカーの一族の最高幹部……渡りの六魔星に課せられた使命なのだよ。フィニスの復活、あるいはそれと等しい存在を創り出すことがな!』
タナトスの真の目的が明かされ、エヴァは思わず叫んでしまう。四百年前、彼女の主君たるコリンとその仲間たちが命を賭けて打ち破った巨悪。
数多の並行世界を滅ぼし、フィニス戦役という全面戦争を引き起こしたリオの運命変異体。『終焉の者』と呼ばれる究極の破壊者をよみがえらせようとしているのだ。
「お前が……ウォーカーの一族の幹部!?」
『そうとも。旧き一族は、お前の先祖たるフィル・アルバラーズを除きリオ率いる魔神たちによって根絶された。だが、その裏では私を含む新たな一族が創造されていたのだよ』
「うう、なんやスケールがデカ過ぎて混乱してきたでウチ」
「オレもだ、だが一つだけ分かる。タナトスの野望は挫かなくちゃいけないってな!」
次々と明かされる事実に、アスカの脳の処理能力が限界を迎えつつあった。そんななか、ドルトの発した一言にキルトたちは頷く。
「お前の目的は分かったよ。なら、そんなふざけた大願を叶えさせるわけにはいかないね! フィニスの復活なんて絶対にさせない!」
『復活? ああ、確かにその方法を選んだ同胞はいるさ。だが、私はその道を選んではいない。言っただろう? 私はサモンギアの力でフィニスを再現したのだと』
「何が言いたい? 我にも分かるように言え!」
『フフフ、それはいずれ分かることだ。最後の仕上げが終わるまで、お前たちは遊んでいるがよい。我が最後の刺客たちとな!』
ルビィの問いに答えることなく、タナトスは不穏な言葉を残して沈黙した。気配が消えた後、キルトは真剣な表情を浮かべる。
「公女様、申し訳ありませんが僕たちはアジトに帰ります。タナトスとの決着をつける準備をしなければならないので」
「……事情は分かりませんが、何やら大変な事態になろうとしていることだけは理解出来ました。キルト様、そしてお仲間の皆様。あなた方に神のご加護があらんことを……」
マリアンナと別れ、キルトたちはシャポル霊峰にあるアジトへ戻る。タナトスとの最終決戦の準備を整えるために。
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「ふむ……さてさて、サモンカードが機能してくれればいいのだが。千七百十五回目のテスト、成功なるか……」
一方、キルトたちに言いたいことを言い終えたタナトスはサモンギアの実験を行っていた。虹色に輝く鎧の胸元に取り付けられたスロットに、サモンカードを近付ける。
色とりどりに輝く七つの宝石が描かれたソレをスロットに挿入すると……。
【アブソリュートコマンド・ルビー】
「むうっ……! ほんの一瞬だが、確かに時が止まったのを感じた。いいぞ、これならフィニスのようにアブソリュート・ジェムの力を扱える! 完全なるフィニスの再現までもう少しだ!」
鎧が赤く染まり、ほんの一瞬だけ時間が停止した。かつて、フィニスが扱った特異点の力の結晶……アブソリュート・ジェム。
その力をフィニスのように自在にコントロールするためのサモンギアが、ついに完成しようとしていたのだ。
「タナトス殿、我らの準備は出来た。いつでも出立出来るぞ」
「ああ、モルド卿にキッシュか。そうだな、こちらはもうしばらく最終調整の時間がいる。それまでの時を稼いできてもらおうか」
「ようやくですか。長かったですよ、パティラさんまで死んで……。でも、ようやくシモンズ隊長の仇を討てる……燃えてますよ、みんな」
その時、実験室にモルドとキッシュがやって来る。キルトたちが次元の挾間に来られないよう、撃滅するための刺客として出撃することを報告しに来たのだ。
「長い間待たせてしまったな、キッシュよ。だが、もう止めはせん。存分に暴れてくるがいい。残った仲間たちと共にな」
「ええ、必ずキルトたちを仕留めてみせます! では行ってきますね!」
「ラズマトリアは儂の手で滅ぼす。奴らの希望の芽を摘み、今度は我が手で根絶してくれる……!」
それぞれの決意を述べた後、モルドたちは実験室を後にした。少しして、彼らと入れ違いとなる形で泰道亮一とデミルがやって来る。
「タナトス、私たちは待機だそうですね。理由を聞いても?」
「ベスティエたちが死んだ以上、お前たち二人が最高戦力となる。万が一キルトたちが次元の壁を突破し、ここに至る方法を見つけた時に備え守りを固めてもらいたいというわけだ」
「ふうん、そんな必要ないと思うけどね。いざとなったら、キルト・オリジナルの左腕からクローンを量産すればいいだけだし」
「それはコストと時間がかかる、最後の手段だ。とにかく、お前たちは待機していろ。いいな?」
自分たちも出撃したかったようで、亮一たちはやれやれとかぶりを振った後部屋を去る。一人残ったタナトスは、実験の総仕上げに取り掛かる。
こうして、最後の戦いの幕が静かに上がっていく。最後に勝つのはキルトたちか、それともタナトス一味か。その答えは、まだ分からない。




