270話─遠い空に勝利を刻め
「私は負けられぬ、先に散ったベスティエたちのためにも!」
「僕だって負けられない! お前たちなんかに僕の大切な故郷を! 蹂躙させるわけにはいかないんだ!」
キルトとアルバートは、互いの武器をぶつけ合い死闘を演じる。第二の故郷を守らんと奮戦するキルトだったが、相手の鎧は堅く傷が付かない。
しばらくは互角に戦えていたが、武器が保たず十分ほど振るった後粉々に砕けてしまった。それを好機と見たアルバートは、奥義を解き放つ。
「これで終わりにしよう、我が宿敵に敬意を込めて……奥義にて命を絶ってくれよう!」
『アルティメットコマンド』
「そうはさせ……うあっ!」
アルバートは黄金に輝くデッキホルダーから、雄叫びをあげるティラノサウルスが描かれたカードを取り出しスロットインする。
自分も奥義を使って対抗しようとするキルトだが、相手の身体から放たれたリング状の黄金の波動を食らい動きを封じられてしまう。
「来い、ジェノスレッダー。……この者を屠る!」
「ギャオオオオオオン!!!」
大剣を床に突き刺し、本契約モンスターを召喚するアルバート。現れたのは、黄金の輝きを放つティラノサウルス型のモンスター『ジェノスレッダー』だ。
目測でも体高が十五メートルはあるだろう恐竜は、緑色の瞳でキルトを見下ろす。尻尾を下ろし、相棒が背中に駆け上がれるようスタンバイしていた。
「グルル……ギアッ!」
「絶好調のようだな。よし、行くぞ! ハアッ!」
ジェノスレッダーの鳴き声にそう答え、アルバートは大剣を引き抜き走り出す。相棒の尻尾を駆け登り、そのまま頭部へ向かう。
そして、大剣をジェノスレッダーの脳天に突き刺し得物と相棒を融合させる。黄金に輝く巨大な剣を空中で振り上げ、キルトに狙いを定める。
「さらばだキルト! 奥義、カーネイジフルストラッシュ!」
「まずい、動けない……!」
「マスター! こうなれば奥の手を……」
【9・9・9・9:ボディパージ】
剣が振り下ろされようとした瞬間、ミューはマジンフォンを操作し上半身と下半身を分離させる。このままでは再生が間に合わないと判断し、下半身をミサイルのように飛ばしたのだ。
「食らいなさい! パージボディシュート!」
「なに……ぐおっ!」
「マスター、今です! 反撃を!」
「ミュー、ありがとう! 今度は僕たちの番だ!」
『ああ、奴に引導を渡してやろうではないか!』
【アルティメットコマンド】
下半身をアルバートに叩き込み、奥義のフィニッシュを阻止したミュー。甲板に落下したアルバートにトドメを刺すべく、キルトは奥義を放つ。
アルバートの足下に金色に輝く魔法陣が現れ、そこから十二本の鎖が伸びて絡み付く。そして、キルトを囲むように彼に力を与えている十二体のモンスターを象ったレリーフが現れる。
「くっ、これは……!?」
「これが僕の……いや、僕と仲間たちの絆の奥義だ! 食らえ! サーティーンキガソード!」
全てのレリーフを吸収したキルトは、空高く飛び上がる。取り込んだモンスターたちの力を使い、自らを巨大な剣へと変えた。
そして、身動きの出来ないアルバートを貫くべく落下していく。黄金の刃はアルバートだけでなく、彼らが乗っている飛行艇ごと両断してみせた。
「ぐ、かはっ……! 見事、だ……サモンマスタードラクル。誇るがいい、君は……私よりも、強かった!」
「……さよなら、アルバート・フェイン。あの世で部下たちと仲良くやりなよ。そして、お前が殺した人たちに償ってくるといいさ」
下半身を戻し、合体したミューと共に落下していくアルバートと飛行艇を見下ろすキルト。ようやく戦いが終わったと安堵していると、懐に入れた連絡用の魔法石が震え出す。
「はい、もしもし……あ、ルヴォイ陛下。制圧が終わった感じかな?」
『もう少しで終わるところだ。魔術師たちの力で、飛行艇艦隊を霊峰の東に急襲させてな。今敵の司令官がいる旗艦の制圧ちゅ……む、コラ! 魔法石に触れ』
『よお、キルト。いけねえな、東の方でドンパチやってたんだろ? オレに声をかけねえたぁ冷てえな。ええ?』
「うわっ、ヘルガさん!? もしかして、そっちにいるの?」
現在、ルヴォイ一世率いる艦隊がバルサーの部隊を攻撃しているらしい。なんと、そこにヘルガが加わっているようだ。
ルヴォイ一世の使っている連絡用魔法石を奪い、キルトに語りかけてくる。曰く、サモンマスターとしてのツテを使ってアルセナに頼み込み、無理矢理同行したらしい。
『最近暴れたりなくてなぁ、同じサモンマスター同士……ククク、都合よく利用し』
『いい加減に返せ、それは朕専用の魔法石だ! ……やれやれ、とにかくこちらはもうすぐ制圧が完了する。そうすれば、この無益な戦いも終わりだ。ゆっくり待っているといい。ではなキルト』
「あ、うん。またね……」
途中でルヴォイ一世が魔法石を取り返し、手短に伝えた後連絡を終えた。キルトは苦笑しつつ、ミューと共に仲間の元へと帰還しようとする。
その時、慌てた様子のサモンマスターギーラ……アリエルが飛んでくる。何かとんでもない問題が起きたのだろうかと、キルトたちは気を引き締める。
「読者くん、ミュー! よかった、無事だね。ところでさ、モルドを見てないかい? あいつ、姿が見えないんだよ」
「モルド……見てないな、これまで破壊した飛行艇に乗ってる……ってことはないかな?」
『我の運命変異体たちから聞いてみてはどうだ? 念のためにモルドの匂いを教えてあるからな、もし仕留めていれば教えてくれるだろう』
「ああ、その手があったね。ただ……なんとなく、あいつはまだ生きてるような気がするんだ。何を考えているんだろうね、モルドは」
戦いの最中、決着をつけるべくモルドを探していたアリエル。だが、ついに彼女は宿敵を発見することは出来なかった。
ルビィの運命変異体たちに飛行艇ごと空の藻屑にされたのか、そもそもこの大戦に参加していなかったのか。今となっては、もう分からない。
だが、アリエルには確信めいた予感があった。モルドは生きている。そして、近い将来再び自分たちの前に姿を現すだろうと。
「ま、考えてても仕方ないさ。ラズマトリア公国の復興とか、やること山積みだしね。まずは帰ろう、そして勝利を祝おうじゃないの!」
「そうですね、フロスト博士。ルビィお姉ちゃんの運命変異体たちも、労ってから元の世界に帰してあげないといけませんし」
「休息は大切です、マスター。お疲れでしょうから、わたくしにお乗り」
『その必要はない、キルトを乗せるのは魂の伴侶たる我だけでよい!』
ミューがバイクモードになろうとした矢先、対抗心を燃やしたルビィが勝手に現れてキルトを頭に乗せてしまった。
そのままアリエルたちを置いて、悠然と飛び去っていく。それを見たミューは、むすっと頬を膨らませつつ変形してルビィを追う。
【ビークルモード】
『いいでしょう、そちらがそのつもりならば追いかけてマスターを手に入れるまでです。こちらの方が上だと証明して差し上げましょう!』
「おーおー、若いっていいねぇ。じゃ、私も着いてこっかな!」
数多くの犠牲の果てに、キルトたちは勝利を掴み取ることが出来た。死したる者たちも、安らかに眠れるだろう。
……だが、これが終わりではない。暗き闇の中で、邪悪が動き出そうとしているのだから。
「では、これからは私の元で動くということだな? モルド卿よ」
「左様。フェルガード帝国はもはやアテになりませぬゆえ、これからはタナトス様の元で復讐の計画を実行させていただきたく思いまする」
「いいだろう、お前に協力すればキルトたちの排除も容易く出来よう。後でお前のためのサモンギアを造ろう、少し待っていろ」
「はい、ではこれにて」
次元の狭間、タナトスの拠点。モルドはデミルと共にそこに潜んでいた。ガルドフォース三幹部の敗北を機に帝国に見切りを付け、タナトスに恭順したのだ。
「本当に使えるのかしらね、あのおじいちゃん。ビミョーに敵が違うけどいいの?」
「構わぬさ、ラズマトリアを攻撃すればキルトたちも必ず現れる。そうなれば、我らにとってもモルドにとっても都合がいい。フフフ……」
モルドが退出した後、タナトスは居残ったデミルとそんな会話を行う。その時、タナトスはふと遠くを見つめる。
「タナトス、どうしたの?」
「……ふむ。どうやら、私の同胞がメソ=トルキアに入り込んだようだ。何をするつもりかは知らんが、まあ放っておいていいだろう」
「ふうん、あんたの同胞ね。それって、例のなんちゃらの六星ってやつ?」
「ああ。気配からして……『輪廻星』だろうな。奴は奴で戦っているからな……魔神一族の末子にして転生者、北条ユウと」
◇─────────────────────◇
「う、がは……」
『うふふふ、見ていたわよ。あなたの力、わらわの配下に加えるに相応しい。喜びなさい、わらわがあなたを生かしてあげましょう。……憎き北条ユウに滅ぼされたリンカーナイツの代わりとして迎え入れてあげる』
一方、キルトに敗れ落下していたアルバートは突如現れた光に包まれた謎の女によって救われていた。傷を一瞬で回復させた後、女は次元の裂け目を開く。
『さあ、行きましょう。あなたに第二の人生を与えてあげる。渡りの六星が一人、輪廻星のネイシアがね! オホホホホホ!』
高笑いを残し、女はアルバートと共に消えた。こうして、第二次メソ=トルキア大戦は幕を下ろす。そして……キルトの最後の戦いの時が訪れる。
タナトス一味との最終決戦の始まりを告げるベルが鳴る日は……近い。
面白いと感じていただけましたら、ブクマ・評価等していただけると嬉しいです。




