202話─守るための強さ
キルトたちが戦いを制した頃。街中に現れた敵性反応の元へと向かったウォンとアリエルは……追い詰められていた。
「ククク、さっきお前の声真似をしてニセの連絡をしてやったぜ。相方はオネンネしちまったし、これでもう打つ手ナシだな、え?」
「器用な真似を……。くっ、ダイナライズ……恐ろしい力だ」
アリエルとウォン街中に現れたサモンマスターグリッツことロギウスを人気の無い廃工場に追い込み、連携攻撃で撃破寸前まで追い込んだ。
だが、タナトスとの繋がりが切れ撤退した亮一やもう一人のサモンマスターと違いロギウスは残って戦うことを選択した。
そして、ネガによって搭載されたダイナライズキーを使い……全身を黒き装甲で覆い、シュヴァルカイザーの力を持つ『ディセプティス・ボルド』となったのだ。
「驚いたか? 相手の通信をジャックして声真似で撹乱なんてのは俺たちの十八番よ。さあ、ここからは一方的なショーの始まりだ。せいぜいイイ声で啼きやがれ!」
アリエルが戦闘不能に追い込まれ、孤軍奮闘しなければならない状態に追い込まれたウォン。財団を出る時に借りた連絡用の魔法石を使うも、相手に奪われ逆利用されてしまう。
敵は逃げたから応援はいらないと偽の連絡をされ、援軍には期待出来ない。きを失ったアリエルを守りながら、一人で戦わねばならないのだ。
「このホーンブレイダーのサビにしてやる! ライノブレイド!」
「くっ、そうはいかん! 俺が倒れたら、アリエルを守れる者がいなくなる。例えこの命尽きようとも、最後まで抗い打ち勝ってみせる!」
「口だけはいっちょまえだな。だがお前も分かってるんだろ? シュヴァルカイザーの力を取り込んだ俺には勝てねえってよ! ライノアッパー!」
「ぐ、ガハッ!」
強大なサモンマスターたちの攻撃や奥義から幾度もウォンを守ってきた玄武の鎧も、ダイナライズしたロギウスの攻撃は防ぎきれなかった。
あちこちに亀裂が走り、装甲が欠けていく。吹き飛ばされたウォンは、アリエルを隠している廃材の山近くに叩き付けられる。
『パワーコマンド』
「へへへ、もう限界か? なら、一気にケリをつけてやるよ。覚悟しな!」
疾走するメタルプレイジャスの絵が描かれたカードを取り出し、サモンギアに読み込ませるロギウス。力をみなぎらせ、奥義で一気にウォンを屠るつもりだ。
「俺は、まだ……。ぐっ! 頼む、動け……動いてくれ、俺の身体! せめて、アリエルを守らなければ……!」
「ほー、立てるのかよ。その根性は認めてやるぜ、だから苦しまねえよう一発で仕留めてやるよ!」
「ハッ、させるわけねえだろ! ブラストサンダー!」
ロギウスがアルティメットコマンドのカードをスロットインしようとした、その時。マルカの声が響くと同時に廃工場の天井が破壊され、雷が落ちる。
ウォンへのトドメに意識が向いていたのと、全身を金属の鎧で覆っていたことが災いしてロギウスは甚大なダメージを受け倒れ込む。
「うごごごごごご!? ぐ、なん、なんだクソッ……げぶっ!」
「母上!? 何故ここ……その脚は?」
「これか? 魔力を使って一時的に作り出した義足だよ。長くは維持出来ねえ、一旦逃げっぞ!」
息子の危機を察知し、救援に現れたマルカは廃材の山の陰に隠されていたアリエルを担ぐ。ついでにウォンに肩を貸し、雷を自身に落として別の場所に逃げる。
「っつう、やりやがったなあのアマ。電撃耐性があんまりねえのが困りもんなんだよな、この鎧。後でネガさんに改良してもらうか……」
『アドベント・メタルプレイジャス』
「グゥオルルル……」
「メタルプレイジャス、この鎧の破片の匂いを追跡しろ。魔法で逃げたとはいえ、魔力までたどれる鼻があるお前からは逃げ切れねえ。不意打ちで仕留めてやろうぜ、相棒」
「グルッ!」
しばらくして、起き上がったロギウスは本契約モンスターを召喚する。ウォンの鎧から剥がれ落ちた破片を使い、追跡を始めた。
一方、マルカの参戦でどうにか逃げ出せたウォンたちは技術財団があるジャングルの中にいた。財団が森の中に設置した小屋にて、一息つく。
「ここまで逃げりゃあの鎧野郎も追っちゃこれねえだろ。わりいな、魔力を義足に回してっから一気に財団まで行けなくてよ。少し休憩したら戻ろうぜ」
「ありがとう、母上。アリエル共々命を救われたよ。だが……俺はここに残る。あいつは、サモンマスターグリッツは俺が倒さなければ」
小屋で身体を休めながら、ウォンはマルカにそう伝える。ここで財団に戻り、待機しているジェディンに協力してもらうのは容易い。
だが、それでは一方的にやられたリベンジを達成出来たとは言えない。自身の力で相手に打ち勝ち、雪辱を晴らさねば無意味。それが、レイ家の教えなのだ。
「……本気か? ほんの少し見ただけだがよ、あいつは今のお前が勝てる相手にゃあ思えなかった。それでも行くんだな?」
「ああ、行くよ母上。俺はずっと……あの日、二度目の御前試合でキルトに負けた時からずっと考えていた。俺が彼のようになれないのは何故だろうか、と」
母の言葉に、ウォンは頷く。そして、これまで誰にも打ち明けることのなかった胸中に抱く思いを話して聞かせる。
「考えに考えても、答えが分からなかった。だが、今なら……分かる。キルトは『守る』ために戦ってきた。仲間を、家族を邪悪な存在の毒牙にかからぬようにと」
「……だから、アンタもそうするってのかい? アタシやこの鳥女を守るためにあいつと戦うわけだ」
「ああ。俺はこれまで、ただ強さだけを求めて修行してきた。でも、それだけじゃダメなんだ。ただ強さを求めるだけじゃ、限界を超えられない。自分のためでなく、誰かのために強くならなければ……俺は」
「追いついたぜ! 粗末な小屋ごとぶっ潰してやらぁ! 行け、メタルプレイジャス!」
「グルォォオ!!」
「やべぇ! ウォン、危ない!」
ウォンが話していた、その時。ウォンの匂いと魔力を追跡してきたロギウスが、転移魔法を使い強襲を仕掛けてきたのだ。
小屋が破壊され、マルカとアリエルが崩れた材木の下敷きになってしまう。ウォンはマルカに突き飛ばされ、ギリギリで難を逃れた。
「母う……ぐうっ!」
「ウォン! くそっ、こんなとこさっさと這い出て……ぐあっ!」
「おっと、そうはいかねえんだよ。さっきはよくも電撃を浴びせてくれたな、え? お返しにその顔を二目と見られねえくらいぐちゃぐちゃにしてやる」
「やめろ! 母上に手を出すな! もし手を出したいなら、まずは俺を殺してからにしろ!」
マルカたちを助けに行こうとするウォンだが、メタルプレイジャスの体当たりを食らい吹き飛ばされてしまう。一方のマルカは、右腕をロギウスに踏まれていた。
母を踏みにじるロギウスを見て、ウォンの心に強い怒り……そして、大切な家族を守らねばならないという強い決意が生まれる。
「ハッ、それもいいな。タイドウさんも言ってたしなァ、子どもを殺された親の悲しむ姿を見るのは極上の快楽だってよ。俺もあやからせてもらおうかな!」
「チッ、こいつとんでもないげど……がっ!」
「うるせえぞアマ、次は背骨を踏み折られてえか?」
「貴様……!」
目の前でマルカの腕を踏み折ったロギウスへの怒りが頂点に達した、その刹那。ウォンの目の前に、一枚のカードが現れる。
ダークグリーンの渦を背景に、煌めく水色の指輪が描かれたカードが。上部に記されている文字は『REGENERATE─守護』。
「これは……! そうか、俺も手にする時が来たか。このカードを」
「何をするつもりかは知らねえが、厄介なことになばばばばばばば!?」
「グルルルルル!?」
「ウォン、今だ! こいつをぎゃふんと言わせちまいな!」
即座に攻撃を仕掛けようとするロギウスだったが、マルカに無事な左手で脚を掴まれ電撃を流し込まれ動きを止められる。
メタルプレイジャスにも効果が伝播し、相棒共々身動き出来なくなる。母のサポートに感謝しながら、ウォンはプロテクターから錨型のネックレスに変化したサモンギアにカードをかざす。
【REGENERATE】
「ありがとう、母上。さあ、見せてやるぞサモンマスターグリッツ! 誰かを守りたいという想いの強さ……そして、そこから湧き上がる大海原のような力の奔流を!」
キルト、アスカ、フィリール、エヴァ。彼らに続いてウォンもまた目覚めさせる。己の内に眠っていた、可能性の力を。




