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250話─風雲急の朝

 翌日、大法院に向かう準備を進めていたキルトたちに凶報が飛び込む。グリゴーラ共和国の滅亡、そしてリンズウェル王国へのフェルガード帝国の侵攻。


 優先順位を変更し、キルトたちは大法院への訪問を中止して侵略への対策を練ることに。まずは兵舎へと向かい、兵士たちに必要なものを配る。


「ふーん、これがオルタナティブ・コアってやつなのかぁ。見たところただのベルトだな」


「でもよ、これがあればあの子とその仲間とも渡り合えるんだろ? なんかワクワクするぜ!」


 流石に全員分をすぐに手配する、とはいかないためラズマトリア軍の中でも上位の実力者に優先してオルタナティブ・コアを渡す。


 今現在、余っているオルタナティブ・コアは百四十個。その全てを与えても、全軍の十分の一にも満たないが当面は凌げる。


 キルトやオズインはそう考え、ひとまず半分の七十人をバーグエルンの防衛に回す。残りの七十人をさらに半分に分け、それぞれリンズウェル王国とグリゴーラ共和国との国境線に向かわせることに。


「やれやれ、忙しないものだ。それにしても、あまりにも速いな。敵の進軍速度は。我々が飛行艇と会ってからまだ十日も経っていないというのに」


「確かに、僕もそう思ってた。多分、相手はゼギンデーザ軍みたいに大規模な転移魔法を使えると見て間違いないね」


 オルタナティブ・コアを支給された兵士たちが慌ただしく準備を様子を見ながら、ルビィとキルトはそんな会話を行う。


 すると、そこにバズがやって来る。四天王もオルタナティブ・コアを与えられており、彼らも国境警備へと向かうのだ。


「ええ、実は以前スパイからの報告で中規模の転移魔法陣がフェルガードの軍施設にあることが分かっています。もっとも、この国に直接乗り込めるほどの射程はありませんがね」


「やはりキルトの見立て通りか。まあ、オルタナティブ・コアを装備していればそうそう不覚は取らないだろうが……何故だか嫌な予感がするな」


「うん、僕もちょっといやーな気配を感じてるんだよね。もう無いのに、左腕の古傷があったところがジクジク痛むんだ」


「嫌な予感、ですか。確かに、懸念すべき事案がありましてね……いい機会です、皆さんにもお伝えしておきましょう」


 以前、大陸西部で巻き起こった世界大戦のことを思い出し胸騒ぎを覚えるキルトとフィリール。あの時も予想だにしないイレギュラーが起きた。


 今回もまた一筋縄ではいかないだろうと考えていると、バズが話し出す。敵の情報は多いに越したことはないと、キルトたちは耳を傾ける。


「是非お願いします、僕たちは霊峰以東のことは何も知らないので」


「分かりました。とはいえ、私も出発まで時間がないので手短になりますが。フェルガード軍は公国時代から、精強で統率の取れた存在として知られています。その中でも、特に厄介なのが精鋭部隊のガルドフォースです」


「ガルドフォース……ゼギンデーザのレオナトルーパーズのような存在か」


「昨日話されていたその部隊より、遥かに人数は上です。所属する千人全てが一騎当千の猛者揃い。その中でも、部隊を束ねる三幹部と隊長は別格です」


 バズによると、フェルガード帝国軍の総数は四万七千人。それとは別に、現皇帝にして元帥……バルサー直属の精鋭部隊がいるという。


「隊長と三幹部……まず間違いなく、その四人がサモンマスターになってると見ていいね。その人たちの名前とか分かります?」


「ええ、もちろんですとも。まず隊長、アルバート・フェイン。彼は我らがオズイン将軍と双璧と呼ばれる実力者。たった一人で国を滅ぼせると噂されるくらいの、ね」


「ほう……どこぞの駄犬や白馬が聞いたら喜んで戦いを挑みに行きそうだな。で、三幹部とやらは?」


「はい、この三人もかなりの手練れです。ベスティエにドルギーズ、セネラ。それぞれ一癖も」


「!? ちょ、ちょっと待って! ベスティエってまさか……」


 ベスティエの名を聞き、キルトは仰天する。まだ彼が理術研究院に所属していた頃から、タナトスの片腕として働くベスティエと面識を持っていたのだ。


 その事を仲間やバズに伝えると、全員の顔が険しくなる。タナトスが明確に一枚噛んでいることが分かったからだ。


「ふむ、まだあの組織の生き残りがいたとは。これは油断ならないな」


「まさか、敵軍の幹部と面識があったとは驚きましたね。ですが、そのおかげで我々が多少は優位に立てるかもしれませんよ」


「うん、ベスティエのことならある程度知ってるしなんとかなる……かな? 他の二人も、多分元理術研究院の職員だと思うけど……記憶にないなぁ、僕が抜けた後で就職したのかも? まあいっか」


 ベスティエ対策を頭の片隅で考えながら、キルトは話を終えたバズを見送る。この後、どう行動するか仲間内で決めねばならない。


 部隊の者たちと一緒に国境へ赴くか、大法院へ向かいモルドを問い質すか。ルビィやフィリールと話していると、オズインがやって来た。


「ここにおられたか、キルト殿。実はつい先ほど、北の大法院から緊急の伝書鷹が来たのだ」


「向こうからアクションを起こしてきましたか。それで、何て言ってきたんです?」


「それが、どうやらモルド卿が夜中の間に消えてしまったらしくてな。神官たちが大慌てで、君に卿の捜索の手伝いを依頼したいと連絡を寄越してきたんだ」


「いなくなった? ふむ、どう考えるキルト。あまりにもタイミングが良すぎるとは思わないか?」


「確かに、偶然にしては出来過ぎだと思う。とりあえず、北の」


 モルドが行方をくらませたと知り、キルトたちは疑念を深める。大法院へ向かうことを決めようとしたその時、頭の中にアリエルの声が響く。


『やあ読者くん、モルドのことは私に任せてくれないかな? 君たちはフェルガード対策に力を入れてほしい、組織の仲間を連れてね』


『わ、ビックリした! いきなり念話なんてやめてくださいよフロスト博士、というか朝から姿を見てないんでけど……今どこにいるんです?』


『何やら胸騒ぎを覚えてね、夜明けすぐに大法院に向かって発ったのさ。今そっちで何が起きてるかは随時念話で知らせてくれたらいいから。とにかく、こっちは私が担当する。いいね?』


『あ、ちょ……』


 キルトも念話で応答するが、モルドは自分に任せろと一方的に伝えた後アリエルは沈黙してしまう。ため息をついた後、そのことを全員に伝える。


「奴め、また勝手な真似を。……どうにも、この国に来てから余裕がなくなってきているな。何かしでかさなければいいんだが」


「とはいえ、向こうが任せろと言うのならそうするしかあるまい。なに、アリエル殿なら下手は打たないだろうさ」


「……だといいんだけど。ということで将軍、アジトで待機してる僕の仲間たちを呼んでいいですか? 二手に別れて国境警備を手伝います」


「そうか、かたじけない。……アリエルのことは、今は忘れておこう。アレが何をしようと、私たちには関係ないことだ」


 まだアリエルに対するわだかまりが解消されていないようで、オズインはそう口にした後兵舎を去る。彼は彼で、マリアンナを警護しなければならないのだ。


 いろいろと複雑な思いを抱えつつも、キルトたちは先日会食をした離宮へ戻る。寝室に三重の結界を張って守りを固めた後、ポータルキーでアジトと繋ぐ。


「……なるほど、やーっぱりタナトスがちょっかいかけてたわけね。分かったわ、そういうことなら全員出撃するわ」


「今回も大がかりな戦になりそうだ。以前のような不覚はもう取らぬようにせねばな」


「防衛なら俺の十八番だ、誰が来ても矢で射抜いてやるさ」


 キルトから一通り話を聞き、エヴァにウォン、ドルトらはやる気をみなぎらせる。ついでに、万が一の事態に備え、離宮と各国境の防衛ポイントをポータルで繋ぐことに。


 死者が出たら、即座に双子が蘇生させに行けるようにしておくためだ。じゃんけんでメンバーを決めたキルトたちは、ラズマトリア防衛のため出撃する。


「さあ、行くよ! ガーディアンズ・オブ・サモナーズ、しゅつげーき!」


「おーーー!!!」


 今、第二次メソ=トルキア大戦の始まりの鐘が鳴らされた。だが、この時……キルトたちはまだ知らなかった。周到に準備をしていたのは、自分たちだけではないということを。


 雌伏の時を過ごしながらも……タナトスが裏ではかりごとを巡らせているのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も派手な戦争になりそうだけど(ʘᗩʘ’) 守る筈の国自体がキナ臭く、理術院の影も見え隠れしてる敵軍も目が離せんが(٥↼_↼) 下手すれば足元崩れるぞ(↼_↼)
[一言] 最後の文が恐ろしい・・・まぁ確かに、「今動けないからこそ」対策をしっかり練らないといけないだろうし、力押しだけで勝てるほど楽観視はしてないだろうね・・・流石にタナトスも、そこまでバカではない…
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