206話─来たる者、帰る者
コリンを連れ、技術財団の拠点に戻るキルトたち。すでにウォンたちも帰還しており、それぞれ情報交換を行う。
「ほう、お前もついにリジェネレイトしたのか。流石ウォンだな」
「ありがとう、ルビィ。事が片付いて平和になったら、また御前試合をしよう。今度は俺が勝ってリベンジを果たすから」
「うん、期待してるよ! ……で、ローグさんはなんでそんなにボコボコにされてるの?」
「あー、うん。ホラ、傷は浅い方がいいだろ? つまりはそういうことだ」
「そういうことよ。ふふふ」
ウォンがリジェネレイトを果たしたことを喜びつつも、何故か満身創痍になっているローグと、彼の隣で笑うケイリーを不思議そうに見るキルト。
実は、拠点に戻る途中でローグは潔くネタばらししたのだ。時間が経ってからバレるより、今正直に言った方が傷が浅く済むと考えたのだ。
「とりあえずはこれくらいで許してあげる。でも、次にあんな大胆な嘘をついたら……ふふふ」
「頼むからその笑い方やめてくれ、マジで命の危機感じっからよ……」
「フン、そんなのローグの自業自得っすよ。ま、アタイも人のこと言えなべぶっ!」
「当たり前だ、全く。クラヴリン共々、自分たちのしたことを反省しろ!」
「くっ、久々に呼ばれて来てみればなんたる仕打ち……我輩、これでも序列四位の魔戒王だというのに!」
拠点の演習場に戻ってきたキルトたちは、ミノムシの刑にされている二人組を見ることに。片方はイレーナ、もう片方はその夫にして魔戒王が一人、クラヴリン。
彼らの会社に所属していた機動部隊を理術研究院に売ったがために今回の騒動に繋がったとして、ジェディンに呼び出されお仕置きされているのだ。
「おお、壮観じゃのう。ま、理研の連中がこんなことをしでかすと分かっていればこうはならなかったろうにの」
「おお、コーネリアス王! 貴殿がこの大地に来られるとは……もしや?」
「うむ、わしは覚悟を固めた。最悪、王を辞することになっても理研を潰すとな」
「……なんか、いろんなことが起きすぎてついていけないや。イルやキルトくんはどう?」
「私は無理。正直シャワー浴びて寝たい」
「僕も……まあ、ちょっとついていけないかな……」
めまぐるしく変わる状況に適応出来ず、キルトたち子孫組はやれやれとかぶりを振る。すると、その時……演習場に四人の男女が入ってきた。
現れたのは、デューラたち生徒会トリオを従えたアゼルの妻の一人……大いなる魔の公爵、アーシアだ。
「久しいな、双子大地の者らよ。役目を終えたゆえ、殻組の者たちを引き取りに来た」
「アーシアか。ああ、協力感謝する。後ろの三人がいてくれたから、ソサエティ本部に来た敵を倒せたのただから」
「いえ、そんな。話は聞きました、ドライバーそのものではなくデータが奪われたと。私たちがいながら……申し訳ありません」
ポリーナから言われた言葉を思い出し、しゅんとしょげかえるデューラ。だが、彼女らの仕事はもう終わり。ここからは、アゼルの番なのだ。
「今回の反省は、次の任務で活かせばいい。ジェディンよ、明日我が夫アゼルがリオや『新顔』と共にここに来る。打ち合わせの準備をしておけ」
「分かった、事が終わったらまた来てくれ。次はネクロ旅団全員をもてなすから」
「フッ、では楽しみにしている。デューラ、コリンズ、アリス。帰るぞ」
そう言葉を交わし、帰ろうとして……ふとアーシアは足を止め、キルトの方を向く。そして、深々と頭を下げた。
「いつも余とアゼルの子たちが世話になっている。毎日とても楽しく過ごしていると、あの子たちが言っていたよ。貴殿には感謝してもし足りない」
「いえ、そんな。頭を上げてください、僕もイゴールくんたちには助けられてますから。二人の助力がなければ、バルステラに勝てませんでしたし」
「確かに、彼らのカードの力がなければ一度目の死で終わっていたな。いや、本当に凄いものだ。死者蘇生という力は」
イゴールとメリッサの母であるアーシアに礼を言われ、キルトとルビィはそう返す。実際、双子がいなければウィズァーラ王国との戦いには勝てなかっただろう。
「ふふ、そうか。今度、ギール=セレンドラクに遊びに来るがいい。前にも言われたろうが、我らの大地にもエルダードラゴンがいる。ルビィ、貴殿と会える日を心待ちにしているとおっしゃられていた」
「分かった、いずれ顔を出そう。その時まで達者でな、アーシアよ」
「ああ、また」
最後にそう言葉を交わして後、今度こそアーシアはデューラたちを連れ帰っていった。これでようやく一段落、と思いきや。
「ああ、そうだ。コーネリアス王よ、ふてぶてしいと思われるだろうが一つ頼みたいことがある」
「ん、なんじゃクラヴリン。振り子みたいにブン回していいなら聞いて……待て待て、冗談じゃ。そう睨むでないわ」
「コホン。事が済むまで、ケイリーを貴殿の城で匿ってはもらえぬだろうか? Ω-13隊長……シモンズが彼女を殺しに来ないとも限らぬからな」
「え~、なんで~? 仲間殺しに来るとかマジわけわかめーなんですケド」
ミノムシ王が、コリンにそんな頼みをしてきた。レジェが問うと、ケイリー本人が答える。
「隊長は、私が戻らない理由を二つに絞って考えてるはず。捕虜にされたか、自ら裏切ったかのどちらかでね。そして、彼なら後者だと結論付けるはず」
「え、なんでさ? 帰ってこないからって裏切り者扱いは冷たくないかい?」
「……私の態度が原因ね。あの日、ローグに会って以来ずっとそわそわしてたから。多分、惚れた男に寝返ったと思われてる」
「ぷふっ! その男をボッコボコにしちゃうんだから笑えてくるよねぇ」
「フロスト博士、流石に失礼……ローグさんなら別にいっか」
「おいコラ、なんだお前までそんな扱いしやがって」
アリエルの茶々で多少脱線したものの、このままでは何らかの方法でケイリーが暗殺される可能性があるとのことだった。
そこで、ウォーカーの一族すら手出し不可能な異空間に浮かぶコリンの城で匿ってほしいとクラヴリンが頼み込んだのだ。
「契約を解除したとはいえ、元は我輩の部下。見殺しには出来ぬ、どうか聞き入れてもらえぬだろうか」
「アタイからもお願いするっす。何でもするっすから!」
「ん? 今なんでもすると言ったのう。よかろ、その言葉違えるでないぞ? なればケイリーよ、お主を匿ってやろう。クククク」
「うわ、マジ悪い笑み~。ウケる~」
「何がウケておるのか我にはまるで分からん……」
とんでもない約束と引き換えに、ひとまずケイリーの安全は確保された。後は、翌日リオたちと合流し……準備を整え敵を討つのみ。
「ああ、そうだ。キルト、俺やイレーナたちは明日君の暮らしている大地に向かう。双子大地から閉め出された敵が、破れかぶれで君の故郷を襲わないとも限らないからな」
「うむ、わしもそれを危惧しておってな。キルトの仲間たちの実力は信じておるが、不測の事態というのは起こるもの。戦力は多い方がよかろう?」
「ありがとうございます、二人とも。……じゃあ、僕も一回帰ってエヴァちゃん先輩たちと情報共有してきます。『アレ』も取ってきたいですし」
「そうか、とうとう使うのか。あのサポートカードを」
「え、なになに? なんの話?」
話について行けていないイグレーヌの問いに、キルトは答える。しばらく前に、三百年前の時代のコリンたちに頼まれ過去へ行ったと。
そして、その時とある敵を倒し、サポートカードに封印したことを。
「えー、いいないいな! 私たちも行ってみたい、ご先祖様が活躍してた時代に!」
「どうどう、落ち着いて。で、そのカードは何で使わなかったの?」
「アレは……キング・ガンドラは思っていた以上に我が強くてな。事ある毎に封印を破り逃げようとするからずっと仕舞っていたのだ。な、キルト」
「うん、でもそろそろ消費しときたいからここで切っちゃおうかなって」
「……ガンドラか。懐かしい、奴はそんなことになっていたのか……」
かつての同胞の名を聞き、クラヴリンは小声でそう呟く。いつまでも駄弁っていても無意味と、一度解散して身体を休めることに。
なお、イレーナとクラヴリンは罰として一晩ミノムシのまま放置されることが決まった。
「……ねえ、ダーリン」
「なんだ? イレーナ」
「アタイ、もう機動部隊余所に売るの金輪際やめにしたいっす……」
「……そうだな、もうやめようか」
そんな会話をしつつ、アホ夫婦は互いを見て苦笑いするのだった。




