259話─二転三転、緊迫の情勢
「なん、なのよコイツ……。変身もしてないのに、みんなを……」
「あいつ、ヤバイよぉ……このままじゃ、下にいるみんなも……」
『あいつに、やられちゃう……』
戦いが始まって、たったの十分。僅かな時間で、ガーディアンズ・オブ・サモナーズはエヴァとイゴールを残し全滅してしまった。
蘇生の要であるイゴールだけは守らねばと、エヴァは奮戦したが……絶対的な力量の差を覆すには至らず、追い詰められてしまう。
「なるほど、確かに強くはある。だが、私に本気を出させる程ではないな。やはりあの少年……キルトだけが私の心を躍らせてくれるわけだ」
「言って、くれるわね……。でも、流石にこれ以上は無理……かも」
「だいじょーぶだよ、今みんなを生き返らせ」
「させん。幼子を手にかけるのは気が引けるが……戦場に出たからには斬らねばならぬ。恨むなら、この場にいる己を恨めよ少年!」
「ひゃっ……」
大剣を構え、アルバートが突撃しようとした次の瞬間。南の方から、羽ばたきとエンジンの音が聞こえてくる。
地上にいた者たちも含め、全員が音のする方向を見つめる。そこには……。
「みんなー! 助けに来たよー!」
「とびっきりの助っ人付きさぁ! 待たせて悪いねー!」
「キルト……アリエル! 遅いわね、何してたのよ……全く」
『わーい、応援が来たー!』
バーグエルンの方角から、サモンマスタードラクルとギーラがやって来る。いつもと違い、ドラクル……キルトは巨大な装甲バイクに乗っていた。
深い赤銅色と黒のコントラストが美しい、四つのジェットエンジンを備えたソレを駆り、少年は仲間たちの元へと向かう。
「まずい、もうみんなやられちゃってる……! ミュー、もっと速度出せる?」
『はい、可能です。マスター、しっかりお掴まりください。フルスロットルで参ります』
「読者くん、私は地上のみんなを助けてくる。そっちは任せたよ!」
「はい!」
キルトは目の前にあるパネルに声をかけ、さらにバイクを加速させる。アリエルと別れ、魔法陣にいるアルバートへ突撃していく。
「よくも僕の仲間たちを! 許さないぞアルバート!」
「来たな、少年。……その乗り物から、不可思議な気配を感じる。ただの乗り物ではあるまい、正体を現したらどうだ?」
「言われるまでもないさ。ミュー、見せてあげなよ。君の真の姿をね!」
『承知致しました、マスター』
【ヒューマンモード】
魔法陣の上に到着したキルトは、シートから飛び降りつつそう口にする。直後、バイクから無機質な音声が響き渡り変形が始まった。
各パーツがスライドし、前後のタイヤが背中に回りハンドルと合わさって翼を形成する。そうして、黒と赤銅色が斜めに交差した鎧を纏う女性の姿になる。
鎧と対照的な、雪のように白い肌と腰まで伸びた鮮やかな銀色の髪を持つ、凛とした佇まいの美女の出現にエヴァたちは目を丸くする。
「え、ちょ……キルト、そいつ誰?」
「彼女はね、僕とフロスト博士が創り上げた人造サモンマスター! その名を……」
「ミュー。『サモンマスターEX-マキナ』と申します。長いのでマキナと呼んでいただいて結構です、ミス・エヴァンジェリン」
「え? あ、はい。コンゴトモヨロシク……」
ミューと呼ばれた女性は、恭しく挨拶をする。一連の流れが終わるのを待っていたアルバートは、もういいだろうと剣をミューに向けた。
「……感じる。お前は強いとな。だが、私がサモンマスターの力を使うほどかどうか……試させてもらう!」
「気を付けて、アイツ目で追えないくらい速いわよ!」
「なるほど、確かに……速度、威力、狙いの正確さ。全てにおいて非の打ち所がありません。ですが……」
エヴァが叫ぶなか、ミューはそっと右手の人差し指を目の前に立てる。そして、アルバートの放った神速の突きを指一本で受け止めてみせた。
「それを容易く防ぐことが出来るよう、わたくしはマスターによって創造されたのです」
「ほう、素晴らしい! 指一本で我が剣を受け止めるとは! 実にいい、お前になら……この力を使ってもいいだろう」
アルバートは歓喜の表情を浮かべ、素早く後ろに跳ぶ。そして、剣の根元に取り付けられた、裏表二つあるスロットの片方に手を伸ばす。
相手が本気を出す。それを察したキルトたちが身構えた、次の瞬間。魔法陣の上に、モルドがテレポートしてきた。
「総隊長アルバートよ、何を遊んでいる? 貴殿らの目的は、この国の併呑じゃろう。いつまでもこんな辺境で遊んでいる暇はないじゃろて」
「お前……モルド!」
『あの時は正体を知らなかったがゆえに逃がしたが、今度は逃がさぬぞ! ミュー、奴を捕縛し』
「不可。わたくしが命令を聞くのは麗しき主……マスター・キルトのみ。それ以外の方の命令は受け付けません」
『キーッ! こんな時に言ってる場合か!』
モルドの登場に、キルトは表情を険しくする。それを余所に、ルビィとミューのいざこざが始まった。そんな彼らを見下ろしながら、モルドはアルバートに語りかける。
「すでに儂の『細工』は公国各地で実を結んでおるぞ。貴殿らよりも多くの戦果を挙げてしまうかもしれないな」
「お前、何を言って……ん? んん!? ど、どうして『国内の方から』フェルガード軍が!?」
モルドの不穏な言葉に、キルトは嫌な予感を覚え問い質そうとする。直後、ふと彼が地上を見ると……なんと、公国領からフェルガード軍が押し寄せてくるのが見えた。
「ファファファファ! 儂はなぁ、七十年前の時点で! すでに当時公国だったフェルガードと通じていたのよ! この国を滅ぼす……むっ!」
「見つけたよモルド、お前一体何をしたんだ!?」
「おお、これはアリエル様。お美しく成長なされた……願わくば、もう二度とお会いになることなく我が人生を終えられ」
「御託はいい! あの軍勢はなんだい!? なんでフェルガード軍が公国に入り込んで、あまつさえこっちを挟み撃ちしに来てるんだ!?」
モルドが高笑いしていると、彼を見つけたアリエルがすっ飛んでくる。彼女が問い質すと、老人は愉快うに語り出す。
「儂はな、当時のフェルガード軍総帥と密かに通じ……首都を除くこの国の要所要所に、大規模な転移魔法陣を隠した。いつの日か、かの軍がこの国に進攻出来るようにな」
「私もそのことを知ったのは、侵攻直前のことだ。バルサー陛下に聞かされた時は、目を丸くしたよ。敵国の筆頭大臣が、遙か昔から背信行為をしているとはね」
「今頃、各都市では希代の大虐殺が起きているじゃろうて! ああ、実に愉快! お前たちはこの八十年の間、ずっと儂の手のひらの上で踊ってたわけよ! ファファファファ!」
「モルド……そんなに、この国を壊したかったのかい……」
狂ったように笑うモルドを見て、アリエルは悲しそうな表情をする。そんな彼女を余所に、モルドはアルバートに声をかけた。
「総隊長殿、もはやこの場に長居は不要! 貴殿の配下を率い、バーグエルンに攻め込もうぞ!」
「……仕方ない、勝負を楽しむのはお預けだ。……全軍に告ぐ、ガルドフォースの隊員はモルド卿の転移魔法を使い首都へ侵攻せよ! それ以外の者たちは、増援と共に砦の兵たちを撃滅するのだ!」
「そうはさせません、マスターの命令を遵守するため……ここで消えてもらいます」
急かされたアルバートは、連絡用の魔法石を使って部下たちに通達する。彼自身も首都に向かおうとするも、それを阻止せんとミューが動く。
手のひらをアルバートに向け、光の弾を放つ……が、着弾寸前でモルド共々逃げられてしまった。アリエルは舌打ちし、地上へ向かう。
「読者くん、ここはミューに任せて私たちはオズインたちとバーグエルンに戻るよ! マリアンナを安全な場所に逃がすんだ!」
「はい! ミュー、下にいる敵兵たちを撃滅して! 一人残らずやっつけちゃっていいよ!」
「承知致しました、マスターの意のままに……刃向かう者を殲滅します」
「ありがとう、ミュー。エヴァちゃんたちはみんなを蘇生させたら、半分を僕たちの増援に寄越して! 残りはミューと一緒に敵を!」
「分かったわ、必ず追い付くから待ってて! ね、イゴールにメリッサ!」
「うん!」
『ちょーとっきゅーでみんな蘇生させるよ!』
モルドのせいで情勢をしっちゃかめっちゃかにされつつも、キルトとアリエルはマリアンナを守るため急遽バーグエルンにトンボ帰りすることに。
地上を見ると、オズインと四天王、十人ほどの兵士たちが転移魔法を発動するのが見えた。
「マリアンナ、絶対君を死なせはしない! 私はお姉ちゃんなんだ、何があっても妹を守り抜く!」
強い決意と共に、アリエルはキルトと共に翼を羽ばたかせ南へと急ぐ。その先で、凄惨な戦いが待っているとも知らずに。




