201話─リバイバル・ヒーロー・プロジェクト
ウィンゼルとイグレーヌがボルジェイを瞬殺した頃、広場の反対側ではギアーズが操るシルバリオ・スパルタカスがバルステラにトドメを刺そうとしていた。
「オレ様が存在するための魔力を……全部、吸い出して消滅させるたなぁ。やられたぜ、そんな……戦法があるたぁよ」
『ほっほっ、何も真正面から叩き潰すだけが戦いではない。若者には若者の、老人には老人の戦法があるというだけのことよ』
「……覚えたぜ。次は、負け……」
白銀の騎士たちの持つ剣で全身を刺し貫かれ、存在を維持するための魔力を奪われたバルステラは不穏な言葉を残し消滅していく。
数体のシルバリオ・スパルタカスの残骸だけが、後に残った。そこに、つよいこころ八百七十号を探しにきたキルトたちがやって来る。
「あ、いたいた! よかった、無事だったみたい」
「あれ、博士! 珍しいですね、ホログラム出すなんて。あ、もしかしてキルトくんに会いたかった感じですか?」
『おお、そうなんじゃよウィンゼル。ワシものう、フィルの血を継ぐ子を見てみたかっ』
『いや、待て待て。確かなんとか財団にあった資料にはお前はもう死んでいるとあったぞ。何故生きて……いや、生きてはいないか』
つよいこころにギアーズのホログラムを出す機能があることはウィンゼルたちも知っているようで、何気ない日常のようなやり取りを行う。
そこにルビィがツッコミを入れると、つよいこころ八百七十号は再びキルトの頭の上に停まる。そこを定位置にすることを決めたらしい。
『うむ、確かにワシのオリジナルはもう死んでおるよ。今のワシは死ぬ前に精神をコピーし、つよいこころ軍団の総合ネットワークに移し替え生まれた複製体なのじゃ』
「なるほど、なかなかに高度なことをしますね。でも、何故そうな手の込んだことを? 暗域ですらそんな大変なことする闇の眷属はいませんよ」
『目的は二つ。一つは、財団が滅びてマキーナ技術が絶えそうになった時の保険。もう一つは、かつての仲間の行く末を見守るためじゃ』
精神を単なるキカイではなく、キカイ同士を繋ぐネットワークに同化させるのは並大抵の技術……それも、大地の民のソレでは不可能に近い。
よりキカイ技術が発展している暗域に住まう闇の眷属たちですら、失敗率が高くおいそれと手を出さない酔狂な技術とされているのだ。
そんな技術を戸惑いなく使い、あまつさえ成功させてみせたギアーズの力量にキルトは同じ技術者として並々ならぬ敬意を抱く。
「そうだったんですか! 凄いですね、ギアーズ博士は。危険を恐れず、困難な技術を……。是非僕にも教授していただきたいくらいですよ!」
「あー、君も技術畑の子なのね。財団の人たちと仲良くなれるんじゃないかしら」
『かもしれんのう。……にしても、キルトや。君はよくフィルに似ておる。見た目という意味ではなく、その技術にかける情熱がな』
興奮するキルトを見て、イグレーヌが呆れるなかギアーズは懐かしそうな口調で呟く。彼の脳裏には、遠い昔フィルと共に最初のインフィニティ・マキーナを完成させた日のことが思い出されていた。
『そうなのか? ふむ、なればそのフィルも素晴らしい技術者だったのだろう。なにせ、我の魂の伴侶たるキルトの先祖なのだからな!』
「もう、お姉ちゃんったら。こんな時まで僕のこと持ち上げないでよ、恥ずかしいから」
「仲良しさんだね、二人と……あ、忘れてた。ウォンさんたちどうなったかな、様子見に行かなきゃ」
「そうね、ゼル。あの二人強そうな雰囲気あったから、多分大丈夫だとは思うけど」
「ええ、大丈夫です。フロスト博士はともかく、ウォンさんは強いですから!」
ギアーズとの話もそこそこに、まだ戦っているかもしれない仲間の様子を見に行くため撤退していくキルトたち。
この時、彼らはまだ知らなかった。今回の戦いで、ウォンが新たなる力に目覚めていたことを。そして……今この瞬間、死者たちの世界でとある計画が動いていることを。
◇─────────────────────◇
「ふー。久しぶりに来たね、鎮魂の園のリゾートエリア。相変わらず賑わってていいことだよ、うんうん」
「ですね、リオさん。さ、兄さんたちと合流しましょう。例の二人を連れてきてくれるよう、事前に頼んでありますから」
神々の大地、グラン=ファルダ下層……死せる者たちが眠りに着く場所、鎮魂の園。本来なら死者しか存在出来ないそこに、ショタ三人衆の姿があった。
「うむ、アゼルはいつも手際がいいのう。わしも見習わねばな。……ところでリオよ」
「なぁに、コリンくん」
「お主なんで水着なんじゃ? もしや、仕事終わりに遊んで帰ろうなどと思っておるのではなかろうな?」
「え、そうだよ? ミョルドにーちゃんやグリオにいに、グランザームとビーチバレーやる約束してるんだもん」
「相変わらず凄いメンツですね……。というか、グランザームさんがビーチバレーやる絵面想像出来ないんですけど」
鎮魂の園の一角にあるビーチを、リオとアゼル、コリンの三人が歩いていく。リオだけ青色のボクサーパンツ型の水着を着ており、海を楽しむ気満々だった。
「想像するとシュール過ぎて笑えて……む、あそこで手を振っておる男がおるの。アゼル、あやつか?」
「はい、彼がぼくの兄……カイルです。ちゃんとフィルくんたちを連れてきてくれたみたいです」
「わーよかった! これだけビーチに死者がいると、探すだけで一苦労だからね。じゃ、れっつごー!」
「ああこれ、走るでない! わしらは薄着とはいえいつものカッコなんじゃぞ、そんな早く走れぬわ!」
ビーチの奥に進むと、人が減りまばらになる。その一角に、水着姿の男がいた。その男……カイルの元にリオたちは走っていく。
「よ、久しぶりだなアゼル。相変わらずちんちくりんだなお前、ちゃんと飯食ってんのか?」
「ええ、たくさん食べてますよ。アーシアさんやメレェーナさんのご飯、美味しいですから。兄さんも元気そうでよかったです」
「おう、オレはもう死人だからな。怪我も病気も無縁で気楽なもんだ、ハハハ! ……っと、笑ってる場合じゃねえや。おーい、フィル! アンネローゼ! 客が来たぜー!」
アゼルとカイルが兄弟の再会を喜んだ後、本命の人物たちが呼ばれる。海岸近くで砂の城を作っていた少年と、それを眺めていた女性がやって来た。
この二人こそが、キルトの先祖にして双子大地を救ったヒーロー。フィル・アルバラーズとアンネローゼ・フレイシア・ハプルゼネクだ。
「こんにちは、リオさんにアゼルさん、コリンさん。お久しぶりですね、皆さんお変わりないようで嬉しいです」
「やっほ、どう? この水着、似合うかしら?」
「二人とも久しぶりー。ペアルックの水着かぁ、相変わらず仲がいいねぇこのこの~」
フィルとアンネローゼは、同デザインで色違いの競泳水着を着ていた。それぞれ黒と白をベースに、波しぶきのイラストが描かれている。
死してなおラブラブな二人を尻尾でつつき、リオが茶化す。そんな彼を脇に押しのけ、コリンが本題を切り出した。
「さて、事前に伝えた通り……理術研究院の者らが主らの用いていたダイナモドライバーを奪い、その力を悪用しておる」
「今は二人のかつての仲間や末裔が戦っていますが、彼らには荷の重い相手が混ざってましてね。元魔戒王、ラ・グーを使役する者がいるのですよ」
「ええ、話は聞きました。子孫の危機とあれば、僕も黙って見過ごすわけにはいきません。本家の子も、分家の子も。かつての仲間もみんな助けます」
「で、そのための装具を持ってきてくれたんでしょ? 早く見せて、ここしばらくずっと楽しみにしてたんだから」
アンネローゼもフィルも、リオたちの要請に応える気満々だった。彼らやカイルが見守るなか、アゼルは懐から灰色のベルト型サモンギアとデッキホルダーを取り出す。
「少し前に、リリンお姉ちゃんがサンダーソード作戦の戦利品として持ち帰ってくれたサモンギアがあります。これを改良……しようとしたんですけどね」
「ブラックボックスを解析出来なくてのう、無理矢理改変した結果……うん、ものすごーくピーキーなものに仕上がってしまったのじゃ」
かつて、魔魂香炉を破壊するため理術研究院に乗り込んだことがあった。その時にリリンがくすねたものを、ずっとリオたちは研究してきた。……が。
「へえ、どんな仕上がりになったんだ? オレにも教えてくれよ」
「えっとね、生きてる人がこれを使うと三分で全身の臓器が爆裂して死んじゃうようになりました! いえーい!」
「いえーいじゃないわよ! そんな欠陥品どうやって使っ……あー、なるほど。だから私たちなわけ?」
「うむ、お主らはもう死んでおる。このサモンギアのデメリットを気にせず使えるわけじゃな」
「ぼくの子どもたちが、お互いを本契約モンスターとしてサモンマスターになれたと報告を受けてます。きっと、二人も出来ると思いますよ? 血よりも濃い愛と絆で結ばれてますし」
ハイテンションなリオの放った一言にツッコミを入れつつ、アンネローゼは彼らの意図を理解した。ダイナモドライバーの代わりに、サモンギアを使い戦ってほしいのだと。
デッキホルダーとベルトを受け取り、アンネローゼは愛しい夫を見つめる。フィルは頷き、愛する妻の手を握った。
「四日ほど時間をください。その間に、このサモンギアを使いこなせるようにしておきますから」
「うむ、頼んだぞよ。理研の奴らが次にどう動くか読めぬ、早めに行動に移りたいでな」
「任せといて! 大丈夫、私たちなら必ずやれるから!」
こうして、水面下でリオたちが行っていた計画が本格的に動き出した。英雄たちの集結の時は、近い。




