239話─解き放たれる切り札
「このカードは、相手が契約しているモンスターが召喚された時……そして、アブゾーブカードが使われた時に効果を発揮する。サウルにとっては、脅威そのものなわけだ」
「なるほど、でもお生憎様だね。なら僕たちはアドベントしなければいいだけの話だ!」
「……そう上手く事が運べばいいな」
キルトは得意気にそう口にするが、カトラは全く気にしていない。そればかりか、不穏な言葉を口にして揺さぶりをかけてきた。
アリエルはフロウラピルを正気に戻すため、早々に離脱してしまう。しばらくは、キルトだけで戦わねばならない。
「運べば、じゃない。運ぶように戦略を練るのが僕の仕事なのさ!」
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
相手の薙ぎ払いをかわし、地面を転がって距離を取りつつキルトはリジェネレイトを果たす。それを見たカトラは、仮面の奥で目を細める。
「ほう……それがネガやタナトスの言っていたリジェネレイトか。面白い……その力、見せてもらおうか!」
『ああ、見せてやるとも。貴様の仲間たちにそうしたようにな! キルト、我の魔力を受け取れ。今回は最初からフルスロットルで行くぞ!』
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
【カリバーコマンド】
「行くぞカトラ! お前も倒してやる!」
新たに呼び出した剣を構え、カトラに向かって走って行くキルト。相手に向かって攻撃を放ち、勢いよく槍に武器を打ち付けた。
今回は力負けせず、武器が砕けることはなかった。そのままつばぜり合いに持ち込み、少しずつカトラを押し込んでいく。
「……子どもにしてはかなりのパワーがある。なるほどな、亮一も苦戦するわけだ」
「そうさ、僕だってずっと戦って力も強くなってるんだよ。このまま一気に」
「だが、私には及ばない。力も機知もな」
『♥9:SLIP』
「へ!? うひゃっ!」
相手に押し勝ち、その勢いで追撃しようとしていたキルトだが、カトラが阻止に動いた。片手を槍から放して、素早くアブゾーブカードを使う。
直後、キルトの足下の地面が氷のようにツルツルしたガラスに変わる。足を滑らせ、体勢を崩してしまったところにカトラの回し蹴りが炸裂した。
「フッ!」
「うわっ! このっ、やったな!」
「ああ、まだまだ行くぞ?」
『♥3:BLOW』
『♥6:TORNADO』
『TYPHOON BLOW』
さらに二枚のカードを取り出し、カトラは攻撃の手を緩めず苛烈に攻める。螺旋状の風を纏った腕による殴打の嵐を繰り出し、キルトの守りを崩そうとする。
「うっ、くっ! 槍の攻撃と合わさってやりにくいなぁ、もう!」
「どうした、お前の力はそこまで」
『リレイコマンド』
「お前こそ忘れるな、相手はキルトだけじゃない。手が空き次第、俺たちもキルトに加勢するぞ!」
「むっ……!」
風を纏っていない方の手で槍を操り、キルトを追い込んでいくカトラ。そこに、サモンカードの発動音声が響く。
ある程度カースローチの数を減らしたドルトが、狙撃中継衛星を召喚して援護射撃をしたのだ。そのおかげで、カトラの攻勢が弱まった。
「ありがとうドルトさん! 食らえ、コキュートススラッシャー!」
「くうっ……!」
『いいぞキルト、このまま畳み掛けてしまおう!』
「うん! それっ、おかわりだ!」
ドルトの援護もあり、キルトは斬撃を繰り出し形成逆転に成功する。一方、上空ではアリエルがフロウラピルを足の爪で捕まえ、翼でビンタを連打していた。
「ほらほら、さっさと正気に戻る! このまま終わったら私ら読者くんの足引っ張るだけになるでしょーが!」
「へぶっ! ほぶっ! べひゅっ! ……あれ? アリエルじゃん。おっはー」
「おっはー! ……じゃないの! ほら、あの黒い鎧の奴を攻撃するから! ちゃんと着いてくる! いいね?」
「はいはい、可愛いラピルちゃんを洗脳するような悪い奴はやっつけちゃおー!」
激しい愛のムチにより、フロウラピルは無事正気に戻った。洗脳のお礼参りをするべく、一人の人間と一羽のハーピィが上空からカトラを襲う。
「コラー! よくもやってくれたなー! もう許さないんだからねー!」
「なに……? もう魅了を解いただと? バカな、早すぎる……」
「ふふん、基底時間軸世界のサモンマスターを甘く見ない方が……いいんじゃないかな! 読者くん、奥義ぶっ放すから下がって!」
「はい!」
『アルティメットコマンド』
アリエルの背中に取り付けられた、プロテクターと一体化したデッキホルダーから自動でサモンカードが装填される。
急降下したアリエルとフロウラピルは、足の爪でカトラの肩を掴み上空へと連れ去る。これまで使う機会のなかった奥義が、ついに炸裂する。
「貴様、何を……」
「このまま地面に叩き落としてあげるよーだ! いくよーアリエル!」
「ガッテン! さあ、ショータイムだ! 奥義……ダウンフォースインパクト!」
高空へと連れ去ったカトラをうつ伏せにし、腕を真横に伸ばした状態にするアリエルたち。片方の足で腕を、もう片方の足で脇腹を。
それぞれ掴んで身動きを封じた上で、勢いよく急降下し相手を腹から地面へと叩き付けた。凄まじい轟音が響いた後、カースローチたちが苦しみ消滅していく。
「わ、ゴキブリが消えるよ!」
『おー、フロストはかせが勝ったんだ! すごいねードルトさん、サウルん!』
「……いや、何か変だ。カトラさんがあんなあっさり倒されるわけがない。一体何を企んでるんだ?」
カトラが倒されたと思い、大喜びするイゴールとメリッサ。一方、サウルはあまりにもあっさりとした決着に違和感を抱いていた。
「く……フフ、ハハハハハ!! いや、実にいい。君たちが私を痛め付けることで、亮一も報いを受けるのだからな。わざと奥義を受けた甲斐があったというものだよ」
「……どういうこと? なんであいつの名前が?」
「教えてやろう……私は奴にな……」
デッキにフロウラピルが戻った後、アリエルは離脱しキルトの側に戻る。少しして、立ち上がったカトラは亮一に与えた呪いのことを語る。
『フン、クズへのオトシマエというわけか。貴様も案外意地の悪いことをするではないか』
「……仮にも仲間を始末されたわけだからな、これくらいはするさ。もちろん、お前たちもここで……倒す」
「……? なんだ、あのカード。カトラさん、あんなの持ってなかったはず……」
亮一にダメージをある程度請け負わせることで、アリエルの奥義を耐えたカトラ。デッキから新たに、ジョーカーが描かれたカードを取り出す。
それこそが、彼の体内に仕掛けられている装置の封印を解くカギ。サウルですら知らない脅威が、今……キルトたちの前に現れる。
【OPENJOKER】
「!? なんだ……あいつ、何をしたんだ? 今、確かに……空気が変わった」
「見せてやろう。私の体内に搭載された、対フィニス用決戦兵装の力を!」
カトラがアブゾーブカードを用いた瞬間、空気が凍り付いたのをキルトたちは感じた。本能が彼らに訴えかけてくるのだ。
この男と戦ってはならない。すぐに逃げろ、と。キルトたちが動けなくなっているなか、カトラの鎧の黒と赤が反転していく。
血のような鮮やかな赤をメインに、黒いラインが走る不気味な姿へと……カトラは変貌を遂げた。
「なんだよ、それ……! カトラさん、その姿は一体なんなんだ!?」
「……四百年前。我らの世界にフィニスと名乗る者が現れ全てを破壊していった。生き残ったごく少数の者たちは、いつか再びフィニスが現れた時に備え……このジョーカーの力を創り出した。奴に対抗出来るようにとな」
サウルが叫ぶと、カトラが静かに答える。そうして一歩を踏み出すと、地面に生えていた草が枯れてしまった。
「この力を得るために、私は改造人間となった。そうして……この究極の破壊をもたらす暗黒のパワーを手に入れたのだ!」
『♥4:INVISIBLE』
『♥8:SILENT』
『SCHADOW SNEAK』
「えっ!? か、カードを取り出してないのに効果……うあっ!」
『ああ、そうとも。この姿になった私は、ノータイムでアブゾーブカードを使える。……レドニスやティア、サウルが使っていたものを含めた全五十二枚のカードを……無制限に何度でもな!』
姿を消し、音を出すこともなくカトラはキルトたちへと攻撃を仕掛ける。このままではまずいと悟った双子は、素早く仲間のサポートに回った。
『リバイバルコマンド』
「みんなー! 蘇生の炎をあげるー! これがあればある程度はだいじょ……うえっ!」
「メリッサ! くっ、よくも……ぐあっ!」
『ムダだ、何をしようがジョーカーとなった私を倒すことは出来ん。このまま全滅させてやろう……』
メリッサが蘇生の炎を全員に配るも、即座にドルト共々虚空より現れた槍に貫かれてしまう。強大な切り札を解き放った敵に、キルトたちは勝てるのか……。




