190話─乙女の進撃、近寄る不穏
「きひゃひゃ、いいねぇ。数で優位に立ってるから楽勝ってか? そうはいかねえなあ、ええ!?」
『ダガーコマンド』
エヴァたち三人を前に臆することなく、アグレラはデッキホルダーからカードを引き抜く。獣の牙のようにギザギザした刃を持つ短剣が描かれたソレを、ベルトのバックルにスロットインする。
そうして得物を呼び出し、狂気に満ちた笑みを浮かべながらエヴァへと突進する。そこにフィリールが、攻撃を遮らんと立ち塞がった。
「悪いが、私の仕事は仲間を守ること。お前の好きにはさせん!」
『ウォールコマンド』
「きひゃひゃ、面白え。そんな重い盾なんざ持ってよぉ、俺様のスピードについてこれるかな!」
タワーシールドを構え、アグレラを迎え撃たんとするフィリール。が、アグレラはパルクールのような軽やかな動きでフィリールを飛び越えた。
三人の後方に着地した後、身をひるがえし背後からエヴァたちを強襲する。無防備な背中を刺してやろうとするも、そこでアスカが動く。
「ハッ、させへんで! こいつで動きを止めたるわ!」
『トラップコマンド』
「! っぶねぇな、設置型の罠か。だが、変身して感覚が研ぎ澄まされた俺様に」
「っさいわね、さっきからぎゃあぎゃあ鬱陶しいのよオラァ!」
『ナックルコマンド』
『アクセルコマンド』
アグレラのすぐ前にクモ糸の地雷を設置するも、今度は急制動で動きを止め即座にバックステップされてしまった。
オオカミ型のモンスター『フェイルウォルスタ』と本契約しているだけあり、身軽さはこれまで戦ってきたサモンマスターの中でも随一なようだ。
……が、調子に乗ってペラペラ喋っているのがエヴァのしゃくに障ったらしい。機動力を増強したエヴァが動き、相手の顔面にパンチを叩き込む。
「オラッ、食らいなさい! ミノスナックル!」
「ごはっ!」
「うわ、痛そー。あ、フィリールはんはドMらへんでええで、もう分ぁっとるから」
「釘を刺された……おっふ❤」
「あんたさんホンマ無敵やな……」
流石に今度は避けきれず、顔に手痛い一撃を食らって吹き飛ぶアグレラ。それを見て物欲しそうにしているフィリールに、アスカがツッコミを入れた。
「ぺっ、やるじゃねえか。なら、こいつはどうだ!」
『ミラージュコマンド』
足場のフチまで転がったアグレラは、血が混じった唾を吐き捨て二枚目のサモンカードを取り出す。月明かりに照らされるオオカミの絵が描かれたソレを、ベルトのバックルに挿入する。
すると、アグレラと全く同じ姿をした分身が計二体現れた。アスカが用いるものと、名前も効果も全く同じなようだ。
「ふぅん、増えたの。ま、その方が一方的にリンチしてる感なくて抵抗はないわね」
「そうだな。……だが、こうなるとこの姿では相性が悪いな。一足先に切り札を使うぞ!」
【REGENERATE】
鈍重なノーマルモデルでは相手の動きに対応出来ないと悟り、フィリールは一足早く『REGENERATE─決意』のカードを使う。
フィリールの身体を無数のリボンが包み、やがて消え去る。そうして、妖艶な踊り子へと転身した月影の舞姫が姿を現す。
【Re:SHADOW DANCER MODEL】
「さあ、始めよう。舞台の幕は上がった、ショーの開演だ!」
【ツインドレスコマンド】
「きひゃひゃ、いいぜ。行け、分身ども。奴らを食らい尽くすぞ!」
「おお!」
一対の曲刀を召喚し、構えるフィリール。三対三の戦いが始まり、エヴァたちは広場を縦横無尽に駆け暴れ回る。
「どれが本物かは知らないけど、全部潰せばいいんだから楽なものよね! オラッ、ミノスナックル!」
「きひゃ、二度目は当たらねえよ! ウォルグススラッパー!」
エヴァとアグレラその一は、お互い超インファイトでの激闘を繰り広げる。篭手と短剣がぶつかり合い、火花を散らす。
その側では、フィリールが華麗に舞いながらアグレラその二相手に優位に立ち回っていた。ノーマルモデルでは、リジェネレイト体にそうそう対抗出来ないようだ。
「切り刻んでやろう……ムーンライトステップ!」
「きひゃひゃ、面白え。ならこうだ!」
『ウィップコマンド』
相手が曲刀ではリーチで不利と見たアグレラその二は、オオカミの尾を模した灰色の鞭が描かれたカードをデッキホルダーから取り出す。
そして、短剣に変わる新たな武器を呼び出してフィリールに対抗する。そんな中、早くもアスカとアグレラその三の戦いが決着しようとしていた。
「ほーれほーれ、三人に囲まれたらどうにもならへんやろ! このままボッコボコにしたるわ!」
「チッ、てめぇも分身できるのか。雑魚の情報なんざ仕入れてねえから知らなかったぜ」
「なんやと……? 誰が雑魚やねん、あったまきた! ぶっ潰してやるさかい往生せいや!」
【REGENERATE】
相手に対抗してアスカもミラージュコマンドのカードを使い、分身を二人生み出して波状攻撃を仕掛けていたのだ。
が、その最中アグレラその三の発言がアスカの逆鱗に触れた。木っ端の雑魚扱いされ、怒り心頭なアスカはフィリールに続きリジェネレイトする。
【Re:AIR SONIC MODEL】
「なっ……」
「死にさらせぇこのダボぉ!」
【アルティメットコマンド】
「いっけぇ、アステロアグル!」
「ウィーン!」
初っ端から奥義を放ち、オーラとなった相棒を突撃させ敵の動きを封じるアスカ。X字状に交差するリングに囚われ、動けないアグレラその三へ突撃していく。
「うぉらぁっ!」
「ごふうっ!」
「アスカ、ここに着弾させないでよ! 足場が壊れたらこっちが戦いにくくなるから!」
「わぁーっとる、んなヘマせん! 食らいや、スカイフォールエングレイバー!」
「うぐおっ!」
背中のバックパックを全開にし、ジェット噴射で天高く飛んでいくアスカ。その直前にエヴァに言われた通り、広場から離れた湿地へと敵を叩き付けた。
「ぐ、がはっ」
「なんや、分身かいな。おーい、こっちはハズレやで! そっちにいる方のどっちかが本体や!」
「そう、分かったわ! なら、アタシも本気出さないとね!」
【REGENERATE】
分身が消えたのを見届けたアスカは、そう叫びエヴァたちに情報を伝える。残る分身と本体を始末するべく、エヴァもリジェネレイト体になった。
【Re:EXCITE BEAT MODEL】
「さあ、これで全員リジェネしたわ。ちゃっちゃか片付けさせてもらうわよ!」
「きひゃひゃ、面白え。やってみやがれ!」
そうして、エヴァたち三人がリジェネレイトし……残る分身を撃破したまではよかった。だが、最後に残った本物が恐ろしくしぶとい。
三人ともアルティメットコマンドを使い切り、後は通常の武器しかないという状態になってもアグレラはまるで倒れる気配を見せないのだ。
「きひゃひゃひゃ、どうした? 疲れてきたか、ええ? あれだけ自信満々だったのになぁ」
「っさいわね、こうなったらちょっと作戦変更よ。フィリール、アスカ! 少しだけここを離れるわ、もっかい変身し直してカードをリセットするの!」
仲間の足下にポータルを作り、一旦離脱するエヴァたち。アグレラが追おうとするも、すぐにポータルは消えてしまった。
少しして、今度は空中にポータルが現れる。そこから、素早く変身解除からの再変身を終えた三人が広場に着地した。
「お待たせ、しぶといあんたをぶっ殺す準備が完了したわ! さあ、死になさい!」
「これ以上時間はかけん、これで終わりだ!」
「せや、ウチらの奥義いっぺんに食らわせたるわ!」
【アルティメットコマンド】
エヴァたちは一斉に奥義を発動し、オーラとなったそれぞれの本契約モンスターを放つ。パーリナイトブルにコンクエスタホーン、アステロアグルが敵を縫い付け動きを止める。
「ぐうっ、流石にオーバーキルだろうが! ふざけんなよ、なんだこの鎖の量は!」
「それなら完全に動けまい! 食らえ! ムゲンラセンダン!」
「行くわよ、絶唱のジーニアス!」
「とりゃあああ! スカイフォールエングレイバー!」
「ぐ……おあああああああ!!!」
上空に跳び上がったフィリールが長い髪に包まれ、人間ドリルと化す。その隣では、足の裏から破壊音波を放ちながらエヴァがドロップキックを炸裂させる。
ダメ押しにさらなる上空からアスカが跳び蹴りを放ち、三人の奥義が同時に炸裂し、アグレラ……サモンマスタールガを貫いた。
「ぐお、あああ……」
「驚いた、まだ生きているのか! だが、あの様子ではもう戦えまい。今のうちにトドメを」
「きひゃ、違うな。俺様はまだ戦えるぜ。タナトスに託された『コイツ』があるからなぁ!」
両膝を着いたアグレラは、懐から黒色のダイナライズキーを取り出す。そして、ベルトのバックル上側に備えられた鍵穴に差し込んだ。
『ダイナライズ:アニマクロス』
「なに? よく分からないけど……何かする前にぶっ潰す!」
「きひゃ、もうおせえ。見せてやるよ……三百年前の遺産、天のダイナモドライバーから取り出した力を!」
「きゃあっ!」
アグレラに飛びかかろうとするエヴァだったが、突如吹き荒れる突風に押し戻されてしまう。その間に、アグレラの身体を青い装甲が覆い背中に天使の翼が生えてくる。そして……。
『ディセプティス・ウォルゴ……オン・エア』
サモンマスタールガは、鎧を纏った天使のような姿に変化する。かつてのヒーロー、ホロウバルキリーの力を取り込んだのだ。
「なんやねん、その姿……!?」
「きひゃ、さあ……後半戦の始まりだ」
戦慄するアスカたちを前に、アグレラはそう告げる。そして、彼女たちは目にすることとなる。ダイナライズしたサモンマスターの、恐るべき力を。
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