256話─叡智の結晶を手に
そうとは知らずモルドと邂逅したキルトたちは、宮殿に向かいマリアンナとオズインに国境での戦いについて報告を行う。
たいした被害もなく国境を守り抜けたことに安堵する二人だが、喜んでばかりもいられない。敵の主力はまだ温存されているからだ。
今回現れたのは、部外者に率いられた少数の部隊に過ぎない。本隊やガルドフォースが襲来すれば、今回のようにはいかないだろう。
「それにしても、まさか敵軍がオルタナティブ・コアを使用しているとは。末端の兵まで装備していたとなると、全軍への配備が完了していると見ていいですな」
「はい、僕もそう思います。なので、祖国及び祖国の同盟国の騎士団に頼んで、予備のベルトをこちらに回してもらうつもりでいます」
「ありがとうございます、キルト様。貴方様とお仲間の方々の活躍は、バーグエルンに駐留している兵たちの耳にも届いています。みな、貴方様への強い信頼を寄せていますよ」
「ふむ、国民はともかく兵士たちの心は掴めたわけだな。それならば、今後の活動もし易かろう。よかったな、キルト」
「そうだね、お姉ちゃん。流石に四面楚歌じゃあどうしようも……」
「? 何かあったのかな、お二人とも」
尋ねてくるオズインに、キルトは街での出来事を話して聞かせる。途中まで申し訳なさそうな顔をしていたオズインたちだったが……。
キルトが布で顔を隠した老人について語り出した途端、マリアンナたちの顔色が変わる。不思議そうにしているキルトに、公女が答えた。
「キルト様がお会いになられた方……まず間違いありません、行方をくらませているモルド卿です!」
「あの方はいつも、顔を布で覆い目元以外を隠されていますからな。まさかお二人の前に現れるとは」
「えええ!? ……そういえば、僕たちモルドの人相とか聞いてなかったね。やっちゃったなぁ」
「事前に知っていれば逃がさなかったものを。うーむ、今回はちと迂闊だったな。次は気を付けねば」
過ぎてしまったことは仕方ないため、キルトとルビィは反省しつ思考を切り替える。今考えねばならないのは、公国の防衛。
そのためには、大量のオルタナティブ・コアが必要になる。今から生産しても間に合わないだろうが、それならそれでやりようはある。
「今日は国家防衛に尽力いただき、感謝する。この礼はいずれしよう、離宮に部屋を用意してあるからそこで休むといい」
「ありがとうございます、オズインさん。ただ、僕はちょっとやることかあるので……部屋にポータルキーを設置させてもらっていいですか? そうすればアジトと離宮をいつでも行き来出来るので」
「もちろん、構わないとも。……大臣たちが何かしないとも限らんから、私の部下を離宮の見張りに何人か回させてもらうよ」
兵士たちの信頼は勝ち取れたが、未だ大臣たちはキルトたちを毛嫌いして追い出そうと画策しているらしい。ポータルキーに何かされてはたまらないと、キルトはため息をつく。
とはいえ、万が一の事態に備える意味でも国内のどこかに設置はしておかなければならない。オズインの気遣いに感謝しつつ、キルトたちは謁見の間を後にした。
「とりあえず、部屋の目立たないところにポータルキーを置いてっと。これでよし、さあ帰ろっか!」
「うむ、双子は……確か今はエヴァたちのチームの手助けをしているのだったか」
「うん、あっちは結構味方に被害が出たみたいだし。イゴールくんたちがいてくれて助かるね、ホント」
「全くだ、おかげで実質死者が出ないで済むのだからな」
離宮に用意された寝室に本格的にポータルキーを設置し、今回の国境防衛のために仮置きしていたものを回収したキルト。
ルビィと共にアジトに戻ると、リビングでアスカとドルトがくつろいでいた。二人に労いの言葉をかけた後、キルトは研究室に向かう。
「お帰り、キルト。お疲れ様、疲れたりしてない?」
「僕は大丈夫だよ、エヴァちゃん先輩。それより、例のもの……」
「はいはい、コレでしょ? 全く、昔っからキルトは好きよねぇ。こういうガジェットの解析するの」
研究室には、後処理をフィリールたちに押し付……任せて戻ってきたエヴァがいた。その手には、青色の輝きを持つタブレット……『マジンフォン』がある。
レマイダスが使っていたものは回収出来なかったため、こうしてエヴァが持ち帰ってきた未知のデバイスにキルトは目を輝かせていた。
「よーし、早速解析だ! 一体どんな機能……!?」
『もしも~し! 聞こえるかな? 僕だよ、リオだよ~』
「ビックリした、これ通話も出来るのね」
『やや、その声はキルトくんの仲間のエヴァちゃん! ってことは、このマジンフォンはキルトくんが回収してくれたのかな?』
「え、あ、はい。敵が盗んだやつをエヴァちゃん先輩が回収しました」
『そっかー、よかった。一台は自動テレポートで回収出来たんだけど、もう一台は不具合起こしてるみたいでさ。回収に失敗しちゃったんだよね』
エヴァからマジンフォンを受け取ろうとした、その時。軽快なメロディの着信音が響き、画面にリオの顔が映し出される。
その下に浮かぶバツと丸のマークのうち、キルトは咄嗟に丸を押す。すると、リオの所有するマジンフォンと繋がり通話が始まった。
「そうだったんだ……。じゃあ、これお返しした方が」
『あ、いいよいいよ。君たちなら悪用なんてしないだろうし。僕からのプレゼントってことでさ、役に立ててよ! どーせ解析しようとしてたんでしょ?』
「う、見透かされてる……」
「魔神にはなんでもお見通し、というわけか。勘が鋭いものだ」
相手から連絡されては、流石にマジンフォンを返却しなければならない。そう考えキルトが尋ねると、真逆の答えが返ってきた。
バッチリ行動を見破られたことに、キルトもルビィもエヴァも苦笑いしていた。クスクス笑った後、リオはキルトたちに伝える。
『その機体のプロテクトは、こっちから遠隔操作で全部解除しておくよ。存分にリバースエンジニアリングして役立ててね! あ、でもマジンコードの機能はいらないと思うから削除しとくよ。敵に奪われて悪用されないようにさ』
「確かに、アタシたちは自前のサモンギアがあるしね。使いこなせるかも分からない機能は不要ね」
「僕もそう思う。敵が今後何をしてくるか分からない以上、余計な機能があるとイレギュラーな事態になりやすくなるしね」
『はいはい、じゃあ遠慮なく削除しちゃうね。明日の朝には終わるから、楽しみに待ってて。いろいろ大変なことも多いだろうけど頑張ってね! それじゃ!』
キルトたちを応援した後、リオは通話を終えた。通話画面が消え、縦五列横四列に四角いアプリアイコンが並ぶホーム画面に切り替わる。
「へー、これが普段の画面なんだ。なんか」
「お、なんやキルト。マジンフォン手に入れよったんか」
「わひゃあ!? もう、いきなり声かけないでよアスカちゃん! ビックリしたじゃない!」
「いやぁすまへんすまへん。軽くおつまみ作ったから、夕飯代わりに食べてもらお思て呼びに来たんよ」
キルトがマジンフォンを眺めていると、後ろからアスカが覗き込みつつ声をかけてくる。ビックリしたキルトは、危うくマジンフォンを落としそうになる。
「にしても、見れば見るほどスマホそっくりやな。なんや懐かしゅうなるで」
「へえ、これアスカのいた大地にもこんなのがあるんだ?」
「せやせや、飯食いながらいろいろ教えたるわ。ウチのいた日本だと、幼稚園くらいのちびっこも親のスマホで動画見たりしとるんやで」
「ふむ……せっかくだ、今後のことを話しつつ久々にニホンという国のことを聞かせてもらうとしようか。なあキルト」
「そうだね、今日は疲れたしたまにはのんびりお話聞くのも悪くないね」
キルトはルビィに賛同した後、金庫にマジンフォンをしまってロックをかけた。そうして、仲間を連れ立ってリビングに戻っていく。
やることが山積みの中、キルトたちは束の間の休息を取り明日の仕事に備えるのだった。




