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205話─死神の謀略

「……なるほど。では、無事帰還出来たのはお前たち二人だけだったわけだ。リョウイチにキッシュ」


「はい、すみません隊長。まさかタナトスとの繋がりが切れるなんて……」


「嘆いても仕方ありませんよ、キッシュくん。我々だけでも命を繋げたのですから、仲間の死を悼みつつ生還を喜びましょう」


 ヒーローたちが逆襲計画に燃えている頃、理術研究院でもとある計画が進行していた。その裏で、三人のサモンマスターたちが一室に集まっている。


 旧Ω-13隊長シモンズ・ポトクリファこと『サモンマスターランズ』。そして、彼の部下である闇の眷属の少年キッシュ・アランこと『サモンマスターリバース』。最後は、泰道亮一。


「リョウイチの言う通りだ。ポリーナとロギウスは残念だったが、お前だけでも生還してくれて俺はホッとしているよ」


「え、ちょっと待ってください。ケイリー副隊長も帰還してませんが……」


「奴の生命反応はまだある。敵の捕虜になったか、あるいは……連中の仲間として寝返ったかのどちらかだ」


「そんな! あり得ませんよ、あの副隊長に限って裏切りなんて!」


 ダークグリーンのボサボサ髪をした少年、キッシュはシモンズの言葉に反論する。誰よりも部隊のために働いてきたケイリーの姿を見ていたからこそ、シモンズの言葉を信じられなかったのだ。


「そうか? 俺はあり得ると思っている。思い出してみろ、ここ最近のあいつの態度を。あの怪盗ローグなる侵入者と戦って以降、まるで……恋する乙女のように浮ついていただろう」


「確かに、それはそうですが……」


「ふふふ、恋をすると人は変わりますからねぇ。良くも悪くも、ね。仲間より惚れた男を選ぶ、そこまで変貌してしまうこともあるものですよ。特に、生まれてから全く恋愛に縁のなかった者ほど」


 二人の会話に、どこか楽しそうな様子の亮一が割り込む。事と次第によっては、自身のスレイブが増えるかもしれない。


 そんな期待に満ちた、邪悪な声だった。


「まあいいさ、俺の分身を送り込んで問い質せば済むこと。もし本当に恋などというくだらない理由で裏切っていたなら、部隊の掟に従いケジメを取らせればいい」


「そう、ですね。……はあ。他のメンバー、早く偵察から帰ってこないかな。僕と隊長だけじゃ不安ですよ」


「その心配は不要だ。クラヴリン王が介入してこないか見張らせていた者たちには撤収の指示を出した。じきに戻る」


 キッシュがため息をつくと、タイミングよくタナトスが部屋に入ってきた。彼の報告に喜ぶキッシュだったが、吉報は続かない。


 いい知らせの後には、必ずと言っていいほど悪い知らせがある。それを、彼やシモンズは自身の経験則からよく理解していた。


「ベスティエに探らせたところ、鎮魂の園で死者二人の外出手続きが行われていることが分かった。十中八九、遺産の持ち主たちだ」


「なるほど。ということは……敵は神話級の英雄が揃い踏む可能性が高い。そういうことですね?」


「ああ。魔神たちを束ねる皇帝リオ、ネクロ旅団の主命王アゼルは確定として……コーネリアス王も我らの討伐に加わる可能性がある。それに……」


「それに、なんだ?」


「不確定な情報ではあるが、どうも奴らはテラ=アゾスタルから来た転生者を引き込んでいるようだ。そいつも我らを倒すため、力を貸す可能性が高い」


 亮一やシモンズの問いに答えつつ、脳内で思案するタナトス。古き英雄から新たに生まれた未知の強豪まで、全員に揃われればまず勝ち目はない。


 そこで、彼とネガが選んだ選択は……東の理術研究院の放棄だった。


「我々は四日後、必要最小限の機材と人員のみ引き払い私の『故郷』に活動拠点を移す。そこなら奴らは手出し出来ない。……広大なる次元の狭間にはな」


「あんたはウォーカーの一族とやらに属してるんだったな。気になってたんだよ、あんたのお仲間がどこでどんな暮らしをしてるのかな」


「うう、なんか期待と不安が入り交じりますね。ところで、誰をタナトスさんの故郷に連れて行くんです?」


 元々タナトスは、暗域を活動拠点にするのには限界が来ていると考えていた。そこに、守護者からの宣戦布告がありついに決断したのだ。


 そんな彼に、キッシュが問いを投げかける。迅速かつ密かに行動しなければ、リオたちに動きを気付かれてしまう。


 そうなれば、無理矢理にでも襲撃を前倒しにして自分たちを徹底殲滅しにかかってくる。そうなれば、タナトスの計画は水の泡だ。


「案ずるな、お前たちと残る四人のΩ-13のメンバーとネガは全員連れて行く。後は、主席研究員たるベスティエと他二名。以上だ」


「おや、一般の研究員たちは連れていかなくてもよいのですか?」


「いらぬ。ボルジェイが居ぬ間にバカ騒ぎをして侵入者にまんまとしてやられるような無能どもなど恥ずかしくて連れて行けるわけなかろう」


 亮一の言葉に、タナトスは珍しく苛立ちを込めた答えを返す。以前行われたサンダーソード作戦での職員たちの失態を、彼は許すつもりはないのだ。


「全ての研究員には、寝ている間にナノマシンを吸引させておいた。奴らは今や生きる爆弾……この施設やキルトたち諸共吹き飛んでもらう手筈になっている」


「えげつないことをする奴だ。キッシュの『ファントムコマンド』で作り出した俺たちの分身で時間を稼ぎつつ、大爆発でジ・エンドというシナリオというわけか」


「ああ、そうだ。この施設が消えたとて、困るのは闇の眷属だけ。我らウォーカーの一族には関係のないことだ」


 タナトスの用意周到さに、シモンズたちは舌を巻く。が、少ししてシモンズは死神に声をかける。自分を居残らせてもらえないか、と。


「……正気か? お前一人が残ってどうこう出来る連中ではないぞ。いくらラ・グーと本契約していようともな」


「そうですよ隊長、無謀過ぎますって! 僕たちと一緒に行きましょうよ!」


 キッシュやタナトスに止められるも、シモンズは首を横に振る。彼には彼なりの、留まるに値するものがあるのだ。


「そうしたいのは山々だが、一人くらい本物がいないと連中に見破られかねん。そうなれば、タナトスの計画も無意味だ。ならば、俺が残り敵の相手をするのがよかろうよ」


「見上げたものですね。あなたたちΩ-13は誰にも忠誠を誓わぬ無頼の実力者たちの集まりだと聞いていたのですが」


「フッ、こうして素晴らしい力を授けられたんだ。その恩くらいには報いねば飯が不味くなる。それに、ロギウスやアグレラたちの仇を討たねばならんのだよ。隊長としてな」


 亮一の言葉にそう答えた後、シモンズはキッシュへ視線を移す。今にも泣き出しそうな彼に微笑みかけ、優しい声で告げる。


「そんな顔をするな。連中との決戦で負けるつもりはない、生きて帰るさ。だが、それが無理だった時は」


「無理だった時は……?」


「ハリファーを新たな隊長とし、奴の元で作戦に従事しろ。奴なら残った仲間を率いていける。ケイリーは白黒どちらか不明だからな、現時点では次の旗頭に出来ん」


「……はい、分かりました。でも、僕信じてますから! 隊長なら必ず勝つって!」


 キッシュの言葉に、シモンズは頷く。そこには生死を共にした仲間の、不滅の絆があった。そんな彼らを、タナトスと亮一は静かに見つめている。


 一方、第七牢棟にいるネガは……。


「げほっ、げほっ! ……まずいね、思ってた以上に消耗が早いな。この分だと、一年も寿命が保たないね……全く、難儀なものだよ」


 新たに手に入れた二つのダイナモドライバーのデータを元に、ダイナライズキーを制作していた。が、様子がおかしい。


 口から血を吐き、左目から血の涙が流れ出ている。不完全なクローンゆえに、急速に肉体が損耗しているのだ。


「ネガヨ、案ズルナ。イザトナレバ我ノ血デイクラデモ延命出来ル。ソウデナクトモ、我ノ寿命ガ尽キヌ限リハ問題ナドナイ。我ラハ命ヲ共有シテイルノダカラナ」


「それはそうなんだけどね……。ま、その思いやりには感謝しておくよオニキス。あーあ、早くオリジナルを殺したいなぁ。僕がオリジナルになれさえすれば……この身体を蝕む痛みから解放されるのに」


 痛みに苦しむネガを、背後から一人の女性が抱き締める。そこにいたのは、ルビィと瓜二つの容姿をした竜人の女だった。


 ……ただ一つ、髪も翼もドレスも、何もかもが獄炎の黒で染まっていることを除いて。女……オニキスは己の親指の腹を噛み、血をにじませる。


 黄金の血がしたたる指を、そっとネガの口に含ませて痛みを癒やした。ネガは感謝の言葉を述べた後、ポツリと呟く。


 決戦の時は近い。最後に笑うのは、キルトたちか、それとも……。

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― 新着の感想 ―
[一言] タナトス一行も悪党らしくケツ捲って逃げるか(ʘᗩʘ’) 元々スンナリ勝てる算段も薄い状態でケンカ売っちゃアカン奴に売った以上(٥↼_↼) 逃げ切るか、打ち勝つかのドッチだろうけど(>0<;…
[一言] 流石に察して放棄するか・・・
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