218話─復活と侵食
二時間後、キルトとルビィは蘇生の炎の力で無事よみがえることが出来た。が、一つ問題が発生してしまっていた。それは……。
「……侵食されてるね、確実に。多分、僕が死ぬ度に少しずつネガの力が身体を蝕んでいくんだと思う」
「厄介なものじゃのう、それは。ううむ……クローン、か。フラスコの中の小人であれば多少知識はあるが……そちらはどうにも専門外じゃ。役に立てなくて済まんのう、キルト」
「いえ、こうしてルビィお姉ちゃん共々生き返らせてもらっただけでありがたい限りですよ。本当に、なんてお礼を言えばいいか……」
キルトの身体が、ネガという存在によって侵食されていたのだ。左目が赤く染まり、髪に白い毛がまばらに混じっている。
エステルの報告を聞き駆け付けたコリンと、秘密の話し合いを行うキルトとルビィ。外部に話が漏れないよう、一旦面会謝絶状態にしながら。
「しかし、これは由々しき事態だ。キルトと我を殺したあの男……我らがよみがえったとネガが知れば、また襲来してくるぞ」
「そうだね、お姉ちゃん。そのことを考えたら、この街にはいられないよ。残念だけど、旅行は中止してメソ=トルキアに」
「こらぁ~! ふざけたこと言ってんじゃないわよこの青鬼! キルトが生き返ったのは気配で分かるのよ、早くここを通しなさーい!」
「今は面会謝絶なんです~、大人しく戻っ……大変、一人抜けたわ~!」
無関係な人々が巻き込まれるのを防ぐため、故郷に帰ることを決めるキルト。そのことを伝えようとした瞬間、医務室の外から騒がしい声が響く。
「へへへ、ウチが一足先……おあー!?」
「先には行かせぬ! 拙者の泡ですっ転ぶがよい!」
「ほう、カニのように泡を吐けるのか。ふむ……私も転ばせてもらおう」
「こんな時にドMってんじゃないわよ、このバカフィリール! さっさとこっちに来て青鬼女を引き剥がすの手伝いなさい!」
「おっふ❤」
どうやら、エヴァが本能でキルトの復活を察知したらしい。コリンの仲間たちの妨害を掻い潜り、医務室に侵入しようとしているようだ。
「……相変わらず騒がしいの、お主らの仲間は。いや、わしも人のことは言えぬか。あー、カトリーヌにツバキよ、もう通してやれ。面会はしてよいぞ」
廊下の方から聞こえてくる騒がしい声を聞き、ため息をつくコリン。手元の魔法石で仲間に連絡をし、面会謝絶を解く。
直後、怒濤の勢いで扉が開きエヴァたちが転がり込んでくる。たんこぶや泡にまみれ、顔じゅう涙でくちゃくちゃにしながらキルトに抱き着いた。
「キルトぉぉぉぉぉ!!! よかった、ちゃんと生き返れて……ホント、よかったぁ……」
「兄上の時のように……目の前が真っ暗になったよ。でも、こうして無事復活出来て心から安堵している……ダメだ、涙が……」
「キル……ごふっ、えぶっ、あぶぁぁぁぁぁぁ!!」
「わ、わ、そんないっぺんは無理……助けてお姉ちゃーん!」
「ええい、キルトから離れろ! この鼻水垂れどもめ!」
仲間に揉みくちゃにされ、思わずキルトはヘルプコールする。ルビィに引き剥がされ、ようやくエヴァたちは落ち着いた。
「みんな、心配かけてごめ……あれ? ロコモートは?」
「ああ、あいつ? あいつは今キルトへの接近禁止令を出してるの。今頃、キルトの仇討ちをしに行ってると思うわ。アタシがポータルで送り出したから」
「なに!? エヴァ、我らがいない間に何を勝手な」
「仕方なかろう、ルビィ。ロコモート……いや、プリミシアのせいでキルトは死んだ。その償いくらいしてもらわねば、私たちの怒りは収まらないからな」
魔力の痕跡から、レドニスが暗域にいることを突き止めたルビィは心機一転したプリミシアを追撃に向かわせた。そのことを知り、ルビィが咎めようとする。
そこに、これまで聞いたこともないフィリールの冷徹な声が響き思わず沈黙してしまう。あまりの迫力に、コリンも冷や汗を流している。
「だからって、そんな……僕は気にしてないのに」
「ダメだ、キルト。そうやって甘やかしていたら、プリミシアはどんどん堕落する。いつまでもマスクがないと戦えないようでは、GOSの一員として認められない」
フィリールの言葉に、キルトもしゅんとしてしまう。そんな少年の手を、ルビィはそっと握る。
「大丈夫、あやつは強い。必ず勝って戻るさ」
「……うん、そうだね。僕、信じるよ」
そう口にする二人を見ながら、エヴァたちは静かに佇んでいた。
◇─────────────────────◇
「よっ、また一匹釣れたな。ハハハ、これだから釣りはやめられないんだ。楽しくて仕方ないや」
その頃、レドニスは暗域の第一階層世界『トーリアス』にある湖にいた。ネガにキルトを抹殺した旨を報告し、褒美に高級な釣り用具一式を貰ったのだ。
元の世界にいた頃からの趣味である釣りを、一人で存分に楽しむレドニス。そこに、足音が近付く。
「おっと、さっきベソかいてた女が何の用かな? オレ、今釣りしてて忙しいんだけど」
「へえ、足音だけで分かるんだね。悪いんだけど、釣りの時間は終わりだよ。……リベンジさせてもらう、キルトくんの仇を討つために!」
マスクを捨て、素顔を晒したプリミシアがレドニスに声をかける。振り向くこともせず、釣り用の服に着替えていたレドニスはため息をつく。
「はあ、人の趣味の時間を奪うなんて嫌な人だね。いいよ、そんなにオレの邪魔をしたいならさ……」
『サモン・アブゾーブ:♣A:ENGAGE』
「ここで死ねよ」
振り向きながらサモンアブゾーバーを装着し、変身を行うレドニス。そして、デッキから翼を広げるミミズクが描かれたトランプを取り出す。
『♣J:FLOAT』
「!? こいつ、空を飛べるのか!?」
背中にミミズクの翼を生やし空に飛び上がるレドニス。驚くプリミシアに、ニヤリと笑みを向ける。
「ああ、そうさ。接近戦なんてしてやらないよ、一方的になぶられて死にな!」
『♣9:SHOCK』
『♣10:WAVE』
『IMPACT SONIC』
ハンマーに二枚のカードを吸収させ、空中からひたすら衝撃波を飛ばして攻撃するレドニス。ブーメランしか遠距離攻撃方法のないプリミシアは、走って逃げ回ることしか出来ない。
「ほーらほら、体力が尽きるまで逃げなよ。尽きた瞬間に粉々にしてやるからさ!」
「悪いけど、ボクはまだ死ねないんだ。これまでの自分から生まれ変わって! お前を倒すまではね!」
衝撃波を避けながら、プリミシアは叫ぶ。本当の勇気に目覚めた彼女は、もう止まらない、恐れない、挫けない。
素顔のまま、プリミシアは空を見上げる。天の高みにいるレドニスを睨み……心のままに叫びをあげた。
「モートロン、ボクに力を貸して! ……やるんだ、ボクもリジェネレイトを! あいつを倒すために!」
『ああ、その言葉をオレぁずっと待ってたぜ。受け取れ、プリミシア。百万馬力のフルパワーをな!』
【REGENERATE】
決意を固めたプリミシアの目の前に、一枚のカードが現れる。銀色の渦の中に浮かぶ、赤色の指輪が描かれたカード。
上部に『REGENERATE─勇気』と記されたそれを手に取り、ベルトのバックルに挿入する。直後、プリミシアの身体を炎が包み込む。
「うおっ!? な、なんだありゃあ!?」
「……見せてあげるよ、レドニス。本当の勇気に目覚めたヒーローの力を! どんなに傷付いても、無様に泥にまみれても……ボクは勝利を諦めない!」
【Re:REAL BRAVE MODEL】
コスチュームの銀色の部分が鮮やかな赤に、ピンクの部分がオレンジ色へと変わる。一見、ただ色が変化しただけだが……レドニスは感じていた。
相手が見違えるほど強くなったことを。リジェネレイトがもたらす、強大なパワーを。
「へえ、こりゃ驚いた。まさか、オレたちの切り札みたいなことをしてくるとはな。ま、それくらいやってくれないと拍子抜けだよなぁ! オラッ!」
「悪いけど、もうそんなのは当たらないよ。今の僕は……サモンカードの力が無くても飛べるからね!」
「なにっ!?」
そう口にした直後、プリミシアはふわりと宙に浮かび上がる。高速飛行で衝撃波を全て避け、レドニスの懐へ飛び込む。
「やべ……!」
「キルトくんの仇だ! ブレイブナックル!」
「うおおおおおお!?」
相手の胴体に正義の鉄拳を叩き込み、地に叩き落とすプリミシア。その眼にはもう、怯えは無い。本当の勇気を胸に、少女は戦う。




