220話─赦された乙女
レドニスを打ち倒したプリミシアは、魔法で作った蓋付きの桶の中に彼の生首を入れる。エヴァに指定された通り、首を持ち帰るためだ。
何事もなくメルカニオラに戻るも、キルトたちのいる医療施設には向かわない。目的を果たしたとはいえど、それをエヴァたちに認めてもらわなければキルトに会う資格はない。
生真面目なプリミシアは、そう考えていたのだ。街の片隅にある広場にて、魔法石を使って連絡を取りエヴァを呼ぶ。
「あら、案外早く戻ってきたわね。……ふうん、五体満足か。で、ちゃんとレなんとかをブチ殺して首を獲ってきたんでしょうね?」
「う、うん。これ……」
「どれどれ……って、よく考えたらアタシたちレなんとかの顔知らないじゃない! 待ってて、ルビィに確認してもらってくるから」
ビクビクしているプリミシアから桶を受け取り、中身を確認するエヴァ。が、ここで重大な問題があることに気付く。
レドニスが去った後に合流したため、彼の顔を知らないのだ。そこで急遽トンボ帰りし、ルビィに確認してもらうことに。
「ただいま。ルビィに確認してもらったら、レなんとかの首だって保証してくれたわ。……あんた、やれば出来るんじゃない。見直したわよ、プリミシア」
「エヴァちゃん……。ありがとう」
「生首の件はキルトには内緒よ、野蛮だって怒られちゃうから。さ、戻ってキルトに仇を討ったことを伝えてあげなさい」
少しして、戻ってきたエヴァは穏やかな表情を浮かべていた。約束を果たし、死に物狂いでレドニスを討ったプリミシアを赦したのだ。
涙ぐむプリミシアの肩を優しく叩き、彼女を連れポータルを潜り医療施設へと戻る。
「あ、プリ……ロコモート! よかった、姿が見えないからしんぱ……あれ、マスクは……」
「ふふ、もうマスクは被らないことにしたんだ。……今回の件で、ボクは思い知ったよ。今までの自分が、どんなにちっぽけで情けなかったのかを」
「ロコモート……」
「ふふ、その呼び名も戦闘中以外は呼ばなくていいさ。これからは、その……ふ、普通に名前で呼んでほしいな」
「うん、分かった! 僕の代わりにレドニスを倒してきてくれてありがとう、プリミシアさん!」
エヴァの計らいでキルトと二人きりになり、諸々の報告を行うプリミシア。想い人に名前を呼ばれ、そばかすだらけの頬を朱に染める。
「はい、二人きりタイム終わりー。甘酸っぱい青春の時間も終わりでーす」
「せやせや! キルトから離れーや!」
「ちょ、いくらなんでも早すぎじゃない!?」
直後、ポータルが開きエヴァたちが乱入してきた。嫉妬心が勝り妨害しに来たようだ。閑話休題、仲間が揃ったところでキルトたちはこれからのことを話し合う。
「僕としては、やっぱりメソ=トルキアに戻った方がいいと思う。相手がどんな手を使ってくるか分からないし、余所の大地に迷惑をかけるわけにも……」
「あー、それなんだけどね? ポータルをメソ=トルキアに繋げようとしても、全然繋がらないのよ。何度試しても、何かに弾かれてるみたいに手応えがないの」
「……なるほど、ネガの仕業だね。どんな理由があるか知らないけど、僕たちを故郷に帰すつもりはないみたい」
「だが、そうなると厄介なことになるな。いつ襲撃されるか分からない以上、私たちが居られる場所が限られてくるぞ」
ネガの妨害は続いているらしく、メソ=トルキアに戻ることは不可能らしい。フィリールの言葉に、キルトたちは悩んでしまう。
今回のように、無関係な一般市民を巻き添えにしてしまうのは絶対にあってはならない。ゆえに、滞在可能な場所が大幅に減ってしまうのだ。
「ふむ、それならばちょうどいい場所を知っておるぞよ。お主ら、ギール=セレンドラクに行くがよい」
「うおっ、いきなり壁を抜けてくるでないわ! 思わず尻尾を叩き付けるところだったろうが!」
「ほっほ、悪いのう。ちょいとイタズラしたくなったんじゃ」
にっちもさっちもいかなくなったところに、突然壁をすり抜けてコリンがやって来る。ギョッとしているルビィたちに笑った後、真面目な表情になる。
「かの大地には無数の迎撃拠点がある。都合がよいことに、どこも人里から離れておるでの。主らが敵を迎え撃つには好都合じゃろうて」
「そらそうやけど……今からアポ無しで行ってもええんやろか?」
「フッ、それくらいわしが口利きしてやるから心配せんでよい。というより、すでに話は通してある」
「やけに早いですね……その手際の良さ、本当に見習いたいですよ」
「なに、かの地にいるわしの元部下に無理を通しただけじゃよ。感謝するなら彼女……アーシアにするがよい」
盗み聞きしていたのか、それともレドニス襲来の時からこうなると察知していたのか。あまりにも良い手際に、キルトは舌を巻く。
「まあ、手助けしてもらえるならありがたい限りだ。ところで、そのアーシアは今どこにいるのだ?」
「うむ、お主らを受け入れてくれる者のいるところですでに準備をしておると連絡があった。場所は……以前キルトとロコモート以外の四人が行ったフライハイトじゃ」
「ああ、あそこか……そういえば、そこには我と同じエルダードラゴンがいるのだったな。前は会えなかったが、今回は……」
前回、キルトを苦しめる魔魂香炉を破壊するための作戦を立てる際ルビィたちはフライハイトにて会議を行ったことがあった。
だが、その時は折り悪く浮島の主……黄金のエルダードラゴン『金雷の竜』ヴァールは留守だった。今度こそ同族に会いたいと、ルビィは強く願う。
「そういえば、あの双子たち実家に帰省してるんだっけ? ボクたちから事情を話せば、合流して一緒に戦ってくれるんじゃないかな?」
「確かにそうだな。家族の団らんの邪魔をするのは気が引けるが……今はそうも言っていられないか」
「うう、また高所地獄を味わう羽目になるんかぁ……嫌やわぁ……」
「ま、とにかくまずはギール=セレンドラクに行くのが先じゃ。わしが送ってやるでのう、安心するがよいぞ。ほほほほほ」
話し合いの末、今後の方針は決まった。キルトとプリミシア以外の四人は、二度目となるフライハイトへの渡航を経験することになるのだった。
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「ちょっと、どういうことよ!? レドニスの生命反応が消えたって!」
「どういうことも何も、言った通りだ。奴は死んだ、恐らくキルトの仲間にやられたのだろうな」
「嘘だ……嘘だそんなことーーー!!!」
その頃、ティアとサウルはタナトスからレドニスが死んだことを聞かされていた。仲間の死にショックを受け、崩れ落ちるサウル。
一方、ティアの方は怒りに燃えていた。タナトスに食ってかかり、八つ当たりする。
「アンタが……アンタが全て悪いのよ! こうやってあたしたちを……」
「やめろ、ティア。怒りの矛先を間違えるな、憎むべきはレドニスを殺した者だ」
理術研究院の院長室を模した部屋の中で、口論が始まろうとしたその時。部屋の中に入ってきたカトラがティアにそう声をかけた。
「くっ……もういいわ、とにかく! アタシはレドニスを殺した奴を許さない。取っ捕まえてブチのめしてやるわ」
「なら俺も手伝いますよ、ティアさん! 全員でかかれば楽勝ですって!」
「仇討ちをしに行くのは結構だが、カトラには残ってもらう。ネガが諸君らの召喚具……サモンアブゾーバーを解析したいようでね、協力者が要るんだ」
「フン、カトラがいなくても問題なんてないわ。アタシたちがド派手に暴れてくるわ」
「……気を付けろ。敵は手練れだ、油断は死に繋がる」
レドニスの仇を取るため、第二の刺客たちが動く。舞台を天空の島々へと変え、キルトたちと並行世界のサモンマスター一味の戦いは続く。
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