196話─ネクロ・リボーン
「戦える者は全員地下シェルターに集まれ! そうでない者は本部から退避せよ! 今回の敵は我々が対抗出来る相手ではない、援軍のサポートに回るのだ!」
キルトたちが敵の迎撃のため出撃した頃、ルナ・ソサエティ本部では一足早く魔女たちが動いていた。メイナードの指揮の元、シェルター前に魔女たちが集まる。
「敵が来る……。コリンズ、アリス。準備を……」
「また昔みたいに副会長って呼んでくださいよ、生徒会長? あんまり気張り過ぎると、足下掬われますよ」
「ええ、コリンズ副会長の言う通りです。あの頃のように、適度にリラックスして戦いましょう?」
少しずつ、地下に異質な気配が近付いてくるのを感じ取ったデューラは懐から取り出したネクロクリスタルを握り締める。
そんな彼女に、学生時代から苦楽を共にしてきた仲間たちが声をかける。二人の言葉に、デューラは肩の力が抜けた。
「……そうね、そうするわ。アゼル先生から賜ったこの力なら、サモンマスターにも通用する。さ、行くわよ。元ヴェールハイム魔法学院生徒会の力、見せつけようじゃない!」
「了解!」
「お任せを!」
デューラはサソリ、コリンズはカブトムシ、アリスはクワガタムシ。それぞれの変身するノスフェラトゥスのマークが納められた透明な結晶を、自身の胸に突き刺す。
『ネクロ・リボーン』
「さあ、迎撃するわよ! 相手が誰だろうと……死を超越せし我らは恐れを抱かない! 死を讃えよ!」
「死を讃えよ!」
「……頼んだよ、援軍のみんな。私たちも全力でドライバーを守るから」
死の力を取り込み、デューラたちは異形の怪物へと姿を変える。サソリやカブトムシが人型になったような、黒い怪人となり迎撃用の大部屋に走っていく。
その様子を、シェルターを背に守りながらメイナードが見ていた。一方、地上へ続くエレベーター付近では……。
「やっと着いたな。直接シャフトを降りてきたってのにえらい時間を取らされたよ、まったく嫌になるね」
理術研究院が送り込んだ、新たなるサモンマスターが侵入を果たしていた。淡いグリーンに茶色のぶち模様が特徴的な、葉っぱの飾りが付いた鎧を着た女が地下に降り立つ。
左腰には、鎧と同じ色のデッキホルダーが下げられている。刻まれているエンブレムは、ウツボカズラをかたどったものだ。
「さて、と。例のダイナモドライバーとやらはこの先かねぇ。さっさと分捕って帰ろうか」
女はそう呟くと、手にしていた巨大なチェーンソーを肩に担ぐ。サモンマスターミスティと同様、武器がサモンギアを兼ねるタイプらしい。
チェーンソーの側面に、カードスロットが取り付けられている。反対側には、ダイナライズキーを入れるための鍵穴が空いていた。
「お、広い部屋に来たね。さっさと突っ切って」
「来ましたね、侵入者よ! このスタッグビートルズノスフェラトゥスが相手です! 唸れ、ギラファール&タランドゥリスブレイド!」
「!? バカな、なんでネクロ旅団のメンバーがここにいるんだい!?」
大部屋に足を踏み入れた瞬間、二つある出入り口に分厚いシャッターが降りる。直後、部屋の奥に陣取っていたアリス……スタッグビートルノスフェラトゥスが攻撃を仕掛けた。
両手に持ったクワガタのハサミのような形状をした双剣を構え、背中の羽根を広げ真っ直ぐ飛翔して距離を詰める。
「っと、そんなの当たらないさね。しかし、驚いたねぇ。この『サモンマスタールゥレイ』の相手が命王のとこの怪物とは」
「怪物とは失礼だな。俺たちにはちゃんとノスフェラトゥスって呼び名があるんだ、正式名称で呼んでもらいたいね」
「ええ、まだ本名も名乗っていないし……礼儀というものを弁えていないのね、あなたは」
「! まだいるのか。ま、それもそうか。死天王以外は基本数体のチームで活動するからねぇ、お前たちは」
素早く横に跳び、アリスの攻撃を避けるサモンマスタールゥレイ。着地すると同時にチェーンソーを稼働させ、相手を睨む。
そこに、隠密の魔法で姿を隠していたコリンズとデューラが姿を現す。三対一という不利な状況にありながら、サモンマスタールゥレイは余裕の笑みを浮かべていた。
「ハッ、そんなに知りたいなら教えてやるよ。私はポリーナ、元機動部隊Ω-13の一人さ。これで足りるだろ? 冥土の土産はね!」
『シュートコマンド』
サモンマスタールゥレイことポリーナは、肩当てと一体化したウツボカズラを模したキャノン砲が描かれたカードをデッキから取り出す。
再度攻撃を仕掛けてくるアリスを避けつつ、チェーンソー型のサモンギアにスロットインする。すると、左肩に大砲付きの肩当てが装着された。
「まずは一人消してあげようかね。残りの二人はこの『ズーラーカノン』と遊んでな! アシッドボム!」
「コリンズ、来るわよ!」
「大丈夫、俺の後ろに隠れてください生徒会長! このエグゾスケルシールドで防ぎますから!」
人型になったカブトムシのような鎧兜を纏ったコリンズは、左手に持つ鞘羽根のデザインをした黒いカイトシールドを構える。
そして、自身へと放たれた酸性の砲弾を受け止めてみせた。砲弾が弾け、床にしたたり落ちて床板を溶かす。が、盾は全くの無傷だった。
「へえ、面白いね。アシッドボムの直撃を食らって平気……くっ!」
「忘れたらダメよ、まだこの私がいるんだもの。このスコーピオンシュートで、猛毒を撃ち込んであげるわ」
コリンズを見て感心していたポリーナに、デューラが反撃を行う。ハサミに変化させた両手を相手に向けて、猛毒が塗られた針を飛ばしたのだ。
アリスの攻撃を捌きつつ、デューラの遠距離攻撃もかわさねばならないとあってポリーナの苦戦は免れない、と思われたが……。
「やるじゃないか。でもね、こっちはまだカードが二枚あるんだよ!」
『ガーデンコマンド』
「! アリス、下がって! コリンズ、彼女を頼むわ。私が前に出る!」
「は、はい! アリス、こっちだ!」
「ダメ、つるが出る方がはや……きゃあっ!」
アリスを蹴り飛ばした後、ポリーナはチェーンソーを盾にしてデューラの攻撃を防ぐ。その間に食虫植物が咲き誇る庭園の絵が描かれたカードをスロットインする。
すると、床や壁、天井を突き破り無数のつるが伸びてくる。つるによってデューラたちは分断され、連携を阻害されてしまう。
「これは……!」
「驚いたかい? これでもうこの部屋は私の楽園さぁ。相棒の『ラスターケルプ』も喜んでるよ。……お前たちを美味しくいただけるってね! まずはお前からだよ、のっぺらぼうのサソリ女!」
部屋を覆い尽くすつるは非常に頑強で、アリスの双剣やコリンズの持つカブトムシの角を模した両刃斧でも切断に時間がかかるようだ。
二人よりも先に、一番近くにいる上に司令塔であるデューラから始末することを決めたポリーナ。つるりとした真っ黒な兜の奥から、相手を見つめデューラは笑う。
「いいでしょう、やってごらんなさい。これでも私はアゼル先生の元で修行を重ねたノスフェラトゥス。死を超越した者を殺せると思わないことね!」
「ハッ、ならその思い上がりを命ごとぶった切ってやるよ! ランバージャックスラッシャー!」
チェーンソーをフル稼働させ、デューラに襲いかかるポリーナ。彼女自身は装具ごとつるを透過するようで、何も苦にせず移動していた。
「フッ、そんな見た目がゴツいだけの武器など。アゼル先生の振るう魔凍斧ヘイルブリンガーに比べたら真剣と竹光ほどの差があるわ!」
「!? 嘘だろ、ルゥレイソーを受け止め……ごふっ!」
「お返しよ! スコーピオンフレイル!」
不死の怪物とはいえ、所詮は節足動物。一撃でバラバラに出来ると、ポリーナはそう考えていた。が、デューラは難なく右のハサミで攻撃を受け止める。
返す刀で、驚愕しているポリーナの脇腹目掛けて尻尾をブチ込む。身体を回転させて遠心力を加えているため、その威力は絶大だ。
「ぐっ、このクソ虫め! 調子に乗るんじゃあないよ! アシッドボム!」
「っと、そのような単調な攻撃当たらないわ! メレェーナ様やアーシア様との修行で食らった攻撃の方が、よっぽど厄介だったわよ?」
「こんのぉぉぉぉ!! 減らず口を叩くな!」
チェーンソーが効かないならと、ポリーナは左肩の大砲を乱射する。デューラはやれやれとため息をついた後、驚きの行動に出た。
なんと、一切避けることなく酸の砲弾を自ら食らいに行ったのだ。当然、そんなことをすれば身体が溶けてしまう。
「ぷっ、何をするかと思えば! 気でも違ったんじゃないのかい、自分から死……!?」
「言ったでしょう? 私たちは死を超越した存在、ノスフェラトゥスだと。この姿でいる間、私たちは……決して死なない。ネクロクリスタルに宿る蘇生の炎の力で、ね」
身体が溶け、ジェル状の物体となり崩れ落ちるデューラ。それを見て勝ち誇るポリーナだが、直後異変が起こった。
ジェル状の物体を紫色の炎が包み、あっという間に元の姿に戻したのだ。彼女は一度、確かに酸弾を食らい息絶えた。
だが、内に宿る蘇生の炎によって瞬時によみがえったのだ。これこそが、ネクロ旅団の構成員が不死者と呼ばれる所以なのだ。
「バカ、な……!」
「そろそろ副会長と書記が合流出来そうね。じゃ、終わらせましょうか。この戦いをね」
無貌なるサソリの化身は、目の前の敵対者にそう告げる。不死の怪物が、召喚者を食らい尽くさんとしていた。




