207話─総攻撃開始
五日後、決戦の時は来た。キルトとルビィ、リオやユウにコリン、本家の二人……計七人は東の理術研究院を滅ぼすため暗域に降り立った。
「着いたのう。我が麗しの故郷に」
「ここが暗黒領域……闇の眷属たちの世界かぁ。なんだか息苦しいね、イル」
「そうね、なんか空気がジメッとしてるわ」
「いや、空気が原因ではない。主ら大地の民にとっては、この地に溢れる闇の瘴気は猛毒も同じ。わしが魔術で耐性を与えたとはいえ、完全に影響を絶てるものではないのじゃよ」
初めて暗域にやって来たウィンゼルとイグレーヌの二人は、少し息苦しそうな表情をしていた。一方、ルビィはおぞましい笑みを浮かべている。
かつて、キルトの過去を聞いた時の決意……ついにその総仕上げが出来る日が来たことを、心から喜んでいるのだ。
「ク、フフフ。我はずっと待っていた。キルトから全てを奪った愚か者どもを後悔させられる日が来るのをな。いや、実に心躍る。フフフフフ」
「わー、凄い楽しそうに怒ってるねー。ユウは背中に隠れてていいよ。パパが守るからねー」
『は、はい……』
「あはは、お姉ちゃんならそんなに怖くないよ。ちょっとテンション上がってるだけだから……」
苦笑しながらルビィを宥めた後、キルトはリオに問いかける。暗域まで来たはいいが、ここからどう行動するのかと。
「別行動してるアゼルくんと、東西から理研を挟み撃ちにするよ。コリンくんに本家の子たち、東の方は任せるね」
「うむ、アゼルと合流してきゃつらを叩いてくれるわい。ウィンゼル、イグレーヌ。行くぞ、迅速果断に行動するのじゃ」
「はい! じゃあねキルトくん、向こうで落ち合おう!」
「みんなで生きて作戦を終えましょ! じゃあね!」
「うん、気を付けてね!」
敵の施設を挟み撃ちにし、蹂躙してしまおうという作戦を立てたリオ。あらかじめアゼルに別行動してもらい、準備をしてもらっているらしい。
コリンや本家の二人がポータルで移動した後、残ったキルトたちも界門の盾を使い目的地に向かう。理術研究院の施設から、ニキロほど離れた場所にある岩山の中腹に移動した。
「はい、双眼鏡。三人とも、それ使ってあっちを見て。三重の結界が張られてるでしょ?」
『はい、見えます。あれを全部壊すの、大変そうですねパパ』
「……ダメだ、脳が違和感でいっぱいだ。どう見ても兄弟にしか見えぬのに親子とは……うぬぬ」
「どうどう、落ち着いてお姉ちゃん。リオさん、続きをお願いします」
「うん、確かにあれを砕くのは骨が折れるね。ま、それは適任者がいるから問題ないよ。だから、重要なのはその先。キルトくんには、本棟を制圧してほしいんだ」
いまだリオとユウの関係に適応出来ないルビィを宥めつつ、キルトは最後の打ち合わせを行う。七つある牢棟のうち、メインとなるのが第一牢棟。
そこさえ制圧してしまえば、もう理術研究院は機能しなくなる。だが、そう簡単にはいかないだろうことは全員が理解していた。
「ま、確実にタナトスたちが邪魔してくるよね。でも問題ないか、お姉ちゃんが一緒だもん。ね?」
「ああ、我とキルトがいれば無敵だ。誰も敵いはしないさ。ところで、お前たちは何をするのだ?」
「第二から順に制圧してくよ。全部叩き潰さないと気が済まな……あ、始まったね。アゼルくんが結界を破壊したよ」
話をしていると、理術研究院の方から凄まじい音が響いてくる。双眼鏡を覗くと、骨の鳥に乗った人物が空を飛んでいるのが見えた。
「わ、凄い! 三重の結界が一撃……」
「よし、行こう! どうする? 界門の盾で送ってこっか?」
「いや、その必要はない。堂々と乗り込み、奴らに見せつけてやるのさ。我らが逆襲に来たことを!」
「そうだね、お姉ちゃん。やってやろうよ!」
『サモン・エンゲージ』
『じゃあ、ボクも……自分で行きます!』
リオの申し出をやんわり断り、キルトはサモンマスタードラクルに変身する。ユウの方も、自分で乗り込むことにしたらしい。
右腕に装備した長方形のパネル型デバイスをタッチし、操作を行う。パネルに表示されている一からゼロまでの数字を使い、四桁のパスワードを打ち込む。
【4・6・2・1……フォックスレイダー:スタートアップ】
『ていやっ!』
「わ、凄い! 空飛ぶバイク? が出てきた!」
「ふふふ、凄いでしょ。一族の技術を結集させて造ったんだ、コリンくんのバイクにも負けないよ! ……なんて言ってる場合じゃないね、じゃあ手筈通りにね!」
『はい、頑張りましょう!』
『うむ、出撃!』
リオは界門の盾を使い、ユウは空飛ぶ装甲バイクを駆り。キルトとルビィは真正面からと、それぞれの方法で施設に攻め込む。
ついに、東の理術研究院が滅びる時が来た。ヒーローたちのドリームチームによる裁きが……今、下されるのだ。
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「侵入者を捕まえろ! この先に進ませるな!」
「フン、ムダなことを。このわしにただの研究員風情が勝てると思うてか! ディザスター・ランス!」
「みんな返り討ちにしてやる! マナリボルブ:バースト!」
「邪魔する奴らは全員ぶっ飛ばす! スピアーズランブル!」
キルトたちが侵入した頃、コリンたちも第四牢棟へと入り込み破壊の限りを尽くしていた。迎撃に現れた研究員や実験生物を蹴散らし、先に進む。
「うぎゃあああ!」
「やれやれ、他愛もない。肩慣らしにも……ん?」
『もしもし、こちらアゼル。コリンさん、そちらはどうですか?』
「うむ、順調じゃ。そちらはどうかの、アゼル」
『はい、現在第五牢棟にてサモンマスターグレイブヤードなる相手と交戦中です。まあ、これくらいならぼくだけでもなんとかなるので、そちらはそちらで頑張ってください』
「分かった、武運を祈るぞい」
途中、連絡用の魔法石にアゼルから通信が入る。別口で侵入した後、亮一の分身に襲われたようだ。コリンは情報共有をした後、ウィンゼルたちと共に先に向かう。
その頃、コリンたち同様リオもユウも快進撃を続けていた。それぞれの武器を用い、各牢棟を破壊して機能を喪失させていく。
「そーれ、シールドブーメラン! みんな跡形もなくぶっ壊すからね、覚悟しなよ!」
「ひぃぃぃ! ま、魔神に勝てるわけぐはっ!」
「もちろん、逃がさないからね。悪事に荷担した連中は」
飛刃の盾を投げ、研究員たちを始末していくリオ。第二牢棟にいるユウも、フォックスレイダーを駆り爆走していた。
「くっ、なんだアレは!? 魔獣を放って破壊し……おがっ!」
『ごめんなさい、あなたたちには恨みとか何もないんですけど……。悪いことするのは許せないので、みんな倒させてもらいます!』
バイクをオート操縦に切り替え、降車したユウは体術と銃を用い襲い来る魔獣の群れを撃滅する。そこに、現れる者が一人。
「そこまでだ! これ以上の狼藉はこのサモンマスターリバースが許さない!」
『わ! あ、新手ですか。ちょっと怖いけど……頑張ります! こゃーん!』
相手が虚像とは知らず、サモンマスターリバースと戦い始めるユウ。そんな中、キルトもド派手に暴れ回っていた。
勝手知ったる我が家も同然なため、スムーズに進みながら襲ってくる敵も逃げていく者も等しく……その命を奪う。
「さあ、サモンマスタードラクルのお帰りだ! お土産の斬撃をあげるよ、もれなくみんなにね!」
『それが嫌なら、我の怒りの炎をくれてやる! キルトを苦しめたこと、後悔しながら死ぬがよい!』
「くそっ、勝てるわけがねえ! 撤退だ、てった……うぎゃあああ!!」
ヒーローたちの猛攻撃を、止められる者は誰もいない。制圧を完了させるべく、キルトは最奥を目指す。そこに待ち受ける者がいることなど知らずに。




