221話─竜たちの出会い
アルソブラ城を経由し、キルトたちはギール=セレンドラクに送ってもらう。ルビィたち四人にとってはオペレーション・サンダーソード以来となる来訪だ。
「やっぱりアカーーーーーン!!! こない高いとこ無理やぁぁぁぁぁぁ!!!」
「け、けけけ結構高いんだね……。さっきまでいた街くらいの高度だと思ってたのに……」
大いなる竜、ヴァールが治める天空の島々へと足を運んだ直後。アスカの悲痛な叫びがこだまする。プリミシアも、度を超した高所は苦手なようだ。
二人ともキルトに引っ付き、テコでも離れない姿勢を見せる。このままではキルトが歩けないため、ルビィが全員負ぶって行くことに。
「ぬううう……! キルトだけならまだしも、何故我がお荷物コンビまで背負わねばならぬのだ!」
「ごめんね、お姉ちゃん。後でお詫びに肩揉んであげるから……」
「フッ、任せておけキルト。我の膂力にかかれば三人くらい楽に運べる」
「変わり身早すぎやろ、ジブン」
「原因が言うな、原因が!」
コントみたいなやり取りをしつつ、一行はとりあえず以前少しだけ立ち寄った絢爛なる天竜街へと入る。前のように、リンベルに会えれば……と考えたのだ。
「ほら、街中には入ったぞ。いい加減キルトから離れろ、ひっつき虫どもめ!」
「そうよ、もう外は見えないんだからくっついてる必要ないでしょうが!」
「おあー! エヴァちゃんパイセン、アイアンクローはやめてーやぁぁぁぁ!!!!」
「もー、やめてよみんな……見られてるよ、竜人さんたちに……」
とりあえず広場に着いたところで、強制的にアスカたちをキルトからパージするエヴァ。容赦なくアイアンクローを食らわせ、無理矢理引っ剥がす。
そんなアホなことをしていたがゆえに、当然の結果として……一行は街に住む竜人たちに通報されてしまった。アホの極みである。
「コラー! そこのお前たち何をしてるー!」
「ほらー、憲兵さん呼ばれちゃったじゃないのー!」
「ふむ、ここは私に任せてくれキルト。丸く収めてみせよう」
「あんたが出てくとややこしくなるからやめなさいよ! どうせドMれそうだからしゃしゃり出てきただけでしょうが!」
「バレた……おっふ❤」
「いっそ他人のフリをしたいぞ我は……」
憲兵たちが飛んでくるなか、いつも通りのやり取りをする一行。下手に逃げても心証を悪くし、最悪追い出される可能性があるため大人しく連行されることを選ぶ。
……のだが、そのすぐ後キルトたちは広場で憲兵たちに事情を話し解放してもらうべきだったと後悔することに。何故なら……。
「熱いいいいいい!!! なにこの監獄、なんで火山の中にあるのさ!?」
「おっ……ふ❤ ふぉおおおお……❤」
「アカン、フィリールはんが二つの意味で昇天しそうや!」
連行されたのが、火山島に建てられた牢獄……『焦熱の監獄塔』だったからだ。牢屋のすぐ側をマグマの滝が流れ落ちる、フィリール的に願ったり叶ったりなとんでもない牢獄だ。
「すぐにグルーラ様が取り調べに来る、大人しくしていろ。いいな?」
「そんな奴より、アーシアに話を通してほしいんだけど! 今ここに来てるんでしょ、コーネリアス様から聞いてるんだからね!」
「なんだ、お前たちアーシア様の知り合いなのか? だとしても、ここのルールには従ってもらう。この監獄塔を管理なされているのはグルーラ様だ、まずは」
「あー、いいよそんな気にしなくて。別にオレである必要もねえさ。なあ、アーシアさんよ」
「全く……報告を聞いて飛んで来てみれば。お前たちは何をやっているのだ」
アーシアに取り次いでほしいと、見張り番に頼み込むエヴァ。そこに、アーシアを伴った竜人の男が姿を見せる。
肩や胸に雪の結晶を模した飾りが着いた、青い鎖帷子を身に着けた竜人の男は、これまた青い翼をユサユサさせながらアーシアに声をかける。
「いや、本当に僕の仲間たちが迷惑かけてすみません……」
「気にしちゃいねえよ、むしろ退屈が紛れて助かったぜ。おお、そういや名乗ってなかったな。オレはグルーラ、ヴァール様にお仕えする『雷霆の四肢』の一人さ。よろしくぅ」
「貴殿らのことはすでにコーネリアス様より言伝を預かっている。ヴァール殿の元まで連れて行ってやろう、泣いて感謝するのだな」
「むぐぐ、えらい上から目線……でも言い返せない」
装具から体色から全て青尽くしの竜人、グルーラとアーシアのおかげでどうにか釈放されたキルトたち。アーシアに案内され、雷帝の寝床がある島へ向かう。
前回はかの城で理術研究院潜入の計画を練ったが、今回は……。
「着いたぞ、この扉の向こうに聖戦の四王が一人……ヴァール公がおられる。貴殿たち、頼むから粗相をするなよ? 雷に撃たれて消し炭にされても、余は助けぬからな」
「き、気ぃつけるわ……」
「ふむ、雷か。悪く……待て、冗談だキルト。だが睨むのはやめないでくれ、物凄く興奮するから」
「ここまで来ると逆に尊敬するよ、ボクは」
城の中に入り、ヴァールのいる玉座の間の前までやって来た一同。相変わらず悪癖絶好調なフィリールに難儀しつつ、扉を開ける。
「……よく来た、汝らの話はアゼルより聞いている。この『金雷の竜』ヴァール、直々に汝らの訪れを歓迎しよう」
「おお……! 貴女様が、この大地におわすエルダードラゴン……!!」
部屋の奥に、巨大な竜が鎮座していた。黄金の鱗と六枚の翼を持つ、四肢の無い竜の女帝ヴァール。ルビィが夢にまで見た、同胞との邂逅の時が来た。
「ほう、汝……妾と同じ匂いがするな。さあ、真の姿を妾に見せておくれ。同胞よ」
「ハッ、では失礼して……。キルト、エヴァたちと共に離れていてくれ。押し潰してしまうかもしれないのでな」
「うん、分かった。みんな、下がろ」
キルトたちを下がらせ、前に進み出たルビィ。人から竜の姿へと戻り、翼を広げながら恭しくヴァールへ頭を下げる。
先祖より受け継がれてきたエルダードラゴンとしての知識により、彼女は理解していた。このポーズこそが、恭順の意を示すものだと。
「偉大なる女帝よ、我が名はルビィ。こうして、お会い出来たこと……恐悦至極にございます」
「そう堅くなる必要はない、楽にせよ。妾にとっても喜ばしいことだ、同胞との出会いは。……遠い昔、ラ・グーに一族を皆殺しにされた日から。妾はこの大地最後のエルダードラゴンとして生きてきたからな……」
ヴァールは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ルビィに近寄り互いの鼻先を擦り付ける。親愛の意を示してくれたことに、ルビィは泣きながら喜んでいた。
「……我が父母亡き後、我も……メソ=トルキア最後のエルダードラゴンとして生きてきた。それが、こうして同胞と出会えた。こんなに喜ばしいのは、キルトと出会ったあの日以来だ……う、うう……」
「妾のことは第二の母と思ってくれてよい。妾も……汝を娘のように愛そう。ふふ、実に……嬉しいものだ」
「ルビィお姉ちゃん……よかったね、本当に」
待望の同族との邂逅を果たした、感動の場面を前にキルトたちも涙ぐむ。だが、そんな微笑ましい時間もすぐに終わってしまう。
「ヴァール様、大変です! ギール=セレンドラクを守る結界を、何者かがすり抜けこのフライハイトに向かってきています!」
「! どうやら、早速来たようだね。手が早いな、並行世界のサモンマスターたちは」
一人の兵士が慌てた様子で玉座の間に飛び込み、風雲急を告げる。直後、キルトたちは悟った。レドニスの仲間たちが来たのだと。
「フン、何者であろうとこの地に暮らす民を傷付けさせはせん。どれ、久々に妾が……」
「その必要はないでしょう、ヴァール殿。ここにいる者たちはみな、サモンマスターと呼ばれる手練れ。そこにネクロ旅団死天王たる余が加われば、まさに鬼に金棒、虎に翼、アゼルにヘイルブリンガー。敵などいはしません」
「それもそうか。では、妾は四肢と共に守りを固めよう。敵の迎撃は任せたぞ」
「我やキルトたちにお任せを、偉大なる女帝よ。この地を脅かす者は、全て我が滅する!」
フライハイトに向かってきている敵を撃滅するため、キルトたちは人の姿に戻ったルビィやアーシアと共に玉座を出る。
一方、フライハイトから遠く離れた空の片隅では……無数のエルダードラゴンたちが、先頭を行くオニキスに追従していた。
「ふふふ、オリジナルが驚く顔が目に浮かぶよ。タナトスに無理言って、君の運命変異体を集めてもらった甲斐があるってものさ」
「ククク、ソウダナ。ダガヨカッタノカ? ネガ。アノサモンマスタータチト連携シナクテ」
「いいのいいの、僕たちも彼らもワンマンプレイが得意なんだし。一緒にいてもかえって邪魔さ、そうでしょ? オニキス」
「ソレモソウダ、我々ダケデカタガツクカラナ」
総勢百を超えるエルダードラゴンの大艦隊が、フライハイトに迫る。竜たちの大戦争が、今始まろうとしていた。




