232話─激闘の終わり
新サウルが倒された一方、吹雪の向こう側ではルヴォイ一世とアルセナがティアと激しい戦いを繰り広げていた。
「食らうがいい、スノウシックル!」
「ハッ、そんなもの食らわ」
「甘いな、朕がいるのを忘れたか!」
「ぐっ! いったいわね、ザケんじゃないわよ!」
「くおっ!」
ルヴォイ一世とアルセナは阿吽の呼吸で攻めるも、ティアを仕留めきれずにいた。サモンマスターのシステムの違いに、まだ慣れていないのだ。
それに加え、驚異的な粘りをティアが見せていることも一因となっている。どんなに攻撃を加えても、即座に反撃してくる。
長年の戦いで培ってきた勘により、深傷にならない程度に肉を切らせて骨を断つ戦法をしてくる相手に皇帝たちは苦戦を強いられていた。
「陛下、如何致しましょう。あの者、かなりの手練れです」
「お前のスナッチコマンドが無効化されるとはな……流石にそれは予想外だった。奴自身もかなりタフだ……とまう切り崩すか……」
「ゴチャゴチャうるさいわね、いい加減飽きてきたから……終わりにさせてもらうわ!」
『♦6:FIRE』
『♦7:KICK』
『♦J:MIRAGE』
『ULTIMATE COMMANDO:PHANTOM DROP』
傷も増えてきたことから、これ以上の長期戦は不利と考え一気に決着をつける姿勢を見せるティア。三枚のアブゾーブカードを使い、奥義を放つ。
空高く跳躍しつつ、四体の幻影を生み出す。両足に炎を纏い、幻影たちと同時に跳び蹴りをルヴォイ一世たちへと叩き込む。
「これで終わりよ、灰になれぇぇぇ!!」
「陛下、一体どいつを攻撃すれば……!?」
「案ずるな、雌のカイザレオンたちを召喚して迎撃させ」
「その必要はないぜ、ティアさんは俺が止める!」
『♠7:SEALED』
カイザレオンたちをアドベントし、迎撃しようとするルヴォイ一世。直後、吹雪を突っ切り現れた旧サウルがアブゾーブカードを発動する。
巨大な盾がルヴォイ一世とアルセナの前に現れ、ティアの奥義から二人を守り砕け散る。着地したティアは、苦々しそうに旧サウルを睨んだ。
「アンタ……ふぅん、そっちが生き残ったの。やっぱりダメね、フラスコの中の小人は。こういう時に役に立たないわ」
「ティアさん……俺はあんたと戦いたくない。あんたは俺をサモンマスターとして育ててくれた恩人だ。だから、武器を捨ててくれ! 俺やレドニスのように……ウェッ!」
「誰に命令してるわけ? ヒトモドキがなにカンチガイしてるのかしら。実験用のマウス以下の存在価値しかないカスが、偉そうに説教垂れてんじゃないわよ!」
フィリールたちにああは言ったが、恩師を手にかけることが躊躇われた旧サウルはティアを説得しようと試みる。だが、ムダだった。
返事と共に放たれた弾丸に利き腕を貫かれ、サウルは倒れ込む。容赦なく追撃を加えようとするティアだったが……。
『アドベント・カイザレオン』
「そこまでだ、女。貴様とこの者が、どのような関係だったのか……詳しくは知らぬ。だが、この者が貴様を大切に思っていることは伝わった」
「だがらなに? そんなライオンを数頭召喚したくらいでアタシに」
「ゆえに、貴様の態度に朕は今非常に憤っている。自身を慕う者を容赦なく斬り捨てる所業、許すわけにはいかん! アルセナ、奴を仕留めるぞ!」
「はい、陛下の意のままに。……ワタシも、彼女のやり方は許せません。絶対に!」
「カイザレオンたちよ、その者を守れ! よいな?」
「ガルゥ!」
ティアの冷酷なやり方に怒りをあらわにした皇帝とその恋人は、デッキホルダーからアルティメットコマンドのカードを取り出す。
三頭のカイザレオンに旧サウルを守らせつつ、二人は眼前の敵を仕留めんと奥義を発動する。それに対抗するように、ティアも動く。
『アルティメットコマンド』
『アルティメットコマンド』
「やるつもり? おあいにく様、こっちもまだ奥義は使えるのよ!」
『♦2:BARRET』
『♦9:NAPALM』
『♦10:TRACKING』
『ULTIMATE COMMANDO:INFERNO BURST』
残るアブゾーブカードのうち逃走用のもの以外全てを使い、ティアは燃え盛る弾丸を放つ。追尾機能があるようで、アルセナ目掛けて飛んでいく。
「狙いはワタシか。愚かな、そんなものは無意味。雪原の狩人の力を知れ! 来い、ラグシュラット!」
「フシャァァァァ!!!」
アルセナは相棒であるクズリ型のモンスター『ラグシュラット』を召喚し、自身の頭の上に乗せる。すると、彼女の身体が雪の塊に変化した。
そのままティア目掛けて走り出し、弾丸へと突っ込んでいく。それを見てティアはバカな奴とせせら笑うが、直後……その笑みは消える。
「バカね、自分から死にに──!?」
「生憎、今のワタシは全身が雪で出来ている。どんな攻撃を食らおうが、全て無意味だ」
「ウソ!? アタシの奥義が」
「まずは第一撃だ、食らえ! スノウエンドラッシャー!」
「シュアアアア!!」
ナパーム弾の直撃を何事もなかったかのように無力化し、そのままティアへ迫るアルセナ。両腕をブレード状に変化させ、一気に相手を切り裂く。
同時にラグシュラットが噛み付き、鋭い牙で鎧の胸部分を破壊してみせた。だが、彼女らの攻撃はまだ終わらない。
「次は朕の番だ! 出でよカイザレオン! 奥義……コンクエスタスタンピード!」
「ぐっ、ふざけんじゃ……! う、があああ!」
間髪入れず、召喚された大量の雌カイザレオンが突撃しティアを攻撃する。最後尾には、雄のカイザレオンに跨がったルヴォイ一世がいた。
相手が弱ったところを突き、トドメを刺すべく相棒を駆り突撃する。消耗したティアには、攻撃を防ぐことも避けることも出来なかった。
「ハアアアア!!」
「カハッ! この、アタシが……負ける……? こんなカスどもに……」
跳ね飛ばされたティアは宙を舞った後、地面に落ちて動かなくなる。だが、まだ息は残っているようだ。最後の力を振り絞り、逃走を図るが……。
「アタ、シは……まだ……」
『♠5:ACCEL』
「! サモンアブゾーバーが……」
「ティアさん、もうやめよう。決着はついたんだ、これ以上足掻いても無意味だ」
先んじて旧サウルが動き、高速移動でティアの元へ向かう。そして、加速の勢いを利用して相手のサモンアブゾーバーを蹴り壊してみせた。
変身が解除され、ティアは完全に戦闘力を失う。ルヴォイ一世たちが少し距離を取って見守るなか、ティアはゆっくりと身体を起こす。
「……殺しなさいよ、アタシを。アンタを捨てたアタシを!」
「そうだな、そうした方がいいんだって頭では解ってる。でも! 俺は……ティアさんに改心してほしい! 俺みたいに変わってほしいんだよ!」
「サウル……」
「俺はキルトたちと出会って、一緒に働いて……生きるってことが、こんなにも素晴らしいんだって理解出来た。変われたんだ! だから、ティアさんもきっと変われるはず!」
「バカね、アンタは。どこまでも真っ直ぐでお人好……サウル、危ない!」
「ティアさ……!?」
旧サウルの言葉に、ティアが微笑みを浮かべた……次の瞬間。邪悪な気配を察知したティアは、立ち上がりサウルを突き飛ばす。
直後、サウルの背後にポータルが開きそこからグレイブが飛んでくる。グレイブはティアの身体を貫き、致命傷を与えた。
「そんな、ティアさん!」
「新手か……何者だ、姿を見せろ!」
「ふ、ふふ……済みませんね、本来なら直接手を下さなければならないのですが……。こちらも手負いでして。簡略させていただきましたよ……」
サウルがティアの元に駆け寄り助け起こすなか、ルヴォイ一世はポータルの向こうにいる存在へ大声を張り上げる。
すると、ボロボロになったサモンマスターグレイブヤード……泰道亮一が顔を出した。全身が血まみれになっており、激闘があったことを窺わせている。
「もう片方は……死んでいますね。では、私も帰りましょう。敗北の傷を、癒やさねばならないのでね……」
「待て! ……クソッ、逃げ足の速い奴め」
アルセナが攻撃しようとするも、それより早く亮一は撤退してしまう。悔しそうにしているアルセナたちから少し離れた場所で、サウルが必死にティアを助けようとしている。
「ティアさん、しっかり! すぐに治療すれば助かりますよ! だから……」
「その必要はない、朕のサモンカードで傷を癒やしてやる」
『ヒールコマンド』
「う、かふっ……気持ちはありがたいけど、無意味よ。この武器……毒が塗られてるみたい。癒やしの力を阻害するものね……きっと」
ルヴォイ一世が駆け寄り、ティアを回復しようと試みる。だが、カードの効果は発揮されなかった。亮一の使った武器に、以前グラインが殺害された時に使われたものと同じ毒が塗られているらしい。
「そんな!」
「ふふ……いいのよ、サウル。好き勝手生きてきたアタシには……こんな末路が、お似合いなのよ。だから……泣かないで。アタシの見送りに……涙は、いらないから」
「ティアさん……俺、おれ……」
「あーあ……因果応報、ってやつね……。仲間を見捨てたから……アタシも、裏切られて……捨てられる。とんだ……お笑いぐさ、よね……」
「ティア、さ……う、うう……うあああああああ!!」
そう呟いた後、ティアはサウルの腕の中で静かに事切れた。恩師の亡骸を抱え、サウルは慟哭する。そんな彼を、ルヴォイ一世とアルセナはただ見ていることしか出来ずにいた。




