264話─フェルシュとの再会
その日の夜。アリエルの開発した時間変動装置を利用したキルトたちは、実時間にして十日以上を費やし……全員のサモンギアの改良を終えた。
預かっていない者の分は、遠隔インストールでバージョンアップを行うようだ。すっかり消耗していたものの、研究室から出てきた少年の顔は晴れやかだ。
「やあ、みんな……終わったよ、サモンギアの改良はバッチリ……」
「終わったぜ……。あ、もうダメ。俺死ぬ……」
「オレももう無理……腹減った……眠い……」
「頑張ったな、三人とも。まずは眠れ、疲れを取ってから食事を採って元気になるんだ」
最低限の水分と軽食だけで食いつなぎつつ作業をしていたキルトたちは、サモンギアを仲間に渡した途端安心しきって倒れてしまった。
ルビィたちが彼らを部屋に運び、休養を取らせる。その翌日の朝、ルビィの血を飲んで元気になったキルトたちが仲間をリビングに呼ぶ。
「みんなおはよう! 昨日は説明出来なかったから、僕たちがサモンギアをどう改良したかを説明するね!」
「そういうことなので、皆さん一言一句聞き逃さないようにマスターのお言葉を清聴するように。いいですね?」
「なんでミューが仕切ってんのよ……アイタ!」
「はい、そこ減点です。次にくちごたえしたら全力でビンタしますからね」
「んのクソバイクゥゥゥゥゥ!! スクラップにしたろかコラァァァ!!」
のっけからミューとエヴァの間で一悶着ありつつ、キルトによって取りなされる。その後、改めてキルトの口から説明が行われる。
「今回の抜本的改良で、サモンギアの出力と魔力容量を大幅に引き上げたんだ。タナトスが言うところのサモンギア・第六世代機相当にね」
「それだけじゃないぜ、俺とレドニスでサモンアブゾーバーの機能を一部移植したんだ!」
「おう、一枚アブゾーブカードを使えるように容量を増やしといたぞ。サモンギアごとのデッキ構成の穴を埋めるようにしといたから、使ってからのお楽しみってことで覚えといてくれよな」
今回の改良点は二つ。一つは、サモンギアそのものの純粋なスペックの上昇。これで、現在敵が使っているサモンギアを上回ることとなった。
もう一つが、アブゾーブカードの外付け。各サモンマスターの弱点を補うためのアブゾーブカードを、一枚付属してくれたとのことだ。
「へえ、やるじゃない。三人ともお疲れ様、これでもう無様に負けたりしないわよ」
「ああ、前回は不覚を取ったが今度はそうはいかん。この改良サモンギアで必ず勝つ!」
エヴァとウォンがそう口にするなか、キルトはふと西の方角から殺気を感じ取った。それと同時に、少年は悟る。フェルシュが帰ってきたと。
「……どうやら、タナトスはまた仕込んできたみたいだね。みんな、悪いけど僕とお姉ちゃんは西に行く。決着をつけなきゃいけない奴……フェルシュが帰ってきたんだ」
「ああ、キルトを追放した愚物どものリーダー……なるほど、ならばたぁぁっぷりと『礼』をしてやらねばならんなぁ?」
「ひえっ、こわぁ……。ボクがキルトくんを舞踏会に誘った時以上に怒ってる……」
唯一オトシマエを着けさせられていない、キルトを苦しめた人物……フェルシュが復活したことをルビィは喜んでいた。
自分の手でフェルシュを叩き潰し、地獄の苦しみを与えてあの世に送り返せることに。その様子を見て、プリミシアは顔を青ざめさせる。
「エヴァちゃん先輩にミュー、これは僕とお姉ちゃんがケリを付けるから手出しは無用だよ。二人はフェルガード帝国の襲撃に備えて。いいね?」
「ま、そう言うだろうと思ったわよ。分かってるわ、分は弁えるって」
「マスターがそうおっしゃられるならば、わたくしは従います。……ご武運を、マスター」
二人が同行したそうにしていたため、釘を刺した後キルトとルビィはアジトを発つ。気配のする地、遙か西のウィズァーラ領へ向かう。『ある物』を持って。
「これはね、お姉ちゃん。……で、……だよ」
「ほう、それは素晴らしい。……を使えば、……というわけだ」
目的地に飛びながら、ルビィはキルトからとある説明を受ける。しばらくして、ウィズァーラ領の東端へとたどり着いた。
そこに待っていたのは、呪われたゴーレムたちと双頭の巨人を従えるフェルシュ。今、再会の時が来た。
「見つけたぞ、フェルシュ! タナトスに生き返らせてもらったのかな? ならもっかい地獄に叩き落としてあげるよ!」
「来たねえ、キルト。待ってたよ、お前を殺すことが出来る日を! 行け、死の灰より生まれしゴーレムたちよ! あいつを殺せ!」
「そうはいかぬ、何者にも我が魂の伴侶を傷付けさせぬわ! バーニングブレス!」
ゴーレムたちの攻撃範囲外である上空から、ルビィは炎のブレスを放って容赦なく攻撃する。そのままフェルシュも焼き払おうとするが、ゴーレムを灰に分解して盾にし、炎を防いできた。
「ハハハ! そんな生ぬるい炎じゃ僕は殺せないね! さあ、降りてきなよ。殺してやるからさ!」
「だってさお姉ちゃん。ここは道中で話した通り……任せていいよね?」
「ああ、奴だけは我が独力でブチ殺すと決めているからな。キルトよ、ここで見守っていてくれ。我の勝利を」
空中でそんなやり取りをした後、キルトは魔法陣を呼び出し足場にする。そこに移ったのを確認した後、ルビィは地上へ降り立った。
「なんだ、何故キルトは降りてこない? まあいい、お前を殺してもキルトは死ぬんだ。問題なんてないさ!」
『サモン・アブゾーブ:♥A:ENGAGE』
「さあ、見せてあげるよ。この僕……『サモンマスターリベンジャー』の力をね!」
「ハッ、復讐者だと? 貴様のソレはただの逆恨みだろうが。キルトを苦しめた罪……我がこの手で裁いてくれるわ!」
サモンアブゾーバーを使い、フェルシュは死の灰を纏い灰色のサーコート付きの鎧を身に着ける。そんなフェルシュを嘲笑い、ルビィは懐からあるものを取り出す。
「なんだお前、そのベルトは……一体!?」
「これか? 我の頼みに応えてキルトが造ってくれたのだ。ゾルグのように貴様がよみがえった時……この手で引導を渡せるようにと。先祖の遺産をな!」
ルビィが取り出したのは、キルトの先祖であるフィルとアンネローゼが用いていた装具……『ダイナモドライバー』だった。
すでにキルトと本契約しているルビィは、サモンギアの類いを使えない。そこで、キルトは考えた末に造ったのだ。
カルゥ=オルセナの事件を解決した時にジェディンからダイナモドライバーの設計図を譲り受け、ルビィのために。戦うための装具を。
「さあ、始めよう。断罪の時間を。ダイナモドライバー……」
「させるか、その前に死ね!」
『♥2:KNUCKLE』
ただならぬ殺気を放つルビィに怖じ気付いたフェルシュは、変身を妨害せんと攻撃を放つ。が、炎の壁によって阻まれ吹き飛ばされた。
「うぐっ……」
「プットオン。……レイジング・ドラゴ。オン・エア!」
ルビィがダイナモドライバーを起動すると、炎の壁が収束し竜の身体に吸い込まれていく。そして……鮮やかなオレンジと赤に彩られた鎧姿に変わる。
肩や膝、胸には火山の火口を思わせる赤々とした噴出口が備え付けられ、そこから手足の先や胴の各部へとマグマのように煮えたぎるラインが伸びている。
「覚悟はいいか? 骨の一欠片どころか、魂さえも残さず焼き尽くしてやる。我が怒りの炎でな!」
「ヒッ! く、クソ! 行けゴーレムども、あいつを殺せえっ!」
「オオオォォ……」
恐れをなしたフェルシュは、死の灰から生まれたゴーレムたちをけしかける。常人ならば、触れられただけで死に至る恐るべき存在。
だが、今のルビィには何も通じない。身体の奥底から溢れ出す、怒りというマグマに満たされた彼女は逆に触れるもの全てを燃やし尽くすのだ。
「そんな不浄なモノは消し去ってくれる! レイジングナックル!」
「オォ……アガッ!」
「バカな、ゴーレムが一撃で!? クソッ、なら行け双頭巨人! あいつを殺せ!」
「ウ、グウゥ……! イ、ヤダ……オマエノイウコトナンカ、キカナイ……!」
ゴーレムでは勝てないと悟り、フェルシュはメルムとエシェラを使って攻撃しようとする。が、巨人は操られてなお命令を拒否した。
心の中に眠る良心、己の行いへの後悔、キルトへの贖罪の気持ち。石化している間に蓄積したそれらの感情が、洗脳に抗わせているのだ。
「フッ、哀れなものだな。かつての仲間にすら協力を拒否されるとは。貴様の求心力も底が知れるな!」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい! 僕は勇者なんだぞ! お前みたいなトカゲに負けていいわけがないんだぁぁぁぁ!!」
頼みの綱だったエシェラとメルムにも裏切られ、フェルシュは叫びながら突撃する。が、そんな単調な攻撃など効くわけもなくボディブローによるカウンターを食らう。
「がふっ!」
「この程度で苦しみが終わると思うな。キルトの味わった苦痛を万倍増しで返してやる、泣き喚いて苦しめ、エセ勇者!」
復讐者を気取る堕ちた勇者は、心から思い知ることになる。己が宝を傷付けられた竜の怒りが、どれほど凄まじいのかを。




