238話─カトラ降臨
数日後、キルトたちはアリエルを旗頭にフィールドワークへ赴いていた。目的地は、デルトア帝国北東の辺境にあるジュナラ鉱山だ。
メソ=トルキアでは希少な鉱石、ブルーメタルとアイオニアンメタルが採掘出来るため皇族の直轄領となっている。そのため、皇帝に許可を取りやって来た。
「わー、おっきな山だねぇめーちゃん。あ、トンネルがあるよ!」
「ほんとだー! 凄い宝物があったりしないかな? あ、ドラゴンがいたりして!」
「フッ、それはないぞ二人とも。我の鼻があれば竜がいるかどうか匂いで分かる。ここには竜はおらん」
「まあ、仮にいたとしたら大問題だけどね。皇族直轄の鉱山にドラゴンが住み着くなんてさ」
エヴァのポータルを使い、鉱山の前にある広場に送ってもらったキルトたち。イゴールとメリッサは、採掘用の坑道がいくつも空いているのを見て大興奮している。
ルビィやアリエルを交え、楽しそうに話をしながら坑道に入っていく。ドルトを先頭に、一行は地質の調査をしつつ先へ進む。
「うん、いい感じの土質だねぇ。皇族所有地だけあって、地層もいい感じだよ」
「ふぅん、我には全く分からんな……。こらこら、勝手に先に行くんじゃないぞ双子よ。転んで怪我をしたら危ないぞ」
「ああ、それに坑道は枝分かれしてるからな。迂闊に進むと迷子になる。だから、こうやって……よっ」
目を輝かせ、どんどん先に行こうとする双子を制止するルビィ。そんな彼女らに声をかけながら、ドルトは懐から紫色のジェル状のナニカが入った小ビンを取り出す。
坑道の分岐点が来る度に、片方の入り口にジェルを塗って目印にしつつ奥へと進んでいく。こうすることで、迷子になっても合流しやすいようにしていた。
「ドルトさん凄いね、そのジェル自分で作ったの?」
「ああ、狩りをする時にも使えて結構便利なんだ。いろいろなものの目印に……」
「待て、ドルト。我らの背後……かなり距離があるが、怪しい気配を感じる。一旦止まるのだ」
「まさか、カトラさんか? ……いや、あり得るな。あの人の得物は槍、坑道で戦うにはピッタリだ」
順調に調査をしつつ、質のいい鉱石を求めて奥へ進む一行。その時、ルビィが怪しい気配を察知しキルトたちに報告した。
しんがりを務めていたサウルは、気配の正体を気にしつつそう口にする。いずれにせよ、坑道の中で戦うのは現実的ではない。
「急いで外に出よう! ……ハア、前にもあったなぁこんなこと。あの時はティバとネヴァルと戦ったんだっけ」
「懐かしいな、あの頃ももう遠い昔だ。キルト、エヴァから貰った使い捨ての転移石を使うのだ!」
「うん! みんな、集まって!」
走って外に出るのでは、途中で敵と鉢合わせしてしまう。そこで、キルトは転移石を取り出し全員で広場に脱出する。
「無事に出られたな。よし、今のうちに変身を済ませておこう」
「そうだね、それがいい。なぁに、気負うことはないよ読者くん。数はこっちが上だからね!」
『サモン・エンゲージ』
『サモン・アブゾーブ:♠A:ENGAGE』
気配の主が現れる前にと、キルトたちはそれぞれの方法でサモンマスターに変身して待ち構える。少しして、坑道の中から音声が響いてきた。
【♥K:PROMOTION KING】
【PROMOTION:LEGION KING STYLE】
「! この音……どうやら、カトラさんは手加減するつもりはないらしいな。みんな、気を付けてくれ。あの人が契約してるのはゴキブリのモンスターだ。分身を呼んでどんどん増えてくぞ!」
「うえっ、嫌だなぁ。そんなばっちいモンスターと契約するなんて、そのカトラってのは相当な物好きだね」
レドニスやティア、サウルも用いた強化形態に変身するための音声を聞き、キルトたちは身構える。キングスタイルの強さは、身をもって知っている。
特に、一度命を落としたキルトは誰よりも強く警戒していた。そんななか、ゆっくりと坑道からカトラが姿を現した。
黒をベースに、赤のラインが全身に走る他三人とやや異なる鎧を纏っている。右手には、円錐形の穂先を持つ黒い槍が握られていた。
「……すでに外に出ていたか。転移の魔法を使ったようだな……抜け目ない者たちだ」
「カトラさん……」
「サウルか。お前はそちら側に着いたのだな。なら、交わす言葉はない。他の者たちと共に……始末してくれよう」
『♥10:SLAVE』
仮面の奥に輝く瞳をサウルに向け、抹殺宣言を口にするカトラ。デッキからアブゾーブカードを取り出して、槍に吸い込ませる。
すると、広場のあちこちにゴキブリのマークが描かれた黒い魔法陣が出現する。その中から、人型になったゴキブリのようなモンスターが大量に現れた。
「うっ、キツいビジュアルのがいっぱい出てきた!」
「サウル、こいつらがお前の言ってた敵の契約モンスターか!?」
「ああ、こいつらはカースローチ。カトラさんが使役する軍団の兵士だ!」
「……行け、カースローチたちよ。奴らを分断し、協力を封じるのだ」
「キシャアアア!!」
カースローチの群れが、一斉にキルトたちに襲いかかる。全員を分断し、数の暴力で一人ずつ仕留めるつもりなのだ。
が、イゴールとメリッサがこの場にいたのが運の尽き。数の優位を活かした戦法を取れるのはカトラだけではないのだ。
『ネクロコマンド』
「いっけー、スケルトン軍団! 悪いゴキブリたちをやっつけろー!」
『やっつけろー!』
「キルト、ゴキブリたちはこっちで引き受ける! お前は敵サモンマスターを頼む!」
「分かった、ありがとう! フロスト博士、行きましょう!」
「ほいほい、お任せー」
メリッサことサモンマスターダークサイドが召喚したスケルトンたちが、カースローチの群れに突撃していく。キルトはアリエルを連れ、カトラの元へと向かう。
「サウルよ、お前は行かなくてよかったのか?」
「いや、俺が行っても足手まといにしかならねぇ。カトラさんのデッキには、俺やティアさんたちへのメタになるカードがあるから」
「そうか……なら、こっちを手伝ってくれ。頼むぞ」
「ああ、任せてくれ!」
一方、サウルはドルトや双子と共にカースローチ討伐をすることに。そこでも極力アブゾーブカードを使わず、剣だけで戦う。
何故彼がそうしているのか、のちにキルトたち全員がその意味を知ることになる。それも、最悪の形で。
「さあ、僕たちが相手だ! 覚悟しろ、カトラ!」
「……いいだろう、相手をしてやる。サウルは……こちらに来ないか。フッ、賢明な判断……おっと」
「気を付けなよー? 前ばっかり見てると、私の蹴りが直撃しちゃうよ!」
「そのようだな。……カースローチよ、こちらには手出し無用。お前たちは他の連中を狩れ」
「キィィィィ!!」
上空からのアリエルの奇襲をかわした後、カトラは配下のモンスターたちに指示を出す。直後、槍を構えキルトへ遅いかかった。
「フンッ!」
「っと、簡単にはやられないよ!」
『ソードコマンド』
「食らえ、ドラグネイルスラッシャー!」
「受けて立とう……カースストレイド!」
ドラグネイルソードを召喚し、キルトは相手に飛びかかり斬撃を放つ。カトラが応戦し、槍を用いた鋭い突きを炸裂させた。
一拍遅れて放たれた、カウンター気味の一撃が剣に直撃し粉砕してしまう。一撃で武器を破壊されたキルトは、相手の攻撃の威力に仰天する。
「強い……! あいつの攻撃、威力が桁違いだ!」
『そのようだな、ドラグスケイルシールドでも受けきれるかどうか……。ここは出し惜しみせず、リジェネレイトした方がよさそうだ』
「なら、私が隙を作るよ。この子と一緒にね!」
『アドベント・フロウラピル』
キルトがリジェネレイトする隙を作るため、アリエルは本契約モンスターを召喚して二対一でカトラを翻弄しようとする。が……。
「! ダメだ、迂闊にモンスターを召喚しちゃいけない!」
「もう遅いぞ、サウル。忠告は最初にしておくべき……だったな!」
『♥Q:TEMPTATION』
「う……?」
「フロウラピル? どうし……あひゃっ!? ちょ、何するのさ!」
「カトラ、様……従う。お前たち、敵……!」
「まさか、操られてる……!?」
「ああ。私の持つハートのクイーンのカードに込められた魅了の力で……お前のモンスターは私のしもべとなったのだ」
「なんだって!?」
フロウラピルの目が黒く染まり、アリエルに攻撃をしはじめる。相手の言葉に、キルトやアリエルたちはただ驚愕することしか出来なかった。




