267話─遙か天の頂で
「報告致します、バルサー陛下! 突如としてドラゴンの群れが襲来、我らの艦隊を襲撃しています!」
「前線に送り込んだ第一艦隊は敵艦隊とサモンマスターたちによって壊滅寸前です! また、ゼギンデーザ帝国軍の足止めに向かった第二艦隊が壊滅し」
「ええい、もうよい! いっぺんに報告するな、一人ずつ順番に話せ!」
デルトア艦隊とキルトたちによる逆襲が始まって、一時間と少しが経過した。シャポル霊峰の東、旧公国領空に浮遊する旗艦にてバルサーは部下から報告を受けていた。
最初こそ優勢だったものの、キルトやエルダードラゴンの群れの参戦により盤面をひっくり返された皇帝は焦……らない。
「ま、何にせよまだ焦る時でないわい。アルバートがいる限り敗北などない! 随時援軍を送り込みつつ、『覇導船イシュナルギ』の到着を待てばよいのだ」
「あ、あれはまだ実戦テストが完了していないはずでは!? この戦に投入するのはリスクが高いかと……」
「仮にアレを破られたとて、その時には敵はもう満身創痍よ。覇導船を改良するためのデータを採れると考えれば悪くない」
バルサーの余裕の正体、それはフェルガード帝国の切り札たる飛行戦艦『覇導船イシュナルギ』である。凄まじい破壊力を秘めた主砲を搭載した、最新鋭の技術をふんだんに使った軍船なのだ。
それがある限り、敗北はない。万が一破壊されたとしても、敵が破壊に成功するまでに壊滅的なダメージを与えられる。
そう判断しているからこそ、バルサーは余裕の態度を崩さないのだ。部下たちは心配そうにしているが、彼らも彼らでアルバートとイシュナルギがあれば負けないだろうと考えていた。
「まあ、陛下がそうおっしゃられるのなら……」
「確かに、アルバート総隊長がいれば負けることはまずないな」
「ああ、それにこの戦でイシュナルギが大活躍すれば威光を天下に誇示出来るぞ!」
盛り上がる部下たちを見ながら、バルサーは大笑いする。そんな想像が現実になることは永遠にない、ということも知らずに。
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「この飛行艇も落としてやろう、覚悟するがいい!」
「ボクたち無敵のスーパーコンビ、止められるものなら止めてみるがいいさ!」
「……チッ、雑魚どもめ。まあいい、貴様らはここで返り討ちだ」
「覚悟しろ、キルトに与するサモンマスターども!」
その頃、フェルガード帝国軍の飛行艇の甲板にてフィリールとプリミシアが戦いを始めていた。敵はガルドフォース三幹部残りの二人、ドルギーズとベスティエ。
リジェネレイトしたフィリールたちは、キルトに代わって討ち果たさんと猛攻を加える。パワーアップしたサモンギアの性能を、惜しみなく発揮しながら。
【ツインドレスコマンド】
【サーバントコマンド】
【アクセルコマンド】
「行くぞ、悪しき者たちよ。月影の舞姫の力、存分に味わうがいい!」
「お前が近接攻撃主体なのは知っている。どれだけ手数と速度を増そうが、これはどうにもなるまい!」
『ガードコマンド』
『スパークルコマンド』
ベスティエと対峙したフィリールは、三枚のカードをフルに使い相手を仕留めようとする。一方のベスティエは、防御用のカードを使い迎撃態勢を整えた。
鎧の表面に刃が生え、さらに電流が流れ出す。触れれば最後、刃に斬り裂かれ電撃を傷口に流し込まれて息の根を止められるのだ。
「むっ!? まずい、それは流石の私もドMれないぞ!」
「もう止まれまい、そのまま自滅するがいい!」
「悪いけど、そうはいかないな! フィリール、ちょっと痛いけどキミなら平気だよね! それっ、エアーバレット!」
ドルギーズと銃撃戦をしていたプリミシアは、フィリールを救出せんと彼女に銃を向ける。そして、魔力で圧縮した空気の弾丸を放った。
空気弾に押し出され、無理矢理軌道を変更することでベスティエとの衝突は免れた。追随していた分身の方は、そのまま直進して自滅してしまったが。
「……なかなかの機転だ。だが、この攻撃は知恵ではどうにもならんぞ」
『フレアコマンド』
『ランチャーコマンド』
「二対一だ、覚悟しろ!」
『ソードコマンド』
フィリールが一時離脱し、一人になったプリミシアを排除せんと敵が動く。大型の火炎放射銃と四連装のミサイルランチャーを召喚し、ドルギーズは笑う。
ベスティエも先端が刺股のようになった剣を召喚して攻撃準備を整える。挟み撃ちにすれば容易く屠れると考えていたが、彼らは失念していた。
「さあ、死ぬがいい! その首を我らが隊長、そしてタナトス様に捧げ」
「ふーん、でも残念! 今のボクは飛べるからさ、射程外に行かせてもらうねー!」
リジェネレイトしたプリミシアは、誰の力も借りず自力で飛行出来ることを。甲板の柵に突っ込んで伸びているフィリールを回収し、空中に逃れる。
「……逃がさん! 例えどこまで離れようと、この『デストロイランチャー』からは逃れられんぞ! ベスティエ、行け!」
「よし、任された!」
「ん? あいつら何し……ええっ!?」
一旦距離を取って立て直しを図るプリミシア。その直後、敵がドルギーズとベスティエが予想外の行動に出た。
四発のミサイルを時間差で放ち、熱源探知機能によりプリミシアを追尾させる。そのミサイルの上を跳躍し、ベスティエも攻撃してきたのだ。
「ちょちょちょ、そんなのアリ!? まあいいや、ミサイルを撃って爆発させてやる! 一緒に吹き飛んじゃえ!」
「そうはいかない、先にお前たちを斬り捨ててくれるわ!」
プリミシアはミサイルを銃撃して爆破、誘爆させてベスティエを葬ろうとする。が、それより先にベスティエの振るう白刃が迫る。
このままではまずい、とプリミシアが思ったその時だった。ボーンバードに乗ったイゴールが現れ、ベスティエに体当たりを食らわせたのだ。
「いっけー! ドカーン!」
「なっ!? うごっ!」
「おお、ナイスタイミング! いやーよかったよかった! ありがとねイゴールくん!」
「キューエンに来たよ! バイクのおねーちゃんがこっちは任せたって!」
『お手伝いするよー!』
ミューの指示により、フィリールとプリミシアを助けに来たようだ。体当たりを食らって飛行艇に叩き落とされたベスティエの元へ、イゴールはボーンバードを駆る。
「めーちゃん、あいつらやっつけるよ!」
『うん、空飛ぶお船ごと叩き潰しちゃお!』
「よーし、行くよー!」
『アルティメットコマンド』
「ぐうっ、そうはさせん!」
『アルティメットコマンド』
「……返り討ちだ!」
『アルティメットコマンド』
イゴールは巨大な髑髏が描かれたカードを取り出して奥義を発動する。対するベスティエとドルギーズも、それぞれの奥義を使う。
ベスティエは自身の本契約モンスター、トリケラトプスの『ランドエルプス』を呼び出しその場で待機する。ドルギーズはツインドリーガーに乗り、空へと舞い上がった。
「……食らうがいい! 我らの奥義……」
「そうはいかないもんね! 行くよ、奥義! アビスの開門!」
イゴールの左目が妖しく光り、ドルギーズを囲むように骨で出来た無数の円形の門が現れる。門が開き、無数の骨の腕がドルギーズとツインドリーガーを掴む。
「ギギィアッ!?」
「くっ、なんだこれは!? このっ、離せ!」
「ふっふっふっ、もうおしまいだよー。お前たちはねー、引きずり込まれるんだよ。二度と出てこられないスケルトンたちの楽園に! やれー!」
『みんなー、八つ裂きにしちゃえー!』
イゴールとメリッサが合図した瞬間、腕が一斉にドルギーズたちを引っ張る。凄まじいパワーにより、あっという間に一人と一頭はバラバラになってしまった。
「ぐっ……がああああ!!」
「ギィアアア!!」
「ばいばーい、スケルトンたちと仲良くねー! アビス閉門!」
『はーい! ばちーん!』
引き裂かれたドルギーズとツインドリーガーが門の中に引きずり込まれた後、霊魂となったメリッサが巨大化して姿を現す。
そして、両手で挟み込むように門を纏めて潰し、消滅させた。ドルギーズの死に怒り、ランドエルプスに乗ったベスティエは空を見上げる。
「おのれ、よくも! お前たちから死」
「そうはいかないよ、次はボクたちの番だ!」
「さっきの礼をさせてもらおう!」
【アルティメットコマンド】
【アルティメットコマンド】
相棒を跳躍させ、上空にいる双子を攻撃しようとする……が、それを妨害せんとプリミシアと意識が戻ったフィリールが動く。
「行くよ! 奥義、ヘリオライトジャッジメント!」
「ハアアア……! ムゲンラセンダン!」
「チッ、邪魔をするな! 奥義、トラッシュデスパレード!」
「バオオオオ!!」
プリミシアたちとベスティエ、両者の奥義が空中で激突する。が、二人が相手……それも、パワーアップした状態では勝てるわけもなく。
奥義を破られたベスティエは、サモンギアを砕かれ遙か下の地上へと落下していった。敵を倒せなかったことを、アルバートに詫びながら。
「アルバート、隊長……申し訳、ありま……」
【アドベント:コンクエスタホーン】
「……終わったな。さあ、次だ。あの飛行艇を落とすぞ、プリミシア。イゴールたちも手伝ってくれ!」
「はーい! 僕たちに!」
『お任せだよ!』
「あはは、頼もしいね! それじゃ、チャッチャカやりますか!」
三幹部を全滅させ、戦況はさらにキルトたち有利へと傾いた。……この時点では、だが。いまだ残る最強の敵が、ついに伝家の宝刀を抜こうとしていることを彼女らはまだ知らない。




