193話─一触即発!? ユウとサモンマスター!
「ふう、とりあえずデータ集めはこれくらいでいいかな?」
『ああ、十三種分もあれば十分だろう。後は連中がめいめい好きなものを選ぶさ。そろそろ帰ろうか、キルト』
「うん、そうだね。これ以上長居すると、理術研究院の奴らに気付かれかねないし」
二つの大地で事態が動いた頃、キルトとルビィは暗域でのデータ収集を終えていた。長居は無用と、秘密の抜け穴で帰ろうとするが……。
「やっほ、久しぶりだねキルトくん」
「リオさん!? 一体どうしたんですか、驚きましたよ」
次の瞬間、キルトから少し離れたところに門を模した青いタワーシールドが現れる。その中から、盾の魔神リオが顔を覗かせたのだ。
「ごめんねー、ちょっと今メソ=トルキアでまずいことが起きてて。仲裁を手伝ってもらえないかな?」
『仲裁? 我らやお前が出張らねばならないのか?』
「うん、君たちの仲間と……一触即発な子たちがいて。僕らが止めないと、死人が出そうな雰囲気だからさ」
「それはただ事じゃないですね……分かりました、とにかくそっちに行きます」
リオがここまで頼み込むなど、尋常ではない。そう判断し、キルトは先にメソ=トルキアに向かうことを決めた。
「では、お主が集めたデータとやらは妾が責任を持ってカルゥ=オルセナに届けようぞ」
「わ、ビックリした! もう一人出てきた……あの、あなたは?」
「妾の名はアイージャ、先代の盾の魔神にしてリオの妻の一人。お主のことはリオから聞いておる、よろしくぞよキルトにルビィ」
その直後、界門の盾からもう一人猫獣人が現れた。アイージャと名乗った女性は、キルトに自身の名を名乗る。
『うむ、こちらこそ。……なんぞ、お前とは趣味が合いそうな気配を感じるな』
「む……お主はあの腐れ雷ババアと違うようじゃな。波長が合うというか……っと、それよりはようデータを寄越すのじゃ」
「あ、はい。じゃあ、このカードをフロスト博士に渡してください」
「しかと心得た。ではリオよ、妾は行ってくるぞよ」
デッキに宿るルビィとそんなやり取りをした後、アイージャは一枚のカードをキルトから受け取る。モンスターのデータが納められたそれを持ち、盾の中へと消えた。
「ねえ様、いってらっしゃーい。じゃ、僕たちも行こっか。急がないと、本当にまずいから」
「はい、レッツゴー!」
アイージャを見送った後、リオとキルトも界門の盾の向こう側へと身を躍らせる。その先で、何が起きているのかを知るために。
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時はちょっとだけさかのぼる。ユウの衝撃発言を聞いたエヴァたちは、少年に質問を浴びせていた。
「ちょっと、それどういうこと? 天上の連中がそんなこと出来るなんてアタシ知らないんだけど」
「ほーん、ほならボンはどんな理由で転生してきたんや? ちゅーか、あの神さん連中何やっとんねや。自分で転生転位は御法度うんぬん言っとったクセに」
「神々がそこまでするとは……君は一体何者なんだい?」
『えっと、あの、その……』
三人に詰め寄られ、ユウはビクビクしていた。尻尾の隙間から顔を出し、視線を泳がせることしか出来ない。
そんな少年の前に立ち、上から覗き込むようにエヴァが語りかける。それが、ユウのトラウマのスイッチを入れる行動だと知らずに。
「煮え切らないわねぇ。大丈夫よ、別に取って食おうなんてしないから。だから落ち着いて話してみなさい?」
『ひっ……!』
エヴァとしては、これまでキルトたちにやってきたように普通にコミュニケーションを取ろうとしただけに過ぎなかった。
だが、ユウにとっては違う。彼の頭の中に、転生する前の忌まわしき記憶がフラッシュバックする。
『このクズ! ゴミ! なんでお前は普通に話せないの! 人並みになれないのよ!』
『ご、ごめ、ごめなさ……ひぐっ!』
『こっちは必死に腹を痛めてあんたを産んでやったのに! 私の完璧な人生によくも! 泥を塗ってくれたわね……この出来損ないめ!』
窓一つない、暗く閉ざされた部屋。そこに横たわる、全身傷や火傷だらけの幼い少年。そして、少年……ユウをゴルフクラブで殴る半狂乱の女性。
『もういいわ、幸いあんたを産んだのはうちの企業の系列の病院。出生記録をなかったことにするのは容易いわ。市役所もちょっと脅せば、戸籍やらなんやらも消せる……』
『お、おか、おかあさ……』
『黙れ。もう私はお前の母親じゃない。この部屋で死ね、出来損ない。もう二度と、その薄汚い口を開くな!』
女はそう言い残し、ユウの頭にゴルフクラブをフルスイングする。そうして……少年は、一度目の人生に幕を降ろしたのだ。
『う、ひぐ、ふえ……』
「え? ちょ、ちょっと? どうしたのよ、なんでいきなり泣いて」
『うえぇぇぇーん!! ごめんなさい、ごめんなさいー! う、うま、生まれてきてごめんなさいぃぃぃ!!』
「ど、どないしたんや!? 落ち着いてぇや、ウチらは別に……ひいっ!?」
尻尾にくるまれたまま、ユウは大泣きしはじめる。エヴァたちが狼狽えていた、その時。ユウの後ろに空間の亀裂が走り、そこから飛んできた矢がアスカの頬をかすめた。
「てめぇら……ずっと見てたぞ。よくもうちのユウを泣かせやがったな、ええ?」
「お前たちの行い、万死に値するわ。ここで死に、詫びなさい」
「ゆーゆー泣かせるたぁふてぇ奴デスマス。……はらわた引きずり出してやっから覚悟しろデス、このクズどもが」
そして、亀裂の中から三人の女性が姿を現した。一人目は、緑色の肌を持つオーガの女性。白いフルプレートアーマーに身を包み、真っ赤な瞳に怒りを宿しエヴァを睨んでいる。
二人目は、大きな弓を構えた金色の髪を持つエルフの美女。二の矢をつがえ、アスカの心臓に狙いを定めていた。
三人目は、黒いゴスロリドレス風のドレスアーマーを身に着けた青い肌をした自動人形の女。両手に持ったトマホークを打ち鳴らし、フィリールにガンを飛ばしている。
「な、何よあんたたち!? ちょっと待って、こっちの話を」
「うるせぇ。ユウを泣かせる奴らの話なんざ聞くつもりはねえんだよ。ユウ、おいで。怖かったな、アタイらが守ってやるから」
『うわぁぁん、チェルシーさぁぁぁん!! えぐっ、ぐすっ』
オーガの女……チェルシーはユウを呼び、少年を抱き上げる。守るべき者の背中をさすりながら、エヴァたちへ殺意のこもった言葉を投げ掛けた。
「さあ、覚悟はいいか? 一人残らず……」
「はいストーップ! いろいろと誤解してるようだから、まずは両方とも落ち着いて! ね?」
「な、なんなんです? この状況は……」
今にもチェルシーたちが襲いかからん、というところに界門の盾を通してリオとキルトが現れた。ギリギリのところで間に合ったようだ。
「リオさん! でもよ、こいつらユウを泣かせて……」
「だからそれが誤解なんだってば! 実は……」
リオが来たことで、チェルシーたちは少しだけ落ち着いた。今がチャンスとばかりに、エヴァは急いでこれまでのことを捲し立てる。
「なるほど。あなたたちが何かしたわけではないことは分かったわ。でもね……エヴァと言ったかしら、あなたの行動はユウくんには絶対してはダメなのよ」
「へ? そ、そうなの?」
「ゆーゆーは上から睨まれるのがトラウマなのデスマス。だから、お話する時は視線の高さを合わせたり睨まないよう注意が必要なのデス」
「そ、そうだったの……って、別にアタシ睨んでないんだけど!?」
「エヴァ、お前は何かを問い質す時に視線がキツくなるぞ? いつも私にそんな目を向けてるじゃないか、あれは興奮し」
「あんたはちょいと黙っとれやこのドM!」
「おっふ❤」
エルフの女性と自動人形の女の説明を受け、自分が原因だと知り落ち込むエヴァ。そこにフィリールとアスカのいつものコントが挟まり、ユウの仲間三人は吹き出してしまう。
「ぷっ! 何やってんだか、こいつら。ま、ユウが泣いた理由は分かった。今回は不幸な事故だったってことにしといてやるよ。な、ユウ?」
『ひっく……ぐすん。ごめんなさい、ボクのせいでいらない混乱を招いてしまって……』
「いえ、僕たちが間に合ってよかったです。……ところで、ユウくんでしたっけ。どうして君はこの大地に?」
誤解が解け、ユウも泣き止んだところでキルトが尋ねる。すると、ユウ本人に代わりリオが説明を始めた。
「僕が頼んだんだ、この大地にいる戦士たちを代わりに助けてあげてって。本当なら、もっと穏便な顔合わせにしてあげたかったんだけどね……」
『そうだったのか。で、結局ユウとやらは何者なのだ?』
『はい、ボクは……創世六神と取り引きして、転生させてもらう代わりに……色んな大地で悪さをしてる、地球からの転生者や転移者を倒すお仕事をしてるんです』
「な、なんやてぇぇぇぇぇ!?」
ユウの口から語られた、彼の正体と転生の目的。それを知り、またしてもアスカが絶叫したのだった。




