252話─解き放たれるモノ
「もういい、降ろせレマイダス。ここからは自分で動かせてもらうよ、いつまでも他人の世話になるのは私の性に合わないからね」
『サモン・エンゲージ』
「そうかい、んじゃオレっちは勝手にやらせてもらうぜ? さあ、楽しいパーティーの時間だ!」
キルトたちへと突撃するマジンランナーから、パティラが変身しながら飛び降りる。腰に着いたトゲトゲした葉っぱのエンブレムが刻まれた、黒みがかった紫色のデッキホルダーが揺れる。
一方、レマイダスは悠々とバイクを片手で操縦しながらパネルを操作する。キルトとアスカをロックオンし、攻撃準備を整えた。
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
【Re:AIR SONIC MODEL】
『敵が来る、気を抜くなよ二人とも!』
「うん、絶対に負けないよ!」
「せや、ドルトはんの援護もあるさかい返り討ちにしたるわ!」
対するキルトたちも、リジェネレイトをしていつでも迎撃出来るよう体勢を整えた。キルトの方には、シモンズの仇討ちに燃えるパティラが向かう。
肩と肘、膝に湾曲したトゲが生え右腕にはハートマークに似た形の葉っぱを模した盾が装備されている。奇しくも、キルトと同じく盾がサモンギアのようだ。
「覚悟しろ、ドラクル。この私……『サモンマスターディンカー』がお前を地獄に送ってやる!」
「やれるものならやってみなよ、言っておくけど負けてやるつもりはないからね!」
【カリバーコマンド】
「フッ、そうやって勇ましい姿を見せられるのもここまでだ。味わってもらうぞ、地獄の痛みをな!」
『ニードルコマンド』
コキュートスカリバーを召喚するキルトに対し、パティラはデッキホルダーから深緑色の金棒が描かれたカードを取り出す。
盾の表面に備え付けられたスロットに挿入し、得物を呼び出す……が。金棒の表面に、ビッシリと毛のようなトゲが生えていた。
『なんだ? あの珍妙な武器は。あんなモサモサした柔らかそうなモノで殴るつもりか?』
「見た目で判断するのはダメだよ、お姉ちゃん。もしかしたら、とんでもなくヤバい効果があるかもしれないし」
「ああ、そうだとも。さあ、味わうがいい。自ら死を望むほどの痛みを! ペインノッカー!」
自身の身長ほどもある金棒を構え、キルト目掛けて跳躍するパティラ。直接対決が始まる一方で、アスカはレマイダスとレースを繰り広げていた。
「ほーらほら、逃げろ逃げろー! もっと速度出さねえと追い付いちまうぜー! ハーッ!」
「ったく、チャラチャラしたやっちゃな! ウチを轢くっちゅーんなら、事故る覚悟しときぃや! 保険なんて効かへんで!」
バックパックをフルパワーで稼働させて前進し、追い迫るマジンランナーから逃れるアスカ。銃型のサモンギアを構え、射撃を行う。
が、フロント部の装甲に弾丸が弾かれてしまい攻撃が無力化されてしまった。単なる射撃で装甲を貫くのは至難の業らしい。
「ハーッ、効かないねぇそんなのは! 流石ベルドールの魔神どもの作ったバイクだ、頑丈で頼りになるぜぇ!」
「ほーん、さよか。なら、もっとデカいのいくで!」
【シュートコマンド】
サモンギアの一撃ではダメなら、より強い砲撃をかましてやればいい。そう判断したアスカは、大砲を召喚して相手を狙う。
その瞬間、待ってましたとばかりにレマイダスはパネルをいじる。内部に格納されているミサイルを発射するための操作をしたのだ。
ユウの所持するフォックスレイダー同様、バイク左右側面のカウルが展開しミサイルが姿を見せる。量産型だからか、左右二発の計四発と数が減っていた。
「ハッハーッ! てめぇの砲弾とオレっちのミサイルでよぉ、どっちが強いか! 一騎討ちと行こうじゃねぇかよえーっ!」
「ちょ、ジブン正気か!? こんな距離でミサイルなんて撃ったら……アカン、もう止められへん!」
相撃ちどころか自爆を承知で、レマイダスはミサイルを発射する。アスカとの距離はせいぜい十数メートル、ミサイルと砲弾がぶつかり合えば大爆発に巻き込まれる距離だ。
アスカの方もすでに引き金を引いてしまっており、砲撃を止められない。ならば、彼女に出来ることはただ一つ。
全速力で前進し、爆風に巻き込まれる前に離脱することだけ。一か八か、アスカは武器を捨て急加速して逃げていく。
「冗談やあらへんわ! どこの馬の骨とも知らん奴と心中するなんてまっぴらごめんやー!」
「ハーッ、逃げるつもりか? オレっちからは逃げられねえんだよなぁ、この『マジンフォン』がある限りよぉ!」
【8・9・6・0:マジンコード承認……ソウル・アックス】
「行くぜ……ショータイムだ!」
【ビーストソウル・リリース】
ミサイルが放たれた直後、レマイダスはバイクを急停止させつつマジンフォンを操作する。ユウが使った時のように、画面に表示された数字をタッチする。
すると、打ち込んだパスワードに反応して変化が起こった。マジンフォンがレマイダスの手を離れ、彼の目の前に移動する。
そして、両刃の斧が納められた緑色のオーブへと姿を変え……レマイダスへとぶつかり、体内に吸収されていった。直後、砲弾とミサイルがぶつかり爆発を起こす。
「あっぶな、ギリギリで逃れられたわ。あいつ、これで自爆してくれてればええん」
「よぉ、オレっちなら元気だぜ? こんな風になぁ! ハーッ!」
「へ? どわっ!?」
アスカは爆発から逃れられたが、バイクはそうもいかず爆風の中に消えた。無事で済んだことに安堵していた、その時。
背後からレマイダスの声と羽ばたきの音が響き、僅かに遅れてアスカの身体を衝撃が襲う。回転しながら宙を吹っ飛んだアスカは、かろうじて体勢を整えることが出来た。
「いっつー、何すんねんジブ……!? な、なんや? その姿……アンタ何をしたんや!?」
「ハーッ……どうだ、凄いだろ? この翼、この爪、そして巨斬の斧! オレっちはマジンフォンの力で、斧の魔神ダンスレイルの能力を身に付けたのさぁ!」
蹴り飛ばされた痛みを堪えながら相手の方を見るアスカ。直後、彼女の目が驚愕で見開かれる。レマイダスの姿が、大きく様変わりしていたからだ。
両足にフクロウのような鋭い爪を、背中には大輪の花のマークが描かれた巨大な翼を。そして、片刃の巨斧と一体化した右腕を持つ姿になっていたのだ。
リオの妻にして姉、ベルドールの七魔神の長女……斧の魔神ダンスレイルの力を、レマイダスはマジンフォンの機能によって獲得したらしい。
「おー、驚いてるな。だがよぉ、驚くのは……」
「! また消え」
「まだ速ーい! ってなぁ! ギガウィングタックル!」
「おぶぁっ!」
「かーらーのー! キリングアッパーラッシュ!」
「あぐぁっ!」
アスカが事態を呑み込めずにフリーズしている隙を突き、レマイダスは怒濤の勢いで攻撃を叩き込む。ツバサを用いた体当たりと、斧の斬撃。
両方をまともに食らってしまったアスカは、キルトの方へと吹き飛ばされる。パティラと斬り結んでいたキルトは、突然のことに驚いてしまう。
「アスカちゃん!? 大丈夫、どうし」
「隙アリ! ペインノッカー!」
「しまっ……いてっ!」
吹っ飛んできたアスカに気を取られ、キルトの意識が相手から逸れた。その隙を見逃さず、パティラが必殺の一撃を叩き込む。
金棒で殴られたキルトは、お返しとばかりに盾でパティラを殴り付けて吹っ飛ばす。手痛い一撃を食らってしまったものの、問題なく戦闘を続けられると思われたが……。
「さあ、反撃……!? う、うう……い、痛い! 殴られたところが物凄く痛いぃぃぃぃ!!!」
「キルト、どないしたんや!? まさか、さっきのがクリティカルに」
「フッ、私にとって残念だがそれは違う。ドラクルの身体には、この『デストロクラブ』の表面に生えた細かいトゲが刺さったのさ。激痛をもたらす猛毒を宿すトゲがな」
「な、なんやて!?」
金棒で殴られた左腕を抱え、地面を転げ回り激痛に呻くキルト。パティラが得意気に笑っていると、その隣にレマイダスが降り立った。
「ハーッ! なんだ、こっちもこっちで楽しそうなことしてるじゃねえの。オレっちだけ除け者にすんなよな、一緒にパーティーしようぜ?」
「お前、その姿……フッ、とんでもない隠し球を持ってきたものだ。タナトスめ、やはり侮れんな」
「まずいで、こら……実質二対一なんてちと厳しいんちゃうんか?」
レマイダスの合流により、キルトたちは劣勢に陥ることに。ヘルメットの下で、アスカは冷や汗を流すのだった。




