200話─つよいこころと二人のヒーロー
「おや、タナトスとの繋がりが途切れましたね。仕方ありません、撤退するとしましょうか」
「何をぶつぶつ言ってるんだ? 逃げるつもりかな、そうはいかないよ!」
守護者がタナトスと接触した直後、元レジスタンスの基地にて。泰道亮一と接触、戦闘を行っていたキルトは相手の不穏な動きに気付いた。
ネガに渡された一回しか使えない特殊な転移石を使い、孤立無援の状態から退却しようとしているのだ。キルトは妨害しようとするが……。
「おっと、悪いのですがイレギュラーな事態になりましてね。ここで失礼させていただきます。あなたはこの者たちと遊んでいてください」
『スレイブコマンド』
「待て、リョウイ……! お前たちは!」
「久、シイナ……キルト。オ前ヲ殺スタメニ……地獄カラ帰ッテキタゾォォォ!!」
「ククク、オレ様モナ。サア、今度ハモウ負ケネエゼェ?」
『チッ、最悪なコンビを……よりによってボルジェイとバルステラを呼び出すか!』
撤退完了までの時間を稼ぐため、亮一はキルトにとって最悪の敵をよみがえらせた。一人は、少年が味わった悲劇の元凶、サモンマスターイリーガルことボルジェイ。
もう一人は、第一次メソ=トルキア大戦でキルトやルヴォイ一世を心胆寒からしめた、サモンマスターコレクトこと覇王バルステラだ。
「私はもう帰りますので、その者たちとごゆるりとお楽しみください。では、さようなら」
『待て! チッ、相変わらず逃げ足の速い……』
「悔しがってる場合じゃないよ、お姉ちゃん! あの二人が同時はキツいね……僕一人じゃ勝てないかも」
「問題アリマセン、私ガオ助ケシマス。ギアーズ博士ノ遺志ノ元ニ」
どちらか単体ならともかく、不正アクセスで全てのサモンカードを使えるボルジェイと大量の本契約モンスターを従えるバルステラに連携されれば勝利は厳しい。
が、その時。サモンマスタードラクルの姿になってなおキルトの頭に陣取っていたつよいこころ八百七十号が初めて動いた。
『なんだ、こやつ何を──!?』
「わっ、立体映像!?」
『ほっほっ、はじめましてじゃな。ワシはアレクサンダー・ギアーズ。……のメモリーデータじゃ』
「俺たちヲ無視しやがルとは……舐めテくれやがってよ! 死ね、キルト!」
「ひゃはハハ! あの時ハ裏切りを食らって負ケたが今回はオレ様ガ勝つぜ!」
宙を飛ぶ八百七十号の鞘羽根が開き、小さな立体映像が映し出される。現れたのは、技術財団に像が建てられていたギアーズ博士その人だった。
キルトとルビィが驚くなか、自我を取り戻しつつあるボルジェイたちが攻撃を仕掛ける。迎撃しようとするキルトだが、先につよいこころが動く。
『あのデカい豚はワシが引き付けよう。お主はもう片方を頼むぞ』
『いや待て、どうやって戦うつもりなのだ!? インペラトルホーンよりも遙かに小さいその姿では、あっさりと握り潰されるぞ!』
『問題はない、こちらには切り札があるからの。出でよ、シルバリオ・スパルタカス!』
ギアーズが叫ぶと、つよいこころ八百七十号の目が赤色に輝く。直後、キルトたちがいる広場周辺の空間が歪み……二十機近い銀色の人型ロボットが現れた。
いずれも剣と盾で武装し、全身に取り付けられた小型の魔導ブースターを使い空を飛んでいる。突然のことに、敵も味方も驚いていた。
「なんだァ、こりゃ……うおっ! こいつら、意外とパワーがありやがるな!」
『あやつはワシが倒す、終わったら話をしよう……フィルたちの血を引く者よ』
「! はい、分かりました! 負けないでくださいね、ギアーズさん!」
『うむ、安心せい! シルバリオ・スパルタカス軍団は無敵じゃ!』
ギアーズは銀の騎士たちを使い、バルステラを広場の奥へと押し込んでボルジェイとの連携を絶つ。これで、勝率がグッと上がった。
「チッ、分断作戦か。くだらねぇ、どっちもぶっ殺せばいいだけだ! インジャスティス・アクセス開始!」
「なら、今のうちにリジェネしとこっと!」
『ああ、それがいい。さあ、やるぞ!』
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
流石に、不正アクセスを完了させた状態での復活とはいかなかったらしい。万全を期すべくリジェネレイトを果たしたキルトは、容赦なく相手に突っ込む。
「ま、待て! まだ終わってな」
「そんなこと知るか! バルステラと組んでるならともかく、お前一人なんかカード使わなくても楽勝だもんね!」
「ごふあっ!」
かつての宿敵が相手とあって、キルトは一切情けをかけず容赦もしない。全力の右ストレートを相手のサモンギアにブチ込み、バルステラがいるのとは反対の方向に吹っ飛ばす。
「この、ガキィ! よくもやってくれやがったな! もう許さねえ、殺してやる!」
『フリーズコマンド』
「うわっ! こいつ、僕のカードをパクったな!」
「これで一分間、てめぇはカードを使えねえ。この勢いのままに殺してやる!」
ボルジェイにとって幸いなことに、サモンギアは破損せずに済んだ。不正アクセスを終え、早速キルトの持ち物であるフリーズコマンドをカードを使う。
直後、ヘイルシールドに備え付けられているカードスロットが凍結してしまった。ここから一分間、キルトは相手の猛攻を凌がねばならない……。
「そこを動くな! マナリボルブ!」
「ぐおあっ!?」
「ふう、間に合ったみたいね。よかったよかった」
と思われたその時、ボルジェイの左腕を魔力の弾丸が貫いた。キルトが上を見ると、上空にウィンゼルとイグレーヌがいた。
二人ともそれぞれ、シュヴァルカイザーとホロウバルキリーに変身している。降りてきた二人に、キルトが問いかける。
「あれ、そっちはもう終わったの?」
「うん、よく分からないけど撤退されちゃって。ウォンさんだっけ、連絡があってそっちも逃げ」
「貴様ら! よくもやってくれやがったな、部外者は引っ込んで」
「うるさいわね、今大事な話してるんだから割り込まないで!」
「……はい」
突然の乱入と不意打ちに怒り、猛抗議しようとするボルジェイ。が、イグレーヌに怒鳴られ逆に大人しくされてしまった。
「僕たち、まだ戦い足りなくて。あのヘンテコ鎧、相手しちゃっていい?」
「え……お姉ちゃん、どうする?」
『よいのではないか? この者らの実力を見るいい機会だ。それに、相手がボルジェイなら万が一この者らが危機に陥っても瞬殺出来よう』
「それもそうだね。じゃ、二人にお任せす……あ、もうイグレーヌさんが突っ込んでる」
「せっかちだからね、イルは。ちっちゃい頃から尻ぬぐいばっかりさせられてるよ……」
キルトの了承を得る前に、すでにイグレーヌはボルジェイに攻撃を加えていた。ハルバードを振り回し、一方的に追い込んでいる。
大地を統べる貴族という肩書きからはあまりにもほど遠い、雑で荒っぽさ全開な攻撃にボルジェイは防戦一方だ。
『ロストコマンド』
「クソが、なんなんだてめぇは!? ロストコマンドが効かねえとは……何をしやがった!?」
「別にー? あ、ダイナモドライバーの力で妨害を防いでるのかもね。フンッ!」
「うぐおっ!」
『強いな、あの娘。あやつ一人で終わるな、この分だと』
純正のサモンマスターではないことに加え、ダイナモドライバーによって守られているのか武器を消されることなく攻撃を続けるイグレーヌ。
そんな彼女を見ながらルビィが呟くも、ウィンゼルは首を横に振る。彼女には一つ致命的な弱点があるのだと、相棒の様子を見つつ語った。
「イルはね、体力のペース配分が全く出来ないんだねよね。いつも押せ押せドンドンですぐガス欠に……なってきてるから助けてくるね」
「い、いってらっしゃい……」
話をしている間にも、イグレーヌはスタミナ切れに陥りかけていた。動きが精彩を欠きはじめていることに気付き、ウィンゼルが走り出す。
「ひゃははは! どうしたメスガキ、もう息切れか? ま、あれだけ暴れれば……」
『クローコマンド』
「無理もねえよなぁ!」
「うぐっ! やりやがったわねこのっ!」
「おっと、遅い遅い。そんなすっトロい攻撃は当たらねえよ!」
今度は逆に、ボルジェイがイグレーヌを攻める。のだが、彼の天下は五分も続かなかった。ウィンゼルが二人の間に割って入り、黄金の剣を振るう。
「イルをいじめるな! 食らえ、V:ストラッシュ!」
「うぐあっ! て、めぇ……ら、何も……」
「わ、凄い。ボルジェイを一撃で倒しちゃった」
『初見の相手だろうにな、ヒーローを名乗るだけあって強いものだ』
怒りの一撃が直撃し、ボルジェイは再び死へと還った。自分たちとはまた違う力を持つヒーローを、キルトとルビィは静かに見つめていた。
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