227話─サモンマスターたちの日常
ギール=セレンドラクでの戦いを終え、キルトたちは故郷へと帰還した。リオへことの子細を綴った手紙を送り、訪問はまたの機会にと伝える。
そうして、彼らは日常へと帰っていく。新顔であるサウルと共に。メソ=トルキアに戻ってから、四日が過ぎて……。
「おーい兄ちゃん、こっちAランチ二人前ね!」
「こっちはCランチを三人分頼むよ~!」
「はーい、ただいま! ひえー、忙しすぎて目が回るぞ!」
安息日のお昼、サモナーズショップ一階にあるレストランは今日もアスカの作るお手製ランチを求めてやって来る客で賑わっていた。
アスカの分身人形たちが厨房で料理を作るなか、サウルはホールを飛び回りオーダーを取っていた。自立に向けた第一歩を、着々と歩んでいるのだ。
「おーい、そこの研修生さーん! こっちにお水もらえるかしらー!」
「はいはーい、ただい」
「こら、はいは一回! 疲れてきたからって適当に返事してると、後で反省文書かせるわよ!」
「ゲッ、それは困る! 次から気を付けるから、今回は見逃してくれー!」
「しょうがないわね、いいからさっさとお水持っていきなさい!」
研修中と書かれたネームプレートを胸に付け、エヴァ指導の元接客について学ぶ。一方、ネガを倒し呪縛から解放されたキルトは……。
「うーん……凄いねこれは。並行世界のサモンマスターが使う装具……こんな構造になってるんだ」
「我にはサッパリ理解出来んが、灰になったコレを完璧に復元して寄越してきたコーネリアスの技術力が凄いということだけは分かったぞ。うん」
「そうだね、流石の僕もまさかイゼア=ネデールから宅配されてくるとは思わなかったよ」
暗域で回収された灰から、コリンが復元し送り届けてきたレドニスが使っていたサモンアブゾーバーの解析を行っていた。
アジトにある専用の部屋にて、キルトはブランク状態になったアブゾーバーのブラックボックスの中を観察する。その隣で、ルビィは伴侶の頭を撫でていた。
「これをもう一つ作れれば、いざって時の予備になるかも。サモンアブゾーバーの力は実戦で嫌というほど味わったし」
「確かに、あの力をこちらが扱えるようになれば大幅に戦力が……。待てキルト、コレを使えばいいのではないのか?」
「うん、プランBを選択した時にはそうするつもりだよ。使えるものは有効に使いたいしね」
「では、使わないプランはなんなのだ?」
内部構造をまるで理解出来ず、とりあえずキルトを愛でていたルビィは質問を投げかける。そんな彼女に、キルトはプランAについて話す。
「プランAはね、この装具をサウルにあげるんだ。彼がこれを悪事に使わないって確約してくれればだけどね」
「なるほどな。ま、レドニスに返すよりは妥当な選択だろう。サウルの方がまだ、多少は善悪の判断がキチッと出来ている」
キルトはサウルが完全な善人に成長出来たと確信した時、アブゾーバーを彼に渡すつもりでいた。もちろん、複製した品は確保した上でだが。
「ん、もうこんな時間か。キルトよ、そろそろ昼飯にしよう。我はもう腹がペコペコだ」
「そうだね、アスカちゃんに何か作ってもらおっか。フィリールさんたちの作業もそろそろ終わるだろうし、みんなでご飯食べよ」
「うむ、今日は久しぶりに我があーんしてやろう。ここ最近頑張っているご褒美だ」
「み、みんなの前では恥ずかしいから困るかな……」
アジトを出た二人は、ショップの二階で商品のアクセサリーを組み立てているフィリールとドルトのところに向かう。
商品は相変わらず好評で、最近新たに発売したサモンマスターなりきりグッズ第三弾も飛ぶように売れている。
コリンへの借金も、返済完了までの希望が見えてきていた。キルトたちがのんびりと日常を送るなか……。
「ネガよ、敗れたか。だが安心するがいい、お前の無念を晴らす新たなクローンがもうじき生まれる。すぐに仇を討ってくれるだろう……第二のクローン『デミル』がな」
次元の狭間にいるタナトスは、早速ネガに代わるキルトのクローンの生成に向け動いていた。培養元の左腕から採取した細胞を使って。
培養液で満たされたシリンダーの中に浮かぶ細胞片を見ながら、死神は思考を巡らせる。そこに、ティアが入ってきて声をかける。
「タナトス、作業してるとこ悪いんだけど。アタシらはいつになったら出撃出来るワケ? そろそろアンタんとこの連中と訓練するの飽きたんだけど」
「ああ、そうだな……退屈なら、すぐに出撃してくれて構わないぞ?」
「あら、渋るかと思ってたのに。予想が外れたわ、んじゃ明日にでも行ってくるわ」
「なら、昨日お前たちの世界から連れてきた『新しい』サウルと亮一も連れて行くといい。新旧対決もなかなか小洒落ているだろう?」
「いいわね、その案乗ったわ。……リョウイチも連れてかなきゃいけないのは面倒だけどね。あいつつかみどころがなくてニガテなのよ……」
用済みとして捨てたサウルに代わる、新しい個体を元いた世界から調達してきたタナトス。サモンアブゾーバーのデータを録るため、ティアに出撃を促す。
「フッ、あやつは案外いい男だぞ? 人も食べ物も食わず嫌いはよくないと思うがな」
「はいはい、分かった分かった。何かあった時に備えて、カトラに待機してもらってて。じゃ、準備してくる。またねー」
出撃に向け、ティアは培養室を去る。少しして、部屋の奥に設置されたシリンダーの陰から亮一がヒョッコリ姿を見せた。
「話は聞いていたな? 亮一。万が一ティアと新しいサウルが敗れた時は、二人を殺し寝返るのを防ぐのだ」
「ええ、分かっていますよ。私としても、手札が増えるのはありがたいですから。しかし……あのティアという女がキルトたちに着くとは思えませんがね」
「キルトは理術研究院に在籍していた頃から年上の女性にモテていたからな、万が一そういう事にならないとも言えん。念には念を、だ」
「ああ……情にほだされる可能性があると。確かにそれは厄介な不確定要素だ、完全に否定出来ない以上は対処が必要ですねぇ」
タナトスが亮一の同行を提案したのは、単なる戦力増強が目的ではなかった。敵に寝返り、サモンアブゾーバーを提供するのを防ぐ味方殺しのためなのだ。
「密偵として送り出したベスティエからの報告では、すでにキルトは捨てられた方のサウルを手懐けている。おまけに、どうやったかまでは知らぬがレドニスの装具を復元して研究をしている……」
「それはいけませんねぇ、分かりました。これ以上装具が渡らないようにしましょう」
「任せたぞ。今全幅の信頼を寄せられるのは、お前と三人の主席研究員だけだからな」
キルトたちが日常を満喫する裏で、タナトスたちの悪事は続く。邪悪なる野望を達成するその日まで、彼らが止まることは決してない。
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「ふー、ご飯食べて元気いっぱい! 午後も解析頑張ろっと!」
「よくやるよなぁ、キルト……さんはさ。俺、そういうの全然ダメだから尊敬するよ」
タナトスたちの悪巧みなどつゆ知らず、キルトたちは客に混ざりランチを堪能する。煮込みハンバーグ定食を食べているキルトに、サウルがそう声をかける。
「あはは、ありがと。でも、サウルも凄いよ。たった数日でここまで覚えちゃうんだもの」
「確かにね、言葉遣い以外は飲み込みいいのよ。そこら辺の要領の良さはこいつの長所ね」
「へへ、褒めてくれて嬉しいぜ。……なあ、俺さ。これからもあんたたちと」
「やっほー、お邪魔するよ! ボクにもご飯を作ってほしいな!」
サウルが何かを言おうとしたところで、プリミシアが来店する。その手には、一通の封筒が握られていた。
「こんにちは、プリミシアさん。どう? 最近お父さんとは順調かな?」
「うん、ボクがサモンマスターとしての活動を続けるのを認めてくれて……っと、その話はまた後でね。実はね、今日は大切なお話があって……その……」
言葉を濁し、モジモジしながら何やら葛藤するプリミシア。少しして、勇気を出した彼女は手に持っていた封筒をキルトに差し出す。
「あの! よかったらボクと一緒に、ゼギンデーザ帝国で開催されるパーティーに行ってほしいんだ!」
「僕が……プリミシアさんと二人で?」
「うん、パパのところにルヴォイ一世から招待状が来てさ。せっかくだから、活動を認めた記念にキルトくんと二人で行っておいでって。ダメ、かな?」
上目遣いでキルトを見つめ、返事を待つプリミシア。果たして、キルトの答えは……。




