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186話─ヒーローの血を継ぐ者

「……ふう、とりあえず関係各所への連絡はこれで全部終わったかな。いや、本当大変なことになったよ」


「そうね……本当、ご先祖様たちに申し訳が立たないわ。私たちが別の大地に視察に行ってる間にこんな許しがたいことが起きてるなんて」


 同時刻、もう一つの双子大地……カルゥ=イゼルヴィアにて。魔女たちの組織、ルナ・ソサエティ本部にある一室に二人の男女がいた。


 どちらも十二歳ほどの歳に見える少年少女だ。片方は、ウルフカットの黒髪を持つ穏やかそうな顔付きをした少年。


 もう片方は、気の強さをアピールするようなつり上がった眉毛とツーサイドアップにした銀色の髪が特徴的な少女だ。


「……ん、連絡だ。ちょっと出るね。はい、もしもし……あ、マルカさん。どうしたんです? さっき出て……えっ!? そ、そうなんですか!?」


「あら、どうしたのゼル。珍しく慌ててるけど」


「大変だよイル、遠い昔に別の大地に引っ越した分家の子が来てるんだって! 僕たちに会いたいってさ!」


「ええっ!? 驚いた、一体どこの分家の人かしら……なんて言ってられない、お出迎えの準備しないと!」


 ゼルと呼ばれた少年は、机の上に置いてあった連絡用の魔法石を取り連絡をしてきたマルカとの通信を行う。そうして、二人は知らされる。


 自分たちの血筋に連なる者……キルト・メルシオンが魂の故郷へ帰還したことを。それまでの作業を止め、二人は大慌てで部屋を飛び出す。


 一方、キルトたちの方は……すでにルナ・ソサエティ本部の前に到着していた。オルセナ以上に煌びやかな街の景色に、ルビィはノックアウト寸前だ。


「うう……うるさい……まぶしい……臭い……。なんだここは、地獄の一丁目なのか……?」


「んだよ、おめぇエルダードラゴンなんだろ? これくらいガマン出来るだろ、旦那はケロッとしてるじゃねえか。なあ、キルト」


「まあ……暗域にもこれくらいの歓楽街はありましたし、昔よくエヴァちゃん先輩に遊びに連れてってもらってましたから」


「ぐぬぬ……なれば我も克服せねば! 奴に負けるのはシャクだからな!」


「ホント、彼女と張り合うの好きだねキミは……」


 ぐったりとしていたルビィだが、マルカとキルトの言葉に奮起する。そんな彼女を見て、エヴァへの対抗心だけで復活したことにアリエルが呆れ返る。


「ところで母上、迎えの者が来ると道中おっしゃっていましたが……」


「遅いっすね、ジェディンたちなら先んじて待って」


「お待たせしましたー! ようこそ双子大地へ!」


「待ってたわよ、私たちの親戚……えっと、誰がそうなのかしら?」


「えっ!? じゃあ、もしかしてお二人が……本家の方々……!?」


 本部入り口でくっちゃべっていたところ、中から二人の少年少女が現れる。それぞれ黒のスーツと白のドレスを着た二人組とキルトは、互いを見て驚き合う。


「わーっ!? ご先祖様にそっくり!? え、お化けが出ちゃった!?」


「私たちが不甲斐ないせいで化けて出たんだわ! あわわわ、フィル様お許しをー!」


「いやいや、んなわけねっすよ。キルトくん、紹介するっす。この二人がアルバラーズ家とハプルゼネク家それぞれの現当主……ウィンゼル・アルバラーズとイグレーヌ・セテルピア・ハプルゼネクっすよ」


「そうなんですね……! あの、はじめまして! 僕はキルト・メルシオンと言います! こうして本家の方々とお会い出来てとても嬉しいです! これからよろしくお願いします!」


「! メルシオン……だいぶ遠い血筋の人なんだね、それでそこまでご先祖様の面影あるのって結構凄いんじゃないかな? ね、イル」


「そうね、まさかここまで似てる……って、いつまでもこんなとこで話してたら疲れちゃうわよね。さ、みんな入って。ようこそ、ルナ・ソサエティへ!」


 誤解も解けたところで、ようやく本部の中に入るキルトたち。エントランスには、技術財団と同じく立像が建てられていた。


 ただし、あちらがアレクサンダー・ギアーズの像なのに対しこちらはオルゴールを持った男装の麗人と小さな男の子の像だが。


「あ、ここにも像があるんだ。えーとなになに、『我ら魔女の悪しき歴史と、その犠牲者を忘れぬために。永遠の鎮魂と贖罪の決意をベルティレムとミシェルに捧ぐ』……か」


「その二人……確か、俺が小さい頃に母上が聞かせてくれたな」


「……そうだな、ウォン。その二人はアタシたち旧ルナ・ソサエティの罪の犠牲者。ま、それについては後で話すさ。今は別件が大事だ」


 アリエルが像の足下に設置されているプレートの文章を読み上げた後、ウォンが呟く。それに対し、マルカはバツが悪そうな顔を浮かべる。


 イレーナやウィンゼル、イグレーヌも複雑そうな表情で二つの像を見ていた。事情があると察したキルトは何も言わず、部屋に案内してもらう。


 道中でそれぞれ自己紹介を行い、親睦を深める。フィルの面影を感じたからか、本家の二人はキルトにとても好意的だった。


「どうぞどうぞ、何もない部屋だけどゆっくりくつろいで。ごめんね、今ジェディンとヘカテリーム出払ってて……」


「え、あの二人どこ行ったんすか?」


「ええ、実は……怪しい気配がカルゥ=イゼルヴィアに入り込んだって調査に行ってるの。変な話よね、外部の悪者は守護者がブロックしてくれてるのに」


「その守護者とやらはなんなのだ? 我らにも分かるよう一から説明してくれ」


「うん、ただ……どこから話そうかな、これ物凄く長くて複雑な話になるから……。まあいっか、最初から話すね」


 双子大地の事情に詳しくないキルトたちに、ウィンゼルたちはとりあえず最初……フィルとアンネローゼの出会いから全てを話した。


 話し終えるまでに一時間弱かかった結果、ルビィとアリエルが寝落ちしかけた。先ほどの仕返しとばかりにウォンが肘鉄を食らわせ、二人を起こす。


「ごふっ! つまりそういうことか、その守護者とやらはフィルの半身とも呼べる存在なわけだ」


「あら、寝落ちしかけてたクセにちゃんと話は聞いてるのね、感心感心。ま、そういうわけで今も聖礎から双子大地を守ってくれてるのよ、守護者は」


「あの方の監視網は凄いから、悪者が入り込めるはずはなかったんだけど……もうそんな常識は通用しないね、実際ご先祖様の遺産を奪われちゃったんだもの」


 話を終えたところで、本家の二人はしゅんとしてしまう。自分たちが守らねばならないものを奪われ、責任を感じているのだ。


「そんな落ち込むことないっすよ、二人とも。不甲斐ないのはアタイも同じっす、シショーたちに遺志を託されたのに……」


「まあまあ、そんな嘆いてたって仕方ないっしょ。大事なのはこれからどう挽回するか、違う?」


「ええ、フロスト博士の言う通りです。幸い、遺産を奪った奴らは僕がある程度知ってます。必ず捕まえてやりますよ!」


「……ありがとう、キルトくん。しかしこうなると、嫌な可能性を考慮しないといけなくなったよ。……もしかしたら、遺産を奪った敵はウォーカーの一族と手を組んでるのかもしれない」


 落ち込む本家の二人やイレーナは、アリエルとキルトに励まされ元気を取り戻す。その後で、ウィンゼルは一つの推測を口にした。


「ウォーカーの一族……知ってます、昔この大地の歴史書を読みましたから。並行世界を自由自在に移動する力を持つ者たちのことですよね?」


「そう、僕たちのご先祖様……フィル様も旧きウォーカーの一族の一人だった。その血を継ぐ僕も、力を使えるんだよ」


「私の方は全くダメだけどね、アンネローゼ様の血を濃く受け継いだから」


「なるほ……! お姉ちゃん、この気配!」


「ああ、間違いない。サモンマスターの匂いだな、これは。イレーナ、悪いが我とキルトは席を外す。匂いの元を追うでな!」


「えっ、ちょっと! ここ八階っすよ、窓から出たらあぶ……飛んだー!?」


 さらに詳しい話をしようとしたその時、ルビィが邪悪な気配を捉えた。先ほど話されていた、大地に忍び込んだ者の気配だろう。


 そう判断したキルトは、ルビィに抱えてもらい窓を開けて外に飛び出す。イレーナたちが唖然としている中、ルビィと共に空を往く。


「す、凄いねあの子たち……迷いなく窓から……」


「なんて言ってる場合じゃないわ、ゼル! 私たちも追わなきゃ!」


「まあ待てよ、アタシらが行ってもそのサモンマスターって連中にゃ勝てねえ。そういう理の中にいる連中だからな、なあウォン?」


「ええ、母上の言う通り。とはいえ、戦いを見るだけでも得られるものはあるはず。俺たちも追うべきかと」


 インフィニティ・マキーナの力が通用しない以上、追っても足手まといになるだけ。そう主張するマルカだったが、息子に諭され考えを変える。


「まあ、それもそうか。どの道、もう引退したアタシが行っても無意味だし……若い連中だけで行ってこいよ」


「りょっす、んじゃ行くっすよみんな!」


「おー!」


 マルカを除く全員が、キルトたちを追い部屋を出る。双子大地にて、未知なるサモンマスターとの戦いが始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当代ヒーローのゼルとイグね〜(ʘᗩʘ’) 不思議なもんだな分家筋でフィルの事をほぼ知らないキルトがフィルそっくりで(゜o゜; この大地をずっと守って来た本家だけど外の世界は知らないなんて、し…
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