185話─集結する旧世代
「……チッ、こいつは予想外だったな。まさかオレの怪盗七ツ道具がここまで効かねえとは。自信無くすぜオイ」
「お前が何者かなど興味はない。ただ排除し、全てを正常に戻す。それが私の役目よ」
キルトたちが情報の擦り合わせを行っていた頃、ローグはサモンマスターメタルスとの戦いを繰り広げていた。……いや、一方的に遊ばれていた。
何しろ、相手は神々や魔戒王とすらも互角に渡り合えることをコンセプトに作られた兵装、サモンギアを身に着けた歴戦の戦士。
三百年前の大戦争を生き延びたローグといえど、抗しきれる相手ではない。単なる実力・スペックの差だけで埋められない溝があるのだ。
「この『シザースブレイド』のサビにしてあげる。ああ、でも安心しなさい。首だけは繋げておくわ、そうすればゆるりと情報を吐かせられるものね?」
「ハッ、言ってくれるな。お前みたいなクールで気の強い女、オレのタイプなんだよ。どうだ、いっそ任務なんてやめてオレとお茶でもしないか?」
「……正気? 戦いの最中に相手を口説く人、初めて見たわ」
「そうかい? そいつは好都合だ。あんたの手が止まったからな!」
左腕に巨大なハサミ型のブレードを装備したサモンマスターメタルスことケイリーは、突然ナンパされ困惑してしまう。
機動部隊時代から『鉄面皮の女』のあだ名で呼ばれるほどに感情の起伏に乏しく、周囲から敬遠され口説かれたことなどなかったのだ。
「! しまった!」
「もう遅ぇ! そらよ、撤退だ! 新怪盗七ツ道具、NO.1! カルバリーの煙玉!」
その隙を突き、ローグは懐から小さな黒い玉を取り出して地面に叩き付ける。すると、玉が割れ中から逃走用の煙が吹き出す。
ケイリーが怯んでいる間に、怪盗はまんまと逃げ出すことに成功した。転移魔法を発動し、カルゥ=オルセナへ戻りながら勝利宣言をかます。
「あばよ、ケイリー! 今回は勝てなかったが、逃げられたんでオレの方が一枚上手だったな。いずれ縁があったらまた会おうぜ、この怪盗ローグとな!」
「待て! ……クソッ、取り逃がしたか」
煙が晴れた頃、もうそこにローグの姿はなかった。残されていたのは、ローグのサインが記されたジョーカーのカードだけ。
地面に刺さっていたジョーカーのカードを引き抜いたケイリーは、悔しそうな……そして、どこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべる。
『お前みたいなクールで気の強い女、オレのタイプなんだよ。どうだ、いっそ任務なんてやめてオレとお茶でもしないか?』
「……不思議な男。その場しのぎだとしても、こんな私を口説くだなんて。怪盗ローグ……か。その名前、忘れない」
ローグの言葉が本心だったのか、それともその場を切り抜けるための方便だったのか。今のケイリーには分からない。
だが、一つだけ……彼女が理解出来たことがある。怪盗ローグに強い興味を抱き、再び出会う時が来るのを心待ちにしているということを。
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「……なるほど。やっぱり、話を聞く限り理術研究院の連中が関わってると見て間違いないですね」
「そっかそっか、あたしら双子大地のことは知り尽くしてるけど外のことはてんでダメでさ。よかったら情報提供してくれないかな? お礼はするからさ」
「もちろんです、ご先祖様の遺産を取り戻すためにも協力は惜しみませんよ! ね、お姉ちゃん」
「ああ、我もエルダードラゴンゆえによく分かる。己が宝を奪われる怒りをな。この一件、全力で解決に当たろうではないか」
ローグが無事逃げおおせた頃、キルトたちの話し合いも纏まっていた。ひとまず、翌日ミュージアム跡地に行くことになった。
キルトたちサモンマスターにしか分からない痕跡が残っているかもしれない、と考えたのだ。ジュディには仕事があるため、またまたイレーナに引率してもらうことに。
「そういえば、この大地には僕の一族の本家がいるんですよね? 彼らは……」
「ああ、アルバラーズ本家の現当主……七代目シュヴァルカイザーとホロウバルキリーも解決に向けて動いてくれてる。まずは彼らと合流した方がいいんじゃないか? イレーナ」
「そっすね、そろそろイゼルヴィアの定例会議から戻ってくる頃合いでしょっし。先に合流しといた方がスムーズっすね」
明日に備え、ホテルを手配しようとするイレーナ。その時、ふとキルトはこの大地に来た時から感じていた疑問をぶつけた。
フィルとアンネローゼが暮らした大地なら、彼らの血を継ぐ直系の子孫がいるはず。その問いに頷き、ジュディとイレーナはそう答える。
「ふむ、アルバラーズ本家の者か。どのような者たちなのか、興味が無いと言えば嘘になる」
「今現在、本家は二つ存在してる。片方がフィルさんの血と力を受け継いだアルバラーズ本家、もう一つがアンネローゼさんから爵位を継いでオルセナの統一国家を統べるハプルゼネク家だ」
「お互いの家同士で連携して、双子大地の平和を守ってるんすよ。もちろん、技術財団やルナ・ソサエティも協力してるっす」
「ルナ・ソサエティ!? そうか、この大地だったのか。母上がいつも口にしていた、懐かしい故郷の組織というのは」
本家の人々に会うのを楽しみにしているキルトを余所に、今度はウォンが『ルナ・ソサエティ』というワードに反応する。
「あれ? なんだ、お前知ってんのか?」
「ああ。俺の母……マルカがいつも言っていた。ルナ・ソサエティという組織のことを」
「えええ! ちょ、それ先に言ってほしいっす! 今イゼルヴィアの方に来てるんすよ、マルカ! いやー、あの人に息子がい」
「待て、母上が来てる? そんなのは初耳だぞ俺は」
「おう、そりゃそうだ! 里帰りすんのをいちいちセガレに報告する親なんて面倒くせえだろ? お前も。よっ、久しぶりだなイレーナ。イイ女になりやがってよ」
ウォンの言葉にイレーナが驚いていると、部屋の外で雷鳴がとどろく。キルトたちが仰天していると、扉が開き松葉杖を突いた女性が入ってきた。
たった今話題に出ているウォンの母にして、ルナ・ソサエティの元最高幹部……マルカがどうやってかやって来たようだ。
「……一つ聞きたいんだけどさ。どうやってこっちのこと知ったんだよアンタ」
「ハッ、昔の仲間に聞きゃなんでも分かるんだよ。今大変なことが起きてるってのも……それに」
「ひゃっ!? な、なんですか!?」
「……フィルとアンネローゼの子孫が来てるってことも、さ。お帰り、魂の故郷にようこそ! あいつらはもういないけど、代わりにアタシが歓迎するよ。かつての友の子孫を」
マルカはかつて失った足の代わりとなる松葉杖を突き、キルトの側に歩み寄る。そして、手を伸ばし少年の髪をわちゃわちゃ撫でた。
そんな中、突然の母親の乱入にウォンは完全にフリーズしてしまっていた。水から出された魚のように口をパクパクさせているのを見て、アリエルとルビィが爆笑している。
「わっははははは! なんだウォン、その顔は! ぐふっ、ケッサク過ぎて腹がよじれるわ!」
「あははは! なぁにその顔、いやーこっち来て正解だったね! こんな面白いもの見れるなんて思わなかったよ!」
「お前たち……後で覚えておけ……!」
母親の前でブチ切れるわけにもいかず、とりあえず後で二人を締めることを誓うウォン。ひとまず、ホテルの予約を取りに行こうとするイレーナだったが……。
「あー、んなら泊まってけよソサエティ本部に。わざわざ高ぇ金払ってホテルに行くこともねえだろ。本部なら下手な高級ホテルより設備いいしよ」
「いいんすかね、ジェディンやヘカテリームに文句言われてもアタイ知らないっすよ?」
「ハッ、泊まりの客が少し増えるくらい気にしねーよあいつらは。ちょうど、アルバラーズとハプルゼネク本家の奴らが泊まりがけでなんか作業するって言ってたしちょうどい」
「はい! 僕そのソサエティ本部で泊まりたいです! ずっと待ってたんです、いつか親戚の人たちと会えたらいいなって!」
「よしよし、んじゃお姉さんに任せ……おいジュディにイレーナ、今心の中で『もうお姉さんじゃなくておばさんだろ』って思ったな?」
「いえ、そんなことありません! な、イレーナ?」
「そっすよ、決しておばさんどころか年齢的にはババアの領域アバーッ!」
「……無礼な奴め。ま、いいや。行こうぜ、アタシが連れてってやるよ。ルナ・ソサエティ本部にな」
物理的に雷を落とされ、イレーナはノックダウンする。そんな仲間を放置し、マルカはポカンとしているキルトたちに呼びかける。
かつてのヒーローの血を継ぐ者たちが、ついに邂逅しようとしていた。
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