210話─英雄の愛は勝利を導く
「フン、今更カビの生えた死人どもが来た程度では何も変わらんよ。ラ・グー、王の力を借りるぞ!」
「ああ、存分に使え。奴らを滅し、次は基底時間軸世界のギール=セレンドラクを支配してくれる! シャドウズボディ!」
ラ・グーは二体の分身を作り出し、三位一体の攻撃を仕掛ける。それに対し、リオはアゼルやコリン、ユウに目配せし合図する。
「よし、僕たち四人で分身を倒すよ! ユウ、おいで! 親子の絆を見せちゃお!」
『はい! 分かりました、パパ!』
「よし、ではアゼルはわしとじゃ! キルトに本家の子らよ、主らは敵の本体を叩け!」
「全員に蘇生の炎を配ります、武運長久を!」
リオたちは散開し、分身を押し返すため攻撃を仕掛ける。残ったキルトたち子孫組は、アンネローゼの元に駆け寄った。
『みんな、行きましょう。あの【ピー】蛇をぶっ潰して、フィルくんが作ってくれた思い出のドライバーを取り返すのよ!』
「え、あ、はい……?」
「わお、過激な発言……」
『アンネ様、みんな固まってますって! もっとお淑やかな』
「いつまでも何をしてる! そこまで死にたいならこれでも食らえ! カースブレス!」
またしても放置されたシモンズは、両手を前に突き出し二つの魔法陣を手のひらの前に出現させる。そこから灰色の炎が吹き出し、キルトたちに襲いかかる。
避けようとするキルトたちだが、アンネローゼはチッチッと人差し指を振る。左腕を前に出し、丸い盾を呼び出した。
『そんなもの私が防ぐ! ローズガーディアン、白い薔薇の力を解き放て! クリアストーム!』
「なっ……!?」
「バカな、我が呪いの炎を消し去っただと!?」
アンネローゼの左腕に装備された盾から、清らかな突風が吹いて灰色の炎を消し去った。シモンズたちが驚いている間に、フィルが指示を出す。
『僕たちがあの蛇本体を相手します、三人は男の方を!』
「はい! ウィンゼルくん、イグレーヌさん! 行こう、サモンマスターランズを倒すんだ!」
「うん!」
「おー!」
「チッ、来るか。ならば……」
シモンズは一旦ラ・グーの体内に潜り、地面近くの腹部から上半身を出す。地上と空中に別れ、分担して迎撃するつもりだ。
「上は任せた、ガキどもは俺がやる!」
「よいだろう、そちらは好きにやるがよい契約者。さあ、来い。たかが羽虫、我が食らってくれるわ!」
『やってみなさい、こっちには切り札があるんだからね! 武装展開、アーリセイヴ・ディセプター!』
『飛行は僕が担当します、アンネ様はあのデッカい目を潰しちゃってください!』
『ええ、やってやろうじゃないの!』
柄の両端に刃が付いた武器を呼び出し、アンネローゼはふわりと舞い上がる。フィルが翼を羽ばたかせ、上空からラ・グーを襲う。
一方、キルトたち三人は魔剣を操るシモンズと激闘を繰り広げていた。三対一でもなお、シモンズがやや優勢となっている。
『キルト、こやつかなり強いぞ。精鋭を束ねていただけはあるようだ』
「そうだね、でも僕たちも強い! それを教えてやる!」
【サポートコマンド】
「わ、なんか出た!? ……鈴のモンスター?」
「わ、可愛い!」
シモンズを倒すべく、キルトはつぶらな瞳が可愛らしい銀色のハンドベルの形をしたモンスターが描かれたカードをスロットインする。
直後、バレーボールほどの大きさがあるベルのモンスター『フラースピーク』が召喚された。
「ハッ、そんなヘンテコな……ん? 待てよ、このモンスターは!」
「リー……リィィィィィン!!!」
「わ、なんだ!? 急に力が湧いてくる……!」
「私もよ、どうし……あ、この子のおかげね!」
「うん、フラースピークの鳴き声は仲間と認識してる者の身体能力を向上させる力があるんだ。これで、一気にケリをつける!」
けたたましいベルの音色が響き、キルトたちの身体に力がみなぎる。一転攻勢に出た頃、リオたちも分身との戦いに勝利しようとしていた。
「ユウ、そろそろ終わらせよっか。さ、いくよ! ビーストソウル……」
『リリース! ボクたちの力で、あいつを倒します!』
リオは青、ユウは銀色のオーブを呼び出し体内に取り込む。そうして獣の力を身を宿し、ラ・グーの分身を連携攻撃で葬り去った。
一方、アゼルとコリンも勢い付き、もう一体の分身に猛攻を加える。トドメの一撃を放つべく、二人とも姿を変えていく。
「あっちは終わりましたね、なら……こっちも!」
「終わらせてやろうかのう。星魂顕現・カプリコーン!」
コリンの額に、二重の円に囲まれた山羊の横顔を模した痣……『ギアトルクの大星痕』が浮かぶ。そして、闇の王たる少年は山羊の下半身と角を持つ半人半獣の姿になる。
そうして、アゼルと共にもう一体の分身を葬る。これで、残るは本体のみ。
「ちっ、使えぬ分身ど……ぐあっ!」
『フン、アンタがてんで弱っちいから分身もクソザコになってるんじゃない? ほら、もう一撃よ!』
「舐めるなよ、このアバズレめが! 貴様な」
『は? よく聞こえなったのですが……誰がアバズレなんですか? 【聞くに堪えない罵声】野郎』
『あ、フィルくんキレた。私知ーらないっと』
アンネローゼの挑発に、思わずそんな悪口を返したラ・グー。が、それがまずかった。愛する伴侶を侮辱され、フィルがぶち切れたのだ。
『アンネ様、ちょっとだけ交代してもらえます? あの【掲載禁止ワード】を三枚におろすので』
『おっけー、じゃ頑張って! ボディチェンジ!』
「うわ、僕たちのご先祖様……怖い」
「普段温厚な人ほど怒らせたらヤバいっていい例ね……あれ」
「うう、ご先祖様のイメージが壊れる……」
『……我はノーコメントだ』
シモンズと戦いながら、キルトたちはアンネローゼに代わり表に出てきたフィルの剣幕に恐怖する。そんななか、敵が最後の反撃に出た。
大きく見開かれた目が描かれたカードをシモンズが取り出し、ベルトにスロットインしたのだ。奥義を使い、一網打尽にして全滅させようと狙っているようだ。
「本当にうるさい奴らだ、もう二度と口を利けないようにしてやる!」
『アルティメットコマンド』
「むう……力がみなぎるぞ。ククク、最後の切り札を使ったか!」
「ああ、これで全員石にしてくれる! 奥義……単眼の呪縛!」
ラ・グーの目が見開かれ、瞳が真紅に染まる。すると、キルトたちの身体が少しずつ石へと変わっていく。
「これはあの時の……!」
『パパ、たいへん! みんな石になっちゃいます!』
「大丈夫、その前にフィルくんが終わらせるよ、ほら!」
「何を言う。奴も石……ぐあああああ!!!」
かつての決戦を思い出してアゼルが顔をしかめ、ユウが慌てる中。唯一影響を受けていないフィルが突撃し、ラ・グーの目玉を刃で貫いた。
『ふふふ、おバカさんですね。僕とアンネ様は霊体、石化する肉体がそもそもないんですよ! だから、そんな奥義は効きません!』
「ぐううよくも! 契約者よ、奴を殺せぇぇぇ!」
「分かったすぐ上に」
「させない、お前はここで倒す!」
【アルティメットコマンド】
目を潰され怒り狂うラ・グーの鼻先に、シモンズは再び戻ろうとする。が、そうはさせまいとキルトが奥義を発動した。
即座にオーラとなったルビィを放ち、シモンズをラ・グーの腹部に固定する。こうなればもう、相手の運命は決まったも同然。
「ぐ、動きが……」
『キルトよ、今だ! 奴にトドメを!』
「うん! ていやあああ!!」
「イル、僕たちも!」
「ガッテン!」
キルトが垂直に飛び上がった後、ウィンゼルとイグレーヌは己の武器を握り締め力を込める。一方、上空ではアンネローゼとフィルが分離していた。
『私たちも続くわよ、フィルくん!』
『はい! 奥義……ラヴァーズジャッジメント!』
「食らえ、サモンマスターランズ……そしてラ・グー! アウロラルスターシュート!」
「僕たちの必殺技、受けてみろ! クロスソウル……」
「ストラッシュ!」
「ぐ……ああああああ!!!」
ウィンゼルとイグレーヌのコンビネーション攻撃、愛し合う天使たちの織り成す斬撃の嵐、そしてキルトの奥義。
その全てがラ・グーとシモンズに炸裂し……致命傷を与えた。六人分の力が込められた怒濤の攻撃により、単眼の蛇竜はチリになっていく。
「バカ、な……我が、死ぬ……だと……。嫌だ、こんなところで……」
「やられた、か。結局部下の仇は討てなかったが……貴様らは生かして帰さん! 最後の仕掛けを食らえ!」
絶望の中で死んでいくラ・グーと違い、シモンズはまだ諦めていなかった。魔力を解き放ち、タナトスが仕掛けた理研職員という名の生体爆弾を起動させたのだ。
『ぴいっ!? あ、あちこで爆発が!?』
「ふ、はは……。お前たちが倒した職員どもは、とうの昔に爆弾にされている。この施設と共に爆風に吞まれろ……そして、死ね……」
そう言い残し、シモンズはラ・グーと共に息絶え……完全に消滅した。何一つ、生きた証を残すことなく。
「やーだよ、そうはいかないもんね。出でよ、界門の盾! みんな、これで脱出しよ!」
「ちょっと待って、ご先祖様のドライバーは!?」
『安心なさい、私たちの子孫……イグレーヌだっけ? 自分の物は自分で取りに行くから平気よ』
『霊体なら爆発なんて関係ありませんしね。リオさん、後で落ち合いましょう!』
施設の各所にある職員の死体が爆発するなか、リオは己の盾を使い仲間と共に安全な場所へ逃げられるよう道を確保する。
彼らが脱出している間に、アンネローゼたちは地上に戻りダイナモドライバーを探す。少しして、院長室に隠された金庫を見つけ出した。
『間違いない、これです! この中から懐かしい反応がありますから』
『よし、みんなを追うわよ! 金庫が爆発に巻き込まれたら意味ないもの!』
『はい!』
そして、アンネローゼとフィルも崩壊していく理術研究院から脱出する。死闘は終わり、彼らは取り戻した。かつての思い出が詰まった、天と地のドライバーを。
生と死の垣根を越えた共闘は……こうして、幕を下ろした。
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