262話─脱出成功!
「ぐ、はあ……うっ。アルバート・フェイン……。やはり強い……!」
「驚いたな、まさかここまで粘るとは。その強さ、敬服するに値する。お前が敵であること、実に惜しいものだ」
キルトたちが逆襲を開始した頃、一人敵の足止めに残ったバズは死に物狂いで戦っていた。ガルドフォースの隊員たちを薙ぎ倒し、大きく戦力を削ぐことが出来た。
が、流石にアルバート相手では分が悪く、隊員たちとの戦いで傷を負っていたこともあり……敗北の時を迎えようとしていた。
「ええ、私はね……オズイン将軍のため、戦っていますから。あの人は、孤児だった私にラズマトリア軍という生きる場所をくれた。その恩に報いるためにも! ガルドンたちの遺志をムダにしないためにも! ここでお前を倒します!」
「お前の主君は、実に幸せ者だ。ここまで忠義に厚い部下に恵まれたのだから。だが、私にも成さねばならぬことがある。……悪く思うな!」
あくまで自身の手で決着をつけることを優先し、ベスティエを下がらせるアルバート。大剣を構え、神速の突きを放ちバズの身体を貫く。
「う、ぐ……」
「これで終わりだ。お前もあのガルドン同様、英霊として祀り……!?」
「待って、いましたよ。お前が私にトドメを刺す瞬間を」
「隊長、すぐ離脱を! そやつ、我らを巻き込み自爆するつもりです!」
刺し貫かれる直前、バズは立ち位置を僅かにズラして即死を免れた。そして、最後の力を振り絞ってアルバートを掴み、彼を道連れにしようと魔力を暴走させる。
「くっ、なんという力……振りほどけない!」
「ぐ、がふっ! 例えお前を殺しきれずとも、自爆に巻き込めば力を削げる……! 後のことは……将軍たちに、託します……! ……さようなら、みんな」
バズは魔力を解き放ち、凄まじい爆発を起こしてアルバートたちを呑み込む。通路が崩落し、全てが瓦礫の中へと消えていくのだった。
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「ていやあっ!」
「むぐっ! いったいなー、なにムキになっちゃってるわけ? 雑魚どもの仇討ちのつもり~?」
「そうさ、お前たちのせいで死んでいった人たちの無念を、怒りを! ここで思い知れ!」
【アルティメットコマンド】
バズが自爆して果てた後、発着場の戦いもまた決着の時を迎えようとしていた。キルトが奥義を発動し、オーラとなったルビィを放つ。
余裕綽々なセネラを拘束し、身動きを封じる。そうして、怒りを込めた必殺の一撃を相手に叩き込む。
「ちょ、動けないんですけど~!」
「これで終わりだ! アウロラルスターシュート!」
「わ、やべ……あぼあっ!」
『フン、思い知ったか性悪女め! これで貴様もあの世に……むっ!』
奥義がクリーンヒットし、セネラの息の根を止めたと思われたが……しぶとく生きていた。これまで戦った敵より、かなり防御力が高いようだ。
「いった~い! チョー最悪! もうや~めた、アタシ帰る! もう戦うのやだ!」
「いいさ、無様に負けて逃げ帰ればいいよ。次に来たら仕留めてやるだけだからね!」
「むっ、生意気~! いいよ~だ、次は本気でぶっ殺すもんね! ばいび~!」
捨て台詞を残し、セネラは生き残っている直属の部下と共に撤退していった。一方、アリエルの方もドルギーズに奥義を放っている。
『アルティメットコマンド』
「これで終わりさ! 奥義、ダウンフォースインパクト!」
「オラーッ! 死にさらせ根暗ヤロー!」
「ぐふっ! ……なるほど、なかなかの威力だ。数世代前のサモンギアも、侮れぬものだ」
フロウラピルとの連携で、ドルギーズを地面に叩き付けるアリエル。が、単独の奥義では火力が足りないようだ。
ドルギーズの方も致命傷には至らず、撤退を許してしまうことに。とはいえ、マリアンナを守り抜くという目的は果たせたためキルトたちの勝利と言えよう。
「……次は全員殺す。その時を楽しみにしているがいい!」
「あ、消えちゃった。ねーねーアリエル、あそこに転がってる敵の兵士にうんこ引っかけてきていい?」
「こら、下品なこと言うんじゃないよ。でもやってきていいよ、出来れば口の中に出しちゃえ」
「はーい、いってきー!」
取り残されたフェルガード兵に嫌がらせしに行ったフロウラピルを、キルトは苦笑いしなが、見送る。少しして、マリアンナたちが発着場に出てきた。
「ニルケ、マトリ。よくマリアンナ様を守り抜いてくれたな。他の兵たちも、よく戦ってくれた。幸いにして一人も欠けずに済んだ。本当に……よかった」
「ええ、わたくしもそう思います。飛行艇で脱出……といきたいですが、すでに全て破壊されてしまっていますね……」
マリアンナを逃がすまいと、すでに脱出用の飛行艇は破壊され見るも無惨な残骸にされてしまっていた。だが、キルトにはまだ秘策があった。
「問題ありませんよ、公女様。ルビィお姉ちゃん、みんなをシャポル霊峰の向こうまで運んでくれる?」
『うむ、それくらいならお安い御用だ。半分くらいは我が抱えることになるから、くれぐれも暴れないようにしてくれよ』
【アドベント・コキュートスドラゴン】
キルトはルビィを召喚し、彼女に運んでもらうことでバーグエルンから脱出することを決めた。流石に全員は乗れないので、何人かは手で抱えることに。
突如目の前に現れた竜の大きさに圧倒され、オズインやマリアンナたちはポカンとしてしまう。が、アリエルに急かされ急ぎルビィの元へ向かう。
「全員乗れたな? しっかり掴まっていろ、すぐに飛び立つぞ!」
「目標、デルトア帝国の帝都シェンメック! お姉ちゃん、はっしーん!」
数分後、マリアンナたちを乗せたルビィが六枚の翼を羽ばたかせ空へと舞い上がる。初めて竜に乗って空を飛んだ兵士たちは大興奮だ。
そんななか、マリアンナは地上を見下ろす。フェルガード軍に破壊し尽くされ、火の手が上がるバーグエルンを見ながら呟く。
「……いつの日か、わたくしは必ずこの地に戻ってきます。祖国を取り戻すために。だから……それまではさようなら。バーグエルン……」
破壊の限りを尽くされ、ラズマトリア公国は滅び去った。だが、指導者たる公女と民はまだ生きている。いつか必ず取り戻すと心に誓い、マリアンナは西へと亡命していくのだった。
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「……遅かったか。すでに逃げられたようだな。公女を取り逃がすとは……画竜点睛を欠くとはこのことか」
「申し訳ありません、隊長。どうやらセネラたちはしくじったようです。同じ幹部として恥ずかしい限り」
キルトたちが脱出したから十数分後、爆発を生き延びたアルバートとベスティエが発着場に姿を見せた。マリアンナを捕らえられなかったことを、アルバートは残念がる。
「仕方ないさ。万全を期しても、全てがうまくいくことはない。……公国を滅ぼすという大目的は達せた、これなら陛下も満足してくださるだろう」
「ええ、次はいよいよ……」
「ああ、シャポル霊峰を超え西の国々を侵略する。そして、真に大陸統一を果たすのさ。我らフェルガード帝国がな」
そこまで言った後、アルバートは左手に持っていたネックレスを見つめる。バズが自爆する直前に、彼から剥ぎ取ったものだ。
「……部下の形見が何もない、というのは寂しかろう。オズインを追跡し、渡してやれ。魔力のカラスよ」
「カアッ!」
自身の魔力を使って一羽のカラスを造り出したアルバートは、ネックレスをクチバシに咥えさせる。そして、西の空へカラスを放った。
これで役目は終わったと、転移魔法を発動して本国へ帰っていく。その頃、北の国境地帯では……。
「う、ぐえっ……なんなんだよ、この女……。強すぎるだろ……」
「敵性生命反応、残り一つ。任務はほぼ完了したとみていいでしょう」
「うわ……アイツえげつないわね。アタシ以上に大暴れしてくれちゃってまあ」
数百人のフェルガード兵は、ミュー一人によって全滅させられていた。最後に残った兵士も、すでに満身創痍の状態だ。
魔法陣の上から見物していたエヴァたちは、ミューの強さに戦慄すると共に頼もしく思っていた。
「あれだけの強さがあれば、私たちがなすすべなく全滅したあの男にも勝てるだろう。キルトめ、凄い者を創ったものだ」
「全くだ、いずれ手合わせしてみたいが……俺が負けるだろうな。まだまだ修行が必要だ」
フィリールやウォンたちが見ていると、ミューが魔法弾を放って最後の敵を始末する。その後、背中と両足の裏に備えたジェットエンジンで合流した。
「マスターより通知。公女マリアンナの確保及び脱出に成功。今後の話し合いのため、各自シェンメックに帰還せよとのことです」
「よかった、キルトは無事やり遂げたんやな。なら、ウチらも帰ろか」
「なあなあ、せっかくならあんたに乗せてくれないかな? あんたバイクに変形出来るんだろ? オレも乗ってウェッ!」
「わたくしが乗せるのはマスター・キルトのみ。それ以外の乗車は拒否します。……それではごきげんよう」
【ビークルモード】
乗せてほしいと懇願してきたサウルにビンタをかました後、ミューはバイクに変形し先に戻っていった。やれやれとかぶりを振った後、エヴァたちもポータルを使いシェンメックに向かうのだった。




