211話─英雄たちの宴
東の理術研究院での決戦から、三日が経った。その間、キルトと本家の二人は双子大地に取り戻した遺産を返しに向かい。
リオは自分たち魔神の一族と懇意にしている、北の理術研究院の院長を動かして後片付けをし。コリンは理研跡地にて、ウォーカーの力の痕跡を探した。
それぞれの目的を果たした後、リオの暮らす大地……キュリア=サンクタラムに集まって大規模な祝勝会が行われることに。
「えー、今日は集まってくれてありがとう! もう知ってると思うけど、この度東の理術研究院を潰して奪われたフィルくんたちの遺産を取り戻しました!」
「ついでに、院長タナトスがウォーカーの一族だったという証拠もバッチリゲットじゃ。それを祝し、わしとリオのポケットマネーで宴を開くことにした。みな大いに楽しめ! 以上……パーティータイム!」
「おおおおおおお!!!」
リオたちの居城、グランゼレイド城の大広間が空間魔法で拡張されパーティー会場に。魔神の一族やネクロ旅団の重鎮、コリンの配下たる十二星騎士。
そして、アンネローゼやフィルを含む双子大地からの招待客にキルトたちGOSのメンバーとユウの仲間たち……大勢が参加していた。
「ほら、いっぱい食べなユウ。好きなもん好きなだけ食べて、笑顔いっぱいの幸せになれ」
「そうそう、でも栄養バランスは考えないとダメよユウくん。ほら、お野菜も食べてね。じゃないと、ブリギットみたいになるわよ」
「おうコラ、それどーいう意味デスかシャロ。後で会場の裏に来るデスマス。木の下に埋めてやるデスよコラ」
『もぐもぐもぐ……』
「ユウの好きなものたくさん用意したから、お腹いっぱい食べてね!」
会場の一角にあるビュッフェコーナーでは、チェルシーとシャーロット、ブリギットにリオの四人がひたすらユウにご飯をあげて可愛がっていた。
そんな彼女らの元に、近付いていくバカが一人。コリンの配下、ドレイクだ。黙々と大量の料理を平らげる姿を見て、興味を持ったらしい。
「ようボウズ! ちっこいのにすげぇ食いっぷりだな、惚れ惚れするくらいだぜ」
『ひえっ!? お、おじさんは誰ですか……?』
「オレか? オレはキャプテン・ドレイク。泣く子も黙る大海賊さ! グオーッ! てな」
『ひう……こ、怖い……ふえ』
いきなり海賊ルックの大男に話しかけられ、おまけに上から見下ろす形となりユウのトラウマスイッチが若干入る。その瞬間、シャーロットたちの様子が変わった。
「そんな怖がんなくても大丈夫だぜ? 別に取って食うぼふっ!?」
「うちのゆーゆー泣かせたデスね? 許さんデス、あばらバキ折るデスマス」
「テメー覚悟出来てんだろうなオラァ!」
「そうね、やっちゃいなさい二人とも。よしよし、大丈夫だからねユウ。怖いのはやっつけちゃうから」
「ちょ、待て! オレは無罪……あぎゃー! おい、助けてくれアシュリー! 他の奴らでもいいぞ!」
「無理だよ? 助けなんて来ないから……お仕置きされてね❤」
チェルシーとブリギットの二人に袋叩きにされるドレイク。仲間に助けを求めるも、皆いつものことだとスルーを決め込んだ。
というより、それぞれ別々の相手と交流していてそれどころではなかった。
「おっ、お前やるなぁ。流石、アタイと同じオーガなだけあってパワーがあるじゃねえの!」
「うふふ~、私と互角にがっぷりよつ出来るなんて魔神は凄いわ~。でも、負けないわよ~?」
「いけー! そのまま投げろカティー!」
「お袋殿、負けんなよー!」
会場の一角で、観客が見守るなかカレンとカトリーヌが相撲対決を繰り広げている。どちらも自慢のパワーを発揮し、相手を投げようとしている。
一方、別のエリアの特設ステージでは鎧の魔神レケレスと竜人の歌姫イザリー、そしてエヴァたちによるコンサートが行われていた。
「みんなー、今日はわたしたちの特別ライブ! 楽しんでいってねー! けろん!」
「歌も踊りも一級品よ! みんな虜にしちゃうんだからね!」
「アタシのグルーヴに乗っていきなさい! バイブスアゲていくわよー!」
「うおおおおおお!! レッケレス、レッケレス!」
「イザリーちゃーんこっち向いてー! キャー!」
「ふふ、たまにはこういうのを観劇するのも悪くないな、メイ、サラ」
「そうね、ジェディン。とても楽しみよ」
「はい! 私も楽しみです!」
ライブが始まり、観客たちは全身でレケレスたちの作り出す魅惑のハーモニーを楽しむ。一方で、そうした喧噪を好まない者たちもおり……。
「チェック。さて、ここからどう逆転するのか見せてもらおうか、ウォン殿」
「フッ、腕の見せ所だな。……ところでラインハルト殿よ、そんなにコーヒーに角砂糖を入れて大丈夫なのか? もう十個以上入れているようだが」
「ああ、これくらいはいつものことだ。気にする必要はない」
「……そ、そうか」
「ふふ、向こうは楽しそうだね。ま、私は読書に集中させてもらうよ」
特設会場から反対の壁際に、ボードゲームや読書をするための休憩スペースがある。そこでは、ラインハルトやウォン、ダンスレイルにクラヴリンといった静寂を好む面々がいた。
チェスやオセロを楽しむ者に読書に耽る者、すやすやと眠る者……それぞれが思い思いの方法で休息を取っている。そんななか、暴れる者が二人。
「さあ、今日という今日こそ決着をつけようぞ! もう引き分けるのには飽きた、今回は妾が勝つぞ雷ババア!」
「フン、イキるなよ一万年ババア。ノスフェラトゥスの力を得た私に勝てると思うな! その自信を木っ端みじんにしてくれる!」
会場の最奥部、半ば隔離されたスペースでアイージャとリリンがガチバトルを繰り広げていた。被害が広がらないよう、アゼルにコリン、マリアベルが行方を見守る。
「まったく、二人とも顔を合わせる度にこうなるんですから……もう」
「ま、こやつらは犬猿の仲じゃからの。こうなっては止まるまい、好きにやらせればよいのじゃ」
「はい、わたくしもそれが一番かと」
それぞれが宴を楽しみ、大騒ぎしていた。その頃、キルトやルビィ、本家の二人は城のテラスにいた。フィルやアンネローゼと、語らいの時を過ごしているのだ。
『そう、私とフィルくんの意思は受け継がれているのね。貴方たちの心に』
「はい! いつもレジェさんに教わっていますよ、ご先祖様たちのようなヒーローになる秘訣を」
『そうなの? レジェったら、変なこと教えてないといいんだけど』
「大丈夫よ、ご先祖様! こうして貴女たちのような正義の心を持てたんだもの!」
ウィンゼルとイグレーヌはアンネローゼと、キルトとルビィはフィルと。先祖と子孫、本来ならば出会うことの無い者たちは歓談を楽しむ。
『……キルトくんも苦労をしたんですね。僕の業まで受け継がれたようで、なんだか申し訳ないです』
「そんなことありません! むしろ、ご先祖様のように苦難を乗り越えてきたからこそ今の僕がある。そう思っています」
『うむ、よく言ったキルト! それでこそ我が魂の伴侶だ!』
『君は……とても強い子ですね。君やウィンゼルくんたちのような立派な子たちが生まれてくれて、嬉しくて泣いちゃいますよ……。君たちは僕とアンネ様の誇りです!』
どんな苦難にもめげず、逆境を乗り越えてきたキルトを見てフィルは喜びの涙を流す。自分たちの意思は、子孫たちの中に息づいている。
そのことを確信したのだ。キルトの方も、胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。偉大なる先祖に認めてもらえたのだから。
『そうね、フィルくん。これで、何も心配せず鎮魂の園に帰れるわ』
「やっぱり、帰っちゃうんですね。ご先祖様たちは」
「そりゃそうよ、ゼル。お二人は遠い昔に亡くなられているのだもの。こうやってお話出来るなんて、本来あり得ないのよ?」
「うん、だからこそ楽しかった。ね、ルビィお姉ちゃん」
『ああ、我もそう思うよ』
明日、フィルとアンネローゼは死者たちの眠る地へと還る。だが、そこに不安は何一つとして無い。ヒーローとして必要なものを、子孫たちがすでに持っていることを知れたから。
『忘れないで、私たちの想いはいつだってみんなと一緒だからね。辛い時、苦しい時は私たちの顔を思い出して。きっと、励みになるはずだから』
『ええ、僕たちはずっと……みんなを見守っています。鎮魂の園でずっとね』
「……ありがとうございます、ご先祖様。現アルバラーズ家当主として、お礼を」
『そんな堅苦しいのはやめやめ! ほら、会場に戻りましょ? まだ楽しいパーティーは続いてるんだから!』
格式張った挨拶をしようとするウィンゼルを制止して、アンネローゼはふわりと先頭に立ち会場に戻っていく。
フィルはキルトたちも後に続き、テラスを去る。こうして、英雄たちの宴は……夜が更けてもなお、続いていくのだった。




