240話─手のひらの中の切り札
ジョーカーの力を解放したカトラの力は、キルトたちの想像を絶するものだった。一人、また一人と倒されていき、ついにキルトも……。
『♦2:BARRET』
『♥2:STRIKE』
『♣9:SHOCK』
『ULTIMATE COMMANDO:BONE CRUSHER』
「かはっ! つ、強い……」
「……案ずるな、まだ息の根は止めない。残りの仲間も倒してから、寂しくないよう同時にトドメを刺してやろう」
すでに敗れ、瀕死となったアリエルたちのようにキルトもまた倒されてしまった。全てを貫く衝撃波の弾丸を受け、片膝を突く。
『キルトよ……大丈夫か? 我が代わりに戦えればよかったのだが……』
「ダメだよ、お姉ちゃんが出たらあいつに操られちゃう。とはいえ、こっちに打てる手は……もうないね」
サポートも含め、全てのサモンカードを使い果たし戦う手段を失ったキルト。このまま、カトラによって倒されるだけかと思われた。
だが、彼には一枚だけ残されていたのだ。この危機を打開出来るかもしれない、文字通り最後の切り札となるカードを。
「ねえ、お姉ちゃん。僕……賭けてみたいんだ。手のひらの中にある可能性に」
『……使うのか。ネガが置いていったあのカードを』
「うん、それ以外にもうあいつに対抗出来る手段はない。イチかバチか……もう、これしかないんだ」
ゆっくりと近付いてくるカトラを見ながら、キルトはデッキホルダーに手を伸ばす。最後に残った、ネガに与えられたカード『REVOLUTION─支配』。
このカードを用い、カトラを倒そうと考えたのだ。そんなキルトの脳裏に、死に際に放ったネガの言葉がよみがえる。
『僕に勝ったご褒美さ、それをあげるよ。でも、気を付けるんだね。そのカードには僕の思念が宿ってる。僕のカードを利用するつもりで、乗っ取られないように……気を、付ける……こと、だ……ね……』
「……負けないさ、お前なんかの思念に。僕は勝ってみせる、カトラにも……ネガの怨念にも!」
【REVOLUTION】
不吉な言葉を振り払い、キルトはスロットにカードを挿入する。直後、彼の視界が闇に閉ざされた。ルビィとの繋がりも消え、一人ぼっちになってしまう。
突然のことに周囲を見渡しているキルトの脳に、ネガの声が響いてくる。とても腹立たしい、相手を小バカにした声が。
『ようやくそのカードを使ったね、待ってたんだよ。これで、お前の身体を僕が乗っ取れる。さあ、支配権を渡せ!』
「そんなことだろうと思ったよ、ネガ。でもね、そんなことは出来ない。僕一人なら捻じ伏せられるとでも思った? 無理さ、お前にはね」
闇の中に霊体となったネガが現れ、キルトの精神を消し去ろうと手で触れる。直後、キルトの身体から炎と冷気が吹き出しネガを阻んだ。
『うぐっ! なんだこれは、有り得ない……お前とあの竜の繋がりは消したんだぞ!』
「お前の力なんかで完全に消えるほど、僕たちの絆は弱くない。見くびるなよ、ネガ。消えるのはお前の方だ! 永遠の虚空へと消え去れ!」
『う、ああああ!! そんな……こんな、こと……』
キルトの身体から放出される炎と冷気によって、カードに宿っていたネガの思念は完全に消滅した。その直後、キルトの意識が現実に引き戻される。
『キルト、キルト! どうした、大丈夫か!?』
「……お姉ちゃん。うん、僕はだいじょ……う、ああっ!!」
『どうした! くっ、やはりネガの思念が悪さを』
「違う、これは……流れ込んできてるんだ。エヴァちゃん先輩たちの持つ、サモンマスターの力が」
ネガとのやりとりは、現実の世界にしてほんの一瞬の出来事だった。キルトがルビィとやり取りしていると、身体の中に流れ込んでくる。
これまで共に戦った仲間たち。そして、刃を交えた敵……彼ら彼女らと本契約している、モンスターたちの力が。今、キルトは──新たな力に目覚める。
『ELDERDRAGON』
『KILLMORTBULL』
『IMPEPATORHORN』
『MYSTERAGUR』
『FANSHENGWU』
『RAILTIEBAR』
『MORTRON』
『FLORAPIL』
『CARNAGEFANG』
『VIEWCOCK』
『KAIZALEON』
『RUGSHRAT』
【ALL ENGAGE】
「う……おおおおおおおおお!!!!」
キルトの周囲に現れた、計十二枚の契約が回転しながら少年へと吸い込まれていく。それを見たカトラは、急ぎトドメを刺すべく走り出す。
「何をするつもりかは知らぬが……させん!」
「もう遅いよ、カトラ。僕は受け取ったんだ。みんなの力をね!」
「な……がはっ!」
キルトの鎧が黄金に染まり、肘から先と膝から下に虹色のT字型のラインが走る。背中に白銀のマントを羽織り、頭部に竜の頭を模した兜が装着された。
変身を終えたキルトは、カトラに向かって拳を突き出す。単なるパンチ一発だけで、恐るべき力を宿すジョーカーは吹き飛んでいった。
【Re:ALL ENGAGE MODEL】
「これが……僕たちの新しい力だ、カトラ!」
『何が起きたのかは分からぬが、我の身体が力に満ちているぞ! キルト、これなら奴を倒せるかもしれん!』
「かもしれん、じゃないよお姉ちゃん。倒すんだ、僕たちみんなの力で!」
「くっ……戯れ言を、やれるものならやってみるがいい!」
『♣2:CLASH』
『♠5:ACCEL』
『♦7:KICK』
『ULTIMATE COMMANDO:GROUND BREAKER』
「この奥義、受けられるものなら受けてみろ!」
三枚のアブゾーブカードを使い、カトラは猛スピードで走り跳び蹴りを放つ。それに対し、キルトもまたカードを用いることなく対抗してみせる。
「そんなものは効かないよ。今の僕にはね!」
【ウォールコマンド】
【ブレスコマンド】
『!? 我だけでなく、他の本契約モンスターの力も使えるのか!』
「そうだよ、お姉ちゃん。こうやってフィリールさんの大盾を強化すれば……」
「食らうがいい……なにっ!?」
「あいつの奥義なんて、全く怖くない! はあっ!」
キルトは金色に輝くタワーシールドを召喚し、さらに祝福の炎で強化する。複数のサモンマスターのカードを自在に扱える……まさに、もう一人のジョーカーと呼べる存在となった。
強化された盾の堅牢さは凄まじく、カトラの奥義を容易く防ぎ相手を弾き飛ばす。その時、気を失っていたアリエルたちが目を覚ました。
「うう……あれっ!? 読者くん、金ピカになってる!」
「あの姿……すげぇ神々しいぜ!」
「みんな、目を覚ましたんだね! 待ってて、カトラを倒したらヒールコマンドで」
「させると思うか? 多少私の計算を狂わせたところで……この最大奥義を防ぐことは出来ぬ!」
『♠6:FREEZE』
『♦6:FIRE』
『♣6:THUNDER』
『♥6:TORNADO』
『DARKNESS JOKER』
『ULTIMATE COMMANDO:ELEMENTAL JUDGMENT』
氷、炎、雷、風、そして闇。五つのエレメントの力を纏い、カトラは空高く上昇していく。そして、キルト目掛けて急降下する。
「この奥義で仲間諸共木っ端微塵になるがいい!」
「わ、わ、まずいよ! あんなの逃げられなーい!」
「逃げる必要はないよ、メリッサさん。僕が……奴を倒す!」
【アルティメットコマンド】
慌てるメリッサにそう告げた後、キルトもまた奥義を発動する。直後、少年の纏う鎧の形状がサモンマスタープライドのソレへと変化した。
「インペラトルホーンの力を借りる! 行くぞカトラ、奥義……ヘルクレスクレイドル!」
『行け、キルト! 奴に引導を渡してやれ!』
「てりゃあああああ!!!」
半透明なインペラトルホーンを召喚し、合体して黄金の槍となったキルト。空に飛び上がり、落ちてくるカトラを迎え撃つ。
「うおおおおおお!!」
「く、ぐうっ……! バカな、この私が押し負ける……? 有り得ない、対フィニス用の力を解放したこの私が……」
「そうさ、お前は負けるんだよカトラ! 僕たちの絆のパワーを……食らえぇぇぇぇぇ!!」
『我らの底力、全身で味わうがよいわ!』
「ぐ、バカ……な……ぐああああああ!!!」
十体分の本契約モンスターの力を乗せた、渾身の奥義に打ち勝つことは出来ず……断末魔の叫びと共に、カトラはキルトに貫かれ爆散した。
遙か遠い空に散ったかつての仲間を見上げ、サウルはそっと十字を切る。どこか寂しげな、切ない表情を浮かべながら。
「……さようなら、カトラさん。俺……あんたの分まで生きるよ。キルトさんたちと一緒に」
こうして、タナトスによって誘われた並行世界のサモンマスターたちとの戦いに幕が降りた。そうしてまた、キルトたちは帰っていく。
愛すべき穏やかな日常へと。
面白いと感じていただけましたら、ブクマ・評価等していただけると嬉しいです。




