245話─波乱の親善大使
翌日の朝、キルトたちを乗せた飛行艇はラズマトリア公国の首都バーグエルンに到着した。街は高原に存在しており、涼しい風が吹いている。
美しいアメジスト色をした、星形の防壁を擁する街の一角にある発着場へと降り立つ。飛行艇を出たキルトたちは、公女の住まう城へ向かう。
「わあ、綺麗な街並みだね。あちこちにアメジストの飾りが付いてる」
「ええ、この街は初代公王ラゼバム様の持つ逸話にあやかり、このようにアメジストで飾り付けをしているのです」
「ほう、逸話か。どんなものか聞かせてもらえないだろうか? 興味があるね」
「……簡単な話さ。建国のための戦いでラゼバム王が敵に矢を受けた時、胸元に付けていたアメジストのブローチで命拾いした。だから、この街では無病息災の象徴として飾られてる。それだけだよ」
そこかしこに飾られているアメジストに興味を持ったキルトに、艦長がそう告げる。フィリールが尋ねると、先にアリエルが答えた。
自分が答えようと思っていた艦長は、先に言われたのに腹が立ったのかこれ見よがしに舌打ちをする。一方のアリエルは、そのまま黙ってしまう。
「……ま、とにかく。そういうわけでして、縁起がいいんですよ。この街にとってアメジストはね」
「な、なるほど。そうだったんですね……」
「まあ、勉強にはなった……な」
険悪な雰囲気を醸し出す艦長とアリエルに前後を挟まれ、居心地の悪さを感じるキルトとフィリール。早く目的地に着いてほしい。
心の中でそう願いつつ、一行は街の中心にある紫と金で彩られた城にたどり着いた。このオーベルクライン城に、公女マリアンナが住んでいるようだ。
「着きました、この城の奥にある謁見の間で公女様がお待ちです。オズイン将軍をはじめ、公国の重鎮が勢揃いしていると連絡がありました」
「げ、オズインいるのか……。いや、いないわけがないね。顔合わせるの気まずいな……いきなり斬られそうだし」
「流石の私もそんな物騒な真似はせんぞ。よく来たなアリエル。……二度とそのツラを拝むことはないと思っていたのだがな」
正門をくぐり、中庭に入るとオズインがキルトたちを出迎えてくれた。彼の背後には、四人の男女が控えアリエルを睨んでいる。
「おお、将軍自らがお出迎えなされるとは。では、私の役目はここまでですね。後は頼みます」
「うむ、ここまで客人の案内ご苦労だった。後は任せてゆっくり休んでくれ」
「はい、では失礼します」
オーベルクライン城までキルトたちを案内した艦長に代わり、ここからはオズインと彼の配下……ラズマトリア四天王が役目を果たすらしい。
……のだが、これまでよりさらに険悪な空気が悪化していた。オズインはさほどではないが、他の四人からのアリエルへの殺気が凄まじいのだ。
(うう、空気が重い……! どうしよう、何か話題を出してお喋りって雰囲気にも出来ないし……)
(これは……流石にドMっていられないな。ここまでの殺気を向けられるとは、アリエル殿はどれだけ恨まれているんだ?)
キルトたちが困惑しているなか、アリエルは平然と歩いていた。このくらいの対応をされるのは当然と、最初から想定していたらしい。
四天王の面々に睨まれても、顔色一つ変えず悠々と歩を進めている。そんなこんなで、一行は城の中に入り謁見の間へ向かう。
「失礼致します、マリアンナ様。デルトア帝国からの親善大使の方々……と、ゲストをお連れしました」
「ご苦労さまでした、オズイン。そして四天王たちよ。……ようこそ、霊峰を超えた地より来たりし方々。わたくしはマリアンナ・フィブルデル・ザーナガルム・ラズマトリア。この国と民を守る公女です。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に、歓待いただき嬉しく思います。私はフィリール・アルズラント=マグネス。デルトア帝国第一皇女です。両国の永遠の友好を願い、今回大使の大役を務めさせていただいています。こちらこそ以後お見知りおきを」
公国の政治を取り仕切る大臣たちがズラッと並ぶなか、フィリールは真っ直ぐ前に敷かれた紫色のカーペットを進み公女と謁見する。
お互いつつがなく挨拶を済ませ、ここまでは一つも問題なく事が運んだ。が、問題はここからだった。
「ところで、何故この栄えある場に相応しくない者がいるのですかな? よくもまあ顔を出せたものですなぁ。え? 国を捨てた恥さらしめ!」
「わざわざ公家の証たるペンダントを見せびらかすとは、よほど我らを怒らせたいとみえる。フン、なんと腹立たしいことか」
「大臣たち! 失礼ですよ、今はそのようなことを言う場ではありません!」
これから両国の国交樹立の調印式があるというのに、早速大臣たちが水を差す真似をする。自身が何者なのかを示すため、ペンダントを身に着けているアリエルに嫌味を言う。
「……いいんだよ、マリアンナ。みんな思ってることだからね、今更どのツラ下げて帰ってきたのかと。私が一番、それを理解している。でもね……だからこそ私は償いをしたいと」
「残念ながら、その必要はありません。フェルガード帝国は、私と四天王……そして精強なるラズマトリア軍だけで十分。国を捨てた者とその仲間の援助など不要だ」
アリエルの言葉を遮り、後ろで控えていたオズインがそう口にする。マリアンナは仰天し、大慌てで玉座から立ち上がった。
「何を言い出すのです、オズイン! 敵にはサモンマスターなる存在がいるのですよ、未知の力を操る相手ではいくらあなたでも」
「あのー、少し発言してもいいでしょうか?」
「……そういえば、お前は何者なのだ? 親善大使にしては幼すぎる。西の国は子どもに大事を任せるのか? だとしたら程度の低い国だ」
このままでは話がややこしくなると判断し、発言の許可を求めるキルト。が、またしても大臣が水を差しキルトをせせら笑う。
フィリールが反論しようとした、その時。デッキホルダーから落書きを落とし終わったルビィが出現し、大臣たちを威圧する。
「さっきから聞いていれば、貴様ら他人と仲良くするという発想がないのか? アリエルのことは、貴様ら身内の話ゆえ口は挟まぬ。だが……我が魂の伴侶にいわれなき悪意をぶつけるのは許さん!」
「ヒイッ!? な、なんだお前は! どこから現れた!?」
「オズイン、早くその女を追い出せ! なんなら斬り捨てても構わん! 早くしろ!」
「……やれやれ。どうにも老人たちは狭量でいけないものだ。貴殿、名を何と言う?」
「我はルビィ、もっとも神に近き偉大なるエルダードラゴンにしてこの少年……キルトの伴侶だ。で、貴様はあの老人どもの言う通り我を斬るのか? もしそうなら手加減はせんぞ」
「……ふむ。少し気が変わった。バズ、訓練場は今使えるか?」
「ええ、この時間なら使えるはずですよ」
ルビィに睨まれたオズインは、背後に控えている四天王の一人に尋ねる。答えを聞いた後、オズインはこんな提案をした。
「艦長より、貴殿とそのパートナーがサモンマスターなる存在だと聞いている」
「それがどうした?」
「どうだろう、私と一つ手合わせ願えないだろうか。もし私を倒したなら、先の発言含め全ての無礼を詫びよう」
「だそうだ、キルト。我としては、サモンマスターを舐めくさっているこやつに一つ灸を据えてやろうと思うのだが」
「……まあ、仕方ないか。ここで引いたら、国交樹立どころじゃなくなるしね」
ルビィに威圧され、もう大臣たちは口を挟むことはなくなった。ため息をつきながら、キルトはオズインの提案を受けることを決める。
「はあ……相変わらず、この国の連中は排他的だね。オズインめ、やることがねちっこいな」
「どういうことだ、アリエル殿。あの男は何を企んでいる?」
「大方、読者くんを倒してサモンマスターより自分が強いってアピールする腹づもりなんだろうね。読者くんのメンツに泥を塗る気だよ、そこまでして他国に……いや、私の仲間に力を借りるのが嫌なんだろうさ」
忌々しそうに小声で呟くアリエルに、フィリールが問う。どうやら、相手はロクでもないことを目論んでいるようだ。
「まあ、問題はないな。サモンマスターには同じサモンマスター、あるいは上位存在しか対抗出来ない。あの男の鼻っ柱がへし折れるのを見ていようじゃないか」
「そうだね、フィリール。……はあ、本当に……この国は嫌だよ。もっとよそ者に優しくなればいいんだけどね」
訓練場に移動するオズインたちを見ながら、アリエルはため息をつくのだった。
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