表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

265/311

257話─その凶刃は疾風の如く

 翌日、キルトはフィリールを連れなんとか昼までにデルトア・ゼギンデーザの両皇帝に話を付けることに成功した。


 予備のオルタナティブ・コアをラズマトリアに回してもらえるようになり、すでに一部をエヴァのポータルを使って運び込んでくれている。


 これでひとまず安心、そう思っていた。リンズウェル王国滅亡の報を聞くまでは。


「……では、リンズウェル王家は完全に根絶やしにされたのですね?」


「は、い……。フェルガード帝国軍は、王家のみならず民草も全て……う、がふっ! 文字通り、一人残らず根絶し……私は、せめて……このことを、ラズマトリア公国に伝えよと隊長に……」


 きっかけは、十時を告げる鐘が鳴る少し前。突如として、宮殿の前に傷だらけになって兵士がテレポートしてきたのだ。


 マリアンナの命で傷の手当てをしたところ、彼は告げた。リンズウェル王国の滅亡と、フェルガード帝国軍本隊が南下していることを。


「……心中、お察しする。辛かっただろう、苦しかっただろう。だが、よく伝えてくれた。おかげで我々は帝国軍を迎え撃つ準備が出来る」


「よかった……これで、俺も……隊長や陛下に、顔向け出来……る……」


 医療室のベッドの上で、兵士は祖国で起きた惨状を語る。話を聞き終えたオズインが礼を述べると、安心した兵士は気を失ってしまう。


 彼からもたらされた情報は、即座にラズマトリア軍及びキルトたちに伝えられる。キルトはベルトの手配をデルトア騎士団に任せ、宮殿に向かう。


「皆様、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。もうご存じかと思いますが、リンズウェル王国滅亡の知らせが届きました。敵の次なる狙いはこの」


「あー、ちょっといいかしら。国の存亡がかかった一大事だってのに、なんで大臣どもは一人もいないわけ?」


「……お恥ずかしいことだが、大臣たちは報を知った途端みな逃げてしまった。ありったけの財産をかき集めてな」


「はあ……呆れてものも言えん。流石にこの胃痛は楽しめんぞ……」


 キルトとルビィ、エヴァにフィリール、アスカを加えすぐに会議が始まるも、一つ問題が起きた。公国の政務を行ってきた大臣たちが、なんと全員国外に逃げてしまったのだ。


「ちゅーか、逃げるゆうてどこに行くねん。南にあった……なんやっけ、ゴルゴンゾーラ……」


「グリゴーラ共和国だよアスカちゃん。その国もとっくに滅ぼされてるし、行く場所なんてないと思うんだけど」


「恐らく、大臣たちはシャポル霊峰に向かったのでしょう。霊峰を超えて、西に亡命するつもりなのでしようね。あそこは人跡未踏の地だというのに」


「我らのホームに土足で踏み入ろうとは愚かにも程がある。どうせ二合目にたどり着く前に獣に食われるのがオチだ、放っておけばいい」


 キルトたちからも散々に扱われ、大臣たちはもう存在をなかったことにされた。今は彼らより、迫るフェルガード軍への対処が最優先。


 如何にして公国を守り抜くかが重要なのだ。そんななか、キルトには気がかりなことが一つあった。それは……。


「あの兵士さん、フェルガード軍の隊長の姿を見なかったって言ってたよね。そこがちょっと引っかかるんだ」


「……アルバート・フェインか。奴に関しては、常識で行動を測れない。神出鬼没、たった一人で一国を滅ぼせる実力の持ち主だからな」


「これは僕の想像なので、軽く流してくれてもいいです。……もしかしたら、そのアルバートって人は今も単独行動してるんじゃないでしょうか。僕たちが北から来る敵の本隊を相手してる間に……」


「南からこっそり首都に侵入し、不意を突いて滅ぼしに来る、か。あり得ぬ、とは言い切れない。本当にそう動く可能性があるな……」


「だとしたら、全員で北の国境に行くのはまずいわね。何人か残しておかないといけないわ」


 フェルガード帝国軍総隊長にして、精鋭部隊ガルドフォースの長アルバート・フェイン。彼が単身バーグエルンに現れる、そんな予感をキルトは感じたのだ。


「ふむ……問題は、誰が残るこということだな。ここはやはり……」


「私と読者くん、それともう一人くらいが残れば十分だと思うよ。残りは全員、北の国境に行った方がいいんじゃないかな」


「フロスト博士!? いつの間にお帰りに!?」


 話をしていたその時、会議室の窓が開きサモンマスターギーラことアリエルが姿を見せた。驚くキルトたちの元に、変身を解きつつ歩いていく。


「うん、モルドの気配が完全に消えてしまってね。たぶん、暗域かどこかに雲隠れしたんだと思う。で、これ以上の捜索は無意味ってわけで戻ってきたのさ」


「ナイスタイミングね、なら残るのはアンタに任せるけど……まあ、キルトが必要ってんなら仕方ないわね」


「万が一の守りには、最強の戦力を充てないとね。というわけで、読者くんには残ってもらうよ。理想を言えば、もう一人誰かいてくれればいいんだけど」


 話し合った結果、キルトとアリエルに加えウォンがバーグエルンに残りアルバートの襲来に備えることが決まった。


 残るメンバーは、オズインたちと共に北の国境砦でフェルガード帝国軍を迎え撃つことに。エヴァたちが出掛けた後、キルトたちは宮殿で待機する。


「話は窓の外でだいたい聞いたよ。マリアンナ、大臣たちが逃げたことを民に悟られちゃいけないよ。今知られたら、パニックが起きて収拾がつかなくなるだろからね」


「はい……ですが、どうしたら……。わたくし、いつも大臣たちに頼りっぱなしで……」


「ふふ、大丈夫さ。マリーは私が支えるよ、お姉ちゃんだもの」


 キルトがアジトで待機しているウォンを呼びに行っている間、アリエルは妹と二人……家族の時を過ごす。マリアンナを抱き締め、アリエルは誓う。


 例え命を落とすことになろうとも、たった一人残った家族を守り抜いてみせると。その時、部屋の中に男の声が響く。キルトのものではない、低い声が。


「やはり、諜報部の報告通り帰還していたようだな。アリエル・フロスト……サモンマスターギーラ」


「!? お前、いつの間に! そうか、お前がアルバート・フェインだね?」


「私の名をすでに存じているとは。光栄だと言っておこう」


 部屋の入り口を見ると、それまではいなかった一人の男が立っていた。漆黒の鎧に、首に巻いた赤いスカーフ。そして、背負った巨大な剣。


 キルトが危惧した通り、アルバートが単身バーグエルンへ乗り込んできたのだ。たった一人で、大胆不敵にも。


「お初にお目にかかる、ラズマトリア公国十八代公女マリアンナ殿下。本日、この宮殿を訪れた理由をお伝えしましょう。……この国への、宣戦布告をしに参じました」


「宣戦布告、ですって?」


「その通り。我らが偉大なる皇帝、バルサー陛下はこの国をただの通過点としか見ていない。あのお方の狙いは、霊峰を超えた西の国々。ゆえにここで宣言し……む」


「そこまでだ! やっぱり現れたな、お前がアルバート・フェインか!」


 アルバートがマリアンナたちに告げようとしたその時、不穏な気配を感じてキルトが戻ってきた。すでに変身を済ませ、剣と盾を召喚している。


「君が噂の……サモンマスタードラクルか。いい目だ、強い闘志に溢れているね」


「二人に手出しはさせないよ、ここで倒してやる!」


『たった一人で乗り込んでくるとは、全くたいしたものだ。だが、キルトと我に勝てると思うな!』


 剣を向けてくるキルトを見て、アルバートはフッと笑う。絶対的な強者だからこそ許される、余裕の笑みだった。


「果たしてそうかな? では、挨拶代わりに……この一撃、くれてやる」


「!? はや……くっ!」


「ほう、防いだか。これまで相対した者たちは、誰もこの一撃を防げなかったが……。なるほど、君は強い。それがよく分かる」


 アルバートが背負っていた大剣を引き抜いた、その刹那。姿が霞のように消え、キルトの背後に回り込んできた。


 辛うじて盾で攻撃を防いだものの、反撃する前に相手はまた移動してしまう。動きを全く目で追えなかったアリエルとマリアンナは、冷や汗を垂らす。


「なんて速さ……咄嗟に反応出来たからよかったけど、そうじゃなかったらやられてた……!」


『それにあやつ……サモンマスターの力を全く使っていない。奴め、己の力だけで我らを狩るつもりでいたな……恐ろしい男だ』


「私はそろそろ失礼させてもらおう、部下たちの指揮を執らねばならないのでね。だから、最後にこれだけは伝えさせてもらう」


 キルトの技量を確かめ、満足したアルバートは転移魔法を発動させる。少しずつ透明になっていくなか、戦士は宣言する。


「三日だ。今日から三日以内にこの国を滅ぼす。そして、シャポル霊峰を越え西の国々をも滅ぼしてみせよう! では……さらばだ!」


 そう言い残し、アルバートは消えた。後には、呆然としているキルトたちだけが残ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 西の国々をも滅ぼすって・・・帝国も狙う気か!?
[一言] アホな大臣達が自分から去ったなら後の改革も考え安いが(ʘᗩʘ’) 変身せずに戦闘力高い輩が出て来たな、まさかここまでとは(٥↼_↼) 今のままでは負けるかもな(⌐■-■)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ