246話─オズインとの試合
すったもんだの騒動の末、オズインと戦うことになってしまったキルト。到着早々心労が溜まるなか、城から離れた場所にある訓練場へ向かう。
訓練場に入り、両者共に準備をするなか訓練中の兵士たちが何事かと集まってくる。四天王から説明を受け、兵士たちは大盛り上がりだ。
「へー、将軍がよそ者と戦うのか! そりゃ面白いや、俺たちも見学するぜ!」
「賭け……にはならねえな。なんたってオズイン様は地上最強の将軍! 相手が誰だろと負けないからな!」
兵士たちが盛り上がるなか、同行してきたマリアンナはひたすらキルトたちに頭を下げている。一国の主とは思えない、哀愁が漂っていた。
「本当に申し訳ございません……まさかこんなことになるなんて。大臣たちを同席させなければよかったですね、こんな事態に発展してしまうとは……」
「今更言っても仕方ないさ、マリアンナ。それに……いい機会だ、サモンマスターの力を目の当たりにすれば嫌でも理解するだろうよ。読者くんの強さをね」
「ふむ……あのオズインという男、確かに強者の匂いがするな。ま、あくまで普通の戦士としては、だが。サモンマスターたるキルトに勝つなど不可能だ」
「うん、僕も負けてあげるつもりはないよ。メンツを潰されるのは向こうの方だってことを教えてあげないとね」
マリアンナを慰めつつ、アリエルはメガネをクイッと上げる。オズインを打ち負かし、サモンマスターの力を力ずくで教え込むつもりだ。
ルビィの方もやる気を見せており、キルトと共にストレッチをしている。一方、オズインは戦闘エリアに立ち微動だにしていない。
「来たな。さあ、始めようか」
「お待たせしました、こちらの準備は整っています。では……始めましょうか。お姉ちゃん、いくよ!」
『サモン・エンゲージ』
『フッ、任せておくがいい。我とキルト、二人揃えば誰が相手でも勝利を掴める!』
「!? なんだ、少年……今何をした? 隣に立っていた女はどこに消えた!?」
十分後、ストレッチを終えたキルトたちがオズインから数メートル離れた場所に立つ。そして、デッキホルダーから『契約』のカードを取り出してスロットインした。
ルビィがデッキに吸い込まれ、同時にキルトがお馴染みのサモンマスタードラクルの姿に変身する。初めてそれを見たオズインたちは、驚き目を見開く。
「お、おい! 一体なんだあれ? 手品か? 手品なのか?」
「あの子ども、一瞬であんな姿になったぞ。なんつー凛々しさだ……」
「しかしよぉ、オズイン様に勝つなんてことはないだろうよ。なんたって将軍は地上最強だからな!」
『フン、ギャラリーがペチャクチャうるさいものだ。ま、すぐ静かになる。奴らが尊敬する将軍の敗北を目の当たりにしてな!』
「む……先ほどの女の声がするな。少年、なにやら面妖な魔法を使うではないか。かなり驚いたぞ」
「残念でした、これは魔法じゃあないんだな。サモンマスターの真髄、よーく味わうといいよ!」
『ソードコマンド』
困惑しているオズインに向かって、ドラグネイルソードを召喚したキルトが走り寄る。そのまま攻撃を仕掛ける……と思われたが、何もしない。
「? なんだ、何故立ち止まる。その位置だと私の攻撃範囲内だぞ?」
「いいよ、最初の五分はサービスしてあげる。僕に傷を付けてごらんよ、将軍。地上最強ならそれくらい朝飯前でしょ?」
『部下共の前で失態は演じられんだろう? 精々頑張ることだな、ハハハハ!』
「……いいだろう。私を挑発したこと、後悔させてやるぞ!」
これまでの事がわりと頭に来ていたキルトは、ルビィ共々相手の鼻っ柱をへし折ってやろうと挑発をかます。これには、オズインもプライドを刺激されたようだ。
相手が子どもだというのに、一切の遠慮も容赦もなく魔法で呼び出した大剣を叩き込む。マリアンナは顔を青くし、やめさせるため乱入しようとする。
「いけません、オズイン! もし万が一のことがあれば、外交問題に発展し」
「ハハ、そう心配することはないさ公女殿。サモンマスタードラクルとなったキルトは、並大抵の攻撃なんて歯牙にもかけないからね。ほら、見てごらん。全く効いてないだろう?」
「え? あ……た、確かに。あのオズインが手こずらされてるなんて……」
フィリールの言う通り、キルトは軽々とオズインの攻撃を捌き回避してみせる。本気を出した将軍がよそ者を瞬殺する。
そう思っていた四天王の面々や兵士たちは、唖然とした表情を浮かべ戦いを見ていた。普通の武器ではサモンマスターを傷付けられない。
それを知らないがゆえの反応だった。当のオズインも、まるで攻撃が当たらず、たまに当たってもかすり傷一つ付けられないことにショックを受けている。
「ば、バカな! 一日たりとも修練を欠かさず、磨き上げてきた私の剣技が通用しないだと!?」
『ああ、そうそう。言うのを忘れていたが、サモンマスターには同じサモンマスターか神々や上位の闇の眷属でなければダメージは与えられん。貴様の軟弱剣法など、キルトには効かんというわけだ。残念だったな!』
「くっ、戯れ言を! それが本当か試してくれる!」
「あー、悪いんですけど……全部効かないんですよ。あなたがファルダ神族とか大魔公とかなら別ですけど……ね!」
「うぐっ! このっ、よくも!」
自分より遙かに年下の子どもにいいようにあしらわれ、オズインは段々冷静さを失いはじめていた。自分の技が一つも効かない。
全く想定していなかった事態に、オズイン自身も彼の部下たちも、みな唖然としてしまっていた。それと同時に、嫌でも気付かされる。
サモンマスターの持つ、理不尽なまでの強さを。なにせ、唯一生身の部分である頭部にすらまるで攻撃が通らないのだから。
「それじゃ、そろそろ終わらせようかな。あんまり長くやってもつまんないし」
『そうだな、ではどうやって奴を』
「……いや、もういい。私の負けだ。これ以上やっても今の私では君に……いや、君たちには勝てない。それを思い知らされたよ」
いつまでも遊んでいるわけにもいかないので、さっさと戦いを終わらせようとするキルトたち。が、その時だった。
どう足掻いてもキルトとルビィには勝てないと悟ったオズインが、自ら降参したのだ。これには、マリアンナや兵士たちも驚きを隠せない。
「う、嘘だろ!? あのオズイン様が、降参するなんて……」
「まあ……こんなことがあるなんて。サモンマスタードラクル……いえ、キルト様……。あんな幼いのに、なんと凛々しくお強いのでしょう」
兵士たちがどよめくなか、マリアンナは熱っぽい視線をキルトに送る。それに気付いたフィリールは、面白くなさそうに頬を膨らませる。
「むう……またしてもキルトに惚れそうな女が。やれやれ、キルトも罪な子だね。取られないように気を付けないと」
「読者くんもなかなかやるねぇ。あのプライドの高いオズインが自分から降伏を申し出るとはね。ま、あれだけ力の差を見せ付けられたら……ねぇ」
ラズマトリア兵たちやマリアンナの予想を覆し、相手を降伏させての大勝利を収めたキルト。変身を解いた彼に近付き、オズインは頭を下げた。
「……約束通り、数々の非礼をお詫びさせていただく。私は、異国より来たる者など実力で及ぶことはないだろうと慢心していた。だが、それは間違いだったと気付かされたよ。本当に済まなかった」
「フン、分かればいいのだ。なあ、キルト」
「うん、僕たちは元々この国に協力するために来たんだからね。これで水に流すことにするよ」
「……そうか、君は懐が広いのだな。何だか目が覚めたような気分だよ、ここまですがすがしい気持ちになれる敗北は初めてだ。キルト殿、改めて……ようこそ、ラズマトリア公国へ」
非礼を謝罪した後、オズインとキルトは握手を交わす。これでようやく、オズインとの和解は成った。しかし、キルトたちはまだ知らなかった。
ラズマトリア公国に巣食う闇の深さ、そして……フェルガード帝国の脅威を。




