228話─北の国でパーティーを
「ほぉぉぉぉう……? キルトの伴侶たる、この我を差し置いて。貴様が。二人っきりで。キルトと舞踏会に参加だと? フフッ……随分と偉くなったものだなぁ、え? プ リ ミ シ ア」
「ひえっ……」
キルトが答えようとした、その直後。おぞましい微笑みを浮かべながら、ルビィが気色悪さ全開の優しい声でプリミシアに問いかけた。
顔は笑っているが、目は冷めきっており全く笑っていない。あまりの恐ろしさに、いつもルビィと張り合っているエヴァですら硬直していた。
(な、なんやこの凄まじい威圧感は……! ウチが直接言われとるわけやないのに、汗が滝みたいに出よるでぇ……)
(コッワぁぁ……ルビィの姐さん、マジ怒りしてんじゃん……やべぇ、やべぇよこれ)
(うわぁ、ここまで怒るんだ……。一瞬食われるかと錯覚したわよ、こりゃぶちギレてるわ完全に)
(くっ……プリミシアめ、なんて羨ましい! 私もルビィにこんな本気の怒りを向けられてみたいのに!)
竜は一度手にした宝を、決して手放すことはない。ルビィにとっての宝、それはキルトただ一人。その宝を奪おうとする者が現れたらどうなるか。
その答えが、今プリミシアに凄まじい怒りを向けているルビィの姿だ。プリミシアは顔が真っ青どころか白くなっており、今にも大小漏らして気絶しそうになってしまっている。
「もう、ダメだよお姉ちゃん! そうやって威嚇するのは」
「むう……だがなキルト、一度こうやってガツンと言ってやらねばな……」
アスカやサウル、エヴァが戦々恐々とし……フィリールがいつも通りドMるなかでキルトが動く。ルビィを諫め、ペチンと肩を叩いて気を静めた。
「それにね、一応プリミシアさんにご褒美あげなきゃだからさ。ほら、エルダードラゴン狩りでアスカちゃんに勝ったし」
「あ、ああ……せやな、うん」
「そ、そうなんだよねー……。だから、その、一応ご褒美ってことで……」
「フン、それならまあ仕方あるまい。だが、我も同伴させてもらうぞ。案ずるな、有事の時以外はデッキの中に引っ込んでいるから」
キルトのおかげで、なんとかルビィの怒りは静まった。命拾いしたプリミシアは、アイコンタクトでキルトに感謝する。
少年の説得により、渋々ではあるもののルビィはキルトとプリミシアが舞踏会へ行くことを認めた。もっとも、万が一に備えて同行する予定だが。
「ところでだ、ゼギンデーザのパーティーはいつ行われるのか分かっているのか?」
「それなら私も知っているぞ。一応私も皇族だからな、招待状が来ているんだ。十日後に首都マルヴァラーツで開催されるらしい」
「うん、ボクのとこに来た招待状にもそう書いてあったよ」
「ええ!? それじゃあ間に合わ……あ、エヴァちゃん先輩のポータル使えばいっか」
開催日時についてルビィが尋ねると、フィリールが答える。自分の足では間に合わないと悟ったキルトは、エヴァを頼ることにした。
「仕方ないわねー、でもこれで貸し一個よキルト。後でお礼してもらうからね?」
「うん、なんでもするよ!」
「ん? 今何でも……いや、なんでもあらへんわ。ところでフィリールはん、あんさんも招待状来とんねんやろ? 参加するんか?」
「ああ、参加したいのは山々なんだが……今回のパーティーは男女一組での参加が条件でね。キルトをプリミシアに取られた以上は、まあ留守番でもいい……あ」
一方、プリミシアと同じく招待状が届いていたフィリールはパートナーがいないことを理由に不参加を表明……しようとした。
が、サウルを見て何か閃いたらしい。彼を手招きして、とある提案をする。
「どうだ、サウル。社会勉強の一環として、私と一緒にパーティーに行ってみないか?」
「え、いいのか? 俺そういうのまるで分からないぜ?」
「だからこそ、だ。机上で学べるマナーと、実際にその場にいなければ学べないマナーがある。それを身に付けるいい機会だろうさ」
「そうね、あんたが将来どう生きてくにしても礼節を身に付けといて損はないわ。行ってきなさい、あんたがしばらくいなくてもこの店なんとでもなるから」
「せやな、元々ウチらの分身人形だけで経営しとったさかいな! わっはっはっはっ!」
「そういうことなら、お言葉に甘えるとすっかな」
キルトたちから独立するにしろしないにしろ、マナーを学びどこに出ても恥ずかしくない礼節を身に付けておけば将来役に立つ。
そう判断したフィリールによって、社会勉強としてサウルを連れてパーティーに出席することを決めた。楽しく遊べるとウキウキのサウルだが……。
「じゃ、マリアベルに頼んでマナー講座やってもらいましょっか。厳しいわよー、彼女。スパルタ教育に余念がないから」
「え……俺、それやんなきゃダメ?」
「もちろん! 安心しなさい、折檻されまくって死んだ時には骨くらい拾ってあげるから」
「嘘だ……嘘だそんなことーーーーー!!!!」
魔戒王コリンの乳母にして、マナー教育の担当だったマリアベルに頼んで『教育』してもらうとサウルに告げるエヴァ。
地獄のレッスンを想像し、サウルは崩れ落ち絶叫することに。そんな彼を見て苦笑いしつつ、キルトはふと左腕に軽い痛みが走ったことに気付く。
「キルト、どうした?」
「ううん、なんでもない。ちょっと考え事してただけだから」
左腕は双子に蘇生してもらった時に再生し、もう痛む古傷はない。だが、それにも関わらず……痛みという形で本能が警告しているのだ。
ゼギンデーザ帝国での舞踏会で、何かが起きると。だが、一度行くと言った手前約束を反故にするのはキルトのプライドが許さない。
(マルヴァラーツなら、ルヴォイ一世……フィリップさんにアルセナさんもいるし。民間人に被害が出ないように立ち回れれば、まあなんとかなるかな)
かの帝国には、かつて大陸西部に覇を唱えんとした皇帝ルヴォイ一世ことサモンマスターエンペラー。そしてその恋人、アルセナことサモンマスターアルテミスがいる。
第一次メソ=トルキア大戦が終結し、すでに友好関係にある彼らの協力があれば並行世界のサモンマスターたちが襲来しても大丈夫。
そう気楽に考え、キルトは当日にどんな服装をしていくかを思案するのだった。
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九日後、パーティーの前日。キルトたちはエヴァのポータルを使い、マルヴァラーツへとやって来た。ホテルを予約し、一泊してから会場へ向かうのだ。
「うおー、スゲェ雪! 寒さ! 鼻水が凍っちまいそうだな、こんな楽しそうな国があるなんて思わなかったぜ!」
「こら、往来でそんなはしゃぐんじゃない。人に見られているだろう、全く。……どうせなら私が醜態を晒し」
『お前がダメな手本になってどうする、この阿呆!』
「ふおっふ❤」
「もー、またやってる。ほら、ホテルに行くよ。ずっとここにいたら風邪引くからね?」
マルヴァラーツに到着して早々、ドMるフィリールにツッコミを入れることになったルビィ。今回はアスカがいないため、彼女が大活躍するだろう。
主にフィリールへのツッコミ役として。はしゃぐサウルや興奮しているフィリールを連れ、キルトは事前にロジャーが手配してくれたホテルへ向かう。
そんな彼らを、路地裏から眺める男が一人。
「……どこで何をしてるかと思えば、こんなところに来ているとは。早速タナトス様に報告しなければな」
男……ベスティエはそう呟き、ポータルを使って次元の狭間へと戻る。主の命令で、ここしばらくキルトたちの動向を探っていたのだ。
ティアたちを差し向ける、ベストなタイミングを掴むために。ついに今、その時が来た。雪と氷の帝国にて、キルトたちは再び相まみえる。
並行世界のサモンマスター……そして、泰道亮一と。




