251話─激突の時、来たる
「やれやれ、カトラのせいで酷い目に合いましたよ。まあ、もう死んだので問題ありませんがね」
「お前も災難だったな、亮一。すぐ出撃したいだろうが、しばし待て。先に向かわせる者たちがいるからな」
「ああ、パティラとマディソン……Ω-13の生き残りですか。しかし、ダイナライズキーがあるとはいえあの二人だけでどうにかなりますかね?」
「あの二人だけではない、さらに二人……私の同胞に話を付けて参戦してもらうことになった。ベルドールの魔神たちから盗んだ『戦具』を与えてな」
その頃、次元の狭間では療養中の亮一の元にタナトスがやって来ていた。カトラの呪いで傷が大幅に悪化したが、すでにあらかた癒えているようだ。
そんな亮一を見舞いつつ、タナトスは次なる計画について語る。またしても、キルトたちが活躍する裏で陰謀を進めていたらしい。
「ほう、それは一体?」
「魔神どもはどうも、例の転生者……ユウを引き込む前後でテラ=アゾスタルで用いられる通信機器を模した多機能戦闘支援デバイスを開発していたようでな。同胞の手を借り、二つほど奪ってきた。それがコレだ」
亮一に尋ねられたタナトスは、懐から『あるもの』を取り出す。それは、テラ=アゾスタル……地球で用いられている『スマートフォン』と酷似した黒い装置だった。
「ほう、コレが……。コレを使うと、何が出来るのです?」
「残念ながら、リバースエンジニアリング対策が施されていてほとんど解析出来なかったが……一つだけ分かったことがある。四桁の『マジンコード』を入力することで、対応する七魔神の力を行使出来るということがな」
「それは素晴らしいですね。私もその力を使ってみたかったのですが……二つしかないのなら無理ですね」
「私の技術で再現しようにも、解析がほぼ不可能とあってはどうにもならん。だが、実戦で使えばデータが採れよう。そうすれば、解析の目処が立つかもしれない。その時を待っているといい」
「ええ、楽しみにしていますよ。まあ、まずは傷の完治が先ですが」
キルトたちの知らないところで、また一つの陰謀が花開く。新たなる脅威が襲いかかろうとしていることを、キルトはまだ知らない。
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「さて……とりあえずリンズウェル王国との国境まで来たけど。来るかなぁ、フェルガード軍」
「どうだろうな、一応狙撃中継衛星を配備して見張っているがそれらしい存在はまだ見えないな」
その頃、軍の拠点を結ぶ専用のワープ装置を使ってリンズウェル王国との国境に築かれた砦にやってきたキルトたち。
こちらに振り分けられたのは、キルトにアスカ、ドルトの三人。共にやって来たラズマトリア四天王のシャンゴ兄妹と一緒に見張りを行う。
「なんかすげーなー、いっぱい丸いのが浮かんでる。これがサモンカードとかいうやつの力なわけ?」
「ああ、俺の持つリレイコマンドのカードで召喚した狙撃中継衛星だ。俺の視界をリンクさせて、偵察に使うことも……む! キルト、アスカ。敵らしき軍勢が現れた。気を付けろ」
ニルケに問われ、ドルトが答えているとついに敵が現れる。すでに変身済みのキルトたちは兵士らに号令をかける。
「よし、みんなオルタナティブ・コアを起動してね!」
「よし、行くぞ!」
「楽しみだったんだよねぇ、これ。さーて、どんな姿になるかな!」
ガルドンやニルケを含む三十五人の兵士たちは、腰に巻いたベルトを起動させる。内部に搭載されていたインペラトルホーンのデータを使い、武装が呼び出された。
黄金の鎧とランス、大盾を装備した兵士たちは大喜びしつつ敵の襲来に備える。一方、敵の方は……。
「あの砦がそうだ、レマイダス。急いで向かうぞ、シモンズ隊長の仇を討たねば!」
「ヘイヘイ彼女、そう焦りなさんなって。急いては事をし損じるっつーだろ? クールに行こうや」
国境の先、砦から二十キロ離れた場所にある草原。そこに、ベスティエたちと合流して部隊の一部を借り受けたパティラたちがいた。
横を向いたユニコーンのエンブレムが刻まれた、くすんだ黄色いデッキホルダーを腰に下げた女……パティラに、隣に立つ男が声をかける。
丸いサングラスをかけ、素肌に赤いノースリーブジャケットとダメージジーンズを身に着けた、見るからにチャラい男はズボンの尻ポケットから『あるもの』を取り出す。
「おーいお前ら、オレっち先に行ってるからさぁ。お前らも転移魔法陣使っていいタイミングで追ってこいよな!」
「は、はあ……分かりました」
「グッド。んじゃ行くぜ? 風になってやるよ」
【5・0・5・0……マジンランナー:スタートアップ】
レマイダスと呼ばれた男は、タナトスから渡されたデバイス……『マジンフォン』を使って一台の装甲バイクを召喚する。
ユウが用いていたフォックスレイダーから狐の意匠を廃し、エンジンを四つに減らした上で赤銅色にリペイントした機体だ。
「乗りな、彼女。フルスロットルでトばすぜ」
「大丈夫なんだろうね? 事故を起こされると困るのだが」
「ハーッ! 安心しとけよ、オレっちがそんなヘマするわきゃねえだろ!」
サドルに跨がったレマイダスは、ハンドルに取り付けられたコントロールパネルを操作して二人乗り用のサドルを起動させる。
パティラを乗せ、一足先にキルトたちの元へと疾走していく。衛星を介してそれを見ていたドルトは、矢を放ち先制攻撃を叩き込む。
「来るか……到達する前に仕留めてやる!」
「やったれドルト! 敵さんの出鼻を挫いたるんや!」
狙撃衛星を介し、矢がレマイダスたちへと飛んでいく。パネルに表示された矢を示す丸アイコンを見ながら、レマイダスはバイクを駆る。
「ハーッ! そんなもん食らうかよ! 華麗なハンドル捌きで避けてやるぜーっ!」
【フロートモード】
レマイダスがパネルを操作すると、前後のタイヤが浮遊用の球体に変化する。直後、機体が浮き上がり物理法則を無視した動きを始める。
降り注ぐ矢を機体をスピンさせながら回避しつつ、国境に築かれた砦に接近する。あっという間に肉眼で視認出来る距離まで詰められてしまった。
「敵影確認! 大砲を撃てー!」
「イエッサー! てー!」
「……いや、ダメだ。俺の狙撃すら避ける以上ただの砲撃は当たらないだろう。キルト、アスカ!」
「うん、僕たちが前に出る! 行くよアスカちゃん!」
「はいな、お任せやで!」
「あ、待ってくれよ! あたいも連れて……あーあ、行っちゃったよ」
背中にアスカを乗せ、キルトは敵を迎え撃つため砦を発つ。置いていかれたニルケは、ぶーたれつつ迎撃準備を進める。
「チェ、置いてかれたもんは仕方ないか。おまえら、迎撃準備だ! 敵の軍勢を消し炭にするよ!」
「ハッ、お任せを!」
「さてさて、このオルタナティブ・コアとやらの力を早速試させてもらおうかね。楽しみだぜ、ハハハ!」
ガルドンたちも迎撃の準備を進め、いつでもフェルガード軍を迎え撃てるようにする。敵味方共に動き出したなか、キルトたちとパティラ・レマイダスが接触する。
「来たか、サモンマスタードラクル! シモンズ隊長の仇、ここで取らせてもらう!」
「やっぱりいたね、Ω-13の残存メンバーが。もう一人もお仲間さんかな?」
「いいや? 違うぜ、オレっちはタナトスのダチ……ウォーカーの一族さ。頼まれたもんで手伝いに来たってわけよ。お前らをブチ殺すためにな!」
そう叫んだ後、レマイダスはマジンランナーを駆ってキルトたちへ突撃する。アスカを降ろそうとしていたキルトは間一髪動作を止め、回避に成功した。
「おわっ、危な! 轢き逃げする気かいなジブン、無茶しおるで」
『ウォーカーの一族……確か並行世界を渡る力を持っているのだったか。気を付けた方がいいな、キルト。奴が何をしてくるか分からん』
「うん、ご先祖様も言ってた。ウォーカーの一族は、残忍で卑怯で野蛮で生きる価値の無いクズ揃いだけど能力は厄介だって」
『……だいぶボロクソにけなしてるな。まあ、境遇を思えば仕方ないか』
Uターンしてくるマジンランナーを見ながら、キルトたちはそんな会話を行う。まずは相手をバイクから引きずり下ろさなければならない。
そうでなければ、延々追いかけ回されることになると分かっているからだ。すでにユウが使うバイクを見ているため、アスカはミサイルについて警告する。
「キルト、気ぃ付けや。あのバイク、多分前に共闘したユウの乗ってたやつと同じ機能があるはずやで。空に逃げてもミサイルが来ると思うわ」
「分かった、じゃあさっさとぶっ壊さないとね! リジェネレイトするよ、お姉ちゃんにアスカちゃん!」
『うむ、任せろ!』
「よっしゃ、大暴れしたるわ!」
フェルガード帝国によって引き起こされた二度目の世界大戦が、ついに始まる。戦いを制するのは、果たして……。




