189話─目覚めはじめる悪の力
「全く、いいところだったというのに。何の用です、タナトス」
「済まないな、残りのドライバーの奪取のために向かわせたところを呼び戻して。だが案ずるな、いい知らせがあったがゆえに帰還させたのだから」
キルトたちがオルタナティブ・コアの製造とダイナモドライバーへの搭載のため動き出した頃。タナトスに呼び戻され変身を解除した亮一たちは、理術研究院の一室にいた。
「ほー、でそのいい知らせってのはなんだ?」
「まずロギウス、お前への知らせは『コレ』だ。ネガがドライバーを解析し、新たに作り出したダイナモ電池の複製品……『ダイナライズキー』を開発した。これを使えば、お前の不完全なサモンギアが完全なものになるだろう」
そう口にしながら、タナトスは懐からワインレッドの色合いをした小さな鍵を取り出す。そして、魔法でロギウスのサモンギアを自身の元に移動させた。
魔法の力でサモンギアを変化させ、下部にキーを装填するための小さな穴を出現させる。その上で、改めてロギウスにサモンギアとダイナライズキーを渡す。
「ありがとよ、タナトス。この新機能、早速試してやりたいぜ。また送り込んでくれよ、あの大地に。次はキルトを仕留めてやる!」
「まあ待て、すでに一人お前の仲間をメソ=トルキアに送り込んである。そちらに持たせたキーを使って能力を検証し、安全性等確かめねばならん。出撃はしばし待て」
「チッ、ならしゃあねえ。ところで、タイドウさんへの話ってのはなんなんだ?」
「ええ、私も気になりますねえ。ロギウスだけでなく私も呼び戻したのですから、ダイナライズキーに匹敵する何かを渡したいのでしょう?」
新たな力を得たロギウスは、喜びもそこそこにタナトスに疑問をぶつける。問われた死神は、続いて懐から一枚のカードを取り出す。それは……。
「泰道亮一、お前にはこの『REVOLUTION─鏖殺』のカードを与える。レボリューション体となり、キルトたちを始末するのだ」
「おや、ありがたいですねぇ。彼ら相手には、まだ第三のカードも奥義も披露していませんから。隠し球が増えるのはいいことですよ、ええ」
ネガが開発を進めていた、『REGENERATE』に匹敵する力を得るためのカード。それが完成し、亮一の手に渡ったのだ。
どす黒い血の滴る、灰色の『R』の文字が描かれたカードを受け取り殺人鬼は不気味な笑みを浮かべる。そのおぞましさに、ロギウスは顔を引きつらせる。
「うおう、すげぇ顔してるなタイドウさんは。……ところでタナトス、メソ=トルキアには誰を送ったんだ?」
「お前たちΩ-13の一人、アグレラ・ジェンキンスこと『サモンマスタールガ』を送り込んだ。ダイナライズキーを授けてな。今頃、キルトの仲間たちと戦っているだろうよ」
「うへぇ、あの戦闘狂をかぁ。あの小僧の仲間はご愁傷様ってやつだな、まともな死に方出来やしねえ」
伸び放題になった赤い髪をボリボリ掻きながら、ロギウスはそう口にする。一方、敵の襲撃を警戒してアジトに残っていたエヴァたちは……。
「きゃひゃひゃひゃひゃ! オラオラどうした、そんなもんかよおめぇらは! ええ? 俺様と遊んでくれんだろ、なに速攻でバテてんだ。体力ねえなぁ!」
「チッ、なんなのよこのタフネスお化けは! リジェネしたのが三人いてこれは……だいぶ厄介ね」
デルトア帝国の西方に広がる湿地帯にて、タナトスが放った刺客……『サモンマスタールガ』ことアグレラなる男と戦っていた。
焦点の合っていない、斜視となった目が不気味な男……アグレラはエヴァたちを見て笑みを浮かべる。口の左端から耳まで裂けている傷のせいで、非常に不気味だ。
「さあ、盛大に殺り合おうぜ。一生に一度の死闘をよぉ」
「ハッ、死ぬのはあんたやで。ウチらは生き延びたるわ、キルトたちが帰ってくるその日までな!」
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時は少しだけさかのぼる。キルトたちがギアーズ技術財団を訪れていた頃、エヴァたちは暇を持て余していた。
「……暇ね。いや、暇な方がいいか。問題が起きてないってことだもの」
「そうだな、確かにその通りなのだが……」
「何よ、歯切れが悪いわね。何か思ってることあるならハッキリ言いなさいよ、気になるじゃない」
「……胸騒ぎを覚えているんだ。何か、良くないことが起きそうでな」
アジトの遊戯室で、退屈しのぎにビリヤードに興じていたエヴァとフィリール。キューを構えながら、フィリールはそう口にする。
普段の被虐癖が全く出ない、メソ=トルキア大戦初期のようなシリアスさを醸し出している彼女を見てエヴァも考え込む。
「実はね、アタシもなんとなーく嫌な予感を覚えてるのよね。もうそろそろ、これまでの常識が通用しない敵が出てくるんじゃないかって」
「先の大戦でも、規格外の敵がいたからな。サモンマスターエンペラーやコレクト、ドロウ……それにレオナトルーパーズ。彼らのような……」
『警告、警告。デルトア帝国内に敵性反応を検知。出動可能なサモンマスターはただちに迎撃せよ。繰り返す、デルトア帝国内に……』
「とか言ってるうちに来たわね、敵が。フィリール、メインルームのモニターで敵の居場所を確認して。アタシはアスカを起こしてくるから!」
現在、アジトに残っているメンバーは三人。エヴァとフィリール、自室で昼寝しているアスカ。ドルトは双子と共に外出中、プリミシアはヒーロー活動のまっただ中で呼び戻すのに時間がかかる。
そのため、自分たちだけでさっさと迎撃に行った方がいいと判断したのだ。エヴァがアスカを叩き起こしに向かうなか、フィリールは敵の居場所を確認しに向かう。
「なになに、敵の出現ポイントは……カテドール湿原か、あそこは足場がよくないからな……。苦戦しそうだ」
キーを使い、廊下を経由してメインルームに入ったフィリールは敵の居場所をチェックする。そこに、エヴァと彼女に起こされたアスカがやって来た。
「ふああ……ったく、人が気持ちよう寝とるっちゅうタイミングで来るなんて。敵さんはいじわるやな」
「来たか、二人とも。敵の位置は分かった、帝国西部のカテドール湿原だ。すぐに向かうぞ!」
「了解、出撃よ!」
エヴァたちはアジトを飛び出し、ポータルを使って敵のいる湿原へと向かう。どんな目的で、何者が現れたのか。
今この大地にいないキルトに代わって確かめんと、三人はやる気をみなぎらせる。そして、自然豊かな湿原へと足を踏み入れた。
「気を付けろ、二人とも。この湿原は地面がぬかるんでいて足を取られやすい。毒蛇や毒虫もいるから、足下に注意しろ」
「うへぇ、そいつは嫌……ん、おるで、あそこや!」
広大な湿原の上に張り巡らされた、幅が広いとは言えない木板の足場を渡り敵の元に急ぐ三人。少しして、アスカが敵を見つけた。
黒いジーンズを履き、革製のノースリーブジャケットを素肌の上に直接身に着けた青髪の青年が円形の広場にいたのだ。
「きひゃひゃ、来たな。待ってたぜぇ、お前らが来るのをな」
「いきなりぶっ殺すのも失礼だから、一応聞いておいてあげる。あんた、何者?」
「ひゃひゃ、俺様はアグレラ。つい最近理術研究院に部隊まるごとお買い上げされた戦士だ。覚えておきなぁ、ヒヒヒヒ」
アグレラと名乗った闇の眷属の青年は、指を鳴らし青色のベルト型サモンギアを呼び出す。そして、左腰に下げたオオカミの横顔を模したエンブレムが刻まれたデッキに手を伸ばす。
そして、崖の上で雄叫びをあげるオオカミの絵が描かれた『契約』のカードを取り出してエヴァたちに提示する。ここで戦うつもりなのだ。
「戦えよ、この俺様……サモンマスタールガとな。もし嫌だってんなら、このまま人里を襲いに行くぜ」
「そう言われて嫌だと言うわけないだろう。ここで私たちが仕留める、覚悟しろ!」
「キルトの名代として、キッチリ始末してあげる。行くわよ二人とも!」
「はいな、ガッテンやで!」
『サモン・エンゲージ』
フィリールたちも『契約』のカードを取り出し、一斉にサモンギアに読み込ませる。そして、それぞれ変身を行った。
「きひゃひゃ、いいねえ壮観だ。んじゃ、俺様もやらせてもらうぜ」
『サモン・エンゲージ』
アグレラも変身を行い、サモンマスタールガへと姿を変える。前進を薄い水色のボディスーツを纏い、その上から濃い青色の毛皮で胴体を覆った姿になった。
鋭い爪を備えた手をぶらぶらさせ、ゆっくりと距離を詰めていく。腰から垂れる長い尾を揺らしながら、アグレラは笑う。
「さあ、俺様を楽しませろ! ガーディアンズ・オブ・サモナーズ!」
「フン、楽しむ暇があればいいな。私たち三人を相手に!」
そうして、もう一つの戦いが始まった。




