212話─キルトたちのバケーション
楽しいパーティーの翌日、英雄たちはそれぞれの在るべき地へと帰り……再び日常が始まった。それから一月ほど経った頃、キルトたちがアジトのリビングに集まっていた。
「はーい、みんな注目! メソ=トルキア大戦からずっと働き詰めだったので、しばらく休養したいと思いまーす! 異議のある人ー?」
「異議なーし!」
ゼギンデーザやレマール、ウィズァーラといっ各大国に属するサモンマスター。そして、先祖の遺産を奪った理術研究院との戦い。
それらが終わり、ひとまず悪は断たれた。そこで、キルトは仲間たちへの労いにしばしの休養を取ることを提案したのだ。
「おやすみおやすみー! 楽しみだね、めーちゃん」
「そうだね、いーくん。またパパに会いたーい!」
「全く~、君らは甘えん坊だねぇ。でもまあ、それもいいんじゃないかな? 私もしばらく滞ってた研究を進めたいしね」
「そうだな、俺ももうそろそろ里帰りしたかったところだ。母上には会えたが、父上とは久しく会っていないしな」
キルトの提案を受け、イゴールとメリッサにアリエル、ウォンはいの一番に賛成する。双子とウォンは里帰り、アリエルは研究とやりたいことがあったからだ。
「ま、各々やりたいことをすればよかろう。ところでキルトよ、休みはどのくらいの期間を予定しておるのだ?」
「んーとね、オルタナティブ・レギオンじゃ対処出来ない事態が起きるまでは休みでいいんじゃないかなあって」
「ふっふっふっ、安心したまえよ読者くん。私が量産したオルタナティブ・コアを用いた軍勢がいれば並大抵の事件なんてすぐ解決さ」
パーティーが終わってから、キルトとアリエルはとある計画を進めていた。自分たちがメソ=トルキアにいない時でも、防衛手段を維持出来るように。
それをコンセプトに、デルトアとゼギンデーザ両軍の標準武装としてオルタナティブ・コアを量産し配備したのだ。
そうした努力の甲斐あって、キルトたち純正のサモンマスターがいなくともある程度の敵なら対抗出来るよう戦力が増強された。
「本当、二人は凄いものだ。エルミア殿も喜んでいたよ、これで自分もサモンマスター気分に浸れるとね」
「あはは、確かに凄く喜んでたなぁ母上。まるで子どもみたい……っと、話が逸れちゃった。フィリールさんたちは何をするの?」
「私か? 私は当然キルトの側にいるぞ。ま、宮殿に戻って父上たちに武勇伝を聞かせてからだけど」
「ウチもキルトと一緒におるで。一人でどっか行こうにも何も知らへんさかいな」
「アタシもキルトと一緒にいるわ。で、提案があるんだけど……」
話がやや脱線しかかったところで、キルトはフィリールたちに休みの間何をするのか尋ねる。考え込んでいるプリミシア以外は、全員キルトと共にいるつもりのようだ。
そんななか、エヴァがキルトにとある話をもちかける。それは……。
「前に言ってたじゃない、あのバカ二人……名前忘れたけどそいつらの石化を解く方法を探しに、別の大地に行ってみたいって」
「あー、そういえばそうだった。遺産騒動ですっかり忘れてたよ」
「だから、その方法探すついでに……旅行に行かない? コーネリアス様の治める大地、イゼア=ネデールに」
エヴァの言葉で、キルトは思い出す。エシェラとメルムを救うための方法を、いずれ外の大地に探しに行こうと考えていたことを。
「あー、確かにコリンさんって凄い博識だし石化を解く方法知ってるかも!」
「でしょでしょ? それに、パーティーの時に念押されたのよね。近々遊びに来てほしいって。あ、こういう時のあの方のお願いは断ったらひどい目に遭うから行くのは確定よ」
「いや、すっぽかしたら何されるねん……怖いわー」
「ふむ……どんな恐怖を味わうのか今からたのし」
「あんたは黙ってなさいこのドM!」
「おっふ❤」
いつものくだらないやり取りが行われ、全員吹き出してしまう。そんななか、ルビィが挙手する。彼女にも行きたいところがあるようだ。
「悪いが、我は行けないな。我は別の大地に行きたいのだ。ギール=セレンドラク……そこにはエルダードラゴンがいるとリリンが言っていた。その者に会ってみたいのだ」
「あー、そうだね。お姉ちゃん、前から同族に会いたいってずっと言ってたもんね。じゃあ、いっそ両方行く?」
「それもええねんけどなー、ウチリオはんからキルト宛ての招待状預かっとんねや。例の騒動の解決に動いてくれた礼がしたいっちゅー話や」
「わー、すごいねー。キルトさんモテモテだー」
「モテモテー!」
以前リリンから言われた、同族が会いたがっているという言葉にずっと惹かれていたルビィ。いい機会だからと、会いに行きたいらしい。
キルトが賛同すると、アスカがセーラー服の中から一通の封筒を取り出す。盾の封が捺されたそれを、のほほんとした様子でキルトに渡す。
「いや、もっと早く渡してよアスカちゃん!?」
「すんまへんなあ、すっかり忘れとったんや」
「全く、お前は……まあよい、なら三つの大地全てを回ればいいだけだ。旅とはそれくらい壮大なものであってもいいだろう」
「ま、それもそうだね。そうだ、プリ……ロコモートも一緒に来る?」
「え、あ、うーん……ごめん、ちょっと考えさせて。ボク、まだ決められなくて」
それまで無言を貫いていたプリミシアに、キルトは着いてくるか問いかける。が、どことなく元気がないようで歯切れも悪い。
自分たちが双子大地に行っている間に、何かあったのかもしれない。そう考え、キルトは深く追求することはしなかった。
「そっか、分かったよ。しばらくは旅行の準備をするから、それまでにどうするか教えてくれればいいからね」
「……うん、ありがとう」
キルトの気遣いに感謝した後、プリミシアはまた黙りこくってしまう。それぞれの予定に思いを馳せる仲間を余所に、キルトは覆面のヒーローを心配そうに見つめていた。
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「どうしてダメなんですか! 僕たちに出撃許可をください! 隊長の仇を討ちたいんです!」
「ダメだ、並行世界のラ・グーと本契約したシモンズでさえ奴らに敗れたのだ。今のお前たちが仇討ちに向かったところで何が出来る? 返り討ちに合うのが関の山だろう」
その頃、次元の挾間にあるウォーカーの一族の拠点へ逃げ延びたタナトスたちはちょっとした口論を行っていた。
キッシュたち旧Ω-13の残存メンバーが、シモンズことサモンマスターランズの仇討ちをしたいと言い出したからだ。
「それは、そうですけど……」
「案ずるな、この聖地で力を蓄えればお前たちは比類なき力を得られる。まずは己を鍛えろ。そうすれば、いずれ仇討ちが出来るようになる」
「それはいいのだけれど。その間、誰がドラクルたちの相手をするのかしら? ウォーカーの一族が出張るのかしらね?」
「パティラ、そこはすでに考えてある。……私の力を使うだけだ。それで駒は増やせる」
キッシュと共に抗議をしていた、緑にオレンジのメッシュを入れた髪を持つ女……パティラが問う。すると、タナトスは答えた。
「並行世界から呼び寄せるのさ。この基底時間軸世界とは異なるルールと力を備えるサモンマスターたちをな」
「私たちと……異なる……?」
「そうだ、並行世界は無限の『もしも』が存在する場所。どこかの世界にあるものなのだよ、私が求めるものが必ずね」
「じゃあ、今はその並行世界のサモンマスターを使うということですね?」
「そうだ、キッシュ。場合によっては、並行世界のサモンマスターの力をお前たちにも使わせてやる。そうすれば、より早く仇討ちが出来よう」
タナトスのプランを聞き、キッシュとパティラは顔を見合わせる。ひとまず、その計画に乗ることにしたようだ。
「そう、まあいいわ。それじゃ、楽しみにしておくわ。並行世界のサモンマスターがどんな力を使うのかをね。行きましょ、キッシュ」
「はい!」
二人がタナトスの部屋を出た後、死神は椅子に座ったまま黄金の門を作り出す。ウォーカーの一族が用いる、並行世界へと至るための力。
それを使い、呼び寄せようとしているのだ。自分のめがねに適う、基底時間軸世界とは異なる力強さを持つサモンマスターたちを。
「さて、まずはどのような者を呼ぶか……。ふむ、ここは試しに……」
ひとりごとを呟きながら、タナトスは検索機能を使い世界の座標を探る。次元の狭間へ逃げ延びた悪が、静かに牙を磨いていた。




