269話─決戦! サモンマスター鏖魔!
キルト・ミューとアルバートの戦いが始まった頃。フェルガード帝国最大の軍事基地にて、覇導船イシュナルギの発艦準備が進んでいた。
メタリックシルバーに輝く、通常の飛行艇の三倍の大きさを誇る空飛ぶ要塞戦艦。八門の主砲を備えたソレが、西の国々を滅ぼすべく飛び立つ。
「システムオールグリーン、覇導船イシュナルギ発艦し……うわっ!?」
「な、なんだ!? なんでいきなり地震……うわわわわ! みんな逃げろ、地面に亀裂が!」
が、その直後。基地を激しい揺れが襲い、地面に無数の亀裂が広がる。発艦準備をしていたクルーたちが逃げ惑うなか……。
『その飛行艇、私が貰い受けよう。キルトたちを滅する切り札としてな』
「なんだ、どこから声……ああっ、イシュナルギが!」
『ついでだ、お前たちの命も貰おう。オニキスの餌としてな!』
「ひえっ、亀裂から腕が!? だ、誰かたす……うわああああ!!」
亀裂の中に広がる暗黒の空間から、タナトスの声が響く。そして、無数の闇の腕が現れ基地を丸ごと亀裂の中へと呑み込んでいく。
そうして、基地があった場所は痕跡一つ残らず全てが消え去った。そのことをキルトたちが知るのは、戦いが終わって遙か先のことだ。
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『エンチャントコマンド・ロック』
「なかやかやるな、私に三枚もカードを使わせ……ここまで耐えるとは」
「伊達にここまで戦ってないんだ、僕たちを見くびらない方がいいよ! はあっ!」
一方、キルトたちとアルバートの戦いはさらに熾烈を極めていた。岩石を纏った大剣を振るい、アルバートは敵を屠らんと攻める。
岩石の刃による一撃は強力無比、まともに食らえばただでは済まない。慎重に攻撃を回避しながら、キルトとミューは反撃を重ねていく。
「その大剣、確かに一撃の破壊力は驚異的です。しかし、重量が増した分振りが遅くなり体勢も崩しやすくなる……。そこが致命的な弱点となるのです! エクスプルトスマッシュ!」
「ぐっ! いい一撃だ……では、そろそろ『裏』のスロットを使うとしよう」
「あいつ、何を……?」
ミューの一撃を食らって吹き飛んだアルバートは、立ち上がった後大剣を裏返す。そして、これまで使っていなかったスロットにエンチャント・ファイアのサモンカードを挿入する。
『エンチャントコマンド・アイス』
「!? さっきと効果が違う! アルバート、お前何をしたんだ!?」
「この大剣には、表と裏の二つのスロットがある。どちらにカードを装填するかで、エンチャントの効果が正反対に変わるのさ」
『なるほど、炎の逆は氷……というわけだ』
「その通り。さあ、これは避けられるかな? グランダルブリザード!」
アルバートは氷の刃に覆われた大剣を掲げ、凄まじい吹雪を発生させる。キルトたちの視界が吹き荒れる雪に閉ざされ、何も見えなくなってしまう。
『むう、これでは目視で奴を追えんな。キルト、我の鼻を』
「その必要はございません。わたくしに内蔵されたマジンフォンの機能『スネークピット式センサー』で敵の居場所が分かりますので。原始的な手は不要です」
『ヌガー! 貴様、キルトにいいところを見せようという我の邪魔を』
「余裕だな、ゴチャゴチャと喋っていられるようならさらに苛烈に行くぞ! アイスリドルブレイド!」
ルビィとミューが争い始めた瞬間、吹雪の中からアルバートが突っ込んでくる。ミューは即座にキルトと相手の間に割って入り、攻撃を受け止めた。
「わたくしがいる限り、マスターへは傷一つ付けさせませんよ」
「そうか、その言葉をどこまで貫けるか試してみようか!」
「ええ、貫いてみせましょう。マスターをお守りすることが、わたくしのアイデンティティーですから!」
『ニトロコマンド』
右腕を斧から離し、素早くマジンフォンを操作して第二のサモンカードを使うミュー。全身にエネルギーが満ち溢れ、パワーが上昇していく。
アルバートを押し返し、吹雪にも負けず激しい連続攻撃を浴びせかける。流石のアルバートも防戦に回らざるを得ず、守りを固めていた。
「いいぞー! やっちゃえミュー!」
『ぐぬぬ……口惜しいが相当な実力があるようだな。分かってはいたが、強力なライバルの登場といったところか……』
キルトの歓心を買うミューに嫉妬しつつ、その実力の高さに唸るルビィ。このまま押し込み、打ち勝てるかと思われた……が。
「なるほど。確かにパワー、スピード、正確性……何を取っても申し分ない。だが、お前には致命的に足りないものがある」
「何でございましょう、わたくしにそのようなものなど」
「キカイの如き正確さゆえに……お前の攻撃はすぐに見切れるということだ!」
「! くうっ!」
ミューの攻撃は正確無比、常に最も効率のいい方法で弱点を狙う。だが、それ故に攻撃パターンが乏しくなってしまうのだ。
その点をアルバートに見抜かれ、僅か数分の防戦でそのパターンを完璧に見極めた。そうしてミューの攻撃をカウンターで潰し、反撃に出る。
『エンチャントコマンド・サンダー』
「キカイの身体であれば電撃は怖かろうよ! プラズマーレイン!」
「そうはさせ……うあっ!」
「マスタ……うぐうっ!」
アルバートは裏のスロットに風のエンチャントコマンドのカードを挿入し、対となる雷の力を権限させ無数の落雷を発生させる。
電撃対策をミューに施してはいるが、相手のパワーであれば容易く貫通してしまうだろう。それを察して助けに行こうとするキルトだが、落雷に阻まれる。
ミューは雷が直撃し、全身の回路が一時的にショートしてしまった。命に別条は無いが、ヒーリングメイルを以てしても容易には回復出来ない。
「まずは一人、戦闘不能になったな。さあ、キルト。次はお前を倒させてもらおう」
『ミューを殺さないのか? ま、我としても殺させるつもりはないがな』
「最後に仲良くあの世に送ってやろう。私からのせめてもの情けだ」
「……そう。でも、その情けはいらないよ。僕たちがお前を倒すからね! ……この力で!」
【REVOLUTION】
【Re:ALL ENGAGE MODEL】
ミューが戦闘不能になった以上、キルト一人で戦わねばならない。相手に勝つためには、さらなる力が必要……少年はそう判断した。
そして、デッキから『REVOLUTION─絆』のカードを取り出しスロットインする。今、絆を束ねし黄金の騎士が顕現する。
「ほう……感じるぞ。私以上の力があるのを。素晴らしい、こうでなくては面白くない!」
「面白いかどうかなんて知ったことじゃない! アルバート、お前をこの力で倒す!」
【ポールコマンド】
【ブリザードコマンド】
キルトはサモンマスターエンペラー、そしてアルテミスのサモンカードを使う。ハルバードを召喚し、相手の吹雪を相殺して打ち消す。
直後、ハルバードを構えキルトは突進する。自由自在に得物を振るい、アルバートを打ち倒さんと猛攻を仕掛ける。
「ハッ、ていっ、やあっ!」
「くっ! 先ほどよりも膂力が強くなっている……これがお前の真の力か!」
「そうさ、でもこれだけじゃない。今の僕にはこんなことも出来るんだ!」
【ダーツコマンド】
「食らえ! ビューティフルレイン!」
「羽根の雨か……なら!」
『エンチャントコマンド・アクア』
連撃でアルバートを後退させたキルトは、サモンマスタールージュのカードを使いクジャクの羽根を飛ばして攻撃する。
アルバートは裏のスロットにエンチャント・ロックのカードを挿入し、雷の力を消して水を刃に纏わせ防御を固める。
「防いでやろう、アクアカーテン!」
『フン、くだらぬ真似を。本命はそこではないのだからな! キルト、行け!』
「うん! これを食らえ!」
【シュートコマンド】
水の塊を空中に作り出し、羽根の雨を中に納めて勢いを止めるアルバート。その一瞬に出来た、攻撃を防げたという安堵をキルトは見逃さない。
サモンマスターミスティのリジェネレイト体が持つ大砲を召喚し、素早く砲撃を行う。水の塊を貫き、砲弾がアルバートへと迫る。
「しまっ……ぐはっ!」
「どうだ、これが僕たちの絆の力だ!」
大剣を構えてガードしようとするアルバートだが、間に合わず砲弾が直撃する。甲板を転がり、呻き声を漏らす。
「ふ、ぐ……。なるほど、これは侮れぬな。今のは油断した私への戒めとして……かふっ、痛みを刻ませてもらう」
「流石マスター……なんという強さ。ああ、実に惚れ惚れします……」
ミューが見守るなか、アルバートが立ち上がりキルトへ向かって走る。二人の戦いは、ついにクライマックスを迎えようとしていた。




