258話─キルトとアリエルの秘策
「なるほど、そんなことが……ではキルト、俺も北に向かった方がいいというわけだな」
「うん、来てもらって早々悪いんだけどウォンさんには北の国境に行ってほしい。みんなと合流して、フェルガード軍を追い返して!」
アルバートが去った後、キルトはアジトからやって来たウォンにそう頼み込む。相手が本隊と合流する以上、戦力を増やさねば対抗出来ない。
キルト本人は来ないのか、とウォンに問われ少年は首を横に振る。彼の頭の中に、とある計画が出来上がっていたからだ。それは……。
「僕はフロスト博士と一緒に、今から研究室で創るんだ。マジンフォンとオーヴァギアを組み合わせた、最強の人造サモンマスターをね」
「なに!? 出来るのか、そんなことが!?」
「ふふふー、私と読者くんの頭脳を甘く見てもらっちぁ困るなあウォンくん。それくらい丸一日あれば可能なのさ!」
アルバートの持つ未知数の強さに対抗するため、キルトは策を生み出した。リオから託されたマジンフォンと、ずっと保管してきたオーヴァギア。
二つを組み合わせ、アルバートと互角の力を持つサモンマスターを創り出そうと考えたのだ。奇想天外な策に、流石のウォンも驚きを隠せない。
「なるほど……その策が成れば心強いな。よし、そのことは俺からエヴァたちに伝えておく。キルトたちは安心して開発に専念してくれ」
「ありがとうウォンさん、超特急で完成させるよ」
「わたくしにはちんぷんかんぷんですが……キルト様、頑張ってください!」
マリアンナやウォンに応援されつつ、キルトたちはアジトに戻る。研究室に入り、アリエルが大昔に発明した『部屋の中と外の時間の流れを変える装置』を起動させた。
「これでよし、と。この装置が作動してる間、私たちがいるこの部屋の時の流れが変わる。外で一時間経つ間に、この部屋では一日が過ぎてるってわけさ」
「なるほど、それならかなりの時間を費やせるわけだな。まあ、我が手伝えることはあまりなさそうだが」
「いやいや、そんなことないよお姉ちゃん。力仕事を任せたいなって思うんだけど、やってくれる?」
「うむ、キルトの頼みなら断る理由はない。我の力を役立ててくれ!」
そんなこんなで、一大プロジェクトが始まった。まずはキルトとアリエルの二人がかりで、マジンフォンのリバースエンジニアリングを行う。
各機能の解析を行い、人造サモンマスターを創るのに必要な機能を割り出す。それと平行して、素体をどうするかについても話し合う。
「へえ、バイクの呼び出し……こんな機能まであるんだねぇ。魔神の技術は凄いもんだ」
「あ、ならフロスト博士。このバイク……マジンランナーをボディにするってのはどうです? 人型とバイクで変形出来るようにすれば便利だと思うんですよ」
「いいね、そのアイデア乗った! となれば、まずはバイクを召喚して……」
「ふあ……暇だ。我の出番が来るまで、少し昼寝でもしているか……」
キルトたちが盛り上がるなか、話についていけないルビィは部屋の隅っこで昼寝を始めた。その後、キルトとアリエルは猛スピードで作業を進める。
召喚したマジンランナーを解体し、新たに用意した生体用パーツを組み込み人型に組み直す。そうして、彼らは創っていく。最強のサモンマスターとなる自動人形を。
「……凄いね、このデバイスは。魔神の持つ治癒能力を付与する『ヒーリングメイル』にあらゆる毒を消し去る『ポイズンキャンセラー』……とんでもない技術が山盛りだ」
「解析してるだけでワクワクしますね、フロスト博士! ああ、この装置を作ってるところを見学したい! 出来れば開発に混ざりたーい!」
「ぐおー……むにゃむにゃ。こら、キルト……そこに触るのは二人きりの時……ぐう」
ルビィが爆睡するなか、キルトたちは急ピッチで作業を進めていく。アルバート・フェインに対抗出来る最強のサモンマスターを創るために。
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「お待ちしておりました、アルバート隊長。これより、指揮権をあなたにお返しします」
「私が不在の間、よく指揮をしてくれたなベスティエたち。他の者たちも、待たせて悪かった。これより、ラズマトリア軍の立て籠もる砦を攻撃する」
その日の夜、皇帝バルサーへの報告を済ませたアルバートはついに部下たちと合流した。ガルドフォースの三幹部に迎えられ、剣士は笑う。
「……戦況は現在、五分五分といったところです。敵はオルタナティブ・コアを大量配備したらしく、すでに全兵士がこちらと遜色ない戦力を有しています」
「なるほど。報告ありがとう、ドルギーズ。それで、例のガーディアンズ・オブ・サモナーズは?」
「そちらは一人増え、こちらを押し返すべく応戦してきています。が、大将のサモンマスタードラクルは姿を見せていません」
「ふむ、まだこちらに来ていないか。公女の守りに着いているのか、それとも……まあいい。ならばベスティエにドルギーズ、セネラ。お前たちに命ずる」
ドルギーズとベスティエから現在の状況を聞いた後で、アルバートは指令を下す。自身がエヴァたちを相手にする間、砦にいるラズマトリア軍を撃滅せよと。
「かしこまりました。隊長であれば、ガーディアンズ・オブ・サモナーズに負けることはないでしょう」
「そうそう! あいつらザコじゃ~ないけど、隊長に勝てるほどは強くないしぃ~。隊長ならラクショーっしょ!」
「油断はしない。だが、必要以上に力みもしない。お前たちも深追いはするな、勝利することは大切だがそれ以上に生きて帰ることを優先せよ。いいな?」
「ハッ!」
アルバートの言葉に、フェルガード兵たちはやる気をたぎらせる。そして、何度目かの全軍突撃が行われた。
「ん、敵が来るわ! こっちも迎え撃ってやりましょ!」
「よし、すぐに……ん? 待て、敵が止まったぞ」
一方、砦の中から夜間用の双眼鏡で敵の様子を観察していたエヴァたちもすぐに異変に気付いた。フェルガード軍の先頭にいるアルバートが、魔法石を取り出すのが見えた。
『聞くがいい、砦に立て籠もるラズマトリア公国軍よ。我が名はアルバート・フェイン。フェルガード帝国軍の総隊長である』
「ついに来たな、敵の大将が……」
「そのようね、ドルト。降伏勧告でもするつもりかしら?」
『お前たち公国軍の相手は、我が部下が務めよう。私が相手をするのは……公国に力を貸しているガーディアンズ・オブ・サモナーズのみ』
アルバートの言葉に、砦の中にいたエヴァたちは顔を見合わせる。相手は無謀にも、自分たちをたった一人で倒そうとしているのだから。
『それ以外の雑兵など眼中にない。さあ、我が元に来るがいいサモンマスターたちよ。それとも、私を恐れ戦いを避けるか?』
「あいつ、すーっごく偉そうだね! ちょっとムカッてきたよめーちゃん!」
『うん、あいつにおきゅーを据えてやるの! 泣きべそかいて土下座するまでボコボコにしちゃう!』
「威勢がいいな、双子たちは。で、どうしますエヴァの姐さん。あいつの言う通り、俺たち全員で」
「当然、ズタボロになるまでブン殴ってやるわ。アタシたちを挑発するとどうなるかを思い知らせてやりましょ! 行くわよみんな!」
相手に挑発され、エヴァたちは徹底的に叩き潰すことを決める。自力で飛べない者たちを連れ、エヴァたちは砦から出撃した。
それを遠目に見ながら、アルバートはふわりと宙に浮かび上がる。そして、満月が昇る夜空に巨大な魔法陣の足場を作り出しその上に降り立つ。
「……やはり来るか、これだけ挑発したのだから乗ってくれなくては面白くない」
「よっと! 待たせたわね、おバカさん。たった一人でアタシたちに挑もうって度胸は認めてあげる。でもね、勇気と無謀は違うってのを教えてあげるわ!」
「ボクたちはもうリジェネレイト済みだもんね、簡単に勝てるだなんて思わない方がいいよ!」
すでにエヴァ、フィリール、アスカ、ウォン、プリミシアの五人はリジェネレイト体になり準備万端の状態だ。それ以外の者たちも、やる気元気共に十分。
圧倒的に数の差で優位に立っている以上、敗北などまずないと考えていた。……この時までは。
「さあ、早く変身するといい。お前もサモンマスターなのだろうが、生身のままで私たちに」
「その必要はない。お前たち全員が束になっても、私がこの力を振るうに値しない……そう判断させてもらった」
「うわ、なにその余裕の態度。超ムカつくなぁ、大口叩くと後でこうか」
「後悔はしない。だが……お前たちの公開処刑なら、今から始まるぞ?」
プリミシアが一歩前に進み出た、次の瞬間。瞬間移動と見紛うほどのスピードでアルバートが前進し……プリミシアの首を刎ねた。
一瞬の出来事に、エヴァたちは何が起きたのか理解するのに一分を要した。そうして我に返った直後、今度はドルトが犠牲になる。
「さあ、始めようか。フェルガード帝国軍総隊長アルバート・フェイン……参る」
想像を絶する力を持つ剣士の大殺戮劇が、幕を開けた。




