214話─天空の娯楽都市
二日後の朝、準備を終えたキルトたちは旅行に行くためアジトを出る。最初に向かうのは、コリンが待つ星騎士たちの大地……イゼア=ネデール。
シャポル霊峰のふもとに降りると一行の前にドアが現れる。キルトたちが驚いているとドアが開き、コリンの従者マリアベルが姿を見せた。
「ごきげんよう、サモンマスターの皆様。旦那様の命により、皆様をお迎えにあがりました」
「わ、ビックリした。どうやってアタシたちが今日出発するって知ったわけ? マリアベル」
「ふふふ、旦那様は全てお見通しなのですよ。さ、どうぞこちらへ。お召しもの等お取りします、お入りください」
「はーい、失礼しまーす。……なんか凄いですよね、マリアベルさん。分身たくさんいて」
扉の向こうからゾロゾロと無数のマリアベルたちが現れ、キルトたちの旅行カバンや上着を預かって戻っていく。それを見て、キルトはそう呟いた。
「まあね、この人城が本体……って、なんでアタシのは持ってってくれないわけ!?」
「他の方はおもてなしすべきお客様ですが、貴女は同僚ですので。自分の荷物は自分でお持ちくださいね、エヴァンジェリン」
「ちぇ、薄々分かっちゃいたけどあんたコーネリアス様以外にはかなり塩対応よね……」
「ふむ……なるほど。では私には塩以下の対応を……」
「フィリールは黙っていろ! 相手が引くだろうが!」
「おっふ❤」
エヴァへのツンとした態度を見て、フィリールの悪いクセが早速発動する。が、即座にルビィが尻に尻尾を叩き付け事無きを得た。
リリンとは違い、特にリアクションすることなくマリアベルは一行を案内する。この程度の変人などもう慣れているらしい。
扉を潜ったキルトたちを、豪華絢爛な玄関ホールが迎え入れる。巨大なシャンデリアを見上げ、アスカは舌を巻く。
「ひえー、こんな凄いの映画くらいでしか見たことあらへんでウチ」
「ようこそ、旦那様の住まうアルソブラ城へ。ダイニングにご案内します、もしまだでしたら朝食をお作りしますが如何いたしますか?」
「あ、じゃあお願いします。目的地に着いてから食べようって思ってたので」
「かしこまりました。では腕によりをかけてフルコースを作らせていただきますね」
マリアベルAにダイニングへと案内してもらうと、そこにはコリンがいた。暗域で発行されている新聞を読んでいたが、キルトたちに気付きニコリと笑う。
「お、来たのう。ささ、ちこう寄れ。この前の騒動では世話になったの、フィルとアンネローゼに代わり礼を言うぞよ」
「いえいえ、こちらこそコリンさんに協力してもらえて助かりました。ところで、その後……」
「ああ、わしの進退かえ? ほっほ、問題ないわ。タナトスめがウォーカーの一族だという証拠を議会で提出したでな、お咎め無しになったわ」
「そっか、それならよかったです」
長い机の端にある肘掛け椅子に座っているコリンの側に着席し、キルトは彼に礼を言う。不可侵の存在である理研に手を出したことで禍を背負っていないかハラハラしていたが、心配が杞憂で終わりホッと安堵する。
「うむうむ、まあタナトスの調査と追跡を命じられたがの。そこでエヴァンジェリンよ、そなたに勅命を下す。わしの名代として、キルトたちと協力しタナトスを追うのじゃ!」
「……まあ、そんな予感はありました。分かりました、このエヴァンジェリン拝命します!」
「よく言うた、それでこそグラキシオス王の息女よ。というわけで、これを持って行くがよい。次元の狭間で座標を特定するためのコンパスじゃ。これがないと延々彷徨うことになるでの」
「ありがとうございます、コーネリアス様。……もしたして、イゼア=ネデールに来いとおっしゃられたのはこのためですか?」
コリンは指を鳴らし、腕時計型のコンパスを呼び出してエヴァに授ける。受け取った後、エヴァは主君にそう質問した。
「半分はそうじゃ。もう半分はお主らを労うためじゃよ。人数は……六人か。ほれ、これを」
「なんやこれ。なんかのチケットかいな?」
「うむ。詳細は省くが、わしの身内じゃったクソ邪神が昔運営しておった歓楽都市をパクッた街を百年前に建設してな。そこでパーッと遊んでリフレッシュしてもらおうと思ったんじゃよ」
再び指を鳴らし、コリンはキルトたち一人ひとりに金と黒で彩られたチケットを渡す。表面には『娯楽都市メルカニオラ永久フリーパス:我が友のために』と記されていた。
コリンの言う邪神に心当たりがあったエヴァは、苦笑しながらチケットを懐に仕舞う。
「ああ、例のオルドーとかいう奴の……」
「うむ。奴へのあてつけじゃ。自分のアイデアをパクられたことをあの世で永遠に悔しがってると思うと気分がいいわい! わあっはっはっはっ!」
「おおっ、オトンが遊んどったゲームのラスボスとおんなじ笑い方や! コッテコテの悪役みたいやわぁ~」
「ゲーム……? ふむ、アスカというたか。お主の世界の話、詳しく聞きたいのう。ユウは前世が前世なだけに悲惨な話しか聞けなかったでな」
そんな話をしていると、料理が出来たようでマリアベルたちが運んでくる。贅沢な素材を山ほど使ったフルコースを、キルトたちは談笑しながら堪能したのだった。
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「ここがコリンさんの言ってた娯楽都市……メルカニオラかぁ。凄いや、空中に浮いてるんだね!」
「ああ、いい眺めだ。空気もひんやり澄んでいていい気分……ああ、アスカは高いところが苦手だったな」
「ううう、コリンはんも人が悪いで! ウチこんな高いとこ一人で歩けへんわ!」
朝食を食べた後、キルトたちはマリアベルに娯楽都市メルカニオラに送ってもらう。かつて『船滅ぼしの三角海域』と呼ばれた海の上、遙か天の頂に創られた天空の街。
あらゆる娯楽と人の欲望が集う、決して眠らない魅惑の街での楽しいリフレッシュが始まるのだ。……が、高所恐怖症のアスカには少々キツイらしい。
「アスカちゃん、大丈夫? そうだ、僕が手を繋いであげる! そしたら怖くないでしょ?」
「へ!? あ、うん。おおきに……」
キルトに手を握られ、生まれたての子鹿みたいにぷるぷるしていたアスカは頬を赤くする。それを見て、ルビィたちは悔しそうにしていた。
「くっ、アスカめ……羨ましい!」
「アタシも高所恐怖症ならよかったのに……」
「ああ……そうすれば高所への恐怖とキルトの手の温もりのドキドキの両方を同時に味わえてお得だったのに」
「……ボクはフィリール以外の意見に賛成だね、うん」
思わぬ形でキルトとスキンシップを取れたアスカを羨む仲間たち。そんなやり取りをしつつ、コリンにおすすめしてもらったホテルへ向かう。
観光ガイドブックに記されている地図を頼りに、六人はホテルが建ち並ぶエリアに向かう。大通りは観光客でごった返しており、活気に満ちている。
「あ、あったあった。ここだよ、この『カプリコーン・グランナーダ・ホテル』だよ」
「これまた随分と大きな建物だ。以前行った双子大地を思い出すな……まあよい、入ろう」
「ええなあ、こういうの見てると大阪を思い出すわぁ」
三十階建ての高級ホテルのエントランスに入ると、従業員らしき女性が真っ直ぐキルトたちの元にやって来る。一礼した後、一行に声をかけた。
「お待ちしておりました、メルシオン御一行様。コーネリアス様より、皆様をロイヤルスイートルームにご案内するよう仰せつかっております。お荷物をお預かりしましょう、さあこちらへ」
「あ、どうも……」
従業員に案内され、エントランスの奥にあるエレベーターに乗り込むキルトたち。まずはイゼア=ネデールにて、めくるめく漫遊紀行が始まる。
その裏で、タナトスたちの陰謀が進んでいることなど知ることもなく。




