263話─来たる時へ備えよ
一晩かけて、ルビィはシャポル霊峰を超えデルトア帝国の首都シェンメック近くの草原にたどり着いた。草原には難民キャンプ群が広がっている。
万が一敗北した場合に備え、キルトがマグネス八世に頼んで設営してもらっていたのだ。公国の民は、今はここで暮らしている。
「うわああ! ど、ドラゴンだぁぁ!」
「もうダメだ、俺たち食い殺され……って、ありゃマリアンナ様にオズイン将軍じゃないか!?」
「ホントだ! ここに来たってことはまさか……」
ちょうど朝食時に到着したこともあり、配給の食料を貰っていた難民たちは竜化したルビィに大慌てすることに。が、マリアンナたちが降りてきたのを見て敵ではないことに気付く。
「ラズマトリアの民よ! 残念なことですが……私たちは祖国を守り抜くことが出来ませんでした。敵の力に敗れ、こうして生き延びるだけで精一杯でした……」
「精強なる軍も散り散りになり、四天王も二人を失った。だが、我々はまだ諦めていない! 心強い味方と共に、必ずや再起し祖国を取り戻してみせる!」
「それまで、皆さんには不自由な生活を強いてしまうことになります。全ては私の力不足……本当に、ごめんなさい」
集まってきた民に、マリアンナとオズインはフェルガード帝国に敗北したこと、ガルドンやバズをはじめ仲間を大勢失ったことを告げる。
ショックを受けた民は、みな一様に黙り込んでしまう。公女を責めるでもなく、そのまますごすごと下がって解散してしまった。
「……みな、現実を受け止められないのだろうな。こればかりは、我々が自力で乗り越えていかねばなるまいよ」
「僕もそう思います。……フロスト博士、公女様たちを頼みます。僕は皇帝陛下に報告しないといけないので」
「うん、分かった。こっちは任せてよ、帝国の市民と諍いが起きないように見張ってるから」
自分が深入りしても余計な反発を招くだけだろうと考え、キルトは人化したルビィを連れシェンメックに入る。すると、難民への配給作業を手伝っていたエイプルと再会した。
「ややっ、これはキルト様にルビィさん! お久しぶりです、お帰りになられたのですか」
「おはようエイプルさん。実はついさっき帰ってきたんだ。公国でのことを陛下に報告したいんだけど……」
「でしたら自分が同行しますよ! そうすれば、門番も顔パスで通してくれるでしょうし。ま、キルト様なら単独でも顔パスでしょうがね!」
「相変わらずやかましい奴だ。まあいい、なら一緒に来い」
エイプルを連れ、城に向かうキルトたち。朝早い時間ではあったが、キルトなら問題なしとすぐに謁見許可が下りた。
マグネス八世にこれまでのことを報告し、フェルガード帝国との全面戦争が避けられないこと、敵に対抗するためアジトに一度戻ることを告げる。
「今回の戦いで、僕は痛感しました。サモンギアのスペック不足を。それを解消するために、アジトで急ぎ改良をしたいと思っています」
「そうか……分かった、であればその間の守りはデルトア騎士団とゼギンデーザ軍に任せるがよい。キルト君は為すべきことに注力しておくれ」
「ありがとうございます、陛下。では、これにて失礼致します」
謁見の間にて報告を終えたキルトは、城の外に出て行く。正門の前には、エヴァとサウルがいた。キルトを迎えに来たらしい。
「あ、エヴァちゃん先輩にサウル。よかった、無事に生き返れたんだね」
「ああ、大変だったよ。あのバイク女……ミューだっけ? 乗せてくれよって頼んだらビンタしたきやがったんだぜ、酷いよなぁ……ったく」
「奴め、相当なじゃじゃ馬のようだな。ならば、我が後でぎゃふんと言わせてやらねば」
「アタシも手伝うわ、あーいうタイプは……って、今はそれどころじゃないわね。キルト、聞いてほしい話があるの。なんとね、とんでもない相手とついさっき帝都で会ったのよ」
「とんでもない相手?」
キルトが尋ねると、エヴァとサウルが頷く。直後、ポータルが開き一人の男が現れる。姿を見せたのは……かつてのサウルの仲間、レドニスだった。
「あ、レドニス! もしかして脱獄してきたの?」
「違うんだキルトさん、レドニスは釈放されたんだよ、恩赦貰って。なぁ?」
「……ああ。オレ、牢獄で服役してる時に思い知ったんだ。自分のしでかしたことを。今更遅いだろうけど……あの時は殺してごめんな、キルト」
レドニスはそう口にし、深々を頭を下げる。それを見たキルトは、ニッコリ微笑む。反省して帰ってきたのなら、文句など何もないのだ。
「いいよ、気にしないで。でも、どうやってシェンメックまで来たのさ?」
「釈放してもらった後、看守長のカトリーヌさんに魔法で送ってもらったんだよ。で、貧民向けの炊き出しに混ざってアンタらが来るのを待ってたってわけ」
「レドニスには俺から話をしておいた。一緒に戦ってくれるってさ、罪滅ぼしのために」
「そっか、じゃあ保管してるサモンアブゾーバーは返すよ。その方が収まりもいいしね」
「ありがとな、キルト。オレ、これからはアンタらのために戦うよ」
予想外の新戦力に、キルトは勇気付けられる。レドニスにサモンアブゾーバーの返却を約束した後、全員でアジトに戻った。
すでにゼギンデーザ帝国の魔術師たちは撤収したようで、彼らの書き置きがリビングに残っていた。キルトは仲間たちに説明し、サモンギアを回収して研究室に向かう。
「全力の奥義でも、あいつらを仕留められなかった。もう二度とそんなことが起きないように、サモンギアをパワーアップさせてみせる! タナトスの言うところの第六世代機相当にね!」
「そういうことなら、俺たちも手伝うぜ! 元いた世界じゃ、そういうメカニックも担当してたからな!」
「わ、ビックリした! 先に声かけてよね、サウルにレドニス」
「悪い悪い。さ、オレたちも手ぇ貸すから頑張ろうぜキルト!」
後から追ってきたサウルとレドニスを加え、サモンギアの改良に取り組むキルト。もう二度と、敵を生き延びさせない。
強い意志を込め、来たるアルバートや三幹部との決戦に備え黙々と腕を動かすのだった。
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「バハハハハ!! さあ、行くぞ西へ! シャポル霊峰を超え、大陸全土を統一するのだぁ!」
一方、フェルガード皇帝バルサーは全軍を従え西方征伐の準備を進めていた。無数の飛行艇を用意し、首都ラーズハウダーを発とうとしている。
アルバートの報告により、ラズマトリア公国が陥落したことを知って上機嫌な皇帝は、次の戦では自ら陣頭指揮を執るつもりのようだ。
「やれやれ、陛下もまだ軍人時代のクセが抜けていないようだ。私としては本国にいてほしいのだが……まあ、その方が士気も上がるだろう」
「儂としてはどうでもよいがな。西へ逃げ延びた公国の民を皆殺しに出来ればそれでよい。……向こうでも準備が進んでおるのだろう?」
「ああ、我々の協力者が騒動を起こして東西から挟み撃ちにする予定……とのことだ。デミルという少女が言うにはな。いまいち信用ならないが、な」
飛行艇の整備場にある監督室にて、アルバートとモルドはそんな会話を行う。彼らにはまだ詳細が知らされていないが、すでに大陸西部では準備が進んでいた。
復讐の勇者、フェルシュによる大騒乱が。旧ウィズァーラ領、王都にて……。
「ウウ……アアァ……」
「ククク、いい光景じゃあないか。え? メルムにエシェラ。お前たちを尖兵としてコキ使ってやるよ、今から楽しみだ。早く出撃の合図が欲しいなぁ」
タナトスから授けられた石化解除の秘薬を使い、フェルシュは石像になっていたエシェラとメルムを復活させ自身の手駒としていた。
それのみならず、旧ウィズァーラ領に充満する死の灰から恐るべきゴーレムの群れを造り出していた。フェルガード軍と呼応するために。
「待ってなよキルト。着々と準備を整えて、お前を地獄に落としてやるからな! ははははははは!」
第二次メソ=トルキア大戦に向け、それぞれの準備が進む。大戦争に勝利するのは、果たしてどちらの陣営なのか。
それはまだ、誰にも分からない。




