198話─怪盗の切り札
「面白い冗談ね。どうやって私を再起不能にするつもりかしら? せっかくだから見せてもらうわ。ハサミであなたを切り裂きながらね!」
「へっ、オレが大口叩くときゃあそれなりの根拠と勝算があるのさ。それを教えてやるよ!」
ローグの大胆極まる宣言に、ケイリーはフッと小バカにしたような笑みを浮かべる。サモンマスターを殺さず無力化するのは不可能だと、ネガから聞いていたのだ。
サモンギアやデッキホルダーを破壊したところで、一時的に力を使えなくなるだけに過ぎない。本人たちの相互認証が無ければ、本契約も解除不可能。
つまるところ、本人が自発的にサモンマスターを辞めようとしない限り恒久的に力を振るえなくなるような事態にはならないのだ。……普通であれば。
「あはははは! 私がここまで笑ったのはこれが初めてよ、あなたやるわね。おかしくってお腹がよじれるわ!」
「っと、危ねえ危ねえ。そんじゃ、こっちもそろそろエンジンかけてくか!」
横薙ぎに振るわれたハサミを、連続バク転で避けるローグ。着地した後、転送魔法を使いある物を呼び出す。
それは、夜中のうちにギアーズ技術財団から盗み出しておいたオルタナティブ・コアだった。単体で運用出来るよう、ガントレット型に改造されている。
「! それは……前にネガから報告を受けたオルタナティブ・コアとやらね。聞いたものとは形状が違うようだけど……」
「いいだろ? こいつは昨日オレがパク……いただいてきたものを独自に改造したオンリーワンの品さ。これを使ってお前を無力化してやるよ!」
ガントレットを右腕に装着し、左手でピッキングツールを持ったローグは相手に向かって走る。ケイリーの方は、どんなモンスターデータを相手が持つのか警戒していたが……。
「? 何故新しく武装を召喚しないの? そのオルタナティブ・コアにはモンスターのデータをインストールしてあるはずでしょう」
「してねえよ、そんなもの。んなもんがなくてもよ、自己流の改造をすりゃあ問題はねえんだ。こんな風になぁ!」
「!? そんなバカな、シザースブレードが分解された!?」
「おうよ、このメルトシャンの錠抜き棒は本来あらゆる錠前を解除するために使うもんなんだ、が。オルタナティブなんちゃらの効果を加えて、お前らの武装も分解出来るようになったのさ。イカすだろ?」
(なるほど、そんな器用な真似をしてくるとはね。この様子だと、まだ何か隠してそうね。迂闊に奥義を打てばカウンターされそう……安全策を取りましょうか)
本来、オルタナティブ・コアはモンスターのデータを入力してはじめて運用可能になる。が、ローグが施した独自の改造がそこを変えたのだ。
「俺が盗むのはモノやカネだけじゃねぇ。必要とあらば技術もいただく。それが怪盗ローグなのさ!」
「確かに驚かされたわ。でもね、その程度の対策ならいくらでも出来るのよ!」
『シールドコマンド』
『バブルコマンド』
格好つけるローグを見ながら、ケイリーは二枚のカードをスロットインする。使うのは、カニの形をした盾が描かれたカードと、泡を吐くカニが描かれたカード。
右腕にカニ型の盾『クラブディフェンダー』が装着され、その口から大量の泡が吐き出されて地面を埋め尽くしていく。
「こうやって足場を悪くしてしまえば、怪盗さんも動きにくくなるんじゃない?」
「おっと、あぶね! 確かにこいつはやべえな、コケて頭でも打ったら大怪我だ」
「それは大変ね、じゃあ先に私が昏倒させてあげるわ!」
『シザースコマンド』
泡の上を滑るように移動し、ローグの元に飛び込むケイリー。上手く移動出来ない相手に、ひたすら猛攻を加えていく。
ピッキングツールを弾き飛ばされ、丸腰にされながらもローグは何とか攻撃を避け、致命傷を食らわないようにしている。
(まだだ、突貫工事で作った切り札じゃあいつを無力化出来ねえ。奴が本契約モンスターとやらを召喚しねえと無意味だ。……こんな時、フィルやアンネローゼならこうするよな!)
ローグの作戦を成功させるには、相手が本契約モンスターを呼ばねばならない。だが、警戒心の強いケイリーはあえて奥義を使おうとしなかった。
相手にどのような手札があるか分からない以上、一枚しかないアルティメットコマンドをそう簡単には使えないのだ。
ゆえに、ローグは捨て身の行動に出る。かつての友たちなら、同じようにするだろうと思いながら。
「やべっ、足が滑った……!」
「チャンス! 食らいなさい、クラブスラッシュ!」
「うぐおっ! へ、やるじゃねえか。だが、オレはまだ元気だぜ! 仕留めたいなら使うしかねえんじゃねえのか、あんたの切り札をよ!」
足を滑らせた風を装い、わざと攻撃を食らう。弱った状態を見せつつ挑発し、ケイリーが奥義を使うよう誘導したのだ。
「……そうね、口とは裏腹にだいぶ弱ってきているもの。これで終わらせるとしましょう!」
『アルティメットコマンド』
「来なさい、『ゴルトシザーズ』よ! 彼を倒すため力を貸しなさい!」
(来た! チャンスは一度、しくじったら終わりだ! 一気にケリを付ける!)
奥義を放つべく、ケイリーは一旦後ろに下がり黄金に輝く大きなカニのモンスター『ゴルトシザーズ』を召喚する。その瞬間、ローグが動いた。
泡の上を滑って自分から相手に接近し、オルタナティブ・ガントレットを装備した右腕を振りかぶる。自分に攻撃が来ると思い、ケイリーは咄嗟に身を守る。
「くっ、このタイミングで──!?」
「わりぃな、オレの狙いはあんたじゃないんだわ。その後ろにいる、この食いでのありそうなカニなんだよっ! 食らえ、シールナックル!」
「キ、カ……ギィィィ!?」
「!? そんな、あり得ない! ゴルトシザーズが吸収……えっ、デッキが!?」
だが、ローグの狙いはケイリーではなかった。彼女の後ろにいたゴルトシザーズに拳を叩き込むと……なんと、ガントレットの中にすいこまれてしまったのだ。
直後、デッキホルダーに刻まれていた爪を振り上げるカニを模したエンブレムが消滅する。ガントレットの力で、本契約を強制的に解除したのだ。
「あり得ないわ、本契約の解除は私とゴルトシザーズ双方の同意が必要なのよ! あなた、一体どんなカラクリを使ったの!?」
「んー? 別に契約を解除させたわけじゃねえさ。契約の対象を認識出来なくしたんだよ、このオルタナティブなんちゃらの力でな」
「……どういう、こと?」
「ああ、聞かせてやる。夕べ、オレは徹夜でこいつの改造をしてな。いろいろいじくり回した結果だな、相手の契約機能を誤作動させられるようになったわけだ」
ローグはガントレットにゴルトシザーズを封じ込めることで外界と遮断し、ケイリーと本契約されている状態でなくなったと誤認させたのだ。
結果、本契約機能に不具合が生じて契約が解除された。不具合が起きたままでは、セーフティシステムにより新しい本契約をすることも不可能。
「そのガントレットを渡しなさい!」
「おっと、ダメだね。こいつはポイさせてもらうぜ、次元の狭間にな!」
「!? な、なんてことを! それじゃあもう私は……」
「サモンマスター廃業決定、だな。言ったろ? お前を無力化するってな」
ガントレットを奪えば、相方を救出出来る。そう考え即座に奪いにかかるケイリーだったが、ローグの方が早かった。
空間の裂け目を作り出し、そこに腕から外したガントレットを捨ててしまったのだ。これでもう、ケイリーは戦うすべを失ってしまった。
「今ガントレットを捨てたのはオレ専用の特別な場所でな。ウォーカーの一族ですら干渉は不可能、相棒は取り戻せないぜ」
「くっ……どうやら、私の負けのようね。新しいサモンギアとデッキホルダーを貰えれば、別の子と本契約して戦えるけれど……」
「やめとけやめとけ、あの機能を搭載する方法は覚えてる。仲間と協力してあの機能を備えた装具を量産すりゃ、もうお前らに勝ち目はねえよ」
その一言が引き金となり、ケイリーは敗北を認め降参した。サモンマスターのルールをねじ曲げる装具を量産されたら、もう対抗のしようがないからだ。
大人しくなったケイリーを見ながら、ローグは心の中で安堵する。何故なら……。
(やべー、バッタリだって見抜かれなくてよかったぜー。アレ深夜テンションの産物だから、ホントはあの機能の搭載方法まっっっったく覚えてねえんだよな。これバレたら素手で殺されるな、オレ)
実は、ケイリーに言ったことは真っ赤な嘘だったのだ。いつの間にやら完成していたイレギュラーな機能を再現出来るわけもなく。
ケイリーに使った一回こっきりの代物となってしまったのだ。当然、それが判明すればリベンジされるのは確実だろう。
「……ふふ。私、ますますあなたを気に入ったわ。こんな予想外の形で勝たれたら、もう文句なんて言えないわ」
「そ、そうか。うん、素直に負けを認めるのが一番だぜ、はっはっはっ!」
「こうして敗れた以上、私はあなたの捕虜となる。これでもう、ずっと一緒ね。ふふふ」
(……ヤベえな。てっきり撤退すると思ってたのに。こいつ、捕虜っつー名目でオレの側に居続けるつもりだな?)
元々ローグに惹かれていたこともあり、ケイリーは自身を打ち負かした男のモノになることを決めたようだ。
熱っぽい視線を送られ、ローグは冷や汗を流す。彼の運命がどうなるのか。それは、誰にも分からない。




