204話─アベンジ・ヒーローズ
時は少しだけさかのぼる。ウォンたちがジャングルに逃れた頃、キルトたちは旧レジスタンスアジト……現大金庫の中に入っていた。
月輪七栄冠の手で隠された初代インフィニティ・マキーナの一つ、『デスペラード・ハウル』のダイナモドライバーを回収するためだ。
「やれやれ、無事に守り抜けてよかった。キルトくん、博士、協力してくれてありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。ウィンゼルさんたちが……」
「はいストップ。親戚なんだからそんな堅苦しいのはもうおしまい。これからは私たちのこと、愛称で呼んでいいわよ。あと、敬語も禁止!」
「……うん。分かったよ。イル、ゼル」
本家の当主たちと仲を深めながら、金庫の最奥部に向かうキルト。少しして、分厚く巨大な合金製の扉が現れた。
ウィンゼルがノブ近くの装置にパスワードを入力し、次いで音声と光彩による照合を行う。その後で、今度はイグレーヌだ。
『ほう、これだけ厳重な守りを敷いているのか。これなら簡単には中に入れんな』
『うむ、無理矢理セキュリティを突破しようとしても無理じゃ。大昔レジスタンスのアジトに仕掛けられていた、転移焼却の魔法で焼き尽くされて終わりよ』
『……えぐい魔法を仕掛けてあるのだな。まあいい、早く回収して戻ろう』
ギアーズのホログラムから説明を受け、デッキの中のルビィはそう答える。ゆっくりと扉が開き、中の部屋に入る一同。
部屋の中心にある台座の上に、一本のベルトが置かれていた。念のためにと、つよいこころ八百七十号が近付きスキャンを行う。
『万が一にもあり得ぬとは思うが、戦闘の際に起きた振動で破損しているかもし……ん? んんんん!?』
「博士、どうしたのよ?」
『こ、これは! いかんぞ、外部からハッキングされた痕跡がある! まさか……おのれ、一本取られた!』
「あの、一体どうしたんです? ギアーズ博士」
『奴ら……理術研究院といったか。連中の狙いはドライバーそのものじゃない、中のデータじゃ! あ奴ら、中のデータをハッキングして吸い出しおった!』
念のために……と行った結果、キルトたちにとって驚愕の事実が明らかとなった。デスペラード・ハウルのドライバーだけデータの吸い出しが中断されたため、その痕跡が見つかったのだ。
「そうだ……! タナトスならそれくらいやるってこと、どうして忘れてたんだろう。多分、最初に天と地のドライバーを奪った時からブラフをかけてたんだ。僕たちが狙いを勘違いするように」
「ドライバーそのものを奪いに来ると見せかけて、その裏でこっそりデータを盗むってわけだね。確かに、これは一本取られた……」
タナトスの狡猾さに悔しがるキルトたち。そこに、これまでコンタクトを取ってこなかった名も無き守護者から連絡が入る。
『我が半身の子孫たちよ、聞こえるか? どうやら、ドライバーの異変に気付いたようだな』
「あら、守護者さん。そっちの仕事は終わったの?」
「えっ、ど、どこから声が!?」
『初めましてだな、メルシオンの血に連なる者よ。我は今、双子大地の聖礎より語りかけて……っと、そんなことは後だ。この大地を荒らしていた者の正体とその方法、ようやく特定したぞ』
これまでずっと侵入者を追跡していた守護者と、ようやく初対面を果たしたキルト。挨拶もそこそこに、お互いの情報を交換する。
『なるほど、侵入者はあらかた始末してくれた、と。ソサエティ本部にいる者たちも含め、礼を言わねばなるまい』
「いえいえ、こちらこそ。やっぱり、タナトスがデータを吸い出してたんだね。ってことは、残り二つも」
『データを奪われたと見てよかろう。ううむ、こうなるとますますフィルとアンネローゼに申し訳が立たなくなるわい。トホホ……』
「嘆いていても仕方なかろ。なに、案ずることはないぞよ。もう反撃の準備は出来ておるからの」
どうにかダイナモドライバーを守り抜いたと思ったら、まんまとしてやられていたことを知り落ち込むキルトたち。
すると、彼らのすぐ側にポータルが開きコリンが姿を現した。突然の来訪に、キルトやウィンゼルは目を丸くする。
「コリンさん!? 一体どうしてここに? それに、反撃の準備って……」
「うむ、お主らには黙っておったがわしらもわしらでダイナモドライバー奪還に向けて動いていたのじゃ。で、その準備が完了したゆえ知らせに来たのじゃよ」
「ああ、それはありがとうございます。ところで、その内容について教えては……?」
「ふふ、それは五日後のお楽しみじゃ。……此度の一件で、わしも腹を括ったぞよ。協定違反になろうが、東の理術研究院を叩き潰してくれるわ」
かけがえのない親友の遺産を奪った理術研究院に対して、コリンは以前行ったボルジェイとの会食の時よりも激しい怒りを燃やしていた。
自身の進退を賭けてでも、必ず天と地のドライバーを取り戻す。その並々ならぬ決意に触れ、自然と三人の子孫はひざまずきこうべを垂れる。
「ありがとうございます、コーネリアス様。我ら英雄の子孫一同、貴方様のご協力に……」
「よいよい、かような真似はやめい。主らもまた、わしの親友。それに、今回はリオとアゼル……そして『新顔』も動いておる。ふふふ、楽しみにしておくがよいぞ。理研の最後を見られるぞよ」
『そこまで自身満々とは。では、我も期待するとしよう』
口角を上げ、魔の王に相応しい邪悪な笑みを浮かべるコリン。今、反撃の狼煙が上げられた。
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『あぐあぐあぐ……』
「凄いなあ、ジブンよおそんなおむすび食べはるもんやな。そない好きなんか? おむすびが」
その頃、GOSのアジトではユウがアスカ謹製のおむすびを頬張っていた。アジトに来てからずっと、一心不乱に食べ続けている。
そんな少年の尻尾を、ブリギットがクシでといていた。なお、ユウの食べたおむすびはすでに二十個を超えている。
「私たちと出会った時、たまたまお弁当に持ってきてたおむすびをあげたの。それ以来、大好物になったのよ」
「ユウはなぁ、転生する前はマトモな飯を食ったことがないんだ。リニューショクだっけ? それを食う時期が終わった後は親に生ゴミだのを食わされてたらしい」
「何よそれ……ふざけた親ね、自分の子をなんだと思ってるのかしら」
リビングの端っこでおむすびを食べているユウに聞こえないよう、エヴァやチェルシーたちがそんな会話を行う。
転生前のユウの境遇を知り、エヴァは憤る。その時、出かけていたドルトたちが帰ってきた。
「ただい……おや、お客さんか。珍しいな、ようこそアジトに」
「あら、貴方エルフなのね。はじめまして、私はシャーロット。こっちのデカブツがチェルシー、向こうでおむすびを食べてるのがユウよ」
「で、その尻尾をクシでとかしてるのがブリギットだ。よろしくな、ドルト」
「ああ、こちらこそ」
ドルトとの顔合わせも済んだところで、フィリールが問いかける。一緒に買い物に行っていたはずの双子はどうしたのか、と。
「ああ、あの二人はな……」
「愛しのパパと久しぶりに遊びに行ってるよ。ちゃお、久しぶりだね~。三百年前はありがとー」
「げっ、アンタは盾の魔神リオ! 何しに来たのよ、わざわざアジトま……って、なんか透けてる?」
「うん、僕は分身だからね。本物は鎮魂の園でグランザームたちとビーチバレーしてるよ」
ドルトが答えようとすると、ひょっこりリオの分身が顔を出した。何故アジトに来たのかを、手短にエヴァたちに話す。
「そう、カルゥなんちゃらはそんなことになってたのね」
「タナトスめ、やってくれたようだな。キルトたちの裏をかくとは」
「うん、流石の僕も守護者くんから連絡来た時は舌打ちしちゃったよ。でも、もう大丈夫! とびきりの助っ人を連れて、五日後に理研に殴り込みに行くから」
エヴァやフィリールの言葉に頷いた後、リオは自信満々に答える。ならば、自分たちも行こうかとドルトが問うと……。
「その気持ちは嬉しいんだけど、みんなには万が一に備えて待機しててほしいんだ。今回殴り込むのは僕とアゼルくんにコリンくん、それからキルトくんに……ユウ、君もだよ」
『んぐっ!? む、むぐうう……』
「ああっ、おむすびが喉に! 大丈夫デスかゆーゆー、お茶飲むデスマス!」
『う、んぐ……。ありがとうございます、ブリギットさん。もう、いきなり話を振らないでくださいよパ……リオさん』
突然話を振られ、ユウはおむすびを喉に詰まらせてしまう。ブリギットのフォローもあり、どうにか窒息死は免れた。
「ごめんごめん。……ところで、ここじゃパパって呼んでくれないの? やだなー、悲しいなー。僕はユウのパパなのにー」
「いやいや、ちょい待ちや。……え? まさかホンマに実子なん?」
「うーん、ある意味そうかな? 転生後のユウの身体は、僕の血と創世六神の力で創ったものだからね。実質的に僕の息子だよ!」
「はあ!? ちょ、何やってんのよ天上の連中!?」
「ふふーん、聞きたい? じゃ教えてあげるよ。五日後の計画についてもね!」
リオの爆弾発言に驚愕するエヴァたち。そんな彼女らに、魔神は楽しそうにユウの秘密と殴り込み計画について話すのだった。




