199話─レジェの涙と守護者の怒り
サモンマスタールゥレイ、そしてメタルスが撃破されていく中……レジェは一人、旧特殊兵器工場敷地内で戦っていた。
彼女の相手は、亮一の手でよみがえらされた死せるサモンマスターたち。亮一本人は別の場所にいるらしく、姿は見えない。
「オオォォ……死、ネェッ!」
「オ前ヲ……殺スゥゥ!!」
「わー、マジやばたんピーナッツじゃ~ん。チョー怖いんですケド、夢に出そー」
レジェを囲むサモンマスターは三人。フォールン、ゴーム、ジャスティス……いずれもまだ理性は戻っておらず、生前のような強さはない。
そんな三人を相手に、ラグジュアリ・ミッドナイトアーマーを纏ったレジェはブースター付きの巨大な斧を振るう。
「そいじゃ~そろそろ、オルなんとかちゃん使ってこ~! テンアゲぴーぽーマ~ックス!」
「何ヲ……!?」
各部にゴテゴテした宝石が大量に付いた、セーラー服風のアーマーで攻撃を防御しつつレジェは笑う。ダイナモドライバーに組み込んだ、オルタナティブ・コアを起動した。
すると、レジェの背中に翼が生える。写真映えするという理由で、彼女はフロウラピルのデータを選び空を飛べるようにしたのだ。
「そいじゃー、みんなぶっ潰しゃーす! ……アンネちんとフィルちんの形見を奪ったクソども、絶対に許さないよ。二人の遺志を踏みにじりやがって……!」
「ハヤ……ウガッ!」
それまでのぽやぽやしたアホッぽい雰囲気を引っ込め、殺意を剥き出しにして一番近くにいたフォールンを両断するレジェ。
仲間たちの前では決して表に出さないが、彼女の心には強い怒りが渦巻いていた。アンネローゼやフィルとの絆が、人一倍強いがゆえに。
『ねえ、レジェ。私とフィルくんからお願いがあるの。聞いてくれる?』
『およ、な~に~そんな改まっちゃってぇ~。いーよー、ウチ何でも聞いちゃーう』
残り二人と戦うレジェの脳裏に、在りし日の記憶がよみがえる。アンネローゼとフィルの結婚式から二年が経った、ある日のこと。
とある喫茶店で三人揃ってお茶をしていた時、アンネローゼとフィルがレジェに真剣な表情で話をする。その内容は……。
『この子が生まれてから、僕とアンネ様で話し合ったんです。……常人ならざる力を持ったがゆえに、僕たちは多くの悲劇を見て、味わいました』
『だから、私たちはせめて……常命のヒトとして人生を全うしたいって。そう結論を出したの。フィルくんの持つウォーカーの力が、新たな悲劇の引き金にならないように』
『……そっかぁ。二人とも、リオちんとかみたいに不老長寿になるつもりはないんだね』
腕に抱いた赤子を見下ろしながら、フィルは語る。自身の力が愛する者たちの悲劇に繋がることを恐れ、彼とその妻はリオたちのような存在になることを拒んだ。
彼らの言葉を聞き、レジェは寂しそうに微笑む。本音を言えば、百年でも千年でも一万年でも。彼らと共に生きていきたかった。
だが、レジェは友の決意を尊重し想いを口にしなかった。彼女の本音を薄々理解しているようで、アンネローゼもフィルも申し訳なさそうにしている。
『ごめんね、レジェ。それでね、それに当たって一つお願いがあるの。さっきも言ったけどね。……私たちの子孫を、導いてほしいのよ。悪の道に染まらないように』
『アンネちんたちの、子孫を?』
『ええ。全員に遺伝するかは分かりませんが、一人くらいは確実にウォーカーの力と無限の魔力を僕から継承するはず。そうなれば、力に溺れ道を踏み外してしまうかもしれません』
無限の魔力はウォーカーの力とセットにし、一緒に継承されるようフィルは自身の肉体を手術し造り替えた。ゆえに、ウォーカーの一族の創造主によって人格を歪まされる心配はない。
だが、過ぎた力は時として慢心を生み、容易く道を踏み外させる。だからこそ、フィルとアンネローゼは自分たちの代わりに子孫を導いてくれる者を求めた。
そして、その白羽の矢が立ったのがレジェだったのである。
『……一つ、聞かせて。どうしてウチを選んだの? 他に適任ピーポーいるだろうにさ』
『ジェディンは七栄冠としての仕事が忙しいし、オボロも私たちみたいに長生きするつもりはなし。ローグはどっか行っちゃったし、イレーナはクラヴリンとこに嫁入りしたから……』
『レジェさんしかいないんです、僕たちの子孫を託せるのは。貴女にも夢があって、その実現のためにこの大地を去ろうとしてるのは分かってます。でも……』
『おっけおっけ、そんくらいウチならよゆーのよよよよよんだし~。自分の夢もアンネちんとフィルちんのお願いも、両方叶えちゃうのだ~』
二人の言葉を聞き、レジェはダブルピースサインしながら嬉しそうに笑う。どんな理由であれ、二人が自分を選んでくれたことが嬉しかったのだ。
『だからさ、安心してよ。ウチが暗域で夢破れたコたちのための街……ドリームエンドを創りながら二人の子どもたちを見守ってくから!』
『ありがとう、レジェ。私たち、あなたのような友達を持ててよかった。ほら、この子も喜んでるわ』
『きゃきゃ、あーう!』
『お~、二人に似てめんこいね~。こりゃ将来美少年になるよぉ~』
『ふふ、ありがとうございます。レジェさん』
そこまで思い出したところで、レジェの意識は現実へと引き戻される。いつの間にか涙が流れ落ちていることにも気付かず、乙女は吠える。
「お前らみたいなクズどもがあああああ!! 二人の……ウチの大切な親友の! 形見に触れるなああああああああ!!」
「グオアアア!!」
「避ケ……ギヤアアアア!!」
鬼デコ斧ちゃーを振るい、残り二人を一気に殲滅する。その頃、特殊兵器工場跡地の奥に建てられた巨大金庫の中にて。
「ククク、誰も思っていないだろうな。この大地に寄越した戦力が、全てただの陽動に過ぎないということなど」
かつてレジェが用いていた、初代『ラグジュアリ・ミッドナイト』のダイナモドライバーが台座の上に置かれている。
そのすぐ近くに、ウォーカーの力によって作られた金色の丸い門が浮かんでいる。門を介して一本のケーブルが伸び、ドライバーに接続されていた。
ドライバーをハッキングし、データを吸い出すために。首謀者は……黒き死神、タナトスだ。
「最初に派手な襲撃でドライバーを奪えば、次も同じ手口で奪いに来る。誰もがそう思うからこそ……容易く裏をかけるというものだ」
タナトスは最初から、ドライバーそのものではなくデータを奪うのが目的だった。最初にサモンマスターランズによる簒奪を行わせたのは、相手の思考を誘導するため。
物理的にドライバーを奪いに来る、そう思い込ませるための策なのだ。ドライバーに接続されたケーブルの反対側にあるキカイのモニターを、死神はちらっと見る。そこに浮かんでいるのは……。
【クリムゾン・アベンジャー:データ吸い出し完了】
【ラグジュアリ・ミッドナイト:データ吸い出し完了】
【デスペラード・ハウル:データ吸い出し継続中・進行率二十一パーセント】
「あと一つで終わりか。ククク、これまで私がウォーカーの一族の出であることを隠し通してきた甲斐があったものだ。力とは、ここぞという時に使うべきだからな。ククク、ハハハハ!」
モニターのチェックを終えたタナトスは、ドライバーとの接続を解除しケーブルを解除する。すでに、ソサエティ本部地下シェルターに安置されていたドライバーのデータも、同様の手口で奪っていた。
「残りは一つ、これで」
『ようやく見つけたぞ、薄汚いウォーカーの一族の手先め! よくもまあこれまで我の監視網をすり抜けてくれおったな! だが、もう無法な振る舞いも終わりだ!』
最後に残った初代ドライバーのデータ吸い出し速度を上げようとした、その時。タナトスの脳内に怒りに満ちた声が響く。
双子大地を守る存在……『名も無き守護者』が、ついに不正な侵入経路を突き止めたのだ。開いていたウォーカーの門が、強制的に閉じられる。
「もう気付かれたか! もう少し大丈夫かと思っていたが……」
『我が半身、フィルより託されし力で貴様が作り出した門は閉じてやった。もう二度と干渉はさせぬ、例え新たな一族の幹部……渡りの六魔星が相手であろうともな!』
「やれやれ、最後のドライバーのデータは奪えなかったか。まあいい、七割も達成出来れば上々。守護者よ、お前の働きも無意味に終わったな」
『無意味? ハハハハ、面白いことを言う。我の半身が、死したのち永遠に沈黙と不干渉を貫くとでも? 愚かなり、すでに逆襲の準備は進んでいる。己の悪行の報いを受ける日が来るのを、楽しみにしていろ!』
タナトスの言葉にそう返した後、脳内に響いていた声は消えた。嫌な予感を覚えた死神は、指を鳴らして部下を呼び寄せる。
「お呼びでしょうか、タナトス様」
「ベスティエ、すぐに鎮魂の園に密偵を送れ。守護者の言葉と私の勘が正しければ……奴らが帰ってくる。死の世界から、黒き皇帝と白き戦乙女が」
何が起きても滅多に動じないタナトスも、この時ばかりは焦っていた。死神の予想は、のちに当たることになる。
死者たちの楽園で、リオやアゼルたちによる一つの計画が動いていた。それをキルトたちが知るまで、そう時間はかからない。




