242話─戦乱の時、再び
二日後、ようやくキルトが回復して無事目を覚ますことが出来た。少年の目覚めを祝して、アジトでささやかな祝賀会が行われることに。
せっかくならシャポル霊峰の絶景を楽しみながら……と、大パノラマの屋内展望台に移動し全員でテーブルを囲む。
「みんな、心配させてごめんね。僕はもう元気になったよ! ……まあ、また倒れちゃうと困るからレボリューション体はしばらく封印するけど」
「ああ、それがいい。本当に必要な時が来るまで、切り札は温存するべきものだ。……と、堅苦しい話はここまでにしよう。では……キルトの回復を祝して乾杯!」
「かんぱーい!」
GOSのメンバーとヘルガが集まり、アスカ謹製の手料理を堪能する。未成年はアスカが地球から取り寄せたジュースやサイダー、大人たちはお酒を飲みおおいに楽しむ。
「ふーん、これがテラ=アゾスタルの酒なのね。イモジョーチュー……だっけ? 結構いいじゃない、気に入ったわこれ」
「ニホンシュ……か。こちらの酒よりもかなり上等だな。この味を知ったら、もう酒場の酒は飲めないな。なあウォン?」
「そうだな、ドルト。以前アスカが作ってくれたカクテルも、味わったことがない美酒だった」
エヴァたちは日本から取り寄せられた酒に舌鼓を打ち、次々と瓶を空っぽにしていく。食べる食事も、普通の料理からおつまみにシフトしつつあった。
「お酒かぁ、どんな味なんだろ。僕も早く大人になりたいなぁ」
「ふふ、その時が楽しみだねぇ読者く……ん、あれは!」
「なんやあれ、飛行船かいな。東の方から来るなんて初め……あ、どないしたんやアリエルはん!」
「飛行艇の舳先に描かれているあの国旗……みんなごめん、ちょーっと出掛けてくるから少し待ってて!」
『サモン・エンゲージ』
キルトたちと談笑していたアリエルは、ふとガラスの向こう……東の方角から霊峰を超えようとやって来る飛行艇を捉えた。
舳先にある、白地に赤い聖杯が描かれたラズマトリア公国の国旗を見つけた彼女はサモンマスターギーラに変身し、一人アジトを発つ。
「フロスト博士、どうしたんだろう? あの飛行艇、こっちに攻撃してくるって思ったのかな?」
「ふむ……キルト、運動も兼ねて様子を見てきたらどうだろうか。アリエル殿の様子、どこかおかしかったからな。何かしらの因縁が、あの飛行艇の持ち主とあるのかもしれない」
「そうだね、僕も行ってくるよ。おーい、ルビィお姉ちゃーん! 悪いんだけど手を貸してー!」
アリエルの変化を目聡く見つけたフィリールの提案を受け、キルトが後を追うことに。一人では無理なため、ルビィに声をかけるが……。
「うー……ヒック! よし、我に任せしぇておけ。あんな鉄のふにぇなど……」
「うわ、凄い酔ってる! お姉ちゃん、どんなお酒飲んだの……?」
「んー? むはは、このスピリタスとかいうのをイッキし」
「ちょ、ジブンなにしとんねん!? それアルコール度数96あるんやで、ストレートに飲むもんちゃうわ!」
地球で一番アルコール度数の高い酒をイッキ飲みした結果、ルビィは完全に出来上がってしまっていた。彼女の周囲に転がるスピリタスの瓶数本が、異様な存在感を放っている。
「あー……これは流石に変身無理だね、たぶん僕も同調して凄い酔うと思う」
「じゃあ、サモンアブゾーバー使うのはどうだキルトさん。確か、レドニスのをカード構成も含めて復活させてあるんだろ?」
「うーん、それしかないね。エヴァちゃん先輩、ウォンさん。お姉ちゃんのこと見ててあげて、何するか分かんないから」
「はいはい、アタシらに任せときなさい。にしても、こいつがこんなへべれけになるなんて凄い酒もあったものね」
ルビィに頼れないため、サウルの提案を受けたキルトはサモンアブゾーバーを使うことに。幸い、レドニスのカードデータがあるため飛行には困らない。
『♣J:FLOAT』
「それじゃ、行ってきまーす!」
「キルトくん、気を付けてねー!」
「いってらっしゃーい!」
「お土産待ってるねー!」
「いや、遊びに行くんとちゃんやで双子たち」
一時的にサモンマスターグラルになったキルトは、アブゾーブカードを使いアリエルの後を追ってアジトを飛び出す。
その頃、先に出立したアリエルは飛行艇の甲板に降り立ち乗組員らと相対していた。突如現れたハーピィの女に、みな警戒心をあらわにしている。
「魔物め、この飛行艇をラズマトリアの軍艦と知っての狼藉か!」
「あー、タンマタンマ。もう忘れちゃってるだろうけどさ、私だよ私。アリエルだよ、マリアンナの姉の。ほら証拠もあるよ」
槍を構える乗組員たちの前で変身を解き、アリエルは服の下に入れていたネックレスを取り出す。ラズマトリアの国旗と同じデザインの水晶が付いたソレを見て、乗組員たちは慌てて敬礼をする。
「な、なんと……まさかこのような偶然があるとは! そのネックレス、確かにかつて出奔なされたアリエル様が持ち出したものと同じ! とんだご無礼を……」
「いいのいいの、跡継ぎになりたくなくて出てった私なんかにそんなかしこまらなくてさ。で、なんで飛行艇なんか飛ばしてるのさ? 進路的に霊峰を超えるつもりだよね、これ」
「はい、実は……今ラズマトリア公国は存亡の危機に直面しておりまして。公女様がアリエル様を探し出し、助力を乞うと……」
「ちょっと待った、存亡の危機!? 一体何が起きてるのさ、詳しく話し」
「フロスト博士ー! 何やってるんですかー? よっと」
アリエルが詳しく話を聞こうとしたところで、キルトが合流する。再び警戒心を強める乗組員たちに、アリエルが手短に説明を行う。
「というわけで、彼は大陸西部を何度も救った英雄ってわけなのさ。ドゥーユーアンダスタン?」
「なるほど、そのようなお方がおられるとは。……キルト殿、あなたにも是非聞いていただきたいのです。大陸東部の現状を」
「なにやら、のっぴきならな事態になってるようですね。分かりました、まずはお話を聞きましょう。その上で、僕が協力出来ることがあればお手伝いしますから」
「おお、ありがたい! では応接室へ、甲板で立ちっぱなしというわけにもいきませんから」
乗組員たちに連れられ、キルトとアリエルは船内に入る。艦長の元に案内され、応接室で詳しい話を聞くことになった。
フェルガードのクーデターと、その裏に潜むサモンマスターの存在。そして、野心を秘めた皇帝による侵略の危機。
それらを聞き、キルトたちは表情を険しくする。
「やれやれ、並行世界のサモンマスターたちを片付けて平和になったと思ったらこれだよ。タナトスもロクなことしないよ、全く」
「……由々しき事態だね、それは。そのサモンマスターたちについて、何か情報は?」
「……誠に申し訳ないのですが、まだ何も分かっていない状況でして。先日、フェルガード帝国に潜り込ませていたスパイからの連絡が途絶えてしまい……恐らく、存在に気付かれ消されたかと」
一度捨てたとはいえ、祖国の危機に普段の軽いノリがなりを潜めるアリエル。真剣な表情で艦長の話を聞き、協力することを表明した。
「……そろそろ、私も向き合う時が来たのかもしれない。一度は捨てた祖国を、妹を……救うことで、罪滅ぼしをしないとね」
「フロスト博士……なら、僕たちも手伝います! 博士だけにそんな大仕事を背負わせませんよ!」
「ふふ、ありがとう読者くん。ガーディアンズ・オブ・サモナーズのみんながいれば百人力さ!」
「そうとなれば、みんなにも知らせてきますね。艦長さん、失礼します!」
『♣5:ESCAPE』
話を聞き終えたキルトは、アブゾーブカードを使って一足先にアジトに帰還する。普通の魔法とは違う転移の方法に、艦長は目を丸くして驚く。
「き、消えた!? 今のカード、それに音声はいったい……?」
「ふふ、驚いたかい? これがサモンマスターの力の一端だよ。ま、今使ったのは並行世界の産物ではあるけど」
ラズマトリア公国の使者との出会いで、キルトたちは幾度目かの戦乱へと足を踏み込む。その果てに、新たな出会いと強敵との邂逅が待つことを……まだ、誰も知らない。
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「これまでよく務めたわね~、レドニスくん。あなたは今日で釈放よ~、これからは真っ当に生きてね~」
「ありがと、カトリーヌさん。オレ、サウルたちのところに帰るよ。……まだ生きてれば、だけどな」
その頃、イゼア=ネデールでは刑期を終えたレドニスが出所手続きを行っていた。模範囚として清く正しく活動していることが評価され、大幅に刑期が減ったのだ。
「うふふ~、そこは大丈夫よ~。コリンくんがちゃんとリサーチしてるから。あなたのお仲間さん、キルトくんたちのところにいるわよ~」
「そっか、サウル……かは分かんねーけど元気にしてるならよかった。あと、これ。班長たちにお礼の手紙書いたんだ、渡してくれるかな?」
「うふふ、キチンと渡しておくわね。もう戻ってきちゃダメよ~、レドニスくん」
カトリーヌの言葉に頷き、レドニスは軽やかな足取りで鉱山監獄を去って行く。メソ=トルキアにいる、仲間と会うために。
※良い子の皆さんはスピリタスのイッキ飲みはやめましょう。最悪の場合、急性アルコール中毒で命を落とします。




